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『悪名桜』(1966年3月12日・大映京都・田中徳三)

 なんと朝吉と清次が堅気になり、焼き鳥屋の親父に! というアッと驚く状況から始まるシリーズ第12作『悪名桜』(1966年3月12日・大映京都・田中徳三)を久しぶりに堪能。昭和36(1961)年にスタートしたこのシリーズ。邦画の現代劇では、東宝の「社長シリーズ」『続・社長行状記』(1966年2月25日)で25作「駅前シリーズ」『喜劇 駅前弁天』(1月15日)で14作、に続いての多作だった。こうしたヒットシリーズは、斜陽に向かいつつあった映画界では、固定ファンによる安定した動員が見込めるので、昭和40年代になると、各社ともに人気スターによるシリーズ化が次々と試みられる。

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 さて『悪名桜』は、脚本・依田義賢、撮影・宮川一夫、音楽・鏑木創、監督・田中徳三のベストメンバーによる、安定の面白さ。満開の花見会場で、新興ヤクザA B Cクラブの取材をしていた記者たちが、愚連隊の少年に襲われる。そこへ八尾の朝吉(勝新太郎)と清次(田宮二郎)が、駆けつけて、あっという間の早技で、悪ガキたちをノシてしまう。今は堅気の「焼き鳥屋」をやっている2人、それが新聞記事になり、たちまち千客万来となる。
 
 このいきなり「焼き鳥屋」をやっている、というのがいい。このあたりになると前作との関連や、シチュエーションの繋がりなどは、あまり気にならなくなっている。「やくざ映画」ブームのさなか「任侠映画」のバリエーションとして、興行も観客も認識していた「悪名」シリーズだが、朝吉は「やくざな男」であるが「やくざではない」という基本を守っている。今回は、大阪の繁華街を舞台に、古くから縄張を張っている「大鯛組」と、その縄張りを根こそぎ奪って一大娯楽センター建設を目論む新興ヤクザ「A B Cクラブ」の抗争に巻き込まれた「街の人々」として、朝吉と清次が二つの組を相手に大暴れする。基本プロットは『用心棒』(1961年・東宝・黒澤明)のパターンであるが、二つの組の間に、やくざ志願の若者・酒井修のドラマを置いたこと。『用心棒』でも、百姓の倅・夏木陽介が男を売り出そうとやくざになるが・・・という展開だったが、これもそのバリエーション。

 勝新太郎に可愛がられた若手・酒井修が、父親でこの繁華街の地主で強欲な質屋・沢村亀之助(多々良純)と、P T Aばかりに力を入れている母・房枝(沢村貞子)に、顧みられずに犯行する息子・猛を演じている。今回の悪は、やくざも去ることながら、世間体ばかり気にするこの事勿れ主義の夫婦というアイロニー。酒井修は、昭和37(1962)年に大映京都撮影所に入った。ノンクレジットで第5作『第三の悪名』に出演、続く第6作『悪名市場』で酒井修三(本名)でデビューを果たした。

 今回は、酒井修演じる猛が、両親に反発して、愚連隊の一員となり、新興ヤクザのABCクラブの金バッジ欲しさに、新聞記者に因縁をつけ、挙句には朝吉の生命まで狙おうとする。そこで朝吉は、親との不仲の猛に、八尾でやんちゃをした挙句「悪名」を晒しての渡世になってしまった自分の過去を思う。なんとか更生をさせてやりたい。まともな生き方をして欲しいと。それには理由があって、ある日、朝吉を訪ねてきた幼馴染の菊枝(市原悦子)から、朝吉の父親の死を聞かされる。第一作と第二作では父・善兵衛を荒木忍が演じていた。親父の死に目にも遭えず、母親からは「帰ってくるな」と釘を刺されている朝吉としては、せめての親不孝の罪滅ぼしと、猛の面倒を見る。ドライな清次は、なんでまた生命を狙ってきた小僧の面倒まで見るのかと呆れ気味。これが朝吉の浪花節的な生き方でもある。

 結局、猛は朝吉と清次、そして菊枝が暮らす家に同居。朝吉の焼き鳥屋を手伝わされるが、全くの現代っ子で、なんの役にもたたない。そうこうしているうちに、猛の父・沢村亀之助が、A B Cクラブと大鯛組の間を行ったり来たり、それも猛の不始末が世間にバレないように、ヤクザに頼むのが目的だったのだが、事態はどんどんややこしくなり、その挙句に、A B Cクラブと亀之助が手を組んで「娯楽施設」を作ることに。藤岡琢也演じるA B Cクラブの理事長・乾は、相当なワル。対する大鯛組の組長・後藤(須賀不二男)も相当なワル。両組は一度は手を組むふりをするが、A B Cクラブの幹部・政(守田学)が猛に命じて、大鯛組の組員を拳銃で撃たせ、一気に大鯛組の縄張りを奪おうとする。

 このあたりは、フツーのやくざ映画の展開。その抗争には「悪名コンビ」はノータッチ。朝吉は猛に自主をすすめるが、警察に向かう途中に、大鯛組の報復によって・・・と、外側のドラマは相当ハードで、結局は猛の両親の無関心が全ての不幸を産んだという「大人はわかってくれない」パターンのドラマにもなっている。で、そうした「やくざ映画」的な展開の果てに、いよいよ、われらが「悪名コンビ」が悪党たち一掃のために、無茶な大喧嘩を展開していく、というのもいつものパターン。

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 押しかけ女房のような菊枝は、実は妊娠をしていて、それを知った清次が「親分、水臭い」と一方的に決別宣言。まあ、朝吉とは関係ない男の子なのだけど。その菊枝の身の上を、道頓堀に浮かぶ船の料理屋で、朝吉が聞いてあげるシーンがいい。話が落ち着いたところで、昔馴染みの2人が「河内音頭」を歌う。市原悦子がまず歌い、勝新太郎がそれにつづく。幼い頃からの朝吉と菊枝が目に浮かぶような「河内音頭」のデュエットである。


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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所 よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。

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