エルデの王は迷宮で夢を見るか?


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作:一般通過あせんちゅ
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冒険者


 オッタルを圧倒しアイズを完封した相手を前に、フィンはどのように話を切り出せばいいのか途轍もなく迷っていた。頭の中で幾つもの言葉が巡り、その言葉に相手がどう応じるのかを瞬時に計算する。望むものでなければその選択肢を捨て、別の言葉ならどうかと自らの持つミストルテインという人物の情報と照らし合わせて最善の道を探す。

 

「君は、ベル・クラネルという少年が英雄になるのを見たいと、言っていたね」

 

 かろうじてフィンが絞り出した言葉は、前回交わした言葉の反芻である。何も口にしないまま時間を無駄にするのは良くないことだと、親指がする主張に則って間を稼いだのだ。

 一方、相対するミストはフィンと口で戦って勝てるなどはなから考えていないため、答えられない言葉が来れば武器で応え、無言が続くのならば武器で語ろうとしていた。フィンの親指は正しかったと言える。

 

「今、この先でミノタウロスと戦っているのがその、ベル・クラネルなのかい?」

「そうだ。どこぞの色ボケ女神が気に入っている奴でもある」

 

 彼女の言う色ボケ女神と言うのは状況証拠からいってオラリオ最大派閥の片側である、女神フレイヤであることは間違いない。となれば、中層からしかいないモンスターであるミノタウロスが上層にいる理由は、ベルに対してフレイヤがミノタウロスをぶつけたかったからであろう。フィンは推理を終えてから、ミストへと視線を向けた。

 

「何故、オッタルと戦っていたんだい?」

「最初はただオラリオ最強を肌で感じたかっただけだったんだが、どうしても確かめたくなったことがあってな。後、興が乗った」

「気紛れでオラリオ最強を相手にする冒険者、か」

 

 傍でフィンとミストの会話を聞いていたリヴェリアは、戦慄と共にミストの顔を確認していた。フィンとアイズから報告で何度か名前の上がっていた人物ではあるが、まさかこれ程まで規格外の相手であるとは露ほども思っていなかった。

 

「そちらは遠征だと聞いたが?」

「9階層に留まっているのは僕らだけだよ。ミノタウロスの件でアイズが先走ってしまったからね」

 

 そういうものかと適当に納得したミストは、後ろでずっと固まっているスコットを手招きした。【ロキ・ファミリア】と関わり合いになりたくないスコットはすごく嫌そうな顔をしていたが、ミストが一睨みすると凄まじい速度で近くへとやってきた。

 

「彼は?」

「ん? あぁ……そういえばスコットのファミリアなど聞いていなかったな。まぁいいか、ファミリアに興味などないしな」

「ひ、酷くないっすか?」

「ファミリアには、興味がない。お前個人のことはそれなりに気に入っているぞ? 理由がなければ処分しない程度にはな」

 

 オッタルとアイズを圧倒したミストに対して自然と下手くそな敬語が出てくるスコットだが、ミストは特に気にすることもなく、フィンに聞かれたことも答えるつもりもなかった。

 

「そ、それで……なんで俺を呼んだんすか?」

「お前、上手いこと切り抜ける方法を考えろ」

「無理っすよ。なんでできると思ったんすか?」

 

 ミストとスコットは、フィンと口で戦って勝てるとは最初から考えていない。ミストはオッタルと戦って満足している後なだけに、面倒なフィンとの舌戦にもならない会話などしたくない。スコットは自分が闇派閥に属しているという後ろめたさから、フィンと真正面から会話できる気がしない。

 

 心底面倒だと思ったミストは、長牙に手をかけることで無理やりスコットに会話をさせるように仕向けた。普通ならありえない話だが、この女は斬るといったら絶対に斬るという危なさが存在する。スコットは顔を青褪めて頷いた。蛮族的交渉術の勝利である。

 

「あ、あー……俺はスコット・スキアー。所属ファミリアは冒険者の秘密ってことで」

「構わないよ。今は彼女との関係性を聞きたいからね」

 

 スコットはフィンに闇派閥であることを隠しながら喋らなければと考えているが、フィンは親指が疼くままミストとの関係性を聞いた。ミストが親しくしている人物がいることに、フィンは危機感を覚えているのだ。味方に引き入れないとまずいという考えはあるが、それ以上にフィンはスコットのことを知らないというのが危機感を募らせていた。

 

「関係性……手駒?」

「あってるな」

「あっているのか」

「あってるんだね」

 

 自分とミストの関係性を考えたスコットは、手駒という表現を使った。それに対してフィンとリヴェリアが同時にミストの顔を見ると、得心したという顔で頷き、フィンとリヴェリアは呆れたような顔でスコットを見つめた。

 

「……ん」

「目が覚めたか?」

 

 スコットが自分で言った言葉に落ち込んでいる間に、リヴェリアに治療されていたリリルカが目を覚ました。自分が助けを求めた【ロキ・ファミリア】が治療してくれたということに気が付いたリリルカは、すぐに起き上がろうとして身体のバランスを崩して倒れ込んだ。

 

「無理をするな。傷は塞がったが血は戻らないんだぞ」

「り、リリはいいんです……ベル様を」

「ベル・クラネルならどうせ勝つ。問題ないだろう」

「っ!? ベル様は、まだLv.1なんですよ!? どうやってミノタウロスに勝つと──」

「騒ぐなやかましい。あの程度越えられないのならばその程度の器だというだけだ」

 

 ミストのことを【ロキ・ファミリア】の一員だと思っているリリルカは、投げやりな言葉に怒りを露わにした。やはり冒険者など碌な奴がいないのだと、生まれた世界を呪ったリリルカ・アーデの言葉をミストは鼻で笑った。

 

「安全マージンを守って、ちまちまとダンジョンに潜る。命程度も天秤にかけられない奴が冒険者を名乗るな」

「ッ!」

 

 リリルカ・アーデは、静かに立ち上がった。





ミストちゃんは死んでも生き返る癖に命程度とか、なに言ってんだこいつ(書いた本人)

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