コートジボワールにかぎって言えば、独立50周年で今一つ盛り上がることができない大きな理由がある。それは、2002年以来の国家分断の「危機」を、いまだにきちんと解決しないままになっていることである。憲法上は2005年に行うべきであった大統領選挙が、国の分裂のために行えなかった。2007年に、ようやく南北の間でワガドゥグ合意が成立した。しかし、いざ大統領選挙を実施しようとすると様々な障害が持ち上がり、選挙の期日が決められては延期ということが繰り返され、選挙が実現しないまま今に至っている。
だから、独立50周年も素直には祝えない、ということになった。選挙準備がなかなか整わないという事情で、選挙が実現しなかったのは仕方がない。しかし、選挙に向けての見通しさえも立っていないというのは、さすがに無節操と言われかねない。国民の中からも、国際社会からも、憤懣が起こってくるだろう。そういうふうに考えたのだろうか。独立50周年を迎える日の前々日(8月5日)になって、バグボ大統領のもとで閣議が開かれ、新しい選挙日が決定された。
閣議後の記者会見で、ソロ首相はこう発表した。
「内閣は、選挙管理委員会の提案に基づき、今年の10月31日に大統領選挙の第一回投票を行うことを決定した。」
そして、翌日(8月6日)には、国民に10月31日の選挙参加を指令する大統領令が公布された。
さて問題は、今度こそほんとうに、10月31日に大統領選挙が実現するのだろうか。こう何度も決定と延期を繰り返してきては、「大統領令」の権威も何も、あったものじゃない。決められたその日から、いやこの決定はその場しのぎで、どうせまた延期だよ、と多くの人に言われている。これではもう、バグボ大統領も鼎の軽重が問われている。
人々にそう思われてしまうのには、理由がある。選挙実施の前提条件について、2つの懸念が、未解決のまま残っているからである。まず、「選挙人名簿」が完成していないという懸念がある。選挙人名簿がなくては、選挙にいけないのは当然だ。だから、国民全員に身分登録を求め、それをもとに選挙管理委員会がとりまとめを行って「暫定版」選挙人名簿をつくりあげた。予想以上に時間がかかったとしても、ここまではどうにか着実だった。ところが、その「暫定版」のなかで、コートジボワール国民と認定するだけの根拠が薄弱だ、という人々のリストがあって、これらの人々の扱いが問題となった。
そういう人々が、100万人ほどいるから、この人々に投票を認めるかどうかは、選挙結果をかなり大きく左右する。おまけに、そういう人々というのは、ほんとうはブルキナファソやマリからの移民ではないか、と疑われている人々である。バグボ大統領派の「人民党(FPI)」側は、彼ら北部民族の出身者は「共和連合(RDR)」、つまりウワタラ候補の支持者だと考えているので、投票権を与えることに難色が強い。それに選挙人としての登録は、コートジボワール国民としての身分証を与え、土地所有権を認めることになるので、土地所有をめぐって争いのある南の人々にも、懸念がある。だから、この問題には皆が真剣になる。
大統領選挙への過程では、そういう人々はいったん選挙人名簿からは外して扱い、異議申立ての手続きを経て、再度十分な証拠書類を提出してもらい、再審査の結果、コートジボワール人であると認定された人たちを、選挙人名簿に追加する、ということになっている。その異議申し立ての手続きが行われている間の今年1月に、43万人ほどが、正式な審査手続きも経ないままに、選挙人名簿に自動的に追加されていたと判明する事件が起こった。これはマンベ選挙管理委員長の「詐欺」であると断罪され、選挙管理委員長の更迭、内閣改造といったごたごたに発展した。
そうこうしている間に、月日はどんどん過ぎ、未だに「確定版」選挙人名簿の公示には至っていない。以前の見積もりでは、大統領選挙までの必要な手順を考え合わせると、選挙実施日の、遅くとも2ヶ月前には選挙人名簿が確定していなければならないということだった。だから、10月31日から逆算して、今月(8月)末までには、「確定版」選挙人名簿が発表されなければならない。まだ20日ばかりの日があるから、これは期待して待つことにしよう。
