千手扉間に責任を取って欲しいうちはイドラの話   作:藤猫

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感想、評価ありがとうございます。感想いただけましたらうれしいです。

続きの前に、すみません、また番外編です。どうしても書きたくなって。ちなみに、千手の広間も狭間も扉間に見た目もそっくりな上に声も同じイメージです。


番外編:ある日の志村の孫娘

少女が通りを歩いている。そうすれば、幾人かの通行人が軽くお辞儀をするなど、丁寧な態度を取る者もいた。それに少女はにっこりと微笑んで応える。

まず目につくのはその見事な黒髪だろう。艶やかなそれは二つ結びになっており、俗に言うツインテールになっていた。

猫のようなつり目は、まるで吸い込まれそうな黒い瞳をしていた。勝ち気そうな顔をしているせいか、気まぐれそうな猫のような印象を受ける。

チャイナ服に似た衣服から伸びる手足はすらりと子鹿のように細い。

 

(今日は、どうしようかな?)

 

そんなことを考えつつ、志村アオバは道を歩いていた。

まだアカデミーに通っている彼女にとって、学校が休みというのはなかなかに暇だ。

普通の子どもならば、友人と遊ぶなり、家族と過ごすなりするものだが。

悲しいかな、アオバというそれには友人というものが少なかった。本人の性格や育った環境のせいか、大人と関わることが多かったというのもあるだろう。

家族と過ごすには皆が忙しい身だ。父親は任務でおらず、母親も用事がある。祖母は時間を作ってくれるだろうが、無理をさせたくない。

そこで、少女の脳裏には一人の老人の姿が思い浮かぶ。それにアオバはむすりと顔をしかめた。

 

(お祖父様なんて、ずっとヒルゼン様と仕事をしてればいいのよ!)

 

ぷんぷんと音が付きそうなほどむすっとした顔をしてアオバは歩き出す。

 

(・・・このちゃんも、今日はナル君と、オビトさんと修行だって行っちゃうし。)

 

アオバの脳裏にはるんるんで兄貴分のうずまきナルトと走って行く猿飛木ノ葉丸の姿が浮んだ。

甘味屋にでも行こうかとも思ったが、一人で食べても空しいだけだと思い、どこかでクナイや手裏剣の修行でもしようかと足を進めた。

 

「おや、アオバちゃんか。一人とは珍しいな。ちび助とは別なのか?」

 

後ろから聞こえてきたそれにアオバは振り返った。そこには、背の高い白髪の青年が立っていた。

それは、一目見ればどこか怜悧な印象を受ける顔立ちをしていた。無表情であれば、近寄りがたいものを感じさせるだろう。

けれど、浮かべた楽しそうな笑みのせいか、一欠片の胡散臭さはあれど、人好きのする空気を纏っていた。

 

「狭間様!お珍しいですね、こんな時間に。」

 

アオバと視線を合わせるために屈んでいた千手狭間はぐっと背筋を伸ばし、頭をかいた。

 

「いやいや、この前の騒動で母から大目玉を食らってな。暫く内勤なのさ。」

「ああ、お祖父様が言っておられた・・・」

「げえ、ダンゾウの奴、何か言ってた?」

 

狭間は顔を情けなく歪ませて、頭を掻いた。

それをアオバは呆れた目で見た。

 

「探究心は結構ですけど、限度があるって言われてましたよ。」

「あー、今度会ったら嫌み言われそうだなあ。」

「言われないようにすればよろしいのでは?」

「それはそれとして、研究は楽しいからどうだろね。」

 

のんびりとしたそれに、アオバは顔をしかめた。

狭間というそれは、はっきり言えばトラブルメーカーだ。

 

(この人が扉間様の直系なんて信じられない。)

 

