(追いかけ投稿) 眠るか死ぬか
12月は本当にひどかった。noteを更新する時間など物理的になかったし、この一か月で捌いた書類は軽く3000枚を越える。人生で一番ひどい一か月であり、同時に「鍛えが入った」と感じられる時間でもあった。
少なくとも、「特技」の欄に自信をもって「事務」と書けるようにはなった。冗談みたいな話だ、「一番苦手だったこと」がプロ(何のプロかはイマイチわからないけれど、とにかくいっぱいカミを使う人だ)と比較しても「出来る」ようになってしまった。おいおい嘘だろ? と私も思うんだけど、もうじき証拠がドロドロ出てくるんじゃないかな、ハハハ。いい加減にしろよ。そんなことあっちゃ、だめだろ?
発達障害ライフハックも捨てたもんじゃない、今回ばかりは「流石に死ぬだろな、せめて一発くれてやる」スタンスだったけれども、結局なにがどうなったんだろう? 知らねえよ、まだ一応「ステイ」ではある。まぁ、これから明らかになっていくんでしょうね、うんざりするくらい。
石膏ボードとか担ぎたい。シンプルでまっとうな仕事がしたい。
「眠るな!眠ったら死ぬぞ!」
雪山(雪山とは限らない)登山でよく聞くアレだけれど、まさか都心在住でこんな思いをするとは思わなかった。あれを細かく解説すると(しなくていいんだけど)、実のところ「眠らないと死ぬ」パターンもある。人間は眠らないといずれ死ぬし、冬山だと「一定確率で死ぬが、気合いを入れて眠る」選択を取ることもある。「雪崩の気配はあるが、ここで少し休まないと転げ落ちるな…」そんなことが、若いころは時々あった。雪山はとても楽しいし、凍った池(おいしいサカナが泳いでいるのだ!)にたどり着くには、結構な距離を歩かなければいけないこともある。私はいわゆる「クライミング」は苦手だったけれど、代わりに歩荷(荷物を背負って長距離を歩くこと)の訓練はそれなりにやりこんだ。なんでそんなことをやっていたのかは私にもわからない、とにかく教えてくれる先生がいたとしか言いようがない。
*
今夜は眠るか、それとも夜が明けるまで耐えて作業をするか。11月から12月にかけて、私の悩みは主にそれだった。信じてもらえなくてもしょうがないのだけれど、「襲撃がある」ことに備えなければいけない状態だった。庭はトラップだらけにしたし、ドーグは揃えた。Xに動画まで上げて、被襲撃率を下げる努力をできるだけはした。とはいえ、相手の動きが読めなかった。ちょっと言葉が過ぎるけど、許してほしい。権力を持った世間知らずのバカ、これより怖い相手がいるだろうか。とにかくそういうのが相手だったので、門をけり続ける嫌がらせや家の周りをうろつく業務用一般人まではいいとしても、「深夜、三人組が襲撃してくる」あたりは本当に怖かった。
本当のことを言うと、武道の心得なんて言うほど役に立たない。本気の「殺し合い」になればモノをいうのは得物の「長さ」であり「射程」だ。不良の必殺技は「投石」と「マジ逃げ」の二択に決まっている。くわえて、建物の中であれば静穏性なども重要だし、庭はトラップまみれにしておくとしても玄関の蝶番を切断して押し入ってくるパターンだけは怖かった。挙句、私は一人ではなかった。一応、私にも家族というものがあるのだ。いないことにしておいたけれど、実のところいた。しかも、仕事もある。だから、GPSを持たせ、定期連絡を徹底させ、常に警戒を怠らないようにした。夜は眠らずに番をする、昼は作業をしながらGPSの位置と定期連絡を待ち続ける、当然だけれど睡眠の時間などあろうはずもない。
ある日、私はバタンと「オチ」た。布団まで行った記憶はないのだけれど、とにかく冷え切った部屋のベッドに私は転がっていて、ガチャ…ガチャ…という物音で目を覚ました。「終わった」と思った。ピッキングされてドアを開けられてしまったら、基本的に打つ手はない。挙句の果てに、肌身離さず持っていたはずの手槍(室内戦ならこれが非常に強い)も手元になく、自作した射出武器(Xに動画があるので興味があれば)すら見当たらない。昼間に意識を失って夜になったため、家の中は真っ暗だ。明かりをつけるわけにはいかない。暗さに目が慣れているのはただ一つの勝ち目だ。
枕元にナイフが一本、絶望的だった。よく勘違いしている人がいるけれど、ナイフは人を刺す道具じゃない。これ一本あればだいたいのことはできる万能工具で、戦闘に使うなら「ちょうどいい長さの棒」とかの方がふつうに強い。携帯性にすぐれるのは利点だけれど、武装を前提にピッキング(対策はしておいたのだが…)を終え、チェーンキーを切断してきた人間は、少なくとも三人だ。闇バイト太郎なら一人かもしれないけど、そいつに私のドアを外したり、チェーンを小さな音で切断する技術はない。
時間はわからない。そもそも、自分いつ意識を失ったのかすら覚えていないのだ。きれぎれの睡眠を30分単位でとっていたものの、不眠不休は5日を越えていた(Xに実況が残っているだろう、書き留めるというのは本当に大切なことだ。あれで私は正気を保った)。ベッドからハネおき、ナイフを投擲の形にかまえる。足元にあるブン投げられそうなものを探す。窓は閉鎖してあるから、寝室に籠城して110番だ、あとは死体1個残してせめて引き分けにしてやる。ちくしょう、あれほど用意していたのに、最後にあるのはナイフ一本かよ。一人なのは幸いだった、妻がいたら守らなければいけない。そうなると、だいたいむりだ。でも、一人ならワンチャンスある。腹をくくる、突撃を一度止めたら警察に連絡だ、あとは10分粘れば。とにかく交渉の先手を取るしかない、現金もある。「もっと割にあう」提案をしてみる手もあるかもしれない。思い切り声を出す。
「誰か!」
「私だよ」
妻だった。
全身から力が抜け落ちそうになるが、まだ油断できない。侵入の基本として、「一人を脅してドアを開けさせる」というものがある。
「そこから動くな、なんでもいいから喋ってろ」
「お疲れ様、とりあえず今日は何もなかった。帰り道は寒かったし…」
聴覚をフル稼働する。玄関で響く人の声には覚えがあり、その後ろに人がいるなら音に違和感が出るはずだ。…ない。スマートフォンと連動させてある小型隠しカメラの映像を確認する、妻一人だ。全身から力が抜け落ちそうになるが、まだ油断はできない。カメラの撮影範囲外にいる可能性もある。慌てて道具を手元にそろえ、ゆっくりとドアを開ける。見慣れた顔があった。妻だった。
この話は「妻が帰宅したとき、私は眠りこけていた」というだけのものだ。これが私の日常だった。
冗談もたいがいにしてくれないか?
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?



購入者のコメント