DeNA創業者の南場智子氏が、「女性活用」を斬る


 空前の女性活用ブームが起こっている。

 2013年、安倍政権は今後の成長戦略の軸に女性の活用を掲げた。2020年までに、社会のあらゆる分野において指導的地位に占める女性の割合を30%程度まで引き上げる。そのためにはまず、全上場企業に対して、役員に1人は女性を登用すること。また今後は上場企業を対象に、管理職や役員に占める女性の割合を調査し、各企業の女性登用状況を公開すると公表している。

 これを受けて、経済界は突如、女性社員の昇格、昇進に乗り出した。「女性初」の役員を作る企業が増えたかと思えば、自社で立てた女性管理職比率の数値目標を公表する企業も相次ぐ。

 政府主導の女性活用ブームは、今後、職場にどんな影響を与えるのだろうか。日経ビジネス8月26日号「女性昇進バブル」では、現在実際の職場で巻き起こる混乱と、今後量産される女性管理職、女性役員が職場に与える影響を予測。あるべき「女性活用」のためにすべき施策を提言している。

 日経ビジネスオンラインでは、特集「女性昇進バブル」の連動連載をスタート。経営者や経済評論家、ジャーナリスト、コンサルタントなど、各界の大物女性が、今の「女性昇進バブル」を斬る。

 第1回は、ディー・エヌ・エー創業者の南場智子氏が語る。

経済界では、女性活用、女性昇進に力を入れる企業が増えています。

南場氏:それについては、もちろん大賛成です。市場の半分が女性で、財布を握っているのは半分以上が女性です。女性の心理を上手く掴む事業展開は必須ですから、そういう意味でも、事業の場にもっと女性が出てくればいいなと思っていました。

過去にも女性活用ブームは度々ありました。今回は、女性管理職や女性役員の比率をどこまで高めるかという目標数値を決めた点が今までと違うようです。

南場氏:最初に申しあげますと、私は自分自身が、子育てや嫁姑問題で苦労した経験がありません。働き始めてからも、女性だからという理由で損をした経験がない。ですから本当は、女性のこうした問題についてあまり語る資格がないのかもしれない。ただ、たまたま女性であって、会社を経営している。経営者の本音はある程度わかりますから、それを踏まえてお話をします。

 まず言いたいのは、人事は会社運営の根幹だということです。ですからそれぞれの実績や実力に鑑みて適所適材に人材を配さないといけない。そこに曇りがあると非常にまずいことになります。曇りある人事を一度でもしてしまうと、昇進した人はそれが実力なのかどうなのか分からなくなりますから。

今後、多くの企業が増えるであろう女性管理職を増やすための“底上げ”人事はどう見ていますか。


南場智子(なんば・ともこ)氏
ディー・エヌ・エー(DeNA)創業者、取締役。1986年に米マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。99年同社を退社してDeNAを設立し社長に就任。2011年、病気療養中の夫の看病のため、DeNA社長兼CEO(最高経営責任者)を退任。代表権のない取締役となる。(写真:山本 琢磨、以下同)

南場氏:頑張っている女性に失礼じゃないかと感じています。(一定の女性枠を作る)クオータ制のように、女性管理職を増やそうとして短絡的にそちらの方に行くのはあまり支持できませんし、女性にとっては悲しいことだと思います。

 「これは女性管理職や女性役員が浸透するまでの過渡期なんだ、仕方がない」という意見がありますよね。ですが、この過渡期に当たった女性はみんなが、そういう目で見られてしまいます。例えば、課長や部長レベルでは圧倒的に男性の多い企業の場合、女性が役員になれる確率はとても低い。それが今、何らかの思惑で(女性が)昇進できる確率が高まっているとしたら、本気で昇進を目指して頑張る女性にとっては、とても残念なことでしょう。「最後に下駄を履かされたのか」と思われてしまう。周りの男性からそういう目で見られるのは、どうかと思いますよね。

“逆差別”は頑張る女性に失礼

「最後は下駄か」と思ってモチベーションを失う男性の声も耳にします。

南場氏:そうでしょうね。繰り返しますが、会社にとって「役員」というのは本当に要の存在なんです。それに対して、政府が口を出すべきではありません。政府が成長戦略で打ち出したのは、国家の目標にすぎないわけです。政府には政府の目標があって、それを宣言するのはいい。

 だけど、上場企業の役員に女性を1人入れるべきなどという、会社側の経営を左右する数値目標を出されると、本当に困ります。それくらい役員は会社にとって重要なものなんです。人事だって大切です。誰を部長にして、誰をどこに置くかということは、会社の戦略そのものです。それが国の要望で濁ってしまうのは、どうかと思います。

