「結婚もできない、子どもも持てない」的外れな少子化対策の果てに生まれた「600万円の壁」
婚姻減の環境要因
出生数が減り続けているのは婚姻数が減ったからだ。
これに関しては、最近ようやく世間的に認知が広まっている。
婚姻が減った要因に大きくふたつの環境変化がある。ひとつには社会環境があり、これは簡単に言えば、昭和まであった「職場という疑似家族的共同体」の崩壊がある。これの詳細についてはこちらの過去記事を参照されたい。
参照→日本の結婚は30年前にはすでに詰んでいた。失われた社会的システム
そして、もうひとつは経済環境である。
特に、2014年以降、明らかに「結婚するにも子どもを持つにも金が必要」という結婚に対する意識のインフレ化が進んだ。20代の若者が思う「結婚可能年収」は、2014年時点ではまだ379万円であったものが、それ以降右肩上がりに上昇し、最新の2024年では544万円にまで上昇した。実に2014年対比で約1.4倍である。
そして、実際の婚姻している男性の年収もその通りになっている。
参照→20代の若者が考える「年収いくらなら結婚できるか?子ども産めるか?」その意識と現実との大きな乖離
「金がないから」は貧困層の話ではない
婚活の現場で、女性が相手に求める条件として「最低年収500万円」というのもその意識を反映したものであるのだが、いかんせん500万円以上の男性は婚活現場にはいない。その前に早々と完売している。
「金がないから結婚できない」という若者の声を紹介すると、決まってそれを否定してくる界隈があるが、ここでいう「金がない」は決して貧困層を指しているのではない。
年収に関して言えば、いわゆる中央値や平均値の年収では結婚できなくなったということだ。事実、児童のいる世帯のここ20年間の年収別分布を比較すれば、これだけ「婚姻減だ、少子化だ」といわれているのにもかかわらず、世帯年収900万円以上の世帯数はまったく減っていない。
減っているのは、300-600万円の中間層年収帯だけである。
参照→かつて日本を支えていた所得中間層の落日「結婚も出産もできなくなった」この20年間の現実
年収別0-1歳の子どもの数
さて、その上で、児童がいる世帯数ではなく、世帯年収別の子どもの数という視点でどのように推移してきたかを見てみよう。要は、世帯年収別子どもの数である。
家計調査から、年収別世帯の0-1歳の子の数を抽出し、それらの割合に、人口動態調査での調査該当年と前年の出生数(0-1歳の子ども数)を掛け合わせて計算したものが以下である。
ここでも、世帯年収上位層は、子どもの数も全く減っていないどころか若干増えてもいる。減っているのは、前述した通り、世帯年収300-600万円の中間層だけである。しかも、2003-2013年の10年間ではほとんど減っていないのに、2013年以降に激減している。
2003-2023年の20年比較でいえば、年収帯別にもっとも減少しているのが300-400万円世帯で▲75%、300-600万円の中間層全体でも▲56%である。全体の減少が▲34%であるから、いかにこの中間層年収帯が子どもを持てなくなったかがわかるだろう。
ちなみに、600万円以上ではプラス7%で子どもの数はむしろ増えている。
つまり、少子化というのは、年収600万円以下の世帯でのみ起きている話であり、この年収に達しなければ子どもはおろか結婚すらできなくなっているという事実がある。
年収帯の話をしたが、同時にこれは年齢の話でもある。
たとえば、20代で個人年収600万円に到達する人は少ない。それこそ、一部の大企業くらいのものだろう。34歳までに600万円以上稼げるのは男性の場合ではわずか17%に過ぎない。多くの結婚を希望する20-34歳男性の年収は300-400万円台である。人口ボリューム層の中間層が結婚できないのだから婚姻減は当然の結果なのだ。
少子化対策の的外れ
あえて指摘したいのは、2003-2013年まではなんとか持ちこたえていた中間層の結婚が、2013年以降ほぼ不可能になったのはなぜか?ということである。
このあたりに実は政府は大規模な少子化対策を講じて、その予算も大きく増加させている。しかし、少子化予算は増えても出生に結び付く若者の婚姻が増えるどころか逆に大きく減少させてしまった。
それもそのはずで、少子化対策といってもほぼすべてが子育て支援で、恩恵はすでに結婚した夫婦にしか提供されないからだ。
百歩譲って、子育て支援で出生数が増えたのならよしとしよう。しかし、実際は、結婚した夫婦の産む子どもの数はほぼ変わっていない。それもそのはずで、現金給付にしろ、いろいろな無償化にしろ、すべては税負担化であり、「子育て世帯に支援を」などと言いながら、実際は「配っても後できっちり奪っている」わけで、とても「もう一人産もう」なんて思えなくなるからだ。
参照→税収を絶対減らしたくない「与えるけどきっちり奪い返す」巧妙なカラクリによって加速した少子化
予算11兆円は意味あるの?
逆に、独身にとっては「何も配られずただひたすら社保料負担が増え、奪われるだけ」なので生活が苦しい。結婚どころか恋愛する余裕すら失われたことだろう。
結婚した夫婦にもこれから結婚するだろう独身にも、両方にとってメリットもなければ負担が増えるだけの政策なのだから当然だ。
なんのことはない。政府がずっとやり続けてきた少子化対策とそこにかけてきた膨大な予算~直近ではこども家庭庁や他の省庁・自治体あわせれば年間11兆円を超える予算は、若者の結婚を減らし、子どもの数を減らすことを実現した少子化(促進)政策だったのだ。
さすがに、いい加減この的外れな政策のあり方を見直すべき時期にきているだろう。
かといって、それは婚活支援や官製マッチングアプリを作るということではない。それ以前の話で、真の少子化対策とは、中間層の若者の経済的困窮に向き合う経済対策なのである。
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