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BPOへの申立て体験記~運営規則を踏まえた手続きの実際

報道被害を受けたとき、それが放送局によるものであれば、BPO(放送倫理・番組向上委員会)という第三者機関に申立てをすると、放送局との話し合いの仲介・あっせんをしてもらうことができます。もちろんそれ以外の手段もありますが、ここではBPOの手続きに絞ってお話しします。

実際に申立てをした人の体験談って、なかなか見当たらないものです。せっかくだから書き残しておこうと思いました。ご参考までに。
※文末に(~章~条)とあるのは、BPO放送人権委員会の運営規則の該当箇所を指しています。文末に規約本文を載せました。


0.放送局への苦情

BPOへの申立てに先立って、放送から3か月以内に放送局に苦情をいう必要があります(3章5条1-(4))。放送局とある程度やり取りをして、らちが明かなければBPOに申立てるのです(同上)。放送局への苦情や異議申し立てを抜きにして、いきなりBPOに申立てをしても、受け付けてくれません。しんどいですが何とかやり過ごして、「苦情言ったんだけど取り合ってもらえませんでした」という実績?をつくること。

ちなみに放送局との話し合いの中で「BPOに申立てるよ」と脅したりすると、BPOの審理対象から外れてしまうので要注意です(3章5条2-(3))。「しかるべき手段をとりますよ」くらいの、ぼやっとした表現にとどめておきましょう。

1. 問い合わせ、相談

BPOは相談窓口を設けています。申立て前に問い合わせや相談をされることをお勧めします。

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相談、申立て、審理すべて無料です。BPOの公式ホームページ「放送人権委員会」のコーナーより

電話、Fax、メールで受け付けています。私は電話で2、3回問合せをして、手続きのしかたなどの事務的なことを聞きました。電話口に「ムスッとしたおじさん」が出てきたりすると気後れしてしまう人は、メールの方がいいかもしれない。運営規則の「苦情の取り扱い基準」をよく読んで、不明点があれば問い合わせること。

2.申立て

ウェブサイトに申立書があるので、ダウンロードしたものをプリントアウトして記入します。他に資料があればこれに添付して、郵送またはFAXで送付します。普通郵便ではなく書留がいいと思う。
この資料は返却不可です。BPOで保存されるものと思われます。必要があればコピーを取っておくこと。申立ては放送日から1年以内にする決まりになっています(3章5条1-(4))。

3.BPO事務局より電話連絡


確認と説明の電話がかかってきます。

事務局:「裁判で争っているか?訴訟を起こす予定はあるか?」
→イエスと言ってしまうと、申立ては受け付けてもらえません。BPOは裁判で争っている案件は扱わないからです。裁判所での訴訟とBPOの申立ては同時にはできない(BPOで申立てた後に訴訟起こすのは可能)。
番組制作スタッフなどの個人を対象にすることもできません。あくまで放送局を対象に申立てをするのです。また、損害賠償を請求したら、その時点で審理は中止されてしまいます(3章5条1-(5))。

事務局:「申立書と資料を当該放送局に渡していいか?」
→OKすると書類一式が放送局に送られます(のちにBPOに戻される)。その際、BPOから放送局に対して、申立人と話し合いをするよう促してくれるみたいです。

あと、今後の流れを説明されます。
放送局との話し合いが約3か月かかり、そこで解決しない場合はBPOの人権委員会に持ち込まれます。委員会で検討する際には必要に応じて、当事者からの聞き取り(ヒアリング)がおこなわれます。
私もBPOの人に、呼び出しあったら来られますか?と聞かれました。答えはもちろんイエスです。ただ、BPOは東京都心にあるので、地方の人はちょっときついかもしれない。旅費は支給されますけどね(9章12条-1)。オンラインでの参加はありなのかな?委員会はオンラインでやってるみたいですけど。

委員会で審理した結果は「委員会決定」として記者会見で公表されるのですが、「匿名でも大丈夫ですか?」と聞いたら、本人の承諾なしには実名は出さないとのこと(8章11条-3)。そりゃそうだ。

事務局側はこのような説明を通じて、申立人の「本気度」を探ってるんじゃないか、という気もします。たとえば、ヒアリングへの出席や記者会見での公表があることを知ってビビッてしまい、申立てを取り下げる人もいるのではないかな。それも個人の選択として尊重すべきですが。

4.放送局と申立人との間で話し合い

この段階では、BPOは交渉の場に出てきません。当事者間の話し合いで問題の解決を図るというのが、BPOの基本的な考え方です。なので、最初に放送局に口利きしてくれる以外は、交渉の過程には関与しません。話し合いはだいたい3か月くらいかかると言われたけど、実際それくらいでした。お盆期間もはさんだので。
話し合いについても、BPOで定めた決まりがいくつかあります。これを守らないと審理の対象にしてもらえません。たとえば、

・申立て後に申立人と3か月連絡がつかない
・理由なく話し合いを拒絶する
・申立てたことを「ことさらに宣伝」する

といったことがあると、放送局の自主的な解決を妨げていると見なされ、審理の対象から外されます(3章5条2-(3))。これらの決まりを念頭に置いて行動しないと、交渉する上で不利になる可能性があるということです。
たとえば、放送局への怒りにまかせてSNSなどで行き過ぎた投稿をしていると、自分の方が悪者になってしまいます。私の場合、交渉中はこの件に関するSNS投稿はほぼ封印していました。ただ、申立て前にSNS等を利用して世論を盛り上げる、という戦略はありなのかもしれません。