アオバはむすっと顔をしかめた。

曰く、研究者としては有名で、医療忍術に関して特に際立っている男であるが、それと同時にふざけた忍術を作るのが趣味で、それを試しては騒動を起こす。

例えば、強制的に自分の性的な好みを言わせる術だとか、強制的に犬や猫に姿を変えさせる術、人の衣装をランダムで変わったように見せる術だとか。

何か、いたずらの域を出ないが、それはそれとして大混乱を招くものだった。

 

「・・・あれ、怒ったか?」

「怒ってません!でも、狭間様はもう少し自分の行いについて考えないといけません!狭間様の行いが、カグラ様や広間様、そうして、扉間様の名に泥を塗るのですよ。」

 

ぷんぷんと擬音が着きそうなそれに狭間は可愛いなあと和みながら、うーんと息を吐いた。

 

「アオバは扉の爺様の事が好きだねえ。」

「当たり前です!誰よりも里を思い、多くの事業や掟、里の根幹と言えるものを作られた立派な方です!そうして、何よりも!」

 

アオバはにっこりと、今までの怒りなんて忘れたように微笑んで狭間に振り返った。

 

「一途で、奥様を愛された情熱的な殿方なんですから!」

 

それに狭間は、ああ、ねえと頷いた。

 

 

 

「マダラ様の書かれた小説も素敵でしたけど、やっぱり、この前ドラマになった作品も新しい解釈があって素敵で!私としては、やっぱり、山で修行をしていたイドラ様を見かねて、傷の手当てをしているシーンが本当に、よくて!」

 

アオバは嬉々として、この頃流行っているドラマの話をした。

それは、マダラの書いた我らが扉間とイドラの恋愛模様の小説をドラマ化したものだ。何でも、ほどよく解釈を加え、かつ、原作小説の内容に忠実だと評判らしい。

アオバは千手扉間という男をそれはそれは尊敬している。

それは、彼女の祖父である志村ダンゾウが扉間の弟子であり、彼を尊敬している影響もある。また、彼女の名前をつけたのは扉間であったりする。そうして、木の葉の少女のバイブルである恋愛小説の主人公であることが最も大きな理由であろう。

恋に憧れる少女なら一度は読んで、憧れるその本のせいか、扉間はひどく女児に人気があったりする。

その事実に草葉の陰で誰かが爆笑している気がするが、気のせいだろう。

 

「あー・・・あれね。」

「狭間様は見てないんですか?」

「そりゃあ、やっぱり身内の話だからねえ。ちょっち気まずいのな。」

「せっかくだからご覧になればいいですよ。それで、少しは扉間様や広間様を見習えばいいのです!」

 

つんと澄ました顔でそういう少女に狭間はゆるりと微笑んだ。小生意気な少女の大人ぶったその仕草は彼にとってひどく壺で、訳もなく甘やかしたくなる。

 

「・・・まあ、そこら辺は真似してもねえ。俺にもやることがあるし。にしても、そんなに二人を慕ってるけど、木ノ葉丸のことはいいの?」

「憧れと本命は違いますよ。」

「やだ、めちゃくちゃ澄んだ瞳してるね。」

 

何を言うのだとアオバは憤慨した。

扉間も広間もすでに素敵な奥様がいるのに、横恋慕なんてするはずがないじゃないか。

 

「私はこのちゃんが好きなんです!」

「木ノ葉丸ねえ。」

 

狭間の脳裏には修行をつけてとねだる少年の姿が思い浮かんだ。両親や祖父母が忙しいせいか、寂しさを虚勢に変えて、生意気な言動が目立っている子だった。

ただ、この頃、狭間の妹のお気に入りであるうずまきナルトを兄貴分と慕うようになってからだいぶ安定した印象を受ける。

狭間は意外だなあと思う。

己の隣を歩く少女は非常に優秀だ。それは、学業面でも身体面でも他より一つ飛び抜けている。おまけに、祖父や父に似てストイックで堅物な気がある少女だ。

 

(今ならともかく、前の木ノ葉丸みたいな感じは嫌いそうだったんだが。)

 

狭間はなんとなく少女に聞いた。

 

