内務大臣が、私腹を肥やす汚職を働いている、というのだから穏当ではない。まして、そう告発の声を上げたのが、他ならない国会議長である。人々は、いったいこの顛末は如何なることになるのか、はらはらしながら見守った。
2ヶ月ほど前、6月2日のことである。国民議会のクリバリ議長が、ある研究会の演説で、コートジボワールの国の体制ががたがたになっている、として次のように述べた。
「警察学校の入学試験を例に挙げよう。1358人の合格者のうち、10人までが、タグロ内相の官房長の出身地のディバム村からなのだ。そして、同じサイウア市全体からは、他に誰も合格者がいないとは。おかしいではないか。斡旋や汚職がなかったのかどうか、国会で調査をしてみたらいいだろう。」
このクリバリ議長の非難を皮切りに、タグロ内相には様々な汚職の疑惑があるという報道が相次いだ。警察学校の入学への斡旋だけでなく、イスラム教徒の巡礼への政府支援金の横流し、有害廃棄物不法投棄事件での損害賠償金の横領、そして大統領選挙のために採用されたフランスのSAGEM社からの口利き料の受領などなど。クリバリ議長本人は後に自分が情報源であることを否定しているけれども、そうした汚職疑惑の情報は、議長の周辺から出てきたと考えられている。
タグロ内相といえば、国内の治安の総責任者であるのはもちろんのこと、バグボ大統領の側近の一人である。つまり、大統領の政党「人民党(FPI)」の最重要幹部である。そんな政府の中枢にいきなり汚職疑惑がぶつけられたという重大さもあるけれど、それ以上に、この告発を行ったクリバリ議長も、同じ「人民党」の最重要幹部、副党首の一人であったから余計に人々は驚いた。大統領のお膝元の政党の中で、重要幹部から重要幹部に対してというのは、大統領側で何か熾烈な抗争でも始まったということなのだろうか。
それでいて、この告発が決して全くの的外れの非難ではない、と思われる土壌がある。汚職や賄賂は、政府や行政のいろいろなところで、日常のようにみられる、と人々は感じている。政府の要職の人間が、大胆に汚職を働いているのだ、と言われてもびっくりはしない。
何より、クリバリ国会議長が取り上げた例が、警察学校の入学試験である。これにはコートジボワールの一般市民には、誰しもぴんとくるものがある。警察官になるための斡旋汚職は、十分ありうる話だ。だって、警察官になりたい人々がいっぱいで、それは警察官が公務員として一番実入りがいいからだ。
そう、警察官になりたい。そして、警察学校に入学し、国家試験に通って、晴れて警察官になれれば、路上勤務が一番の狙い目だ。冷房の利いた警察本部のデスクワークの部署に回される、などというのは「左遷」である。そうではなくて、炎天下の路上取り締まり。ここで、警察官は自家用車や商業トラックを適宜停めて、免許証をはじめ車検証明、保険証、納税証明、その他の必要書類が揃っているかを検問する。商業トラックは、ちゃんとした書類の付いた積荷であるか、素性の怪しい物品や過積載ではないか、そうした査問を受ける。警察官の立派な仕事である。
ところが、そうした証明書を皆がちゃんと揃えているか、というと、一般市民の立場から言うと、なかなか難しい。いくつか証明書が欠けている。そうすると、取り締まりの警察官は、見過ごすことはできない。ややこしい話になる。そこを何とか、というときには、幾らかの「罰金」を渡す。そういうふうに「罰金」をその場で払う規則はないから、厳密に言えば買収であり、賄賂である。だからといって、役所に行って証明書を出してもらおうとしても、なかなか出てこない。そこでも賄賂が要る。要するに、どこで賄賂を払うかだけの違いである。
そうして集められた「罰金」は、上層部に上納され、警察官の間で分配されているという。これは公務員の給料を大きく補填して、さらに余りある収入になる。コートジボワールでは、国から安定した給料と身分保障が得られる公務員が、最高の就職先と考えられている。その公務員も、許認可のからむ役所ほど望ましい。警察と税関は、その中でも羨望の的である。だから、警察学校への斡旋があって、それへの法外な賄賂が横行しているという話は、もうずいぶん前からあった。社会正義を守るべき警察官が自ら堂々と賄賂を求める、それも当然で、彼らはそもそも警察官になるために賄賂を払ったような人々だからだ。こういう構造に、コートジボワールの人々はうんざりしていた。
だから、クリバリ国会議長の告発は、人々の憤懣の急所を突いていた。彼が、そこまで言うならば、おそらく証拠の固い話なのだろう。汚職撲滅の大きな動きが始まるのだろうか。それにそもそも、「人民党」が全体として評判を落とし、他の政党からの非難を助長する危険を顧みず、こうした告発を行った以上は、タグロ内相をはじめとする国家機構の中枢を揺るがす、たいへんな醜聞に発展するはずだ。誰もがそう考えた。
バグボ大統領もこの告発を重く見た。大統領は6月19日、アビジャン検察庁のチムー検事長に、1ヶ月の期間を与えて、次の4件について捜査するように命じた。
(1)2007年-2009年の警察学校入学試験において、サイウア市とナイオ市(タグロ内相の出身地)での合格者の数
(2)2007、08、09年のメッカ巡礼に対する政府補助事業において、タグロ内相による公金横領があったか否か
(3)有害廃棄物不法投棄事件におけるトラフィギュラ社からの補償金を、タグロ内相が横領したか否か
(4)大統領選挙関連で委託を受けたSAGEM社から、タグロ内相(およびソロ首相)が口利き料を受け取ったか否か
