視聴者も若手社員もテレビから離れていく…「民放テレビ局が2つしかない県」が抱える想像以上の苦悩
■スポーツ中継時は“地獄のような編成作業” 特に苦労するのが災害時だ。宮崎は台風が直撃しやすい地域にあるが、そのたびに3局のあらゆる報道番組に映像素材を提供する作業が発生する。そこには宮崎県では放送されていない「報道ステーション」なども含まれる。さらに個別に具体的な素材が求められれば、その都度、独自に取材し、映像素材を渡す必要がある。 3つの系列から応援を受け、それぞれから取材クルーも入る。ただし、テレビ宮崎が1つの応援クルーから受けた素材を他の2つの系列に渡すことはご法度だ。独自で取材を行うなどきめ細かな配慮とバランス感覚が常に求められる。 予測不可能なことはスポーツ中継にも起こる。思わず本音も漏れる。 「オリンピックなどがある時は、何時にどう終わるかわかりませんから編成チームはもう“地獄”のような編成作業をする感じなんです」 人気のスポーツ中継を送り出すことのどこが“地獄”なのかというと、3局が入り組んだ番組表が話をややこしくさせている。 延長になったA局から受けた試合をそのまま放送したくても、放送しようとする枠がB局の生放送のニュース番組というケースが多々ある。すでに3局それぞれと契約した放送枠を守る必要があり、番組表の多くの枠は自由が利かない。自分たちでコントロールできない辛い立場にあるという。 ■1日100件以上の苦情が3日間続いた だが、一番辛いのは視聴できる環境を奪われる県民だ。侍ジャパンがアメリカを下し、3大会ぶり3回目のWBC制覇を果たした2023年3月の決勝試合は、宮崎でテレビ中継されることがなかった。大谷翔平選手のMVP受賞の決め手となった注目の試合にもかかわらずだ。 「県民のためにどうにか放送できないか、3局のうち、どの組み合わせだったら実現できそうなのか、準備は重ねました。でも、結果的に『TVer、ABEMAでご覧ください』とお伝えすることしかできませんでした」 テレビ宮崎に寄せられたのは苦情の電話。1日100件以上の電話が3日ほど続いた。当時、局長職に就いていた榎木田社長も自ら電話を受けた。 「頂いた電話には丁寧に対応しましょうと社内で声をかけ、もちろん私も電話を取って。私の声に気づかれたのか、『あなたに言うのも何だけど』とおっしゃる方もいて。お一人お一人のお叱りを受け止めさせてもらいました」 その時のことを振り返ると、「本当に申し訳ない気持ちでいっぱい」と後悔の念が募る。「あくまでもこちらの都合です。次は何とか手段がないのか模索したい」と前向きな言葉も続いた。