「そう言えば、アオバちゃんはなんで木の葉丸のことが好きなの?」

「・・・・お祖父様と同じ事を聞かないでください。」

「っんふ、なに、ダンゾウに反対されたのか?」

「そうです!お祖母様から聞いて、ずっと、あんな小生意気な小僧やめておけって言うんです!」

「っふ、それは、腹立つな?」

 

狭間はあの堅物が孫の恋路に口出ししている状態が面白すぎてぷるぷると震えた。

アオバは怒っていた。

修行をつけてくれると言いながら仕事だとブッチしたり、遅れたりするくせに、そういったことにだけは口を挟むのだから溜まったものじゃない。

アオバはそっと、忍具入れを撫でた。

そこには、千手扉間の名前の入ったお守りが入っている。今日も、この恋が成就しますようにとお祈りをしてきたばかりだ。

 

(扉間様、見守っていてください!)

「まあ、恋路が叶うことを祈ってるよ。でも、木ノ葉丸も今は色恋よりも、修行を男同士でやってるほうが楽しいだろうしな。」

「ご安心を、長期戦になるのはわかっていますので。」

「・・・・そんな覚悟を決めた顔をしなくても。」

 

狭間は何か、覚悟を決めてきりっとした顔をした少女に思わず言った。

 

「覚悟だって決めますよ!お祖母様を見てれば、このちゃんみたいな人は女から追いかけないと永遠に成就しないってわかってますもん!お祖母様が言ってました。本当に手に入れたいなら、人生に全力で汚点になるくらいの勢いがないと、火影なんかを目指してる男の人生には食い込めないって。」

「いやあ、さすがはダンゾウに一目惚れした後、扉の爺様に縁談を組んで貰うように直談判した人の言葉は重いな。」

 

ダンゾウという男を攻略する上で、どこに焦点を当てればいいのかわかっている選択肢である。

ちなみに、扉間はその縁談を嬉々として組んだ。

人生の墓場への道連れは多い方がいいのである。

 

「当たり前ですよ。お祖父様のこと、お祖母様がなんて言ってるか知ってますか?」

「なんて言ってるの?」

 

それにアオバは澄ました顔で祖母のまねをする。

 

「いいですか、アオバ。旦那様について、私はあまり期待していません。ええ、何と言ってもあの方は妻である私の尻を追いかけ回すより、よほどヒルゼン様の尻を追いかけ回してる人なんですから。」

「っふ、あはははあははあははははははははははは!!!」

 

こらえきれなくなった狭間は等々、ゲラゲラとその場に蹲って爆笑した。人気が無い地域まで歩いてきていたからよかったが、それはそれとして目を引いた。

狭間は笑いすぎて浮んだ涙を拭う。

 

「いやあ、やっぱり、アオバちゃんとこの婆様、好きだわ。思想がめちゃくちゃに強くて。」

「ええ、お祖母様はすごいんです!私、将来は、お祖母様か、それともアカリ様のように強い人になりたいんです。」

「・・・それは、ちょっと、おすすめしないな。」

「何でですか?」

「うん、この里のある程度の年齢の悪ガキは、アカリの婆様に叱られて大きくなったからね。」

 

狭間は目の前の可愛らしい少女が、あんな女傑女傑した存在になって欲しくないなあと思っていた。さすがに、それを相手にする木ノ葉丸が可哀想である。

 

(いや、猿飛の家は、気の強い女が好きだからなあ。このままでいいのか?)