(続く)
2ヶ月ほど前、6月2日のことである。国民議会のクリバリ議長が、ある研究会の演説で、コートジボワールの国の体制ががたがたになっている、として次のように述べた。
「警察学校の入学試験を例に挙げよう。1358人の合格者のうち、10人までが、タグロ内相の官房長の出身地のディバム村からなのだ。そして、同じサイウア市全体からは、他に誰も合格者がいないとは。おかしいではないか。斡旋や汚職がなかったのかどうか、国会で調査をしてみたらいいだろう。」
このクリバリ議長の非難を皮切りに、タグロ内相には様々な汚職の疑惑があるという報道が相次いだ。警察学校の入学への斡旋だけでなく、イスラム教徒の巡礼への政府支援金の横流し、有害廃棄物不法投棄事件での損害賠償金の横領、そして大統領選挙のために採用されたフランスのSAGEM社からの口利き料の受領などなど。クリバリ議長本人は後に自分が情報源であることを否定しているけれども、そうした汚職疑惑の情報は、議長の周辺から出てきたと考えられている。
タグロ内相といえば、国内の治安の総責任者であるのはもちろんのこと、バグボ大統領の側近の一人である。つまり、大統領の政党「人民党(FPI)」の最重要幹部である。そんな政府の中枢にいきなり汚職疑惑がぶつけられたという重大さもあるけれど、それ以上に、この告発を行ったクリバリ議長も、同じ「人民党」の最重要幹部、副党首の一人であったから余計に人々は驚いた。大統領のお膝元の政党の中で、重要幹部から重要幹部に対してというのは、大統領側で何か熾烈な抗争でも始まったということなのだろうか。
それでいて、この告発が決して全くの的外れの非難ではない、と思われる土壌がある。汚職や賄賂は、政府や行政のいろいろなところで、日常のようにみられる、と人々は感じている。政府の要職の人間が、大胆に汚職を働いているのだ、と言われてもびっくりはしない。
何より、クリバリ国会議長が取り上げた例が、警察学校の入学試験である。これにはコートジボワールの一般市民には、誰しもぴんとくるものがある。警察官になるための斡旋汚職は、十分ありうる話だ。だって、警察官になりたい人々がいっぱいで、それは警察官が公務員として一番実入りがいいからだ。
そう、警察官になりたい。そして、警察学校に入学し、国家試験に通って、晴れて警察官になれれば、路上勤務が一番の狙い目だ。冷房の利いた警察本部のデスクワークの部署に回される、などというのは「左遷」である。そうではなくて、炎天下の路上取り締まり。ここで、警察官は自家用車や商業トラックを適宜停めて、免許証をはじめ車検証明、保険証、納税証明、その他の必要書類が揃っているかを検問する。商業トラックは、ちゃんとした書類の付いた積荷であるか、素性の怪しい物品や過積載ではないか、そうした査問を受ける。警察官の立派な仕事である。
ところが、そうした証明書を皆がちゃんと揃えているか、というと、一般市民の立場から言うと、なかなか難しい。いくつか証明書が欠けている。そうすると、取り締まりの警察官は、見過ごすことはできない。ややこしい話になる。そこを何とか、というときには、幾らかの「罰金」を渡す。そういうふうに「罰金」をその場で払う規則はないから、厳密に言えば買収であり、賄賂である。だからといって、役所に行って証明書を出してもらおうとしても、なかなか出てこない。そこでも賄賂が要る。要するに、どこで賄賂を払うかだけの違いである。
そうして集められた「罰金」は、上層部に上納され、警察官の間で分配されているという。これは公務員の給料を大きく補填して、さらに余りある収入になる。コートジボワールでは、国から安定した給料と身分保障が得られる公務員が、最高の就職先と考えられている。その公務員も、許認可のからむ役所ほど望ましい。警察と税関は、その中でも羨望の的である。だから、警察学校への斡旋があって、それへの法外な賄賂が横行しているという話は、もうずいぶん前からあった。社会正義を守るべき警察官が自ら堂々と賄賂を求める、それも当然で、彼らはそもそも警察官になるために賄賂を払ったような人々だからだ。こういう構造に、コートジボワールの人々はうんざりしていた。
だから、クリバリ国会議長の告発は、人々の憤懣の急所を突いていた。彼が、そこまで言うならば、おそらく証拠の固い話なのだろう。汚職撲滅の大きな動きが始まるのだろうか。それにそもそも、「人民党」が全体として評判を落とし、他の政党からの非難を助長する危険を顧みず、こうした告発を行った以上は、タグロ内相をはじめとする国家機構の中枢を揺るがす、たいへんな醜聞に発展するはずだ。誰もがそう考えた。
バグボ大統領もこの告発を重く見た。大統領は6月19日、アビジャン検察庁のチムー検事長に、1ヶ月の期間を与えて、次の4件について捜査するように命じた。
(1)2007年-2009年の警察学校入学試験において、サイウア市とナイオ市(タグロ内相の出身地)での合格者の数
(2)2007、08、09年のメッカ巡礼に対する政府補助事業において、タグロ内相による公金横領があったか否か
(3)有害廃棄物不法投棄事件におけるトラフィギュラ社からの補償金を、タグロ内相が横領したか否か
(4)大統領選挙関連で委託を受けたSAGEM社から、タグロ内相(およびソロ首相)が口利き料を受け取ったか否か
(続く)
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