千手扉間に責任を取って欲しいうちはイドラの話   作:藤猫

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感想、評価ありがとうございます。感想いただけましたらうれしいです。

イドラの声、ぱっと見ミコトさんの見た目で蜜璃ちゃんの声とか脳がバグりそうですね。

投稿が遅れてすみません、忙しかったもので。


あくの強い女しかいない

 

兄が結婚した。

この文面だけで言うのなら、非常にめでたいことだろう。

けれど、うちはイズナにとって、その事実は非常に納得がいかないことだった。

 

「どうかされたか、イズナ殿。」

「・・・別に。」

 

目の前には、一人の女がいた。せっせと、縫い物をしている。

それは、一言で言うのなら、焔のような女だ。イズナにとって見慣れた紅蓮のような髪に、同じ色合いの鮮烈な赤い瞳。

それに反して、その肌はまるで雪のように白い。赤と白で構成された女は、鋭く、冷ややかな印象を受けるが、それはそれとして見目は良い。

ただ、その顔は見事な鉄仮面だった。表情というそれはそげ落ちていたが、それに反してその声音はひどく感情豊かだった。

 

(・・・・こいつが兄さんと結婚なんて。)

 

イズナははあとため息を吐いた。

 

 

 

千手柱間がうずまきの姫と結婚したのを機に、うちはからもうちはマダラの婚姻を望む声が上がった。それに千手アカリとの婚姻があいなったわけだ。

正直、頭領同士の婚姻は同時に行われたわけだが、イズナはそれを死んだ目で思い出す。二度と、結婚式の指揮など執らねえと決意を固めるぐらいに、目が回るほどに忙しかった。

おまけに、里の仕事まで中心でやっている人間達なのだから、その忙しさはまさしく目が回るほどだった。

 

さて、そんな女であるが、うちはでの評判と言えば、上々である。

元々、嫁入りを所望されていたことに加えて、彼女について姉であるうちはイドラこと千手イドラからの売り込みがすごかった。

 

あのねえ、優しい人だよ。ええっと、ご飯も旨いんですよ。よくしてくれたんですよ!

 

アカリの周りを尻尾をぶん回して動くイドラに、うちはからの印象が悪くなかったと言うこともある。

ただ、やはり、うちはからの悪意に晒される場合もあった。

 

(ずぶといんだよねえ。)

 

アカリはそれに何をしたかと言えば、その恨み言をうんうんと聞くだけだった。

けれど、それが、真っ向から瞳を見てくるのだ。ただ、じっと、うちは一族の瞳をのぞき込んでくる。

脅しにと、写輪眼でにらみ付けてなお、それは真っ向から目を見てくるのだ。

 

恐ろしくないのか、何故なのだと、そう問えばアカリは笑うのだ。

 

「この程度、受け止めなくて、何を覚悟にうちはの女になれようか。何よりも、その目を私に向け、この身に危害を加える覚悟がお前にあるのか?」

 

それに黙り込むしかないだろう。里の人間になってそこそこの期間が経つが、うちはと目を合わせてくる存在などいない。

強いて言うのなら、マダラの万華鏡写輪眼を美しいと言って見たがる千手柱間と、その姉である千手アカリ、いまやうちはアカリぐらいだろう。

大抵の人間はそれに根負けする。それに対抗するには、アカリの言葉は重すぎる。

何よりも、アカリは苦もなく人の憎しみを聞いた。憎しみをえんえんと聞いた後、ぽつりと、置いていかれるのは寂しいと、そんなことを言う。

アカリは、いつも、怒りや憎悪に悲しみや寂しさで返す。

それは、ひどく、イドラと同じで。

だから、うちはの人間はその女の、真っ向から己を見る赤い瞳に黙り込む。

 

(けどなあ。)

「・・・・・やはり、マダラ殿には渋い色が似合う。だが、明るい色合いも着てくだされば。イズナ殿。どうすればいいと思う?」

「・・・・さあね?」

「そうか、イズナ殿が言ってくださればきっと、了承されるのだが。」

 

心底残念そうな言葉と共にアカリが握った着物は、今月になって仕立てられた四着目の兄の衣服である。

 

