24階層、
安全が確保されたと同時に、負傷者は祈祷で癒した。これ以上手を貸す必要は無いと思ったが故の別行動である。
フェイドの祈祷に加えてロキ・ファミリアの主力二名の加勢もあり、奇跡的に誰一人として死傷者は出なかったようだった。
去り際、アスフィを始めとした冒険者達は何か言いたげな様子だったが、フェイドは無視した。
あの場に留まっていたところで飛んでくるのは、散々聞き飽きた詮索でしかないのだから。
当初の目的通り、【
「………………」
それはさておき、現在位置は18階層。モンスターの出現しない
フェルズへの報告も
しかし、フェイドの足は横道に逸れ、リヴィラの街を遠望できる高台で座り込んでいた。
此処は正規ルートから外れており、冒険者が立ち寄るような理由がある場所でもない。
任務の最中に偶然見つけた、潜伏や考え事に最適な穴場の一つである。
停滞する代わりとして、フェイドは耽る。魔石を抜かれ、灰と化したオリヴァス。
しかし、どれだけ考えても、あの時生じた
戦闘中にあれだけ足を止められるのは致命的であるが故に、再発防止に努めなければならないのだが。
「………………」
このような場所でいつまでも思考を巡らせていても、答えは出てこない。
やがて、フェイドは緩慢と立ち上がり、地上へと帰還すべく高台から下り始めた。
木々の隙間から光を放つ白水晶に見下ろされながら、木漏れ日に満ちた森を一人歩く。
風に揺れる木の葉の音を聞きながら、道なき道を黙々と進んで行く。
普段ならばトレントに騎乗して一気に駆け抜けて行くのだが、今はそういった気分ではなかった。
「………………」
そうして、森林に幾つか点在する草本層の広場に至ったところで。
草を踏みしめ掻き分けるような音を聞き、フェイドは立ち止まる。
「やっぱり、あの時の野郎だったか……」
正面に視線を向けると、音の方向から姿を現したのは、
意味の分からない独り言を漏らしており、瞬く間に彼の相貌は不愉快そうに歪んでゆく。
現在は密使の黒装束に着替えている。何故彼が此処に居るかは分からないが、言葉を交わす間柄でもない。フェイドは構わず右へ迂回して素通りしようとする。
「おい、待てよ」
だが、ベートは苛立った声色でこちらを呼び止めてきた。
此方を見据える琥珀色の双眸から窺えるのは、剣呑な気配。
一歩でも離れれば戦闘が始まるかのような殺気を漂わせていた。
「てめえ、さっきの【
そして、向き直るや否や、【
「人違い───」
「───しらばっくれんな。てめえの辛気くせえ匂いを辿って此処まで来たんだよ」
どうやら、
この格好と匂いが一致した以上、彼の中でフェイドと【
またもや迂闊。行きでは色褪せた瞳の所為でアイズに不覚を取ったが、帰りでは匂いの所為でベートに不覚を取ってしまった。
「………………」
どうしたものか。この厄介な
「わざわざ変装なんざしやがって……てめえは一体何なんだ。何が目的で、何であの気色悪い連中と対立してんだよ」
「言えない」
素性を明かす事も目的を明かす事も、ウラノスの神意に反する。
情報漏洩が発覚すれば、オラリオから追放されてしまうかもしれない。
「おーそうかそうか。言えねえ程度には後ろめたいっつー事か。だったらこっちも心置きなくてめえをぶちのめせるなぁ……」
「お前と戦う理由が無い」
そして、口封じも不可能。ベート・ローガが第一級冒険者という肩書を持っている以上、彼の死亡はオラリオの損失に繋がる。
「……尻尾巻いて逃げるってんなら、てめえの代わりにあの陰険エルフを詰めたって───」
だが、ベートの口から発せられた挑発を聞いた瞬間、フェイドの思考は停止した。
「──────」
【雷の槍】。何の予備動作も見せずにフェイドは祈祷を発動し、ベートへと投擲。
されど、不意打ちが来る事は予め織り込み済みだったのか、紙一重のところで躱された。
「っ───分かりやすくて助かるぜっ!」
我に返った頃にはもう遅い。正当防衛という大義名分を得たベートは牙を剥いて嗤い、フェイドへと肉薄する。
