エルデの王は迷宮で夢を見るか?


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作:一般通過あせんちゅ
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神殺しの矢


 荒れ狂う暴風を纏いながら突進するアイズを、ミストは軽々とあしらっていた。Lv.6に到達して短い期間とはいえ、既にアイズは過去に敗北した赤髪の調教師(テイマー)レヴィスをも打ち破る力を手に入れた。それでも、アイズは目の前の黒い鎧の人物に対して全く有効な攻撃を放てずにいた。

 

「っ! 退いて!」

「断る。あれには試練が必要なのだ」

「試練?」

 

 剣が交差する最中に交わされた言葉に、アイズは眉を顰める。目の前の相手が言う「あれ」とは、ベル・クラネルを指しているのであろうことはわかった。しかし、試練が必要であるという言葉はあまりに傲慢に聞こえる。そんなものの為に彼が巻き込まれているという事実に、アイズの心は平穏からほど遠くなっていく。

 

 アイズの剣を受けるミストは、彼女のレベルが上がったことを、ぶつけ合う剣を通じて理解していた。明らかにレヴィスと戦っていた時とは動きの質が違い、付加魔法(エンチャント)を含めればオッタルを超える速度が出ていると言われても納得できる。ただ、納得できるだけである。

 

「直線的だな。そんなにあれが大事か?」

「っ!」

 

 ミストの挑発するような言葉に、アイズは声なき叫びで応えた。デスペレートに纏われていた風が更に強くなり、暴風を纏ったままミストの命をも狙って剣を振るう。が、それをいつの間にか左手に持っていた盾で弾かれる。

 

「えっ?」

「遅い」

 

 理解する間もなく思考の空白を突かれたアイズは、腹部に衝撃が伝わると同時に通路まで吹き飛んでいった。都市最強格の冒険者を続けざまに2人も圧倒した事実に、背後で戦いを見守っていたスコットは顔を真っ青にしていた。闇派閥がどんな存在を味方につけようとしていたのか、その実力を唯一知ってしまったスコットはもう逃れられない。

 

 アイズが吹き飛んでいったのを見送ってから、ミストはゆっくりと長牙を鞘へと納めてスコットへと視線を向ける。急に振り返られたスコットは明らかに動揺したような反応を示していたが、ミストは全く気にすることなく10階層へと下る階段へと向かって歩き始めた。

 

「ま、て」

「もう立ち上がるか。流石の耐久力だな、猛者オッタル」

 

 大剣を杖代わりにしながら立ち上がるオッタルは、しっかりとミストを視界に入れたまま消えぬ闘志を燃やしていた。しかし、彼が今から再びミストに立ち向かうことはない。今から立ち向かった所で、結果は見えているのだから。それでもオッタルが立ち上がったのは、聞かなければならないことがあったからだ。

 

 オッタルが立ち上がった少し後に、通路からはアイズと複数人の冒険者が慌てて小部屋に飛び込んできた。遠征の為に18階層を目指していた【ロキ・ファミリア】の主力冒険者たちである。アイズを筆頭に複数人の幹部が揃って黒い鎧の相手を見つけてから、ボロボロのオッタルを見て全員が目を見開く。

 

「【フレイヤ・ファミリア】の猛者オッタルとしてではなく、1人の武人として名前を、聞きたい」

 

 オッタルは自らの完全敗北に対してなど既に興味がない。繰り広げた戦いは最早戦いではなく、相手にとっては児戯に等しい手解きにすぎない。それを知っているからこそ、猛者という名前を捨ててオッタルは目指すべき高みの名前を求めた。

 

「我が名はミストルテイン……神殺しの矢、その名を与えられた者だ。精強なる武人オッタル、これからの貴公に期待しているぞ」

「ミストル、テイン」

 

 自らの目指すべき高みの名を噛みしめたオッタルは、ゆっくりと立ち上がって【ロキ・ファミリア】の横を抜けた。

 

「オッタル。君は負けたのかい?」

「……勝負にすらならなかった。お前も挑むのならば覚悟しておけ勇者(ブレイバー)

 

 オッタルの言葉に驚きの表情を浮かべるフィンは、ミストルテインに視線を向けた。つい昨日、自らのホームである黄昏の館で会話した相手が、まさかオラリオ最強の冒険者を蹂躙しているとは思っていなかったフィンは、遠征開始前から疼いていた親指の正体が彼女であることを察した。

 

「ここで何をしているのか、聞いてもいいのかい?」

「私は色ボケ女神の娯楽を利用しただけにすぎない。聞いたところで大した返答はできないぞ」

 

 普段の落ち着いた口調からは一転した威圧感のある口調で喋るミストに対して、少しでも余計なことをすれば即戦闘に発展することを理解していた。ちらりとベート・ローガの方へと視線を向けたフィンは、今すぐに飛び掛かりそうな雰囲気を醸し出しているベート、ティオナ、ティオネに溜息を吐きたくなった。

 

 そもそも遠征中である【ロキ・ファミリア】が何故上層である9階層で、ミノタウロスの一頭を探しているかと言えば、単純に負傷している冒険者たちから事情を聞いた瞬間に、既に走り出していたアイズのせいである。そのアイズは、蹴りを受けた腹部を片手で抑えながら今にもミストへと突進しそうな姿勢でデスペレートを構えていた。

 

「……そろそろ頃合いだろう。別に通ろうと私は止めんぞ」

「っ!」

「ちょ、ちょっとアイズ!」

 

 腰に差してある長牙から手を放したミストを見て、アイズは瞬間に飛び出してミストの横を抜けていった。それを追いかけるようにアマゾネスの姉妹であるティオナとティオネが続き、狼人(ウェアウルフ)のベートが後から続いて走り抜けた。

 

「……リヴェリア、その子の治療を頼む」

「あぁ」

 

 団長からの指示に従って、血塗れで倒れる小人族(パルゥム)の少女の傷を癒すリヴェリアを横目に、フィンはミストへ視線を向けた。マリケスの兜を取り、素顔を晒したミストは不敵な笑みを浮かべていた。





ミストちゃんのパリィはバックラーパリィです

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