(・・・・大丈夫なのかな。)
うちはイドラこと千手イドラはどうしたものかと頭を悩ませながら道を歩いていた。そこに、声がかかる。
「イドラ姫、どうかされましたか?」
ちらりとその方向を見ると、黒い髪の愛らしい顔立ちをした少年が気遣わしげに自分を見ていた。
「いいえ、なんでもありませんよ?」
にっこりと微笑むと、少年、まどかテンチは照れ照れと顔を赤くした。それにイドラはどきどきをしながらテンチを見つめる。
(・・・うーん。私に出来るでしょうか?)
イドラは内心ですんとしながらそう思った。
「いいか、ともかく躱すんだ!」
「何か、良い雰囲気になって、告白があれば御の字!きっぱり、すっぱり、夫がいて、それはもう、大好きだって言って断るんです!」
「頑張って振るんだぞ!」
三者三様に、この案内に来る前に自分を取り囲んだ兄や夫たちの台詞を反芻してイドラは悩んでいた。
今回の接待についてもイドラは出来るのだろうかと悩んでいた。基本的に戦場、戦場三昧でこう言った任務をこなしたことはない。
(これを着れたのは嬉しいけれど。)
イドラは自分の纏った青の衣装に少しだけ踊りたくなった。それは、夫である千手扉間から贈られた物で結局着る機会に恵まれなかったものだ。
服の下の諸諸のせいで一人で着付けたものだが。
(似合っているって言ってくださいました!)
それだけでイドラは扉間の周りをくるくると纏わり付いて、尻尾をぶん回していた。そんなことを思い出しながら、イドラは少年を見た。
(・・・私のことが、好きになるというのが信じられない、というのもある。)
イドラはちょっとだけ頬を赤らめて、はにかむ少年を見た。確かに、それは恋する少年そのものだった。けれど、イドラは内心で、本当に?と思っている。
別段、イドラだって縁談の話が出ないわけではなかった。事実、弟のうちはイズナは死別していると言っても婚姻はしているし、兄のうちはマダラも婚約者がいたときもあったのだ。
ならば、イドラだってそう言った話が出なかったわけではない。
(でも、結局縁談がなったこと、なかったものなあ。)
イドラの縁談は何故か結ばれなかった。相手が戦死したりだとか、他に好きな人がいたりだとか、様々であるが、イドラは結婚できなかった。実際、イドラは女にしては行き遅れの範囲に入る。
イドラの天井知らずの夫への好意は、よくわからんが自分を嫁に貰ってくれたという感謝も含まれている。
(ともかく、頑張って振るぞ!)
イドラは私はやるぞやるぜと内心で鼻息を荒くして任務に向かうことにした。
「それでは、商人達の住む区域に向かいますね?」
「わ、わかった!」
イドラはそれににっこりと微笑んだ。それはそれとして、年下の少年は可愛いなあと思いながら。
「お、動き出したな。」
兄である千手柱間の声を聞きながら扉間は懐からとある札を取りだした。そうして、それを額に押しつける。端から見れば非常にシュールなそれにイズナが口を開いた。
「なんだよ、それ?」
それに扉間は言いたくはないが、気にするなでは済まないだろうと口を開いた。
「・・・・これの片割れの札をイドラに持たせている。距離は限られるが、その札の周囲の音をこちらで拾えるのだ。情報戦において使えると試行しているものだ。」
それは事実で、以前から戦場でのそれぞれの意思疎通は非常に重要になる。そのため、以前から通信手段になる忍術を考えていたのだ。
ちなみに、全然、成功していなかった。
けれど、今回の事態に、扉間はもう、死ぬ気で頑張った。せめて、イドラ達の状態を把握しておきたいと死ぬ気で頑張ってなんとか一組の札を作り上げたのだ。
それを聞いていた千手アカリが叫ぶ。
「審議!」
その言葉にその場にいた面々が口を開いた。
「ダメだろ。」
「いや、ダメだね。」
「アウトぞ。」
「さすがにおひいさんにも個人的なもんが・・・」
「わかります、妻のことは常に気になりますよね!」
「と、扉間様、さすがにそれは・・・」
「おっも。」
「それ、量産できたら欲しいのですが。」
「いや、束縛しすぎでしょ。」
個々で発せられたそれに、アカリが扉間に言った。
「有罪!」