そのまま、獣の如き敏捷性を以って拳と蹴りを交えた連撃を仕掛けてきた。
フェイドは瞬時に持ち替えた【カイトシールド】で殴打をやり過ごし、受け止めた衝撃を使って飛び退く。
「何がだ」
そして、大きく距離を取ったのち、先ほどの言葉の意味についてベートに尋ねた。
「あん?」
「何が分かりやすい」
「決まってんだろ。
つまり、あの女がてめえの
「………………」
しかし、フェイドは剣と盾をぶら下げたまま、その言葉を頭の中で反芻し続けていた。
逆鱗。竜種が有する、唯一逆さまに生えた鱗。迂闊に触れると激昂し、手が付けられなくなるほど暴れるとされている。
だが、比喩的な表現だったとしても、ベートに対して激昂した覚えはない。
フィルヴィスに危険が及ぶと判断したからこそ、祈祷を咄嗟に放っただけだ。
フィルヴィスに、危険が及ぶから。
「………………」
彼女は、狭間の地から遠く離れたこの世界に於いて、最初に出会った存在だ。
成り行きでファミリアに入った当初から、彼女はあれこれと身の回りの世話を焼いてきた。
どれだけ返り血や泥に塗れても、飢えても、眠らずとも、この身は不死身だというのに。
「そうか───」
だが、フェイドは彼女との日々を思い返し、得心する。
確かに、フィルヴィスは自分にとっての逆鱗と呼べるのかもしれないと。
唯一だからこそ、失うかもしれないと知った途端、あの時動けなくなったのかと。
「───いつまで突っ立ってやがる!」
助走の勢いが乗った足裏を腹に受け、フェイドは蹴り飛ばされた。
「………………」
やはり、この
血反吐を吹いて宙を舞いながら、フェイドはそう思う。
あれだけの隙を晒していたにも拘らず、一撃で仕留めようとはしなかった。
そもそも、単にぶちのめしたいだけならば、茂みに隠れて不意打ちする選択肢もあったというのに。
最初に戦った時のレヴィスと違い、ベートが身に纏う気配に慢心といったものは皆無。
彼は、こちらを倒す事だけが目的ではなく、戦いという過程も重視しているらしい。
着地と同時に受け身を取って立ち上がり、フェイドは意識を目の前の戦闘に戻す。
「俺がお前に負けたら、何処へなりとも連れて行けばいい」
そのまま、フェイドはベートを見据えながら口を動かした。
「言われなくても、そうするつもり───」
「───俺がお前に勝ったら、俺が【
そして、彼の反応を遮りながら要求を一つ述べる。こちらが勝ったなら、ここで知り得た情報は口外するなと。
嬉々として戦いを選ぶ様子からして、此処までやってきたベートの魂胆をフェイドは見抜いていた。
彼が最初からこちらの素性に興味など持っておらず、ロキ・ファミリアの立場を建前として使っている事を。
「てめえの言う事なんざ、聞き入れてやる義理はねえ」
尚且つ、豊饒の女主人でのやり取りを経て、フェイドはこの要求が確実に通ると判断した。
「頷かないという事は、恐れているのか」
「……あ?」
あの時の様子からして、ベート・ローガという男は過去の敗北を忘れていない。もしくは、忘れようとしても決して忘れられない。
「
つまり、こうやって彼のプライドを刺激してやれば、彼は絶対にこちらの要求を断れないのだ。
「はっ……死人みてえな顔してやがる癖に、吠えるじゃねえか!」
故に、十分に取り返しのつく段階である。勝てさえすれば、という前提があるのだが。
そして、その一言が再開の合図となり、閑静な森林に甲高い金属音が響き渡った。
傲岸不遜な態度を取りながらも、ベートには微塵の油断も無かった。
相手は仮にも、アイズを上回った赤髪の
迂闊に攻撃を仕掛ければ、仕留められるのはこちらだとという意識で戦いに臨んでいた。
しかし、ベートの警戒を余所に、あの男は盾を構えるばかりで碌に反撃もせず、只々こちらの
遊ばれているのか。そう思い睨み返したが、長い前髪の隙間から覗く色褪せた瞳には、微塵の驕りも無かった。
