夜のフェアリー①
お屋敷の跡取り息子がメイドと恋に落ち二人は結婚を誓いあった。
しかし青年の家はパリでも有名な資産家、そんな二人の仲を周囲が許すはずも無い
特に青年の父親は、二人の結婚をひどく反対し、息子にメイドと別れるように迫った。
父親の考えでは息子には名家の嫁を迎える手はずとなっていたのだ。
しかし、その時メイドのお腹にはもうすでに二人の愛の結晶が。
それには、青年の父親も二人の仲を認めるしかないと不承不承承知する。
メイドのお腹の中の子は跡取りになる男の子がいるかもしれないのだ。
青年は父親が年を重ねてからの子で、跡取りの誕生を早く願っていたのも大きな理由だった。
しかし父親は二人の仲を一応認めるといったものの条件付であった。
それは、男子が生まれればメイドを事実上の嫁と迎えても良いという。
だが、もし女子ならば、息子にはいずれ名家の令嬢を妻に迎えることに、そしてメイドと子は息子と引き離されて愛人として隠れて会うしかない身になるという、かなり強引な条件を突きつけられた。
メイドは男子を産むプレッシャーで日に日に身体が弱り、このままでは流産もしかねない状態に陥ってしまった。
そこで青年はメイドのふるさとであるロアンヌ村でお腹の子を産むよう父を説得する、
ふるさとには両親も親しい人もいる、しかもメイドには村で医者を開業している兄もいた、そこでなら安心して子供が生めると父に進言したのだ。
無論父親は良い顔をしなかったのだが、もしかして名を告ぐ男子かもしれないのに、このままでは流産する可能性も大きい。
父親は仕方なく承知し、メイドは屋敷を出て彼女のふるさとで出産することになったのだ。
青年は仕事があるため、出産時期になってから会いに行くという、妻の面倒を見てもらうために自分の乳母も側につかせた。
ふるさとに戻ってから娘の体調は良くなり、お腹の子供も無事育っていった。
乳母からの手紙で、それを聞き、安心した青年は父からの言葉を伝えた。
「男の子が生まれたならオスカルと名づけるよう、それが跡取りの名前だ」と。
娘である場合の名は書いてなかった、父親が認めるのは男子のみであった。
それからまもなく出産の日が訪れた。
それは急な出産で、予定よりも早く早産だった。
そのため、青年への連絡も急で出産には立ち会えなかった。
青年は取るものもとりあえず急いで妻のいる村に向かった。
一日中車を飛ばして妻がいる実家の前に車を止めさせ、家の中に入っていった。
妻の兄と乳母のマロンが出てきて青年を迎えてくれた。
一時は危ういのでは、と思えるほどの難産であったが、親子ともども無事だという。
安心してほっとし、妻のもとに急いだ。
久しぶりに会う妻は疲れ果て、儚げであったが、子を産んだ喜びに満ちた顔であった。
妻の隣にはベビーベッドが置かれ、そこには可愛らしい赤ん坊が眠っている。
「よくやったね、フローラ」
「ええ、貴方、抱いてやってくださいな、オスカルを」
それでは!男の子だったのか!
青年は心の中で歓喜した。
これで父に許してもらえる!
晴れて正々堂々と夫婦と名乗れるのだ!
青年は喜びの心のままに乳母のマロンに手伝われながらオスカルを抱いた。
妻は疲れていると見て、すぐに眠ってしまった。
青年は喜びながら兄である医師グレゴリーと乳母のマロンに礼を述べた。
「フローラが無事赤ん坊を生めたのは二人のお陰だ、本当にありがたく思う、しかも男の子が生まれたなんて」
「これで父も許してくれる」
しかし、医師グレゴリーとマロンは深刻な顔だった。
「レニエ様、貴方に大事なお話があります」
「フローラが眼を覚まさないよう、隣の部屋で話したいのです」
この喜びの時に、一体なんだろう?と思いながらもレニエはグレゴリーと共に隣の部屋に向かった。
グレゴリー医師はレニエが席についたとたん、辛そうな顔で言いにくそうに告げるのだった。
「・・レニエ様、フローラが生んだのは女の子でした」
女の子?しかし・・
「しかし、グレゴリー、先程フローラは「オスカル」と呼んだが?手紙で告げたはずだ、男子ならオスカルと名づけるよう・・」
グレゴリー医師はレニエの疑問に答えて言った。
「フローラが生んだのは、女子だったのです、フローラはオスカルを男の子だと思い込んでいる、産み落としたとき、マロンさんが女の子だと告げようとした瞬間だった」
「フローラは「男の子が生まれたのね、レニエと私の子、そしてジャルジェ家の跡取りのオスカルが」、そういって話を聞こうとしない」
「それでは・・・」
「レニエ様、ぬか喜びをさせてしまい、申し訳ありません、フローラは男子を産まなければ貴方と引き離される恐れからオスカルを男子だと思い込んでいる」
「精神的に追い込まれれば人間は自分を守るために都合のいい現実を作ってしまう、断言は出来ませんがフローラはそのような状態に陥ってるとしか思えません」
レニエは先程までの喜びが絶望に変わっていくのがわかった。
生まれた子は女子だった。
これではフローラとは引き離され、自分は別の女性と結婚させられる。
しかも、フローラは心を病んでいるのだ、そんな彼女を見捨てて別の女性と結ばれろと神は私に言うのか?
何ということだ、生まれた子が女子だったせいで
女子だったせいで家族がばらばらにされてしまうのか!
生まれた子が本当に男子だったなら
オスカルが男子として生まれていたなら、私とフローラは・・・
「レニエ様、こうなれば仕方ありません、お父上との約束どおり、フローラは、もう貴方の妻にはなれません」
「長くいればいるほど未練が残るもの、パリに早速戻り、生まれた子が女子だったことを父上にお告げください」
しかし、レニエはそこを立とうとはせず、グレゴリー医師に向かって自分の決意を告げてきた。
「グレゴリー、貴方にお願いしたいことがある」
「フローラが生んだのは男子ということにしてほしい決して父には、もちろん世間にも漏らしてはいけない!」
「オスカルは男子として育てる」