俺の切り札は光らない   作:雨 唐衣

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OP終了
前半15分、CM入りまでです


十五話 敗北条件 メインデッキが0枚になっているのに、ドローすること

 

 

 

 なんか捕まっていたはずの私はいま。

 

「ぐぁ!」

 

「なんっ!?」

 

 めちゃくちゃ強い顔もわからない人のワイヤーアクションを見ていました。

 ああ、二段蹴り!?

 

『低級クリーチャーだが……実体化もしてるな。私の前に出るなよ』

 

 そう言いながら警備ロボットとか、明らかに人間じゃない怪物を、キラリと光る手の一振りで首を吹き飛ばす。

 ムチのようなワイヤーの一撃だった。

 

「う、うん!」

 

 全身をすっぽりと覆い隠すベルトだらけのコートに、狼を思わせるような紋様の施された真っ白なマスク。

 声もなんか機械じみていて体型もわからないこの人は【精霊狩り】と名乗っていた。

 

 うん。その。

 

 ――人は私を精霊狩りと呼ぶ。

 

 て、名乗るんだもん。

 精霊狩りさんとしか言えないんだよね、この人。

 取られていたデッキもなんかホルダーごと返してくれたから悪い人じゃないと思うけど……でもなんかちょっと変?

 なんであんなにあちこちにベルト着けてるんだろう。

 

『音はないな……入るぞ』

 

「は、はい」

 

 さっき蹴り倒した白衣を着けた人から奪ったカードを、ドアのロック部分に当てて開く精霊狩りさん。

 中に入る精霊狩りさんに置いていかれないように入って。

 

「ぶっ!?」『きゃっ』

 

 どんっと、精霊狩りさんの背中に顔をぶつけた。

 

「ど、どうしたんです?」

 

 なんか変な声が聞こえた気がするけど、いきなり立ち止まったのには文句が言いたい。

 コートあちこち硬くては、鼻が……

 

 そんな風に考えていた気持ちはすぐに吹き飛んだ。

 

「え」

 

 

 そこにあったのは無数の水槽だった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 眠っているのか、生きているのかもわからない、人影のサイズからして子供から大人までいる水槽の山、山、山になんかの大きなコンピューターが繋がれている。

 そして、それぞれ1つずつの水槽に設置された拘束具のようなカードケースへLifeのカードがセットされていた。

 

「なに……これ」

 

『どうやら……精霊憑きのようだな……ファイターだけではない、民間人まで……』

 

「精霊憑き?」

 

 精霊狩りさんが腕のワイヤー――よく見ればバトルボード用の腕輪から出てる――を、機械の端子部分に差し込んで、水槽の前のキーボードを操作する。

 空中に出現した無数のモニタには、水槽の中にいる人たちなんだろう、顔写真や名前、カードの名前が写っていた。

 

「精霊憑きってなんですか?! Lifeの精霊って、カードに宿ってる子もいますけど」

 

『精霊は、何故精界(せいかい)から我々のいる命界(めいかい)にやってくるのか知っているか』

 

「? それは、人間と仲良くしたいからじゃ」

 

『正確には、惹かれるのだ。我々人間に、ファイターが持つ生命(ライフ)の波動、”スピリット”に』

 

「スピリット」

 

『ファイターが発する”情熱(スピリット)”は精霊の力を高めるエネルギーにして、()()()()()()()()()()()()()

 

 餌?

 

≪ちょっと、何を言っているの!≫

 

「アイーシャ!」

 

 デッキからアイーシャが半実体化し、精霊狩りさんに叫んだ。

 

≪精霊が人を襲うなんて、私たちに対する侮辱よ! 何を根拠に≫

 

『私の家族は精霊に、それを使われる者に食い殺された』

 

「ッ!」

 

≪なっ≫

 

『随分とはっきりした自我を持っているが、ユウキ。君のスピリッツを糧にそれだけ成長したようだな、精霊の自我は優れたファイターと共にいることによってより成長し、力すら増していく』

 

 淡々と、機械声越しでもわかるほどに冷たい声音で、精霊狩りさんは言った。

 

 

『その果てに、それは悪魔や神と呼ばれる存在となる』

 

 

 

「……神」

 

 ドクンと心臓が脈打った気がした。

 

『古代の時代では人は精霊と共にあったというが、それはいつしか存在する世界すら別れた。まるでカードの表と裏のように、これ以上の悲劇を産まないために』

 

「精霊狩りさんは、精霊が、嫌いなんですか」

 

『好きではない』

 

 キーボードを叩く手が止まり、顔の見えない仮面がこちらに向いた。

 

『少なくとも人にあだなす精霊とその使い手を狩ってきた』

 

「だから、精霊狩り」

 

『しかし、メガバベル社のやっていることは幾ら何でも常軌を逸している……見ろ』

 

 精霊狩りの指さしたモニタを見る。

 

 そこには多分、今私たちがいる建物……メガバベルの巨大な高層タワーのマップが表示されている。

 その横には下から上へと流れる無数の赤いラインと、横には【89%】という数字が表示されていた。

 

『市街のあちこちから膨大な”スピリット”を集めている』

 

「スピリットを?」

 

『ああ、この90%以上の進行……これを進めるためのキーパーツを探してたようだ。ふむ?』

 

「あ、店長さん!?」

 

 操作されて出来たモニタの一つに、見覚えのある顔写真。MeeKingのセト店長があった。

 それ以外にも私よりも少し年上の、確か占光(せんこう)高校の女性?

