0-3…沈黙のロッカールームに「魔法が訪れた瞬間」 リバプール元主将が明かす”奇跡の舞台裏”
サポーターの歌声が呼び込んだ”奇跡の産声”
サポーターの大合唱に、戸惑いを隠し切れなかった。「なぜまだ応援してくれるんだ?もう勝てるわけがないだろう?と、正直思ったよ」。大敗に心を痛めるチームへの労いと励まし?いや、そうではない。「彼らの熱量は明らかに、諦めていないぞと伝える鼓舞だった」。ヒーピア氏は、そう強く感じていた。 「今思えば、静かなロッカールームに届いた『You’ll Never Walk Alone』こそが、僕たちのもとに魔法が訪れた瞬間だった。そこからベニテス監督がゆっくりと話し始めた。具体的な戦術の話はしていない。『まだ我々を信じてくれている彼らに、応えよう。彼らがここまで来てよかった、声援を送り続けてよかった、と。そう思ってくれるように、彼らの記憶に残るプレーを示そう』と、そう語りかけたんだ」 ヒーピア氏からキャプテンマークを継いで日も浅かった若き主将ジェラードの目の色が変わった。ジェラードは不意に立ち上がると、力強く言葉を投げかけた。「僕にとってはリバプールが全てだ。そんなクラブを歴史的な笑いものになんかさせたくない。もしも、みんなが僕をキャプテンとして愛してくれているなら、ここから一緒に這い上がってほしい」。もう俯く選手は誰一人としていなかった。奇跡が産声をあげた。 「あのようなCL決勝は、今後二度と起きないドラマだと思っているが、あの夜に学んだことがあった。何かを成し遂げる時、『信じ続けることが大事』と、よく聞く。だが、正直に言えば、我々は諦めていた。逆転勝利を信じていなかった。でも、誰かのためにやれるだけやろうと、全員が心から思えば、何か特別な出来事が起こることもあるということだ」 この”イスタンブールの奇跡”は、サッカー界やファンの間でもいまだに語り継がれる、伝説的な試合となった。「実は数年前に当時のミランの選手と食事をする機会があって、あの日の思い出話をしようとしても、皆嫌がって話したがらなかったよ。まぁ…気持ちはわかるけどね(笑)」と近況も明かしてインタビューは終わりを迎えたが、帰り際に、ヒーピア氏に笑顔で一言かけられた。 「君も、イスタンブールの奇跡でリバプールファンになったんじゃないかい?話を聞いている時の目の輝きでわかるさ!」
城福達也 / Tatsuya Jofuku