アカリという女は、それはもう、マダラの見た目が好きらしい。

婚姻の時など、自分の衣服に金をかけるならマダラの方に金をかけて欲しいと熱烈に言いつのったほどだ。

無表情のまま、何パターンにもなる、微妙な色合いの違いしか無い花婿衣装を見せられたときのマダラの顔が忘れられない。

イズナ自身、己の兄のことは大好きだし、顔も良いと思っているがそれはそれとしてあの熱意はすごすぎる。

もちろん、衣装については花嫁のほうに予算がかけられたわけだが、それはそれとして、アカリの情熱は衰えなかった。

 

「・・・・なあ、嫁さんって、こう、ああいった感じなのか?」

 

マダラが困惑したような顔をして、周りの身内にそんなことを聞いた。うちはの人間も、なんだかんだ面倒見は良いと言ってもめちゃくちゃに怖いし、近寄りがたい頭領の家庭問題に興味があった。

何よりも、アカリはこう、良い意味でも悪い意味でも有名だ。

うちのおひいさん並にこゆい人なんて実在したのか、なんて感覚で。

 

「いや、何だ。俺の世話への、情熱がすごいんだが・・・・」

 

特に有名なのは、マダラの髪の手入れだろう。

マダラの髪は、まるで逆立つたてがみのようにあらぶっている。それは、偏にどうしても体格的に千手に比べて華奢に見えることを防ぐためだ。

そんなマダラの髪は、アカリと結婚してから明らかに毛並みが良くなりすぎている。

もう、つやつやだし、さわり心地が抜群にいい。おまけに、忍なのだからと無香料のものを使っている。

 

千手柱間に、マダラの毛並みがよくなったのお、なんて言われているのは兄には秘密にしているイズナだ。

 

「いや、あまり喋らねえし、やって欲しいことを察するのも早いが。いや、ずっと、人のことをガン見してくるんだよ。五月蠅くないんだが、こう、目が、五月蠅いんだよ。きらきらしててよ・・・」

 

まあ、確かにあまりいない部類の人間だろう。

ただ、マダラ自身はアカリのことを気に入っているようだ。イズナ自身、面白くないが。

マダラという男は女が苦手だ。

弱く、やかましく、よく理解の出来ない存在だと遠巻きにする傾向があった。また、潔癖な部分があるのが拍車をかけたのだろう。

ただ、アカリという女は、強く、静かで、肝の据わった女だ。何よりも、無愛想であれど、人が嫌いなわけではないマダラのことをよく理解している。

例えば、柱間と、その妻であるうずまきミトこと千手ミトと四人で茶などをする時がある。そう言った場合、どうしても共通の話題のある千手の人間たちがよく喋ることになる。

けれど、アカリはマダラのことを慮り、彼の趣味である鷹狩りや、和歌などの話に話題を変えるのだ。

元々、姫君であるミトとはそう言った話をよくするせいか、マダラと仲が良い。

柱間も、鷹の飼育の話は興味があるらしく、そういった話題に食いつく。

慣れているのだろうなあとイズナは思う。そう言った、多くの人間への気の使い方のようなものが。

ただ、それを引いても、なんというかアカリの兄への賛美が怖い。

 

アカリがうちはの人間になった折り、彼女にはある程度の金が渡された。それは、うちはの人間特有の衣装などを仕立てるためだ。

また、マダラが気を遣い、女の好みそうな装飾品や化粧品を新しく買えばと思ってのことだ。

が、そんなマダラの気遣いは見事に打ち砕かれた。

何故って?

アカリが最小限の物しか買わず、残りの予算をマダラの衣服を仕立てるための布代に使ったためだ。

 

「もう一着だけ!この色合いをどうしても、着ていただきたく!!!」

 

顔に表情はないのに、声だけはやたらと感情的で何か脳がバグりそうだった。というか、自分の化粧品代なんかをケチって夫を飾り立てることに必死になる女なんぞかつていただろうか?

まあ、そんなアカリの態度がうちはの人間から好印象を持たれるのだろう。

千手の姫君は、うちの頭領にベタ惚れらしいと。

 

(いや、あの話のせいか。)

 

あの話というのは、マダラとアカリの初夜の話だ。

 

ええ、お恥ずかしい話、私もそう言った経験などは無く。緊張している私に、マダラ様はお優しく言ってくださった。

こういったものは、あくまで式のおまけのようなもので、そこまで緊張するならまた今度にすればいいと言ってくださって!

