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捏造と編集のあいだ~クロ現・捏造報道の考察(後編)

中編からの続きです

NHKが就活生向けに作っているサイトに、「教えて先輩!」 というコーナーがあります。クロ現の編集責任者を務めるプロデューサーが、ここで学生のインタビューに答えているんですけど、 これを読むと番組制作の方針みたいなのがうかがえます。

「クローズアップ現代ってどんな番組ですか?」 という質問に対して、「独自の視点で切り込んできた番組です」と答えています。この「独自の視点」っていうのがくせ者なんだよね。

「独自の視点ですか? 」って問い返されて、このプロデューサーは、「縦に深く掘り下げることが大切」と言うのです。
「独自の視点」というと聞こえはいいけど、きわめて個人的かつ主観的で偏見に満ちた見方・考え方かもしれない。そういう独断と偏見がスタート地点となり、それに沿って番組が作られるとしたら、かなりまずくないですか?

持ち込まれる企画をどのように選んでいるか?という質問には、取材者(ディレクター)の「切り口」にどれくらいオリジナリティがあるかを見ている、とのこと。「独自の視点」「企画の斬新さ」「取材の深さ 」(当事者に深く食い込む)などを重視しているらしい。
たとえば、ものすごく思い込みの激しいディレクターがいたとして(誰とは言いませんが(笑))、「独自の視点」を打ち出して熱心にアピールしたら、その企画があっさり通ってしまいそう。「ひきこもりラジオ聴いてる夫婦見つけました!」とかね。

独断と偏見による “独自の視点” を “切り口” にして “深く掘り下げ” たらどうなるかといえば、今回の捏造報道みたいな事態が引き起こされてしまうのです。ピントがズレてるから、どんどん事実から遠ざかるんですよ

さらに、このプロデューサーはクロ現とニュースの違いについて、「起きていることを伝えるだけではなくて、起きていることの「意味」を掘り下げる」 と言っています。
このくだりには「背景」とか「奥にあるもの」「問題の本質」などという言葉が出てきますが、そう簡単に本質なんて見えてこないですよ。まずは目の前の事象をよく観察して、理解に努めることが最優先でしょう。それを抜きにして「背景」を探ったり、奥の方に有るんだか無いんだか分からない「本質」を見つけ出そうとしても、絶対にうまくいかない。

だから彼らは捏造に走るんです。ありもしない背景や本質をでっち上げて、話の帳尻を合わせるんですよ。

このプロデューサーは報道畑で長年お仕事してきたらしいけど、「報道」ってそんなもんなの? 虚偽・捏造を報じるくらいなら、起きていることをそのまま伝える方が、はるかにましではないでしょうか。

なぜそうしないかといえば、単なる事実は彼らにとって興味をそそられない、つまらないものだからです。視聴者の関心をひきつけ反響を呼ぶためには、わかりやすく「カラフルに」脚色して伝えなきゃいけないと考えているみたい。取材を受ける側の人間をありのままに見せるだけではダメ、ということですよね。自分のあり方を否定されたみたいでがっかりします。

事実ってそんなにつまらないものでしょうか? コテコテに「お化粧」しないと見るに耐えないような代物なんですか?
視聴者ってそんなに頭が悪くて物わかりが悪いですか? 取材を受ける人間の人生を極度に単純化してステレオタイプに押し込めなければ、理解してもらえないのでしょうか?

「独自の視点」を番組作りの出発点とするのではなく、事実をありのままに見ることから始めてほしいのです。自分たちの「思い」を視聴者に押しつけるために、取材対象者を「道具」として扱うのはやめてもらえませんか?
生身の人間が何十年もかけて積み重ねてきた時間と思考と感情の重みを、じゅうぶんに感じ取っていただきたい。それらは断じて「素材」として切り刻まれるために存在しているのではありません。

私が見る限り「クローズアップ現代」の編集責任者は、事実を正確に伝えることよりも、彼のいう「カラフルさ」、つまりは人目をひく派手さと分かりやすさを重視しているようです。前編中編で指摘した構造的欠陥――特定のスタッフが情報を抱え込む可能性/取材対象者を知らないスタッフがVTRの編集をする――に加えて、トップの姿勢が捏造報道を生む土壌になっているのは間違いないでしょう。

↑↑↑番組リニューアルに際して、プロデューサーのコメントが掲載されています。「カラフルさ」っていったい何?

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【追記】
プロデューサー氏は「教えて先輩!」 のインタビューの中で、「声をあげられない人の中にこそ、問題の本質が埋もれているんじゃないか」とも語っていて、ここにも引っかかりを感じるんですよ。

声をあげられない人(社会的弱者)の声をマスメディアが代弁しようとすることに、捏造の萌芽が潜んでいると思うのです。当人は声を封じられているのだから、マスコミがいくらでも好きなように声をでっち上げることができる。その一方で、声をあげられない人はでっち上げに抗議したくてもできない。そもそも声をあげられないのだから。

私のように、「声をあげようよ」とことあるごとに煽っているような人間ですら、NHKの手にかかれば声を封じられてしまうのですよ。

クローズアップ現代の番組VTRでは、私が発言している音声はほとんど使われていません。編集の過程で私の声はことごとく消され、ナレーションとテロップによって自分とはまったく別の「声」をかぶせられてしまいました。
声をあげられない人たちに向けて「声をあげようよ」というメッセージを伝えるために出演したのに、肝心の「声」が消され、似ても似つかぬものに入れ替えられてしまったのです。

こうやって私の声を封じて、私の考えや気持ちを表現する機会を奪っておきながら、「起きていることの意味を掘り下げる」とはよく言えたものです。声をあげられない人の声を代弁するどころか、声をあげている人の声すら封殺するのですから、悪質きわまりない。制作側の人間はそうやって出演者の口をふさいでおいて、自分たちの言いたいことを伝えるだけなんです。

テレビを見ている人たちは、そんないつわりの声を聞かされ「感動ポルノ」を見せられているのです。もう一度言います。視聴者はもっと怒っていいと思う。あなたたちもNHKに軽んじられ、馬鹿にされているのですよ。





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