「誰がじゃ!」
「今、おかしなのも混ざってなかったか?」
アカリのそれに扉間は叫んだ。こそこそと物陰に隠れるために小さくなったままにアカリは隣にいた扉間に言った。
「お前、この頃段々欲を隠さなくなってきてるのはどうかと思うぞ!?」
「どこがだ!欲ってなんだ、欲って!」
「性欲。」
「八つ橋に包まんか!」
扉間のそれにアカリはきりっとした顔をした。
「何を言う。男の原動力にスケベは大事らしいぞ。」
「ワシがいつ、スケベ心で術の開発をした。」
「己のみを振り返ってみろ!」
それにその場にいた者たちは、扉間の有名な術について考えてみた。
「飛雷神の術。」
「逢瀬のために・・・」
「ていうか、全然気づかなかったんだけど。」
「まあ、いつも俺らがいるわけでもねえし。」
「というか、そのためにあんだけの術を開発したんですね、この人。」
「影分身の術・・・」
「いや、あれはあれでエグさが。」
「媒介いらずはいいんですけどねえ。」
「結界術も。」
「いや、音の遮断まで行くとまじで生々しさが出てきてやなんですけど。」
「まあ、補給のときとかに使えそうではある。」
「いや、全部使える術なんだけどなあ。」
扉間は頭を抱えたくなった。自分が必死こいて作った術に何故、そんな卑猥な理由に紐付けされてるんだ?
「ええい!んな理由ではないわ!ワシは、全て、真面目に術を作った!」
「飛雷神の術、イドラのかんざしなんかにつけてるくせに?」
それにぐうの音も出なくなる。いや、確かにそうだが。
「・・・今回の盗聴のそれも、今後は使わないと?」
それに扉間は、普段の彼ならば堂々と使わないとしれっと嘘をついただろう。だが、目の前の、アカリというそれを前にすると何故かそう言った小細工が出来ない。
トラブルメーカーで、トラブルホイホイのイドラの監視のために使おうと思っていたのは事実だ。
というか、イドラの服の下とかを知られた日にはアカリに何をされるだろう。
あ?んなもん、里を一望できる崖の上から逆さづりよ。
思わず聞こえてくる姉貴分のそれに扉間は首を振る。
「おい、目をそらすなや!」
「だあああああああ!えん罪だ、えん罪!」
「・・・あのな、扉間。私だって全面的に責めてるわけじゃない。ただ、この頃あけすけになりすぎて、術の使い方の方向性に関して察したくないという話だ。」
「あけすけってなんだ!?あけすけって!」
「・・・・思えば、兆候はあったな。」
扉間のそれにアカリはどこか黄昏れたような顔で遠くを見る。
「なんか、こう、やたらと水遁の粘着度を上げる術を作ってるときに気づけばよかった。」
それは傷の保護に使えないかと考えていた術だ。それに扉間はこれからどうなるかを瞬時に察した。
「粘着度・・・・」
「何に・・・」
それにその場にいた人間は察した。その術の使い道に関して。
「扉間様、結構即物的っすね。」
「誰がじゃ!大体、その術も・・・」
「扉間よ。」
そこで背後にいた柱間がそっと扉間の肩を叩いた。
「なんだ、兄者!ワシは・・・・」
「そう否定するな。お前も男ぞ、姉者もそう責めるものではないだろう。作るきっかけがなんであろうと、お前が里に貢献しておるのは変わりは無い。姉者もそう突いてやるな。男には触れて欲しくないこともあるんぞ。」
「・・・お前が茶屋で騒動起こしたのもそれに当たるのか?」
「その時はまことにすみませんでした。」
柱間のアカリへの綺麗に頭を下げる動作に皆、まあ、確かにそれはそうかとうなずき合った。
マダラもまた、いや、これはこれでどうなんだろうか?
というか、扉間のあけすけすぎる諸諸に自分も怒った方が良いのかと思う。
ただ、マダラは今日、自分に男に贈られたという衣装をにこにこで見せに来た妹を思い出す。
きっと、見られないと思っていた。
それこそ、年頃だろうと着飾るものでもと勧めるマダラにイドラは暗い目で首を振る。
そのようなことを気にするときではないでしょう?
好きな男のためにと、着飾って笑う妹は美しかった。それは、容姿の話ではない。
ねえ、兄様。見てください。綺麗ですか?扉間様も、似合っていると言ってくださったんですよ?