「狭間様も好きな方はいないのですか?」

 

それに狭間はうーんとねえと、少しだけ困ったように首を傾げて、口元に笑みを浮かべていた。

 

「そうねえ、いないわけじゃないけど。」

「え!?」

 

アオバは唐突な恋バナにキラキラとした目をして、狭間を見た。

 

「どなたですか!?よろしければ、私の人脈を使って、お相手の好みを探って見せますよ!?」

「うーん、食いつきがすごいねえ。」

「なんですか、奥手なんですか!?狭間様も扉間様やマダラ様をご家族に持っておられるのです!見習ってください!」

「さすがに、殺し合いをしてる氏族の女を口説き落とすガッツのある男も、自分の書いた小説に妻に似た女をヒロインにして書く細やかな男もそうそういないと思うよ。」

「何を言うんですか。他人の人生に傷跡を残す勢いが無ければ恋愛なんて出来ませんよ?」

「それはたぶん、君んとこのお祖母様の特別な事情じゃ無いのかな?」

 

狭間は肩をすくめて背伸びをするように空を見上げた。

 

「まあ、いいなあと思う程度でね。でも、大分年上だし。ちょっと、相手が特殊な立場だから難しいだろうねえ。」

「それで作戦を立ててこそです!お祖母様も、お祖父様を堕とすために扉間様やヒルゼン様、後、マダラ様や柱間様の方々とご相談されたそうですし!」

「完全に裏切り者がいたとか、戦争起こすときに相談する面子なのよね。国でも堕としたかったのかな?」

 

狭間はそんなことを言いつつ、まさしく狩られる勢いで結婚まで行ったダンゾウに内心で合掌した。まあ、なんだかんだで夫婦仲は良い様子だ。

息子の志村トビ曰く、家の中ではけっこうべったりしているらしい。

 

「まあ、成就させない恋もあるのよ。」

「わかりません。」

 

むすっとしたアオバに狭間はくすくすと笑った。

その横顔にアオバは少しだけどきどきとした。普段の、まるでそれこそが通常のように浮かべた胡散臭い笑みをしまい、ゆるりと目を細める様はまさしく、扉間によく似ていた。

 

「・・・・片思いっていうのは、案外楽しいものさ。」

 

アオバはその言葉の意味がやっぱりわからなくて。けれど、その、扉間によく似ているように見えた狭間に黙り込んだ。

狭間は話題を変えるように言った。

 

「そう言えば、帰宅途中だから暇だけど。アオバちゃんはどうしたの?」

「・・・本当はお祖父様が、今日は修行をつけてくださるって。志村の呪印のこととか、風遁とか、教えてくださるって言っていたのに。」

 

狭間は少女がやたらと祖父に対して当たりの強い理由を察した。いいや、普段から、強いのは強いのだが。

それはそれとして、少女が祖父を尊敬しているのも知っている。

なんといっても、木ノ葉丸も、隣の少女も、おむつの頃から知っている身だ。

 

(にしても、恋って人を変えるのねえ。いや、アオバの場合、恋に恋してる部分はあったけどね。)

「・・・・なあ、アオバちゃん。」

「何ですか?」

「よければ、俺の修行に付き合ってくれるか?」

 

 

 

 

その日、志村ダンゾウは里の道をとぼとぼ歩いていた。

その理由は簡単で、妻に家から放り出されたためだ。

 

(アオバめ、どこまで行ったのか。)

 

ダンゾウは孫娘であるアオバを探していた。利発で、おまけに滅多にないほど愛らしい孫ではあるが非常に生意気な子どもだ。

 

(・・・・完全にあやつに似たな。)

 

脳裏に浮ぶのは、自分の人生に猪のごとく突っ込んできて、そのまま居座って見せた妻のことだ

息子は控え目な性格で、その嫁も穏やかな性質だ。完全に、あの火の玉具合は己の妻似だろう。

ダンゾウは突然入った案件を終えて、ようやく帰宅した自分に妻が言ったことを思い出した。

 

ええ、お帰りなさいませ、旦那様。

ところで、今日、急な要件でお疲れ様でした。はい、それで、アオバとの約束は覚えておいでで?

・・・・はあ、あの子なら、お祖父様は私よりも仕事が大事なのだとふてくされて出て行きましてね。まだ、帰っていませんよ。

木ノ葉丸さん?