瞬き一つせず、微動だにせずに待ち構える。さながら、ベートが唾棄する弱者のような立ち回り。
赤髪の
気に食わなかった。こちらが勝負を挑んでいるというのに、あたかも自分が挑戦者であると言わんばかりの佇まいが。
気に食わなかった。推定Lv.7の敵を凌駕する力を持っておきながら、自らの正体を隠して日陰者めいた振る舞いをしている事が。
「糞が……っ」
そして、何よりも気に食わないのは。
そんな相手に敗れて、地面に転がっている自分だった。
前半はこちらが追い詰めていた。甲羅に閉じ籠った亀を嬲るような、退屈極まりない戦いだった。
しかし、後半に入るにつれて、相手はベートの蹴撃を見切るようになっていった。
これ以上の膠着に、嫌な予感を覚えた。甲羅に閉じ籠っていた筈の亀が、殻の中で違う何かに変容しているかのような予感を。
その感覚に従い、ベートは決着を急いだ。
木の幹を足場に【
己が持つ最高速度を威力に変換させた蹴撃によって、【
だが、弾丸と化したベートの一撃は、呆気なく迎え撃たれた。
突如として【
大地を強く踏み締め、爆発めいた速度で繰り出された、大角によるショルダータックル。
一瞬拮抗したのち、ベートの左足はブーツ諸共粉砕され、弾き飛ばされた。
そして、今に至る。
追撃も加えず、とどめも刺さず。まるで、何事も無かったかのように【
強者は何をしても許されるし何を奪ってもいい。弱者は何をされても抗えないし何もかも奪われる。それが、この世界の摂理だ。
そして、弱者を貶すのは強者の役目だ。でなければ、身の丈を弁えぬ愚物でこの世が溢れ返ってしまう。
己が弱者である事を取り返しのつかない局面で悟り、嘆き苦しんで死に絶える愚図で溢れ返ってしまう。
だというのに、あの男はベートを無視した。弱者ですらない、それこそ路傍の石を見るような目を向けて素通りした。
関係者と思しきあのエルフを巻き込もうとしてまで、喧嘩をふっかけたというのに。
最後に繰り出した飛び蹴りは、紛れもなく殺す気で放ったというのに。
「っ……っっ……!」
───俺は忘れていない。今まで自分が歩んできた道のりに何があったかを。
抑揚の失せた言葉が、頭の中で木霊する。
月明りの下、血溜まりの中で咆哮する怪物の姿が、ベートの脳裏をよぎる。
降りしきる雨の中、摂理に逆らえず泣き喚く弱者の姿が、ベートの脳裏をよぎる。
怪物に蹂躙され、肉塊となった故郷の家族と幼馴染。
現実に打ちのめされ、オラリオから出て行った仲間達。
摂理に淘汰された者達の相貌が、ベートの脳裏をよぎる。
「忘れるか……忘れて、たまるかよ……っ!」
【
匂いは完璧に覚えた。いくら装いを変えようが、今後も絶対に見逃さない。
ロキを含めたファミリアの首脳陣は、あの男の素性を知りたがっているようだが、最早、どうでも良かった。
あの連中に獲物を横取りされるような真似を、喜び勇んで行う趣味は無い。
そうして、【
内なる激情が、この喉の奥から漏れ出してしまわぬように。
内なる激情を、【
今ここで吠えてしまえば、それは負け犬の遠吠えとなってしまうから。
そして、地面を爪で抉り取りながら、ベートは片足で立ち上がった。
Lv.7を凌駕する力を秘めてようが、知った事か。
いつか、あの男を真正面からぶちのめす。あの仏頂面に、吠え面をかかせる。それがベートの目標となった。
先程の衝突によって脱臼した左肩が、上手く嵌まらない。フェイドは垂れ下がった左腕を掴んで悪戦苦闘する。
やがて、自力で元の位置に戻す事を諦めたのち、【性急な回復】で癒した。
そうして、肩をぐるぐると回して、左腕の具合を確認する。
「………………」
先程のベートとの戦いの途中、フェイドは何故か
両者の共通点は、狼であるという事だけ。外見も、言動も、戦い方すら似ても似つかないのだが。
しかし、ブライヴを、魔術師塔での一騎討ちを思い出したからこそ、咄嗟に迎撃へと移れたのかもしれない。
主たる
そんな彼にとどめを刺したのも、祈祷による迎撃だったから。