 何人もの人の写真があって、その最後に私の顔写真もあった。

 

「わ、私?」

 

『だから狙われていた……よし、見つけた』

 

 タタンと、精霊狩りさんがキーボードを叩く。

 画面が切り替わり、表示されたのは建物の上までのルートマップ。

 

『そこか』

 

「……精霊狩りさん?」

 

『今、出口までのセキュリティを解除した。君は脱出しろ』

 

「精霊狩りさんはどうするつもりなの?」

 

 

 

『私はこの装置を止めにいく』

 

 

 

「えっ」

 

『君を助けたのはそれを少しでも遅延させるために過ぎない』

 

「止めるって……なにをするんですか!? で、電源を落とすとか?」

 

『ここの破壊だけで食い止められるならば話は早かったのだが……これらがあるのはここだけではない、少なくとも衛星となる5つの支部があり、それらを食い止めにいく暇はない』

 

 ここ以外にもある?

 そんなこんなことをされている人がもっといるの!?

 

『だからこそ、今その総責任者――』

 

 そう告げて、精霊狩りが掲げた手の先。

 指先にあるのは天井、その先、マップにあった最上階。

 

 

『冥牙バベルの日本支部社長を抑えるしかない』

 

 

 

「わ、私もいきます! 一人じゃあ」

 

『? 何故だ、君はただの被害者だ。付き合う必要はない』

 

「私だって襲われたんです! それに精霊使い……特殊なカードを持っている人を襲っているなら、父さんのことがなにかわかるかもしれないんです!」

 

 子供の頃、突然目の前からいなくなってしまった父さん。

 父さんが残してくれたカードは精霊の力が宿ってる。

 

『父親……』

 

 だからもしかして関係があるのかもしれない。

 

「それに精霊を……ファイターのみんなにこんなことをして許せない!」

 

≪そうよ。私だって精霊として、見逃すことは出来ないわ!≫

 

『ふんっ』

 

 精霊狩りさんが、仮面越しに鼻を鳴らす。

 

『義侠心は結構だが、素人の出る幕ではない。足手まといだ、帰れ』

 

「――足手まといじゃないならいいんですね」

 

『なにっ』

 

 私は左腕を振り、ボードを展開する。

 

 

「私だって戦えることを証明するよ、ファイトで!」

 

 

 

『……状況がわかっているのか?』

 

 

「わかってます。危ないことをするつもりだって」

 

『違う。ここから先は遊びの、ファイトではない。死ぬ危険性も「だったらなおさら一人でいかせられません!」ッ!』

 

 どうしてこんなに落ち着かないのか、わからない。

 こんなところでファイトを申し込むのは、自分でもおかしいとは頭の片隅で考えている。

 けど。

 どうしても我慢できない。

 ただ一人で逃げて、助かることが……選べない。

 

 

「もう私は、ただ守られるだけの子供じゃない! この生命(Life)を賭ければ戦う(ファイト)することだって出来るんだって証明してみせる!」

 

『子供だな』

 

 そう言いながら精霊狩りさんもボードを展開する。

 

 

『その浅慮を訂正するのも……年上の役目か』

 

 激しい金属音を立てて変形。

 幾度にも激しいファイトをくぐり抜けてきたのだろう精霊狩りさんのボードは傷だらけで、けれどもそれにデッキを装填する動作に一切の淀みはなかった。

 

「感謝はしています、けど、それとこれとは」

 

 私もデッキホルダーからデッキを取り出して、ボードに装填(セット)する!

 

「話が違う!」

 

『手加減はしないぞ』

 

「むしろ手を抜かないでください!」

 

 だからこそ、証明になる。

 喧嘩には自信がないし、あちょーみたいなアクションは出来ないけど、ファイトでなら戦える。

 

 ――あの店員さんみたいな、でゅえるまっする? とかはないけれど。

 

 

 

 

「レディ!」 『レディ』

 

 

 

 

「『ファイト!!』」

 

 

 

 私たちはデッキからカードを引き抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん、一人ずつ狩り殺すつもりだったのだがな……」

 

≪クスクスクス≫

 

 

 それを見ている視線に、私たちはその時気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――あと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()





 絆の形は決して一つじゃない
 けど、その根底にあるのは何度でも繋がり合う勇気。


                     ――<勇気のバトン>
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