あの子なら、今日は別で修行していましたよ。まったく、普段は木ノ葉丸さんのことを気にくわないというくせに、変なところで信用されて。

ふふふふふ、あらあら、眉間に皺が寄っていますよ。そういう所はお可愛らしいですね、本当に。それでは、あの子を迎えに行ってあげてください。旦那様が迎えに行けば、ご機嫌も直るでしょう。

 

 

ダンゾウは何故、孫の機嫌を取らなくては、なんて考えも浮ぶが、それはそれとして今回は自分が悪いという自覚があるために歩みを止めなかった。

 

(あれのことだ、おそらく、あの辺りに。)

 

ダンゾウは孫娘がよく行く修行場に向かっていた。人通りの少ない地区になったところで、向こうから歩いて来る存在が目に付いた。それにダンゾウは目を見開いた。

 

「あれ、ダンゾウか?」

 

そう言って自分に近づいてきたのは、彼にとって苦手の部類に入る、千手狭間であり、そうして、その背中にはすやすやと眠る孫娘がいた。

 

「狭間様!?」

「おい、そんな大声出すなよ。アオバちゃん、起きるだろう?」

 

ダンゾウは慌ててその人影に歩み寄り、そうして手を差し出した。それに狭間は背負っていた少女を男に渡した。アオバはすやすやとそのままダンゾウの胸に納まって眠り続ける。

 

「いやあ、さっきまでずっとクナイの投げ方だとか、受け身だとかしてて動き回り続けてな。おかげで疲れてバタンキューだよ。」

「お手を煩わせたようで申し訳ない。修行まで面倒を・・・」

「面倒なんて事無いさ。里の子だ。ならば、俺にとって十分にそれに構う理由だろう。」

 

そのままダンゾウは狭間と共に歩き出す。住宅街への道行きは同じなためであるが、ダンゾウとしては気まずい。

 

「そういや、急な案件があったの?」

「はい、後日、知らされるかと思いますが。」

「ふーん?お前が関わってるなら、あの辺かねえ。」

 

そんな話をしながら、ダンゾウはちらりと隣の青年を見た。青年の印象を例えるならば、陽気そうな狐だろう。

千手広間のようにぽわぽわとした空気を持っていないせいか、師である扉間に似た顔立ちに常に笑みを浮かべているせいでなんだか胡散臭い。

けれど、持ち前の愛嬌のせいか、不信感は持たれなかった。

 

(・・・もう少し、なんとかならんのか。)

 

有能ではあるのだ。有能ではあるのだが、ダンゾウとしてはもう少し扉間や広間に似ていて欲しかった。

 

(扉間様に似ておられたら、いや、せめて、広間様に似ておられたら。)

 

ダンゾウの内心は複雑だ。有能で、そのくせトラブルばかり起こし、里ではそんな狭間に呆れている人間もいる。

憎まれてはいない。あの、千手のいたずら小僧はいつまでいたずら小僧のままなのだと、愛情ありきでの話だ。

けれど、それと同時に、軽んじている人間もいる。それは、里の内部にはもちろん、外部も同様の話だ。

 

(何故、扉間様に広間様に似ておられたら。)

「そう言えばな。」

 

狭間はそう言えばと思い出したように口を開けた。それにダンゾウは青年に視線を向けた。

 

「アオバに今日、怒られたよ。へらへらしてないで、もう少し、扉間様や広間様を見習ってくださいって。」

 

それにダンゾウは顔を青くした。

 

「ご、ご無礼を!」

「いいよ、俺も自覚あるしねえ。」

 

ケラケラと笑うそれに、ダンゾウは頭を抱えたくなった。

己が抱いた孫娘は年の割には利発だ。それこそ、アカデミーの同年代の中で一番に賢しい子だとの自負がある。

祖父の色眼鏡とかではなくと、ダンゾウは付け加える。

また、志村という家名に守られてきたためか、少々傲慢な気がある。そのために、非常に生意気な態度を大人に取ることがあることは知っていた。

それを、きちんと正さなかったことをダンゾウは恥じた。

 

