法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

それだけの人数を処理する能力がなかったので南京で日本軍は虐殺していないという主張を見かけて、原爆が投下された広島で遺体の処理が追いつかなかったことを描いた漫画を読み返す

 発端は、大規模な虐殺の被害者数は一般的に推計せざるをえないこと、推計数に幅があることだけでは虐殺の事実が否定されないという「鏡屋譲二@squaremania」氏の指摘だった。


原爆による推定死者数だって11万~21万人と”諸説”あるわけだけど、原爆について言及するときに「21万人は多すぎると思うが」とか「21万人説には懐疑的だが」とか一々前置きしないでしょ

 そのリプライにおいて、30万人の処理が不可能と「xfp43210( `o´ )@NaoyaMurakami1」氏が根拠なく主張して、虐殺を懐疑することを正当化した。


原爆の犠牲者数は、当時の証言や状況から妥当な範囲だから。
南京大虐殺の30万人は、遺体の処理が不可能だから懐疑的になるのは当然。
https://x.com/squaremania/status/1952624661830971629

 上記の主張はすでに批判されているように古臭い詭弁にすぎない。実際は当時にボランティア組織が十数万人の埋葬をおこなった記録があるし*1土地開発などでそれらしい遺骨が発見されることもある。
 しかし発端が原爆との比較であり、8月6日が近いこともあり、上記の詭弁が正しいのであれば、漫画『原爆に遭った少女の話』の描写をもって広島原爆投下も否定されかねないな、ということを思った。
原爆に遭った少女の話

まとめて火葬しているので骨が誰かわからないという少女たちのやりとり。
名前だけでも返してあげようという少女と、その少女の家族は骨すら見つかっていないという説明。

 もとは作者が祖母の証言を漫画化して個人的にWEBで発表したものだが好意的な注目をあつめ、広島県のWEBサイトに収録され、NHKで実写ドラマ化もされた。相応の信頼性が公的に認められている。
 漫画は資料や証言に忠実に描いたとしても単独では伝聞にすぎないとはいえるが、同じような証言は他にも存在する。
国立広島・長崎原爆死没者追悼平和祈念館 平和情報ネットワーク

東練兵場では、穴ではなく長い壕を掘って、兵隊も民間人も区別なしに、その壕に死体を棒で転がして落とし、まとめて焼いていましたが、毎日多くの人が亡くなるので、処理が間に合わず、多くの死体がそのまま腐っていきます。

家族を捜す人たちが訪れては、死体をのぞき込んでいます。遠くから来たのでしょう、自分の子どもが死んだのは聞いたが、どこで死んだか分からないと死体を捜し回っている親もいました。亡くなった人は皆まとめて火葬にしていたので、死体も骨も分からない人ばかりでしょう。

 また、軍人も民間人も区別されず遺体が処理されたという漫画の描写からは、南京事件の犠牲者から捕虜や投降者を除外して民間人に限定させようとする主張も思い出す。
 原爆投下当時の広島は軍都であり、非戦闘員の市民も多くが軍需工場で働いていた。その犠牲者を原爆投下の犠牲者数から除外するべきだろうか。そうではないはずだ。

*1:紅卍会の活動は映画『南京!南京!』にも登場した。 hokke-ookami.hatenablog.com