などと、既に過ぎ去った出来事を思い返しながら、フェイドは指笛を鳴らそうと右手を上げる。
「………………あの」
と、いったところで。いつの間にか横に居たアイズに声を掛けられた。
またもや出鼻を挫かれたフェイドは、徐に右手を口から離す。
「あの
そのまま、彼女が口を開く前に用件を察し、振り返って通ってきた道を指差した。
「大丈夫、なんですか」
「左足を折っただけだ」
「……多分、仕掛けたのはベートさんの方から、ですよね」
「ああ」
「…………ベートさんの事、止められなくて、すみませんでした」
「気にしていない」
あの男に手を貸したいならさっさと行け。そう言って、フェイドはアイズが奥へ行くように促す。
「………………」
しかし、彼女は逡巡した様子を見せるものの、この場から動こうとはしなかった。
あたかもこちらに用事があると言わんばかりの態度に、フェイドは視線で問う。
「……貴方は、さっき言ってましたよね。私に、59階層に行けって」
「ああ」
その言葉に対して、フェイドは肯定する。先程
「私は、この事をフィン……みんなに話して、遠征に行くつもり、です」
どうやら、アイズはレヴィスの言葉に従って59階層に向かうらしい。自らが所属するロキ・ファミリアを巻き込む形で。
「それがどうした」
それを、わざわざこちらに報告する理由は何だ。フェイドは淡々とした口調で再び問う。
「…………私を、強くしてください」
すると、アイズはぺこりと頭を下げて、そのような要求を述べてきた。
彼女の意図が汲み取れず、フェイドは顎に手を当てて考え込む。
アイズ・ヴァレンシュタインは、オラリオの冒険者の中でも上澄みの中の上澄み。
尚且つ、レヴィスにある程度食い下がれた戦いぶりからして、Lv.6にまで上り詰めただろう。
素の身体能力では、フェイドは到底彼女に及ばない。今ここで戦えと言われたら、勝率は二割弱といったところだ。
「何故俺に頭を下げる」
「貴方は、私の知らない力を沢山持ってるから」
それはその通りであるのだが、目の前のアイズが、戦技や祈祷を始めとした異能を使いこなせる可能性は低い。
「何故強くなりたい」
何よりも、彼女には多くの仲間が居る筈。彼女一人で強くなる必要など、何処にも無い。
都市最大派閥の片割れである、ロキ・ファミリアの総力を以ってすれば。
相手が
「………………」
次の返答次第では、この場から立ち去ろう。アイズを無感動に見下ろしながら、フェイドは彼女の発言を待つ。
「……もう、何も失いたく、ないから」
だが、その言葉を聞いて、フェイドは微かに目を見開いた。
アイズの口から紡がれた喪失に対する抵抗感。それは、フェイドが先程ベートとの戦闘を経て知覚したものだったから。
「………………」
尚も頭を下げ続けるアイズを見やり、フェイドは思う。この想いを知った以上は、無視する事は出来ないと。
否、
というわけで。
「フェルズ、どうにかしろ」
フェイドは確認も兼ねて、賢者に知恵を借りる事にした。
虚空から
『…………君には、もう少し状況を口で説明する努力が必要だと思うんだが』
通信が繋がった途端、森の中で頭を下げるアイズの映像を見せつけられ、フェルズは頭を抱える。
というか、
「おそらく、師事を乞われた」
『ふむ……』
そんな文句を内に秘めつつ、フェルズはどうしたものかと考えを巡らせる。
フェルズからしても、59階層でアイズが命を落とすのは何としても避けたい。彼女の申し出を却下する理由は無かった。
『彼女とは、知り得た情報は誰にも口外しないと約束している。私としては構わないが……君としては、どうしたい?』
「力になりたい」
「……本当、ですか」
フェイドの返答を聞いて、アイズは驚いた様子で顔を上げる。その金眼には、一筋の光明が映し出されていた。
「………………」
しかし、彼女の期待に応える事は難しいというのが、現時点での所感である。
「力になりたいが、その為の手段が分からない」