 

まあ、二人の結婚の意味合いを考えれば少々どうかと思うのだが。

千手扉間の悪評を考えると、マダラの発言は非常に真摯というか、アカリへの思いやりにあふれたもので。

ざっくりいうと、マダラの株が上がって、扉間の株が下がった。

 

「ワシが何をしたと・・・・」

 

なんて言いながらイドラの足を枕にふて寝を決め込む扉間がいたとかいないとか。

 

「・・・なあ。」

「はい?」

「今月は、それで終わりにしろよ。兄さんだって、体が二つも三つもあるわけじゃないんだから。」

「・・・分かっています。」

 

なんてことを言いながら、来月はどんな色合いにしようと兄の顔にぞっこんの義姉にイズナはため息を吐いた。

見る目はあるが、なんか色々ダメじゃないだろうかと、そんな感想を持っていた。

 

 

 

 

「あれ、また来てるの?」

「ああ、イズナ殿。」

 

その日、イズナは兄の家を訪れていた。兄が所用でいないことは知っていたが、借りたい書物があったのだ。

イズナは兄と別で暮らしている。というのも、亡くなった妻の実家に預けていた息子のクズハと現在生活を共にしているためだ。

そんな彼の目の先には、アカリがよく雑務などをしている一室がある。そこには、正座をしたアカリと、その膝を枕にうたた寝をしている柱間に、そうして、赤毛の女の後ろで丸くなって寝ている姉のイドラだ。

 

「どうも、泊まり込みの仕事を終らせたそうでな。ここに来て、そのままだ。」

 

アカリはそう言って、柱間の頭を撫でた。その様は、まるで幼い子どもをあやす母のようだった。

 

初代火影として選ばれたのは、結局柱間だった。それに対して、マダラはあまり不満はない様子だった。

何故かというと、目のいいうちはは警邏としての役割を任せられることになったわけだが、その準備だとか、選出だとかで目が回るほど忙しい。

 

この状態で火影の仕事?ふざけてんのか?

 

法の番人などと聞こえは良いが、結局は監視する側ということだが。うちはに嫌な仕事が回ってきたと言う人間もいた。

ならば、日向はどうなのだという話も出た。

けれど、日向に主として任せたくないというのが扉間の意見だった。

日向には呪印を施すなど、血族でも互いを縛り合っている部分がある。それに比べて、うちはは特別分家などにそういったものは敷いていない。

正直な話、うちはは決められたルールのうちで生きるということが性質としてあっているのだ。

何よりも、うちは全体で警邏として役割を持たせるという話ではない。あくまで、うちはが指揮を執るために、何割かは警邏部門に所属をして欲しいという話だ。普通の忍として、優秀な者ならば暗部などの精鋭にも所属は出来る。

ある程度の権限も任せられるわけだから、嫌な話ばかりではない。

どんな仕事にも旨みと嫌な部分はあるものだ。

千手もまた、医療関係への所属を勧めるような動きがある。

 

そんなこんなで、柱間は目が回るほど忙しいわけだが。

柱間は本当に疲れ切ると、マダラの家に向かう。

マダラの家にいるアカリに、言い方は何だが甘えに来るのだ。もちろん、アカリも家同士の調整など仕事はあるが、さすがに柱間ほど忙しいわけではない。

アカリもさすがに疲れ切った柱間を無碍には扱えず、やれ飯を食え、寝ているのか、頑張っているなと甘やかすわけだ。そうして、ここにマダラも加わることがある。

マダラも忙しいのだが、優秀なことに加えて机仕事に苦はない彼は、ちゃんと休憩を取る程度の余裕がある。

おまけに、マダラがいるとアカリのことをいさめてくれるのでいつもより対応が甘くなるのだ。

義兄のマダラと姉のアカリの二人から甘やかされることに柱間はすっかり味を占めてしまっていた。

もちろん、言葉自体はなんだかんだで厳しいが、それはそれとして、やれ飯を食えだとか、頑張ったなとか褒められる柱間はうちはの屋敷でよく見られる光景だ。

 

