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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

小さな国でも堅実な友人

2010-08-18 | Weblog
ロメに出張して、社会の空気がずいぶん落ち着いてきていることを、肌で感じた。大統領選挙前は、街中が選挙ポスターや立看板などで賑々しかったけれど、そういうものはすでに片付けられている。海岸通りの車道が、欧州連合(EU)の協力で整備されつつあったのが、ほぼ完成している。市内交通は極めて円滑になり、新しく建てられた街灯が美しく並び、近代的な都市の様相にだいぶん近づいた。

そうした表面的な変化もあろうけれども、やはり私には、大統領選挙を民主的に、とりわけ騒乱なしにやり遂せた安心感が、巷間に満ちているように思える。さらに、野党も内閣に参加することになり、「国民和解」が着実に進んでいることに、人々は皆で安堵しているだろう。もう、乱暴で危なっかしい政治に一喜一憂する時代は終わりを告げつつある。選挙を怖がることはない。トーゴの民主主義は、定着と成熟に向けて歩みつつある。

私がロメを訪れたのは、オイン外相との間で、災害対策支援の協力案件についての、交換公文に署名するためである。昨年12月の気候変動枠組み条約締約国会議(コペンハーゲン)において、開発途上国における災害対策支援が、日本政府により打ち出された。そして、トーゴも対象国の一つに選ばれ、具体的な協力計画が組まれた。総額25億フラン(5億円)の資金で、災害対策の能力向上のための資機材を供与するという計画である。その協力計画について、トーゴ政府との間で正式な合意を結ぶために、今回トーゴを訪問したわけである。

8月11日、交換公文の署名式の当日、式典を行う直前に、ニヤシンベ大統領から大統領府に来てくださいとの連絡がきた。私から申し入れていた会見である。私は今回、ちょっと無理をしてでもニヤシンベ大統領に会って、大統領の進める国民和解の路線について、声援を伝えておきたかったのだ。トーゴ外務省と調整し、署名式を1時間延期して、私は大統領府に向かった。

ニヤシンベ大統領は、執務室でいつものように私を迎えてくれる。私は、さっそく述べた。
「大統領閣下、私はいつもロメを訪れるたびに、こうしてお会いいただけることを、大変光栄に思います。そして今日は、私はいつにもましてお会いしたいと考えていました。それは、大統領閣下に祝意を述べたかったからです。いえ、大統領再選の祝意は、もう5月の就任式のときにお会いしてお伝えしています。今日は、大統領閣下が、国民和解への力強い歩みを踏み出しておられることへの祝意です。」

「大統領閣下が、北部か南部かとか、政党の違いとかを問わず、「まずトーゴを」と訴えてきておられることに、たいへんな敬意を表します。国の開発と建設にむけて、まずは国民が一致団結して取り組むべきことを、正しく訴えてこられました。そして、それは言葉だけでなく、これまでの敵であった野党側にも内閣への参加を求めるという、具体的なかたちで示しておられる。大統領閣下の英明な決断を、日本は心から応援します。日本だけではない、国際社会全体が、トーゴの歩みを応援しています。」

そこまで言っておいて、もう一歩発言を踏み出してみた。
「私の祝意は、大統領閣下だけに対するものではありません。国民和解への呼びかけを、トーゴ全体の利益に立って受け入れ、国の建設に向けて大統領閣下と一緒に協力していくことに合意した、ジルクリスト・オランピオ氏にも、心から祝意と敬意を伝えたいと考えます。」
ニヤシンベ大統領の前で、政敵ジルクリスト・オランピオ氏に言及し、かつ褒め讃えるなどとは、つい先日までは考えられないことだった。

ニヤシンベ大統領は、にこやかな表情を崩さず話し始めた。この大統領はいつの時でも、平静で控え目な態度である。
「私の選んできた道について、大使から高い評価をいただいて嬉しく思います。そして、日本からはいつも変わらず応援を得て、たいへん感謝をしています。日本の経済協力の一つ一つが、ほんとうに助けになっています。このたびも、災害への対策という、私たちの大きな懸念に応える協力計画を打ち出していただきました。私は、是非とも日本に赴いて、日本の政治指導者の方々に、自らお礼の気持ちをお伝えしたいと思っています。」

ニヤシンベ大統領は、私が着任して以来、一貫して訪日希望を伝えてきている。日本側はこれに応えて、昨年5月にいったん訪日日程を組んだ。しかし、トーゴ国内での政治不穏が起こって延期になってしまっていた。ニヤシンベ大統領が訪日で意図するのは、日本に感謝を直接伝えることだけではない。訪日を機会にトーゴ国民に日本への関心を持たせたい、トーゴには日本の発展に学ぶところがたくさんある、と大統領は以前に私に語っている。

だから、ニヤシンベ大統領の訪日実現は、私にはとても重要な課題である。わが国には、世界中から元首級の訪日の希望がきている。受け入れの枠は限られているけれども、その中に、ニヤシンベ大統領の訪日を加えてもらえるように、私はこれから本省と相談していかなければならない。

私は、大統領に述べる。
「ご訪日については、私から大統領の希望を東京に伝えて、実現に向け努力します。大統領閣下には、ぜひ日本の発展を一つの例にして、トーゴの経済発展を推進していっていただきたいと考えるのです。例えば、1960年代、日本の総理大臣は「所得倍増計画」を唱え、国民もこの目標に勇気づけられて一生懸命働きました。このように、明確な目標や、進むべき方向を、国民にきちんと指し示すことこそが、政治家の最も重要な仕事です。大統領閣下からも、ぜひとも国民を勇気づけていただきたい。」

大統領は私に応えて言う。
「日本は世界のなかで、重要な役割を果たすべき国です。国連の安全保障理事会に、日本が常任理事国としての席を占めるべきであるとの考え方を、トーゴは一貫して支持してきました。この問題については、アフリカ連合(AU)の中でも意見が分かれています。また、トーゴに対して他の考え方を説得しようとする国もありました。しかし、トーゴの考え方は、日本の常任理事国入り支持で、変わることはありません。」

国際政治の世界では、小さな国でも堅実な友人となる国々を、どれだけ数多く確保しておけるかが、とても大事である。トーゴは先日も、反捕鯨団体の船籍抹消に協力してくれた。日本が国際社会での立場を少しでも強めるためには、こうしたトーゴのような国と、二国間関係をきめ細かく育てていかなければならない。それが出先の大使として、一番大きな仕事である。

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