0-3…沈黙のロッカールームに「魔法が訪れた瞬間」 リバプール元主将が明かす”奇跡の舞台裏”
ヒーピア氏が振り返った“イスタンブールの奇跡”のハーフタイム
”イスタンブールの奇跡”をご存じだろうか?サッカーファンであれば、一度は聞いたことがあるだろう。2005年のUEFAチャンピオンズリーグ決勝で、リバプールがACミランを0-3のビハインドから3-3に追いつき、PK戦の末に優勝を掴み取った一戦だ。この歴史的な大逆転劇で、リバプールファンになった方々も多いのではないだろうか。当時の決勝戦にCBとして出場し、20年ぶりに来日したリバプール元主将DFサミ・ヒーピア氏が「FOOTBALL ZONE」の単独インタビューで、0-3でハーフタイムを迎えた失意のロッカールームに訪れた”魔法が訪れた瞬間”を明かしている。(取材・文=城福達也) 【動画】リバプールが起こした“イスタンブールの奇跡”の瞬間 ◇ ◇ ◇ 2005年にイスタンブールで開催されたCL決勝戦、リバプールは前半で立て続けに失点し、前半終了時点でミランに0-3と大差をつけられた。後半の逆転劇を、戦術の観点で簡潔に振り返ると、後半開始から元ドイツ代表MFディートマー・ハマンを投入し、公式戦で一度も取り入れたことのなかった3バックシステムへの変更に踏み切ったのが功を奏した。守備的タスクをハマンが請け負い、元イングランド代表MFスティーブン・ジェラードを攻撃に専念させたことで、ミラン側が対応で後手に回っているうちに、後半9分、7分、16分の“7分間”で同点に追いついてみせた。 しかし、当時名だたるワールドクラスの顔ぶれが揃った優勝候補筆頭のミランを相手に、3点のビハインドから試合をひっくり返した説明としては、明らかに物足りない。絶望に沈んでいたはずのチームに、一体何が起こったのか?ヒーピア氏に尋ねると、「0-3で前半を折り返した時点で、よくテレビを切って寝なかったね!」と冗談を交えつつ、重い足取りで戻ったロッカールームの出来事について、口を開いた。 「ハーフタイムに戻ったロッカールームは、ただただ静かだった。怒りに叫ぶことも、仲間同士で声を荒げることもなかった。全員が俯いて沈黙していた。当時の堅守イタリアのクラブに対し、0-1でもビハインドを背負えば、逆転する勝ち目がないことは、みんなが薄々悟っていた。それが0-3だ。誰もが諦めていたよ。ハーフタイムの時点で負けることがわかれば、怒りも苛立ちも湧いてこない。ただ落胆していた。誰も話し出すことはなかった」 世界最高のタレント陣、そして世界”最硬”のカテナチオを築くミランを相手に、1点どころか3点のビハインド。誰の目から見ても、勝敗は決していた。リバプールの選手たちも、この試合の結末を、すでに受け入れていた。議論の余地もないロッカールームには、静寂だけが流れていた。しかし、その静けさによって、リバプールの運命が変わる。 「無音のロッカールームで、何が聞こえてきたかわかるかい?イスタンブールまで駆けつけてきてくれたリバプールのサポーターが歌う『You’ll Never Walk Alone』だよ」