教わるのは得意だが、教えるのは全くの未経験。彼女に何をすれば良いのか、フェイドには皆目見当が付かなかったのだ。
『
「………………」
フェルズの提案を受けたフェイドは、ふとした拍子に思い至った。
先程は見込みが無いと見做していたが、アイズにも行使出来そうな戦技が幾つか有るのだと。
「分かった」
試す価値はある。手足の延長線のように風を操るアイズの姿を思い返し、フェイドはフェルズの提案に頷いた。
『では、もういいだろうか。これまでに得てきた情報の精査をしたいんだが』
ある程度の方針が定まったところで、フェルズが断りを入れてくる。あちらもあちらで忙しいらしい。
「ああ、感謝する」
忙しい状況の中、突然の通信に応じたうえで有意義な提案をくれたフェルズに対して、フェイドは感謝を述べる。
「………………」
すると、心底意外と言わんばかりの吐息の音が、
「どうした」
『………………いや、気にしないでくれ。元より、私達の都合に君を巻き込んでいるだけなのだから』
返事をするまでに妙な間があったが、気にするなと言うのなら気にしないでおこう。
そのまま、フェイドはフェルズとの通信を切断し、アイズへと向き直る。
「手本を見せる」
そして、善は急げという思考のもと、フェイドは虚空から一振りの直剣を取り出した。
右手に携えられしは、【戦鷹の爪剣】。鳥の羽を想起させる意匠が施された得物だった。
「………………!」
それを見たアイズは、頻りに頷きながら期待が混じった視線を向けてくる。
新たな必殺技となるかもしれないフェイドの異能のお披露目を、今か今かと待ち望む。
そんな彼女を余所に、フェイドは手頃な場所にあった岩に照準を合わせた。
戦技、【嵐の刃】。
袈裟斬りと共に刀身から放たれしは、螺旋状の旋風。
空気を抉るように唸りながら、直線上にあった岩を粉々に破壊する。
「………………」
と、いった事は無く。
【戦鷹の爪剣】は徒に空を切った。
風切音が、やけに虚しく周囲に鳴り響く。
戦技が不発となった原因は、
【青雫の聖杯瓶】は使い果たした。【星光の欠片】という
「………………」
直剣を振り抜いた姿勢のまま、フェイドは黙って考えを巡らせる。
手本がなければ教えようが無い。かといって、貴重品を無駄遣いしたくはない。
【青雫の聖杯瓶】は、一定数の敵を倒すか時間経過によって中身が補充されるが、どちらにせよ今からだと時間がかかる。
やがて、あれこれと思案した結果。
「………………?」
首を傾げてこちらを見やるアイズに向き直りつつ、フェイドは淡々とした所作で【戦鷹の爪剣】を虚空へ仕舞う。
「
そして、後日に改める旨をアイズへ伝えた。
期待を裏切られたアイズは、盛大にずっこけた。
そうして、あれこれと話し合った結果、アイズとの訓練の開始は今から四日後。
落ち合う場所は、都市北西の市壁上部となる。曰く、彼女が幼い頃に見つけた秘密基地との事だ。
「……でも、良いんですか?」
「何がだ」
「私だけ教えてもらってばかりで、何も返さなくて」
一通りの話が終わった別れ際、アイズは最後にそのような質問をしてくる。
実際のところ、会得出来るかどうかはさておき、フェイドは何も彼女に見返りを求めていなかった。
「気にするな」
フェイドはそう言って一方的に会話を打ち切り、徐に踵を返す。
アイズの不思議そうな視線を背中に受けつつ、今度こそ地上に続くルートへと歩き出す。
「………………」
他所の派閥である彼女に力を貸すのは、もう何も失いたくないという言葉があったから。それは事実である。
しかし、ただ与えるばかりではなく彼女との訓練を経て、フェイドはフェイドなりに模索するつもりだった。
死んでから蘇生するまでの間は、フェイドはこの世界に干渉する事が出来ない。
死んでから蘇生するまでの間で、如何なる喪失があったとしても甘んじて受け入れるしかない。
故に、フェイドは求めた。
いつかではなく、勝ちたい時に勝てる方法を。
どれだけの猛者であっても屠れる牙を。