「・・・いいの、それ?」

「何がだ?」

「あのさ、あんただって一応うちの人間でしょう。それを柱間の膝枕とか五月蠅い奴がいるんじゃないの?」

「・・・・どうだろうなあ。まあ、確かに、昔は五月蠅いのがいたな。扉間の許嫁であろうとか、そんなにも愛しいのなら結婚すれば良いとか。」

「どうしたのさ、それ。」

「はっはっは、強制的に黙らせた。暴力ではなくとも、黙らせる方法なんていくらでもあるからな。」

 

さらりと怖いことを言いつつ、アカリはちらりと柱間を見た。

 

「私は、これと結婚だけは絶対にしたくなかったからな。」

 

そこまでばっさりと言われると、さすがにイズナも柱間のことが哀れになる。いいや、そこまで言わなくても、と。

 

「まあ、確かに、兄さんほど顔は良くないけど。悪くもないじゃん。」

 

イズナはそう言って、アカリの斜め前に座った。そうすると、どこか幼い寝顔の、自分にとって義兄になってしまった男を見た。

 

「・・・・そうだな。まあ、確かにがたいだけは大きくなったが。なあ、イズナ殿。あなたにもあるだろう、辛いことがあって、兄に泣きつくなんてことが。」

柱間は、幼い頃からそれができない子どもだった。

 

「まあ、長子だから?」

「そう言った話ではないな。この子にも、散々に泣いて、甘ったれだった時がある。」

大人たちに、その泣き虫は殺されてしまったけれど。

 

イズナは思わず、そう言ったアカリの顔を見た。その顔は、凍り付くように冷たかった。

 

 

さて、そうだ、イズナ殿。

私の母と、この子の母が姉妹であることは話したか。けれどね、実際の所、父親達も兄弟だったんだ。家系図では、いとこだったが。

私の父はいわゆる妾の子でな。子どものいないところに貰われていったわけだ。そうして、柱間達の父が本妻の息子ということだ。

そうして、私の兄が生まれた。

兄は、そうだな。秀才でな。柱間は、辛いことがあると、よく兄の所に来て泣いていたよ。修行もつけて貰っていた。

柱間は不器用な子で、あまり期待をされていない子だった。家の中で、兄を次期頭領に推す人間もいた。

 

・・・何もかもが変わったのは、きっと、柱間に木遁の才があると知れた時だ。

火遁を使う、ああ、うちはではないが。忍とあの子は戦い、もろに喰らったそうだ。

すごいぞ、もう、全身がやけどにまみれて、死ぬのだと、思ったときだ。

ドロドロに崩れた肌は、まるで、再生でもするように、治ったそうだ。

それでどうなったと思う?

大人たちは、柱間を神様としたよ。担ぎ上げ、神輿とした。

ああ、言い伝えが真になったと。

それから、あの子は、兄の元には来なくなった、泣き言も言わなくなった。

 

一族の、長になるのだと。

戦場に出ているとは言え、齢いくつの子に、どんな責を望むというのだろうな。

そうして、私の兄が死んだ。私の、弟も死んだ。

あの子は泣かなくなった。

弟たちも戦場に出る年が近くなったのもあるのだろうがな。

 

その時には、イズナ殿にとっても知れているだろう、あの性格だ。正しいのだろうさ。長になると言うことだとか、大人になるということだとか、そうであるのなら泣かなくなるのが正しいのだ。

けれど、私は赦せなかった。

大人たちによって殺された、泣き虫の、甘ったれた、幼い弟に私だけが未練がましく縋り付いていた。

 

「・・・・私はずっと、赦せないのだ。だから、ひっぱたいて泣かせて、甘やかしてやる。私は、ずっと、この子が神様になることが赦せないのだ。」

 

そう言って、アカリは幼い子どもにするように、寝息を立てる柱間の頭を撫でてやる。イズナは、それに特別な何かを思わなかった。

ただ、ああと思う。

この女は、人一倍、千手柱間を愛しているのだろうと。

 

それは、例えば恋ではなくて。もっと、自分に兄が注ぐのと似ているようで、けれど、少し違うものだ。それは、何というか、雨が降りしきるようなものではなくて、まるで燃えるような、怒りに似ている。

