ロメ到着の飛行機が大幅に遅れて、結局当日(5月3日)の朝5時にホテルに入った。大統領宣誓式の案内には、朝9時には入場してください、と書いてある。式場は市内から距離があって、8時過ぎにはホテルを出なければならない。それまでには服を着替えて準備して、となると、殆ど寝る時間はない。こういうふうに予定通りにいかないことは、当たり前のようにある。アフリカで大使を務めるというのは、体力の要ることなのだ。
それでも1時間ばかり仮眠をとって、8時までに顔を洗って、式典用の服に着替え、会場に向かった。会場は、ロメの郊外の新開地に設えてある。この新開地は、これから官庁街を建設する予定地である。新大統領府だけがすでに完成していて、その新大統領府に繋がる大通りを挟むように、パレード用の観覧席がある。今回の宣誓式の会場となるその観覧席と、新大統領府以外には何も無くて、ただ広い草原が広がっている。
9時前には会場に到着した。観覧席には、もう満場の人々が座っている。私は、大通りをはさんで観覧席と反対側の、各国の大使や閣僚たち政府要人の座る貴賓席に案内される。大通りの真ん中には、仮設舞台が設けられ、そこに立派な椅子が置いてあるので、この舞台で宣誓式が行われるのであろう。観覧席に続く大通りには、さまざまな制服を来た兵士たちが、おおぜい整列している。宣誓式は10時から始まる、と案内には書いてある。10時から始まって、13時には終わるということである。徹夜明けの疲労が残るが、あと数時間の辛抱だ。昼過ぎには、ホテルに戻って休めるはずである。
さて、その予定の10時になった。閣僚たちは全員揃っている。私たち大使連中も、全員揃っている。空席なのは、来賓の国家元首の席だけである。司会がマイクを取って、本日来賓としてコンパオレ・ブルキナファソ大統領、バグボ・コートジボワール大統領、ヤイ・ベナン大統領、ミルズ・ガーナ大統領、セネガル首相、そしてフランス、ナイジェリアから特使が来臨しています、と告げる。式典の開始は、彼ら来賓たちの到着を待って始まるようである。
その来賓が、なかなか現れない。11時になった。まだ式典は始まらない。私は、隣にいるザンビア大使などと会話をしているのであるが、話題も尽きてしまった。隣の隣は、ドイツ大使である。彼は、しっかり文庫本を持ってきていて、それを読んでいる。さすが賢明なものである。私は文庫本など持っていないのみならず、睡眠不足だ。疲労を感じ始める。でも、式典の開始を忍耐強く待つしかない。
12時過ぎになって、国家元首たちや各国からの代表が、車列により順次到着した。最後にニヤシンベ大統領が、ベンツのオープンカーに乗って現れた。観覧席から大歓声が上がる。そしてようやく式典が始まった。すでに予定から2時間遅れている。
さて大統領の宣誓式というのは、憲法院が行うものであるらしい。憲法院の8人の判事たちが、法衣を着ておごそかに入場して来た。仮設舞台に入場し着席した後、憲法院長が式典を始める。
「1992年憲法に基づき2010年3月4日に行われた大統領選挙の投票結果につき、憲法院はここに発表する。」
結果はもう分っているのだ。ニヤシンベ大統領の当選である。しかし、形式ということが重要な場合がある。この儀式で、憲法院長によって宣言されて、初めて当選が公式なものとなる。私は、手短に宣言があるものと思っていた。
「ペンジャル県。」
おっと、各県ごとの選挙結果の発表だ。
「アボイボ・ヤウォイル候補、1172票。コジョ・アベイエメ候補、126票、カバラ・ガッサビ候補、146票・・・」
7人の立候補者について、票数の発表がある。トーゴには30県あるから、この発表が30回繰り返されるのか。
「ファーブル・ジャンピエール候補、2,306票。」
ここまでは、静かである。
「フォーレ・エッソジマ・ニヤシンベ候補、44,434票。」
満場の観覧席が、おおーっと歓声を上げ、無数の旗が振られる。どうも観客席には、ニヤシンベ大統領の支持者たちが呼ばれているようである。
北部から順番に、県ごとの選挙結果が、7人すべての立候補者について繰り返される。ニヤシンベ大統領の得票が告げられるたびに、観覧席からおおーっと歓声が上がる。1県につき1分は最低かかるとして、30県全部の選挙結果の発表が、これから30分以上続く計算になる。数字が、まるでお経のように延々と読み上げられる。睡眠不足の私には、もう堪らない拷問である。がくっと眠りそうになる。しかし、日本の代表が、テレビカメラも撮影している前で、居眠りなど出来ない。じっとそれを聞いている。やはりアフリカで大使を務めるというのは、体力が要るのだ。
お経が続いた後、すべての県の選挙結果の発表が終了した。その後、ようやく全国の集計結果が発表された。ニヤシンベ候補の得票率は60.92%。そして、ニヤシンベ候補が大統領に当選したと宣言される。おおーっと大歓声だ。そんなこと、もう1ヶ月半前から分っているのだけれど、これは儀式というものである。そして、ニヤシンベ大統領が舞台に呼ばれた。ニヤシンベ大統領が貴賓席を離れ、舞台に上がると、さらに大歓声である。
(続く)
大統領宣誓式の大看板
大通りを挟んで左側に観覧席
右側に貴賓席
観覧席と貴賓席の間に、宣誓式の舞台
ニヤシンベ大統領の入場(*)
バグボ大統領(灰色の背広)も登場
来賓の国家元首たち(*)
手前から、ミルズ・ガーナ大統領、バグボ大統領、ニヤシンベ大統領、
コンパオレ・ブルキナファソ大統領、ヤイ・ベナン大統領夫妻 憲法院判事たちによる選挙結果の発表
ニヤシンベ候補の得票に、満場の支持者たちが旗を振る。
(*):写真提供は現地報道記者
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