エルデの王は迷宮で夢を見るか?


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作:一般通過あせんちゅ
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遭遇


「ふーむ……それでダンジョンに潜りたい、と?」

「そうだよ」

 

 ミストが【ロキ・ファミリア】のホームで喋っていた翌日、いつも通り街中でも散策していようかと外に出たミストの前に現れたのは、先日に命を助けたばかりのスコット・スキアーであった。冒険者通りの裏路地で座り込みながらミストに事情を説明したスコットは、頼み込むようにしてミストへと頭を下げた。

 

「火炎石なんて深層の素材だろ? 俺じゃあ到底無理だ」

「それは知ってるよ。あのもの好き商人め」

 

 スコットがミストに対して頭を下げている理由は、闇商人であるネブラが深層のモンスターからドロップする火炎石というアイテムを欲していたからである。彼が深層のドロップアイテムを欲しがっている理由など、先日の暗殺者騒ぎの時にミストが投げた火炎石の威力を見て、仕入れたくなった程度の考えである。わざわざ直接ミストに頼まずスコットに頼んだ理由は、本人に頼めばまず間違いなく断られるであろうことを知っていたからである。

 

 ミストはスコット・スキアーという人物のことを面白い奴だと思っている。Lv.3というオラリオ全体で見ても選ばれた者にしか至ることができない位階にまで到達しながら、常に背後を気にして生きている。闇派閥(イヴィルス)に所属しているという事実がそうさせるのか、あるいは生まれついての性なのかはミストにも理解できない。その臆病さを、ミストは買っているのだ。それこそ、最終的にはけしかけてベル・クラネルにぶつけようかとも考えるほどに。

 

「その……もし嫌そうな顔をしたら「後で頼みなら聞いてくれると言っていましたよね」と言えって」

「正直、口約束程度だったら相手を殺せば無効にできるけど、今あれを殺すのは損かな」

「ひっ」

 

 懇意にしているはずの商人に対しても、なんの気負いもなく刃を向けることができるミストの精神性を垣間見て、スコットは自分もいつかそうなるのではないかと顔を青くしていた。

 スコットは、ミストという存在の危険さを誰よりも知っていた。それこそ、面と向かって彼女と会話していたフィン・ディムナよりも。臆病者としての精神が、ミストという異常者には決して近寄ってはいけないのだと叫び続けていた。

 

「……まぁいいか。火炎石程度なら確か40階層程度だったはずだし」

「40……俺、生き残れるかな……」

 

 自分が今から向かう階層は地獄であると察したスコットは、遺書の1つでも書いて来ればよかったと後悔しながらミストの後ろをついて歩き始めた。

 

 


 

 

 オラリオの地下、数多の冒険者たちが様々な物を夢見るダンジョン。その比較的上層に含まれる9階層は現在、異様な雰囲気に包まれていた。逃げ惑う冒険者たちは、9階層に現れたモンスター相手に逃げているのではなく、下から人為的に運ばれてきたモンスターから逃げているのだ。

 

「お、置いていくなよぉ!」

「だったらもっと早く走れ! 死んじまうぞ!?」

「……騒がしいな」

「なにかあったのか?」

 

 火炎石確保のために40階層付近まで潜る必要ができたミストは、スコットを同行者としているため祝福に向かって転移することもできずに1階層から順番に踏破していた。素材を回収するだけならスコットを置いて行けばよかったのだが、彼の実力を自分の目で確認したいと考えたミストによって強制的に連行されている。

 

 順調に道中のモンスターをスコットに屠らせていたミストは、9階層に踏み込んだ時点で騒がしさを感じていた。ミストよりもダンジョンに詳しいスコット・スキアーは、自分の知っている9階層とは全く違う雰囲気に警戒心を露わにしていた。

 

「そこの。何があった」

「と、止めるなよ!?」

「さっさと話せ」

 

 横を通り過ぎようとする冒険者の1人を捕まえたミストは、現在9階層で起こっているのであろう異常事態についての情報を求めた。血相を変えて逃げていた男からすればたまったものではないが、声を荒げた瞬間に腰に持っていた刀へと手が伸びたミストを見て、必死に説明する趣旨を叫び始めた。

 

「な、何故か9階層にミノタウロスがいるんだよ! 大剣を持ってて……返り血もついてた! これでいいだろっ!?」

 

 ミストに促されて情報を早口に喋った男を解放したミストは、自分の後ろを歩いているスコットへと視線を向けた。

 

「ミノタウロスは中層のモンスターで、上層の9階層にいるのは完全に異常事態(イレギュラー)だよ。大剣を持っていたとも言ってたが、もしかしたら殺した冒険者から奪ったのかもしれねぇな」

「そうか……武器持ちか」

 

 スコットの大まかな説明を聞いて状況をある程度把握したミストは、ミノタウロスを無視して下の階層に向かうことを考えていた。牛程度(ミノタウロス)が武器を持ったところでミストにとってはなんの脅威にもならず、別段面白いものでもない。武器を持って曲芸をやる牛を見たところで時間の無駄でしかないのだ。

 

 ダンジョンの異常事態というものに極度の恐れを見せるスコットを無視して、ミストはずんずんと先に進んでいく。時折遠くから聞こえてくる牛の遠吠えにも反応せずにミストは歩いていたが、ミノタウロスの破壊音が近くなった瞬間にミストは足を止めた。

 

「ど、どうした?」

「……見てみろ」

 

 ミストが指差した方へとスコットが視線を向けると、そこには大剣を持ったミノタウロスと戦っている少年の姿があった。白髪を揺らしながら必死に戦う姿を見て、スコットは息を呑んだ。

 

「Lv.1の冒険者か? ミノタウロス相手なんて簡単に死んじまうぞ」

()()()()()()は済んでいたか……」

「なに言って、ておい!?」

 

 白髪の少年がミノタウロスと戦っている姿を見て、兜の中で笑みを浮かべたミストは、そのままダンジョンを引き返した。少年を助ける訳でも、ダンジョンの奥へと進む訳でもない行動を見せるミストに困惑しながら、スコットはミストの背中を追う。

 闇派閥に属しているとはいえ、スコットは常識的な考え方をしている。Lv.1の冒険者がミノタウロスに襲われていれば助けに入ろうとするのが普通だが、ミストはそんなことは関係ないと9階層を歩く。ゆっくりと歩きながら坩堝の騎士装備から装いが変っていく姿に戦慄しながら、スコットは口を挟むことができなかった。

 

「やはり、いたな」

「む」

「お、【猛者(おうじゃ)】!?」

 

 全身を黒い装備へと変化させたミストが辿り着いた先にいたのは、オラリオ最強の冒険者であった。





次の話で書くと思いますが、ミストちゃんの装備は坩堝の騎士からマリケス装備に変わっています
重量の問題もありますが、抗死耐性以外坩堝の方が優秀です()

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