零れるような、淡い笑み。
それは、いつかに、マダラが愛して、守りたかった、軽やかに生きる妹の在り方だ。
マダラは、それに扉間にイドラを嫁がせたことを正解だったと思う。
例え、それのねっこの部分にあるのが扉間のすけべであっても。
(・・・・互いに偶然会ってそのまま恋に落ちたなんて信じてねえが。)
マダラは二人に聞かされたなれそめを思い出す。というか、それを話す折に全力で目をそらすイドラの様子から言えない何かがあったのだろうが。
マダラは諦めたように扉間の肩を叩いた。
「・・・扉間、あれだ。その、ほどほどにな。」
「これ、優しく言われた方がキツい案件じゃね?」
「マダラ様がこれだけ慈悲深く接してる時点で感謝すべきでは?」
「普通なら扉間様がここで吹っ飛ばされてる案件ですから。」
「だから、ワシによこしまな気持ちはないのだと何度言えばいいのだ!?」
「やることやってる時点で、この言い訳は通用しないのでは?」
どこで狂ったんだとしみじみと思う。
いや、これでもけっこう頑張ってるんだけどと思う。トラブルについても、対処しようとしているのだ。
いや、その根源は自分の妻なのだが。
何が悲しくて、術を開発する原動力にスケベがあるのだと思われなくてはいけないのだ。
扉間は若干半泣きでもういいわと諦めたようにイドラたちを見つめた。
「・・・テンチ様。大丈夫ですか?」
「あ、ああ!大丈夫だ!」
「そうですか。なれど、何かありますればすぐに言ってくださればと思います。」
それにテンチはこくりと頷いた。それに、うちはイドラはにっこりとたおやかに微笑んだ。それにテンチはどきどきと早鐘のようになる胸を押さえた。
「うちはの姫?」
テンチは千手の屋敷に戻ってすぐに自分を助けてくれた女がどこの出であるか知りたがった。
そこで知ったのが、里の創設に関わったうちは一族の姫で有り、現在は千手に嫁いでいると言うことだった。
「すでに結婚しておりますが。」
「そ、そんなことはいいのだ。それで、他に情報は?」
「そうですねえ。聞きしに勝る仲の良さだそうで。」
テンチは護衛で有り、側近のそれに少しだけ顔をしかめた。
そうだと、必死に内心で言い訳を重ねる。自分はあくまで今回の件でお礼を言いたいだけで、何か、よこしまなことなんてありはしないのだ。
「・・・それで、里の様子はどうでしたか?」
側近のそれにテンチはああと冷たく目を細めた。
「下手な都市よりも治安はいい。お前も、明日見てみろ。驚くほど、目が行き届いている。」
「テンチ様が絡まれたのにですか?」
「路地裏に、おまけに、そこそこ奥まった場所だ。そんな所でもわざわざ言葉までかけてくるのだからしつけが行き届いているぞ?」
皮肉交じりにテンチは言った。
「・・・・私がいなくなった後の屋敷の様子は?」
「蜂が突いた、が正しいですね。すぐに探すための人間が手配されたようですよ?」
「そうか。」
今回、視察にテンチが選ばれた上で、いくつか行動を起こすように命じられている。それは、忍達が大名達にどんな感情を持っているか、どう行動を起こすのか、水面下で探るためだ。
大名側も必死なのだ。
少数であるからこそ、金や物資で取引が成っていた。けれど、実際里が相成ったとき、彼らが増長し、下手な権力を求められては困るのだ。
大名側もまた、生き残るために忍たちの様子を探りたかったのだ。
テンチはそう言った面で丁度よかったのだ。
子どもで有り、人々に侮られる。そうして、分家の彼は死んでも換えが効く。
忍達はどう考えているのか?
(帰るとき、幻術の一つでもかけられているやもしれんな。)
なんてことを考えていたのだが。
「どうかされましたか?」
「な、なんでもない。」
(な、なんだ、これは!?)
テンチは顔を赤くして、隣を歩く女を見た。
黒い髪に、黒い瞳。美しい女だ。いいや、もっと、美しい女ならばいるだろう。けれど、テンチは何故か、ひどく女に引かれた。
かの有名なうちはの姫。
それがどんな人間なのか探ってやると言う建前でやってきたのだが。
「・・・商人の他に、職人も移住しているのか?」
「はい、忍にとって、クナイなどは切っても切れませんので。ただ、氏族によっては長年契約しているものがいるので、それを使っている場合もございます。」
「ならば、鉄の補給も必要になるのか。」
「そうですね。それについては・・・」
テンチはイドラの淀みのない話にうっとりとしてしまう。
(こんなに愛らしく、そうして、賢いなんて!)