5.申立ての取り下げ

申立人と放送局との間で合意がなされ、問題が解決した場合には、申立てを取り下げます。この際、取り下げ書を提出するのですが、所定の書式はないので、必要な事項を記した文書を自作します。日付と名前と住所を忘れずに。

これをメール添付で送りました。郵送も可。持ち込みは不可です(BPOは相談・問合せを含めて、訪問・面会はできません)。

私の場合は番組内での謝罪を放送局に要求していて、それが実行された翌日にBPO事務局から電話がありました。そのとき、今後どうしますか?と聞かれたんです。取り下げますと答えたら、手続きのしかたを教えてくれました。BPOはその後、私の回答を放送局に伝えたみたいです。

ただし、取り下げ書を提出して受理されるまでは、申立てを正式に取り下げたことにはなりません。私は取り下げ書をすぐには提出せず、念のため数日寝かせることにしました。万が一、気が変わって審理まで進もうとするかもしれず、あるいはこの件に関して新たな動きがあるかもしれない。結局は提出したんですけどね。

というのもBPOには、一度扱った案件を再び扱うことはないという決まりがあるのです(3章5条1-(9))。いったん申立書を取り下げてしまうと、この件に関しては二度と受け付けてくれない。だから、取り下げに際しても慎重に、後悔がないようによく考えて判断しましょう。取り下げ書の提出をせかされることはないので。

私が体験したのはここまで。話し合いで決着がつかなければ、以下の過程(委員会での審理)に進みます。
1の申立てから7の通知・発表までは、1年くらいかかると言われました。まあ、裁判なんかも数年かかるのザラですし。BPOの委員会は月イチ開催なので、進みが遅いのかも(2章3条-1)。

6.委員会での審理

審理入りするかどうかは、委員会の判断です(3章5条-1)。申立てしたからといって、審理入りが保障されるわけではない。
ちなみに、BPOでは「審理」「審議」は使い分けがされています。放送人権委員会では「審理」の言葉を使います。このことはあまり知られてなさそう。混同して使ってる人が多い気がする。

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「三委員会の用語の違い」BPOのホームページより。人権委員会では「審理」の語のみを使います。ちなみに、放送倫理検証委員会では、「放送倫理上問題がある」と指摘された番組は「審議」、「内容の一部に虚偽がある」と指摘された番組は「審理」と使い分けがされています。



7.通知と発表

委員会の判断が公けに示されます。「問題なし」から「人権侵害」まで軽重があります。

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BPOホームページより。一番下が「おとがめなし」で、上に行くほど重い処分になっています

つい最近も、深夜番組の女性出演者に対するセクハラ問題が審理入りしてて、確かにこれはちょっとひどいなぁと思ってたんです。ところが意外にも委員会決定は「要望あり」にとどまるもので、放送倫理上の問題があるとまでは言えない、という判断がなされました。

当事者や視聴者の感じ方と委員会決定が必ずしも一致するわけではないんですよ。過去の事例を見ても、人権侵害だと判断しているケースは少ない。放送倫理上の問題があるとされるケースですら、多くはないのです。
つまり、申立人にとって納得いくような判断が下されるとは限らないので、審理まで進むことはリスクを伴うとも言えます。

それでも、審理されれば委員会決定が出され、BPOのホームページで公表されますから、記録としてずっと残りますし、参照されることになります。
結果がどうであれ、放送局の不正に対して異議を唱えるのは、公共の利益につながります。とても意義深いことだと思います。

どの段階まで放送局の不正・不誠実を追及するか、何を要求するかは当事者の選択ですから、尊重されるべきだと思います。本人にとって納得のいく落としどころが見つかれば、それが一番なのです。交渉事ですから、駆け引きとかもいろいろありますしね。


【運営規則より抜粋】
(2章3条-1)委員会は原則として毎月1回、委員長の招集により開催する。

(3章5条-1) 委員会は、申し立てられた苦情について、次の各号の基準に照らして審理すべきものと判断したときは、審理を開始するものとする

(3章5条1-(4))審理の対象となる苦情は、放送された番組に関して、苦情申立人と放送事業者との間の話し合いが相容れない状況になっているもので、原則として、放送のあった日から3か月以内に放送事業者に対し申し立てられ、かつ、1年以内に委員会に申し立てられたものとする

(3章5条1-(5))申立てに係る放送に関連する紛争について訴訟、調停等で係争中の事案および放送事業者に対し損害賠償を請求している事案は、原則として取り扱わない。また、申立て後に、苦情申立人、放送事業者のいずれかが司法の場に解決を委ね、もしくは苦情申立人が放送事業者に対し損害賠償を請求した場合は、その段階で審理を中止することができる。

(3章5条1-(9))既になされた申立てと実質的に同一の内容の申立ては、審理の対象としない。

(3章5条2-(3))苦情申立人において、申立てを交渉の材料とし、委員会に苦情を申し立てたことをことさらに喧伝し、または放送事業者との話し合いを合理的な理由なく拒絶するなど、放送事業者による自主的な解決を困難にしていると認められる場合

(8章11条-3)前項の公表にあたり、委員会は、実名で発表することについて苦情申立人の事前の承諾を得る。特別の事情がある場合は、本人の希望により匿名とする。

(9章12条-1).第8条第1項に定める事情聴取または前条第1項に定める通知のために委員会に出席する苦情申立人(当分の間、個人またはその直接関係人1人)に対し、その請求により、旅費を支給することができる。


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