確かに、南場さんの書著『不格好経営』を読んでいると、描かれているディー・エヌ・エー(DeNA)の歴史とは、そこで働く人たちの歴史であり、人事の物語とも言えます。



南場氏:会社の成長は、どの人材にどんな仕事を任せていくかというところに左右されます。これを1つでも間違えれば、成長のチャンスを逸することになる。

 ですから我が社は、絶対に逆差別はしませんね。要職に就いている女性はたくさんいますが、それは女性を優遇した結果ではなくて、実力によるものです。「実力、実績で評価するポリシーを当社は変えません」と発信しているくらいですから。

 我が社の女性陣は、それをありがたいと言ってくれます。仕事はジェンダーで掴むのではなく、実力で掴む。それを徹底しています。これは頑張っている女性社員にとって、ものすごく励みになっているようですね。

ただ、日本では何の対策も打ち出さないと、女性がほとんど役員になれないという現実もあります。

南場氏:結果として女性の進出が進んでないことは確かでしょう。ただ女性の活躍を応援するならば、社会のあり方の根本を変えないといけないと思います。今のように女性を優遇するだけでは、単なる逆差別で終わってしまう。

女性優遇よりも、男性の解放が先

 重要なのは、男性の解放だと思っています。今の日本の男性はやはり、仕事に邁進する以外の選択肢を取りにくい。女性よりもはるかに多くの周囲(親や親戚、会社など)の期待を背負っています。どんな人生でも、まずは職場で頑張ることが前提になっている。

 一方、女性のほうが人生の選択肢は多いですよね。会社で頑張るだけではない。すごい実力があって賢い女性が家に入ることを選んで、幸せに暮らしていることもあります。それを社会の損失だと言う人もいますが、私は個人の選択の自由だと思っています。

 その点では、女性のほうが生き方を自由に選べる。男性が生き方を選択しにくい状態は、解決しなくてはいけないでしょう。

 例えば、日本ではナニー(住み込みで子供の面倒を見る乳母)を雇うことがすごく難しい。特に外国人にお願いするのは、移民法にも抵触します。日本人ナニーは経済的に非常に負担がかかりますし、保育所の待機児童も多い。そういう問題は、政府がどんどん解消するべきでしょう。また、全ての企業が産休や育休に対して寛大になるべきだとも思います。

 ただそれでも、社会的に男性が育休を取ることに対しては、まだまだ風当たりが強い。

 夫婦のどちらかは家に入ったほうがいいと考えるようになると、やっぱりそこで夫が休む方が、妻が休むよりもうんと支払う代償が大きいですから。そこで通常は、女性が「じゃあ、私が子育てをするわ」となります。夫婦2人とも仕事を続けたい場合でも、家庭としての全体最適を話し合った結果、社会的に育休を取りやすい女性がキャリアをスローダウンさせる道を選ぶようになる。

例えば、SMAPに育休を取ってもらう

 ただ、中には男性が「あ、俺、育児したかったけど」ということだってあると思うんです。

 であれば、数値目標を掲げて、何としてでも女性の管理職比率を高めて活用しますという施策の前に、やるべきことはあるはずです。

 例えばSMAPの誰かに育休を取ってもらうとか、素晴らしいキャリアを実現している男性がしっかりと育休を取るとか。「男性が育休みを取る」ということが受け入れられるよう、ロールモデルをしっかり作るべきでしょう。

 男女ともに働きやすさをサポートする体制や、インフラ、制度を完備させる。そのうえで社会が男性を解放する。それらを先に実現させないと、今のまま、いびつな女性活用を続けても職場がぎすぎすするだけです。

現在、DeNAの男性社員で育休を取っている方はいらっしゃるのでしょうか。

南場氏:いますよ。ただやっぱり、男性社員が育休を取るのは抵抗があるんですよ。

 なぜかと言うと、我が社の場合は新卒だけじゃなくて、中途で来た人も多い。彼らは前の職場での働き方が染み付いていますから、なかなか自由になれない。

 ただ、私は男性の育休取得も全面的に奨励したいと思っています。とにかく徹底して社員のライフイベントをサポートし、ライフイベントに寄り添おうと声を掛けている。それは制度の完備だけではなくて、もっときちんと魂を入れていきたい。

「雰囲気作り」が大切、ということでしょうか。

南場氏:部門の現場の長が奨励するべきだと思うんです。ただ制度を完備するだけではダメで、いかにそれを利用してもらうか。制度を使うことを奨励し、仮に社員がライフイベントで仕事を少し離れざるを得ないという場合に、制度を使ってもらって、パーソナルライフを犠牲にしないようにしてあげる。

 例えば男性の育休であれば、休みに入る時の送り出す雰囲気を大切にします。管理職が率先してみんなで拍手をする。どうせフェイスブックでつながっているんだから、育休中に赤ちゃんの写真を投稿したりすれば、それを元に積極的にコミュニケーションしたい。「本当に会社のみんなが自分を応援してくれているんだ」と感じてもらいたいんです。休んでいる本人には、「自分が男性で育休を取ったことがいい事例となって、会社も喜んでいるな」と思ってもらいたいですよね。