もう一つの懸念は、北部軍事組織の「軍備解体(desarmement)」である。ワガドゥグ合意により、南北両勢力が統一して新たな国造りを行うという基本方針はあっても、実態では国土の北半分での「新勢力」の支配は続いている。形式的には、行政組織は統合され、大統領の地方への名代としての知事(préfet)が、各地に派遣された。しかし、国庫から知事のもとへは予算が届いていない。地方での「徴税」をはじめとする経済的な支配権は、依然として「新勢力」の側が握って離さない。
大統領選挙にあたって最も重要なのは、「新勢力」の軍事組織が、ふたたび反乱に戻らないように武器を手放すことである。そうでないと、とバグボ大統領派の「人民党(FPI)」は考える。北部に住む人々は安心して投票ができないであろう。「新勢力」の人々が、武器をもって、投票箱の前の人々を脅すかもしれない。それに何より、もし選挙を実施して、「新勢力」の意向に反した結果が出たら、彼らはまた武器を執って、反乱に逆戻りするかもしれない。
ワガドゥグ合意では、こうした懸念を受け入れ、大統領選挙の2ヶ月前までには、「軍備解体」が完了していること、と定めた(第4次合意議定書)。「軍備解体」という漠然とした言葉の意味は何なのか、いろいろ疑義もある。ここは、「新勢力」から中央政府に乗り込んできたソロ首相が、手腕を発揮すべきところである。軍事勢力に武器や既得権益を放棄するよう説得する、というのは難しいようにもみえる。でも「新勢力」の将軍たちは、旧兵士に一人あたり手切れ金50万フラン(10万円)を払えば済む話だ、と言っているから、意外に簡単なのかもしれない。
以上の2つの論点は、どちらも大統領選挙の2ヶ月前までに解決しなければならない、と考えられている。だから、今回「10月31日」と決まった日程が、ほんとうに信頼できるかどうか、遅かれ早かれ、つまり8月31日ころには見えてくるだろう。今後の見通しについて心構えを固めるのは、あと20日ほど様子を見てからにしようと考えている。
だから、独立50周年も素直には祝えない、ということになった。選挙準備がなかなか整わないという事情で、選挙が実現しなかったのは仕方がない。しかし、選挙に向けての見通しさえも立っていないというのは、さすがに無節操と言われかねない。国民の中からも、国際社会からも、憤懣が起こってくるだろう。そういうふうに考えたのだろうか。独立50周年を迎える日の前々日(8月5日)になって、バグボ大統領のもとで閣議が開かれ、新しい選挙日が決定された。
閣議後の記者会見で、ソロ首相はこう発表した。
「内閣は、選挙管理委員会の提案に基づき、今年の10月31日に大統領選挙の第一回投票を行うことを決定した。」
そして、翌日(8月6日)には、国民に10月31日の選挙参加を指令する大統領令が公布された。
さて問題は、今度こそほんとうに、10月31日に大統領選挙が実現するのだろうか。こう何度も決定と延期を繰り返してきては、「大統領令」の権威も何も、あったものじゃない。決められたその日から、いやこの決定はその場しのぎで、どうせまた延期だよ、と多くの人に言われている。これではもう、バグボ大統領も鼎の軽重が問われている。
人々にそう思われてしまうのには、理由がある。選挙実施の前提条件について、2つの懸念が、未解決のまま残っているからである。まず、「選挙人名簿」が完成していないという懸念がある。選挙人名簿がなくては、選挙にいけないのは当然だ。だから、国民全員に身分登録を求め、それをもとに選挙管理委員会がとりまとめを行って「暫定版」選挙人名簿をつくりあげた。予想以上に時間がかかったとしても、ここまではどうにか着実だった。ところが、その「暫定版」のなかで、コートジボワール国民と認定するだけの根拠が薄弱だ、という人々のリストがあって、これらの人々の扱いが問題となった。