いいか、教育は速さが肝心だ。

ああ、どんだけ駄犬でも小さい頃からこつこつとすれば、まあ、なんだ。少しは改善はするぞ。

 

脳裏にはどこか黄昏れたような顔の男が二人浮んだ。

 

「・・・アオバには言いつけておきますので。」

「いいよ、いたずら小僧って言われてる身だしな。」

 

楽しそうな、弾むような声音にダンゾウは思わず、呟いた。

 

「ならば、道化のふりをするのは止められたらどうですか?」

 

それに前を歩いていた狭間は立ち止まる。それに、ダンゾウもまた歩を止めた。すでに、夕暮れが過ぎている。もうすぐ、日が暮れる。

狭間はくるりと振り返った。

彼は、普段のように、へらへらと笑っていなかった。

目を細め、口元には豪傑な印象を受ける、快活そうな笑みを浮かべていた。

 

「・・・・いいや、これでいいのだ。賢しいものが上にいると、愚か者も賢しく立ち回る。道化の振りは気楽で良い。餌が大きければ大きいほどに、つり上がる獲物は大きいからな。」

 

寒気がするほどに目の前のそれは、彼の敬愛した千手扉間に、そうして、慕っていた千手広間に、似ている。

 

「ま、尊敬とか慕われ担当はオビトとかマヒルとかいとこ殿たちがいっから、俺はおどけてるほうがいいだろ。他人の本心を試すにはこれで十分だ。」

 

けれど、瞬きの内に、狭間はまた、へらへらと笑って見せた。それは、まるで、夢のように消えたような感覚だった。

 

「・・・・今の表情をずっとされたら、アオバも生意気なことなど言わないでしょうに。」

「ふ、はっはっは!いいや、ごめんだ。道化もなかなかに楽しいのでな。」

 

弾んだ声で、それはそう言った。己を見つめるその目は、遠い昔、幼い己を見る師の目によく似ていた。

 

(これだから、嫌なのだ。)

 

ダンゾウは、扉間の血を引いているからといって、様付けをするほど可愛い性格をしている自覚はない。

ならば、何故、彼らを様と敬称で呼ぶのか。

そんなのは簡単だ。

 

まるで子犬のような軽やかさしかないようで、まるで狐のようにいたずらをする奔放さしかないようで、彼らはどこまでも選択すべき時、何を持っても私心を殺してなすべき事をすると確信を持っているからだ。

仮面のように被った、愛嬌だとか、人の良さを脱ぎ捨てれば、その下に隠した火の意思を知っている。

炎を絶やさないために、己を薪にするのだろう、彼らは。

だからこそ、自分は、火影になれない今に納得しているのだろうか。

 

「にしても、ダンゾウは本当にあの人のこと好きだね。めっちゃスケベだけど。」

 

ダンゾウはそれにぴしりと固まる。そうして、苦い顔をした。

 

(・・・完璧な人、ではなかったなあ。)

 

師である千手扉間は、それは優秀だった。かっこよかった。

いつだって冷静で、けれど、ユーモアもあって、優秀で。

早くに男の親族を亡くしたダンゾウにとって、扉間はまさしく理想だった。

それこそ、奥方にも一途で子煩悩な彼にダンゾウは熱を上げていた。

 

(・・・イドラ様も、お美しい人だった。柔らかくて、日だまりの匂いがして。広間様はあの方によく似ておられて。)

 

脳裏に浮ぶのは、いつだって花のように微笑む、一人の女だ。そうして、次には火の玉のような己の妻だった。

いいや、嫌いではないのだが、ないの、だが。

何か、ひどく間違えた気分になるのは何故だろうか。元より、結婚などまったく頭になかった身で息子や孫まで出来たのは、彼の女が自分をひき殺す勢いで突っ込んで来てくれたおかげな訳だが。

 

ダンゾウよ、理想と現実は違うものだ。

 

(先生、そうは言っても。いや、あなたは結構理想的な生活を送っていたのでは?)