もちろん、イドラのそれは扉間やマダラが必死に詰め込んだ知識なわけだが。彼らの知り合いならば、イドラの背後に、私たちが頑張りましたとマダラや扉間たちの顔がぼんやりと浮んだことだろう。
美しい見目をしているというのに、にっこりと微笑んだその様はまるで幼子のようにあどけなく、愛らしい。それに加えて、強いだなんて。
(こんな女性がこの世にいたなんて。)
テンチはどきどきとする胸をさすった。その時、テンチは自分の頬に軽く何かが触れたような気がした。
「テンチ様?」
「え、あ、はい!?」
「顔が赤いですね。熱かったでしょうか?熱でもありますか?」
そう言って頬に触れてくる手に、そうして、自分をのぞき込むイドラの顔にテンチは顔を皿に赤くした。
「ああ、どこかで休まれた方が良いですか?」
「い、いや、その・・・・」
「完全に、良い雰囲気ですが。」
「いや、年上の美人なお姉さんっていいですよねえ。」
「イドラ様にあんなことされたら、ああもなりますわ。」
そういつつ、皆は札を持った扉間を見た。
((うわあ。))
今にもテンチを呪うんじゃねえかってレベルの形相を浮かべていた。ぐぎぎぎと、何か、怨念が出るレベルだ。
「扉間よ。」
「なんだ?」
「気にくわんのなら、そう言ってもいいのだぞ?」
「なんとも思っておらんわ!」
いや、嘘吐けよ。皆がそう思った。
事実、扉間はイドラがその子どものことをなんとも思っていないことぐらいは理解している。命令だからそうしている。
が、それはそれとしてもそれが他人に全力で愛想を振りまいていることが気に入らない。
どろりとした情念のそれを覚えている。
自分がいなければ生きていけない、その、水飴でも口に突っ込まれたかのような感覚を忘れていない。
(・・・まあ、あれを知っておるのはワシだけだが。)
それで少しだけ持ち直す。けれど、それはそれとして、自分への愛はそのままに誰か気に入った人間が出来れば全力で懐きに行くのがその女なのだ。
(重たい女であるならば、常にそうあればいいものを!)
悲しいかな、重ったい情念を抱えた女と、駄犬が同居しているのがイドラなのだ。
イドラの愛と言える感情と、遊んでくれるの?構ってくれるの?と懐きに行く感情はまったく別物なのだ。
おかげで、あの重たい感情を見せられても、どっかに爆走していくイドラの姿を幻視している自分がいる。
「・・・そろそろだな。」
「ええ、そろそろですね。」
「このまままともな時間が続きませんよ。」
うちはの人間が口を開ける。なんだと、皆の視線を集めた。そこで、イドラが立ち止まった。
それにうちはの人間は何かを察したのか、ああと目を細める。
「あ!」
イドラは路地裏のそこで立ち止まる。それにテンチも反応した。
「どうかされましたか?」
テンチはそう言って、イドラの見る方向に視線を向けた。そこには、何かの糞が転がっていた。
テンチの頭の上にはてなが浮んだ。
なぜ、こんなものに反応したのだ?
「その、何か、あるんでしょうか。これに・・・」
「・・・この場所。そうして、周りに転がる餌の残骸。これは、ブチ大将のうんこですね!!」
意気揚々と言ってのけたそれにテンチの目が点になった。
この里では、現在、熾烈な争いが起きているのです。
西には歴戦の戦士、クロ大将。東には、三毛の姉御。そうして、南を支配するのが、ブチ大将なのです!
現在、三毛の姉御は出産に入っているので少し勢力が弱まっていまして。クロ大将が一番頭角を現しているのです!