そういう人々が、100万人ほどいるから、この人々に投票を認めるかどうかは、選挙結果をかなり大きく左右する。おまけに、そういう人々というのは、ほんとうはブルキナファソやマリからの移民ではないか、と疑われている人々である。バグボ大統領派の「人民党(FPI)」側は、彼ら北部民族の出身者は「共和連合(RDR)」、つまりウワタラ候補の支持者だと考えているので、投票権を与えることに難色が強い。それに選挙人としての登録は、コートジボワール国民としての身分証を与え、土地所有権を認めることになるので、土地所有をめぐって争いのある南の人々にも、懸念がある。だから、この問題には皆が真剣になる。
大統領選挙への過程では、そういう人々はいったん選挙人名簿からは外して扱い、異議申立ての手続きを経て、再度十分な証拠書類を提出してもらい、再審査の結果、コートジボワール人であると認定された人たちを、選挙人名簿に追加する、ということになっている。その異議申し立ての手続きが行われている間の今年1月に、43万人ほどが、正式な審査手続きも経ないままに、選挙人名簿に自動的に追加されていたと判明する事件が起こった。これはマンベ選挙管理委員長の「詐欺」であると断罪され、選挙管理委員長の更迭、内閣改造といったごたごたに発展した。
そうこうしている間に、月日はどんどん過ぎ、未だに「確定版」選挙人名簿の公示には至っていない。以前の見積もりでは、大統領選挙までの必要な手順を考え合わせると、選挙実施日の、遅くとも2ヶ月前には選挙人名簿が確定していなければならないということだった。だから、10月31日から逆算して、今月(8月)末までには、「確定版」選挙人名簿が発表されなければならない。まだ20日ばかりの日があるから、これは期待して待つことにしよう。
もう一つの懸念は、北部軍事組織の「軍備解体(desarmement)」である。ワガドゥグ合意により、南北両勢力が統一して新たな国造りを行うという基本方針はあっても、実態では国土の北半分での「新勢力」の支配は続いている。形式的には、行政組織は統合され、大統領の地方への名代としての知事(préfet)が、各地に派遣された。しかし、国庫から知事のもとへは予算が届いていない。地方での「徴税」をはじめとする経済的な支配権は、依然として「新勢力」の側が握って離さない。
大統領選挙にあたって最も重要なのは、「新勢力」の軍事組織が、ふたたび反乱に戻らないように武器を手放すことである。そうでないと、とバグボ大統領派の「人民党(FPI)」は考える。北部に住む人々は安心して投票ができないであろう。「新勢力」の人々が、武器をもって、投票箱の前の人々を脅すかもしれない。それに何より、もし選挙を実施して、「新勢力」の意向に反した結果が出たら、彼らはまた武器を執って、反乱に逆戻りするかもしれない。
ワガドゥグ合意では、こうした懸念を受け入れ、大統領選挙の2ヶ月前までには、「軍備解体」が完了していること、と定めた(第4次合意議定書)。「軍備解体」という漠然とした言葉の意味は何なのか、いろいろ疑義もある。ここは、「新勢力」から中央政府に乗り込んできたソロ首相が、手腕を発揮すべきところである。軍事勢力に武器や既得権益を放棄するよう説得する、というのは難しいようにもみえる。でも「新勢力」の将軍たちは、旧兵士に一人あたり手切れ金50万フラン(10万円)を払えば済む話だ、と言っているから、意外に簡単なのかもしれない。
以上の2つの論点は、どちらも大統領選挙の2ヶ月前までに解決しなければならない、と考えられている。だから、今回「10月31日」と決まった日程が、ほんとうに信頼できるかどうか、遅かれ早かれ、つまり8月31日ころには見えてくるだろう。今後の見通しについて心構えを固めるのは、あと20日ほど様子を見てからにしようと考えている。
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