 

そんなこんなで、扉間とは、ダンゾウのこうありたいというか、そう言ったものだったわけだ。

ある程度の年齢になって知った、扉間の夜の武勇伝を聞くまでは。

ヒルゼンだとか、まあ、うたたねコハルだとかは省いても、男連中はざわついた。やっぱり、そう言った面に興味ある年頃としては、まさしくさすがです、先生みたいな空気があった。

けれど、ダンゾウは、己の中で扉間の何かががらがらと崩れていく気がした。

この年になれば、ある程度割り切れるものもあるが。

若い頃は、ひどくショックだったことだ。

 

そりゃあ、それだけ苦労して手に入れた奥方なら溺愛するでしょう。そんだけやらかして、受け入れてくれる人ならあの勢いで囲い込みもするでしょう。

 

でも、やっぱり、それを押しても扉間という男はかっこよかったのだ。だから、そんなすけべであると知ってもやっぱりダンゾウにとって扉間は憧れなのだ。

まあ、すけべという部分ですげえなと思う自分がいるのも本当であったりする。

そんなダンゾウの思い悩んでいることを察してか、狭間は少しだけ考えた後に老いた男の首に腕を回した。

そうして、耳元で囁いた。

 

「どうした、ダンゾウ?お前も、閨で影分身を使ったのではないか?」

「!!??」

 

ダンゾウは思わず、ばっと狭間のことを片手で振り払った。

 

「ごめん、ごめん、そんなに動くとアオバが起きるぞ。」

 

それにダンゾウは腕の中のアオバを見たが、相当疲れていたのか、すやすやと眠るアオバにほっとする。ダンゾウはそんな中で狭間を睨んだ。

 

「わざと先生の真似をして、そういったことを言うのは止めてください・・・・」

「なんだ、沈んでいたから元気づけてやろうかと思ったのに。」

 

ああ、本当に苦手だと、ダンゾウの目の前でいたずらっぽく、艶やかに笑うそれを見た。

扉間と同じようにリアリストで、広間に似て人の心の機微というものに聡く、だというのに、人をからかうのが大好きな、それがダンゾウは苦手だ。

 

「まあ、そんな顔をするな、ダンゾウ。」

「そう思われるのなら、止めていただきたい。」

 

そうやって、どれだけからかわれても叱りも出来ない自分を見れば、どうしようも無くほだされて、認めてしまっている自分がいる。

 

(・・・・そんな者、この里には多いか。)

 

ダンゾウはそのまま、すやすやと眠る孫娘が起きたとき、どうやって機嫌を取るかについて思考を切り替えながら青年の後を歩いた。

 

 





ヒルゼン:ご意見番として生活している。原作よりも気楽且つ、能力的には同じでも活躍が控えめなせいか息子とそこまで仲悪くない。火影を目指していたが、扉間の周囲の人間が濃すぎてなれなかった。禁術関係の管理もしている。

ダンゾウ:暗部の管理を行っているが、火の玉みてえな女が妻になったのと、ヒルゼンとのわかりやすい差が出ていないため精神的に安定している。広間と共に禁術関係の管理もしている。

木の葉丸:原作よりも叱ってくれる人も構ってくれる人もめちゃくちゃ多いので、あんまりクソガキ感はない。アオバとは性差を超えたライバルだと思ってる。

アオバ:火の球みたいな性質の祖母に似て苛烈。色々あって木の葉丸のことが好き。扉間のことを慕っている。

志村と猿飛の息子達:父親関連で交流のあった千手やうちはの人間に振り回されまくって父親関係でこじれていない。

火の玉みたいな志村の嫁:ダンゾウに一目惚れして、そのまま男の人生に突っ込み居座った猛者。そのためにヒルゼンと扉間を味方につけて、口説き落とした女。尊敬しているのは、イドラとアカリ。ヒルゼンの嫁とは仲が良い。
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