それをイズナはなにも思わない。

ただ、何故か、まったく違うはずなのに、その愛し方は姉に似ている気がした。

 

イズナは、女のその怒りは嫌いではない。

アカリの、腹の底から燃えるような怒りは、女の根幹のようで。

イズナはきっと、千手のことが嫌いでも、千手が戦場で見せる激情は好きだった。

 

イズナは、きっと、叶うのならば。

扉間という男とずっと殺しあいをしていたかった。戦場で、永遠に、互いを高め合う殺しあいをしていたかった。

それが、どれほど無謀で愚かな夢かは知っているけれど。

 

千手よ、お前達は強かった。誰よりも、きっと、強かったから。

 

だから、今の生活が嫌いなわけではないけれど。燃えさかる火は、いつか消えねばならないのだから。仕方が無くとも、そんな愚かな夢想をしてしまう。

イズナは気を取り直すようにアカリを見た。

 

「・・・・神様になるってどういう意味なの?」

「そうだなあ、私心を捨てて、他人のためになる行動をするってことだな。私は、いつか、これが誰かのために捨てた心を拾ってひっぱたいてやりたいんだ。私は、ずっと、この子に責を押しつける世界が嫌いなままだから。」

 

アカリはそう言って、緩やかに目を、微かに細めた。ひどく、優しい目をしていた。

 

「私はこれを男として見れなかった。どうしても、これは、私にとってこれ自身が捨てた甘ったれの泣き虫のままだからな。」

「でも、そういうのって奥さんの役目じゃないの?」

「ミト殿はまだ、そこまで柱間に信頼されていないからな。彼女はまだ、柱間にとって庇護すべきもので、甘えていい存在ではないから。そこら辺は今、互いを慣らしている最中だからな。これは、私の弟であるが、私のものではないというのはわかっている。」

 

そういった女の顔を見つつ、イズナはふと、アカリに背中をくっつけて丸まって寝ている姉を見た。もう、顔は健やかですぴょーなんて擬音が尽きそうな顔をしている。

それにイズナは思う。

うちの姉は確かにやらかしは多いが、以前は、もっと、こう、普段からきりっとしていた気がするのだが。

 

「姉さん、昔はもっときりっとしてた気がするんだけど。」

「それはそうだろう。イズナ殿の前では、これは姉だからな。守るべき存在がいるなら嫌でもきりっとするだろう。」

 

それにイズナの中で、姉のことを思い出す。

千手と戦いを繰り広げている日々。葬式の準備をして、けれど、次の戦があるからと弔いも簡素にしてしまった。

泣く女をイドラは抱きしめていた。兄弟が帰らぬと泣く幼子の涙を拭っていた。墓穴を前に、立ちすくむ、女の淀んだ瞳を覚えている。

イズナはそれに、イドラを見た。

青白い肌は、まるで桃のように鮮やかでまろい。健康そのものの姉は、昔の面影なんて嘘のようだ。

 

(なら、いいのかな。)

 

なんてことを考えていると、ワシが育てましたとむかつく男の顔が思い浮かんだ。それをイズナは振りほどく。

 

「そんなもん?にしても、どうして姉さんがここにいるのさ?」

「ああ、届け物をしてくれてな。それで、おやつを出したんだが。食べたら寝た。」

「うーん、生活態度が幼児なんだよなあ。大体、姉さん、この頃よく寝るよねえ。あと、食べる量も増えてるらしいし。生活が健やかすぎる・・・・」

「・・・何?」

 

イズナは寝ている姉のことをのぞき込んだ。そこで気づいた、姉の首の裏に黒い、小さな何かがあることに。

 

(?ほくろ、か?でも、四角い?)

「イズナ殿、それは本当か?」

「え、何がさ?」

 

アカリはそれに、柱間の頭の下から己の膝を素早く抜き、代わりに座布団を噛ませる。

 

「今度は、本当であるといいが。イズナ殿、このままここにいてくれ!」

 

アカリはそう言って、イドラの体をそっと抱き上げてその場を去って行く。

イズナはそれに首を傾げる。

そうして、イドラの首のそれについて考えるが、すぐに忘れてしまった。

 

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