ですが、私はクロ大将は年を取り過ぎており、代替わりが近いと思っているのです。
現在、一番勢力が小さいとは言え、誰よりも若いブチ大将がこの里の頂点を取ると考えられます。
また、小さな勢力が、だんだんと集結しておりまして。
札から聞こえてくるイドラの熱い、現在の野良猫大戦の全容に皆がひどく微妙な顔をした。
いや、何をそんなに熱く語って。
え、お前野良猫会議にもわざわざ参加してそれぞれの勢力を調べてるの?何してるの、お前は。
わふんと、全力で駄犬モードに入ったことを察して、マダラはどや顔をする。
「どうだ、イドラのあれを。」
「僕も姉さんが猫集会に参加してるの見たなあ。」
「あーあ、とうとう、猫の糞を枝で突いて、食べたものの解説までし出した。」
「護衛がすげえ、いいのかこれはって顔をしてる・・・・」
何というか、もう、輝かんばかりの顔で猫の糞をこねくり回しているイドラのそれに、皆が、マダラの言っていたことの意味を察した。
「いつもああなのか?」
柱間のそれにマダラはちょっと遠い目をした。
「いや、まあ、あいつを嫁にしたいって奴がいなかったわけじゃないんだけどなあ。」
「そのたびに、まあ。」
「目の前を横切った馴染みの猫を追いかけ。」
「森に逢瀬に行けば、カブトムシを捕って相手に自慢し。」
「町中に行けば、何故か野良犬に懐かれまくって群れをなし。」
「あのときは、到頭本物だって認識されたのってなってなあ。」
「伝説なのは、茶屋に入って数時間マダラ様の話をし続けたことですねえ。」
マダラはぱあんと己の額を叩いた。
「顔はいいんだ!うちの妹は、そりゃあ、もう可愛い!引く手あまたなんだよ!」
「ええ、本当にイドラ様は可愛らしくて、お優しい。もう、正直どんな男だって釣り合いなんぞ取れませんが!」
「それはそれとして、全力でやっぱり駄犬なんだよね。」
「軽くって話じゃないような罵倒をしているが大丈夫なのか?」
イドラは基本的にちゃんとしている。
戦場ではきりっとしているし、うちはでは頭領の家の人間として氏族のきりもりだってしている。さすがに皆での話し合いの場でもまともなままだ。
もちろん、家では全力で駄犬を貫いているのだが、さすがにある程度近しい家の人間でなければそんな様子をはっきりと知るものはいない。
そんなこんなで、イドラというそれに幻想を抱いた、遠い家の人間から縁談が来るわけだが。
蓋を開けて、改めて知る駄犬の部分を見ると、一気に庇護対象や妹分にシフトチェンジをしてやっぱりとなる。
そうして、子どもからも最初は素敵なお姉さんみたいな扱いを受けるのだが、言動を見る内に幻想から醒めるのだ。
素朴な疑問とそんなことを言われている中で、皆が扉間を見た。扉間は平然とそれを眺めている。というか、あの程度でゆらいではイドラの夫などしていないのだ。というか、猫の勢力図についてはイドラからよく聞かされているため、気にもしない。
そんな中、千手の人間はそれに扉間を見た。
完全に、この意味不明っぷりをみればイドラは扉間の好みの範囲外だろう。けれど、事実、彼はなんだかんだでイドラにぞっこんだ。
(顔か。)
(そんなにドツボにはまるぐらい好みだったか。)
(いや、顔はいいよなあ。)
(これの息子だっていう広間も、イドラに似た顔が好きだったものなあ。)
(あーでも、うちはの人間の顔が好みなんはめっちゃわかる。)
「おい、何か失礼なことを考えているだろう!?」
「いや、やはり姉弟だなあと。」
千手の一人が扉間とアカリの顔を見比べた。
千手一族って面食いの傾向があるという話がそこに生まれたが、そんなことは関係ない。
「ふっ、だが、これで百年の恋も冷めただろう!イドラのあれを見て、嫌いにはならないが、恋愛対象から外れない人間はいなかった。」
さすがに意中の相手とは言え、満面の笑みで目の前でうんこをいじり倒せば恋も冷めるだろう。
そう思っていたマダラに札からまた声が聞こえる。
「なんて、純粋なんだ!」
感極まったテンチのそれにマダラを筆頭にしたうちはの人間が驚愕の顔をした。
「な、なんだと!?」
遠くに見えるテンチの顔は、うっとりと完全に恋い焦がれるときのそれだ。
「つ、つええ!なんて奴だ!あれだけのことをされてもまだ、持つのか?」
「完全に絶対的な強者にかけるような発言になっているな。」
「いや、にしても目の前でうんここねくり回す女を純粋の一言で片付けるのは強いだろう。」
なんて言っているとき、札から声がした。
「あの、イドラ姫。夫君のことなんだが。」
それに皆がごくりと息をのんだ。