千手扉間に責任を取って欲しいうちはイドラの話   作:藤猫

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感想、評価ありがとうございます。感想いただけましたらうれしいです。


後書きのあかりさんの話は本編には絡んでこないので気楽に読んでください。


初恋キラーの名前は伊達じゃない

 

がたんと、玄関の方で音がしたことに気づき、うちはイドラこと、千手イドラは目を輝かせて立ち上がった。

 

 

千手扉間にとって、今のところ、何よりも楽しみなのは家に帰る瞬間だ。

玄関を開けて、ゆっくりと上がりがまちに座れば、奥からぱたぱたと足音が聞こえてくる。その間抜けな印象を受ける足音に耳を傾けていると、ひょっこりと女が顔を出した。

 

「お帰りなさい、扉間様!」

 

にっこりと女は、扉間の帰宅に心の底から嬉しそうに微笑んだ。

 

想像してみて欲しい。

疲れて帰った家で、ぽけぽけの、駄犬の部類に入るとはいえころころのワンコロがめちゃくちゃに尻尾をぶん回しながら出迎えてくるのだ。

それだけで何か、疲れが消えていく気分になる。

イドラはそのまま扉間を出迎え、持ってきたタライに入れた水で男の足を洗った。

 

「今日のごっはんは、焼き魚でーす!」

 

廊下を歩きながら自分の周りをうろうろしながらそんなことを言うイドラの頭を適当に撫でると家に帰ったと思える。

 

玄関まで出迎えなんて、子どもでも出来ればなくなりますよ?

女ってのは、変わる生き物ですから・・・

 

そんなことを扉間と、結婚を控えた千手柱間に言ってきたのは同族の男達なのだが。

 

(これが変わるのなら、何を信じれば良いのか。)

「なんれしゅかあ?」

「いいや、何でも無い。それで、今日は何をしていたんだ?」

「今日はですねえ、うちはの方に行きました。」

 

扉間は現在、イドラをあぐらの上に乗せて彼女のほっぺたをもちもちしながら、一日の出来事を聞いていた。

夕食の後、軽く晩酌をしながらイドラの話を聞くのが扉間の家に帰れた日の日課だった。

膝の上に乗せるたびに思うのだが、イドラの頭身というか、体が縮んでいるように感じるのは気のせいだろうか?

この頃、妙なマスコット感が増している気がした。

 

「あ!」

 

イドラは己のほっぺたをいじくり回す手から一旦逃れた。

 

「そう言えば、扉間様、火影は誰になるんですか?」

 

それに扉間は少しだけ顔をしかめた。

 

ところでの話、ようやく里の名前と、そうして里の長の名前が決まった。

もちろん、名前は木の葉隠れの里と、火影だ。

それが決まったとき、イドラは心の底からほっとした。いつ、うっかり口に出さないかと己自身でどきどきしていたのだ。

その言葉に扉間は顔をしかめた。

 

「どうかされましたか?」

「・・・・誰になるかなんぞはっきりとは言えん。里の長はあくまで皆の総意によって決まるのだから。」

「そうですかー、なら、柱間様か、それとも兄様ですねえ。うーん、でも、柱間様を支持している人たちの方が勢力が大きいので、柱間様になるんでしょうか?」

 

のんびりとしたそれに扉間は顔をしかめた。

そうして、手慰みのようにまたイドラの頬をむいむいと揉んだ。

 

(こやつ、妙なところで鼻が利く。)

 

駄犬駄犬と言ってはいるが、妙なところで聡い部分がある。

そんな、下手をすれば失礼なことを夫が考えていることなど知らないイドラはどうなるんだろうなあと考える。

 

うちはマダラの人望ってどんなものなの?とイドラは問われれば、結構あると答えられた。

イズナも存命しており、イドラもおり、強行に戦を続けず、そうして同盟理由がイドラのやらかしのためマダラの精神は安定している。そうして、一族からの支持も健在だ。

不満が出そうなたびに、イドラのやらかしで話題がかっさらわれていくというのもあるのだが。

そうして、里内での評判というと、有名な一族については微妙なところだ。

千手一族におもねることには納得しても、秘密主義者で傲慢な気のあるうちはについては気に入らないという者が多い。

里の双璧、そう言えるうちはの立場を狙っている氏族も存在している。

が、そこまで名も売れていない、少数氏族からの支持はそこそこあったりする。

理由は簡単で、イドラが兄を売り込んでいるから。

 

新しい氏族がやってくると、千手アカリはどんな忍の一族でも挨拶に向かうようにしている。

彼女曰く、伝手というのはあればあるほどいいのだという。そう言った場にイドラはよく連れて行かれた。それは閉鎖的なうちはにいた彼女にも人脈が必要だろうというアカリの気遣いであり、そうして、警戒心を解くのにイドラはぴったりの人間だったからだ。

そう言った場で、イドラはよく兄の話をした。

 

「何かお困りごとがあったら、兄様を頼ってみてください!優しい方なので、きっと聞いてくださりますから!」

 

千手柱間は愛想も良く、人好きのする性格だが細やかな気遣いなど出来ない人間だ。そのため、どうにか彼とお近づきになりたい新参者がいても、有名氏族の人間たちが彼を独占していることが殆どだ。

そう言ったとき、気を遣うのがマダラだったりする。

 

大抵の忍はマダラの雰囲気に押される。プライドの高いうちはの人間として威圧的な空気を纏い、傲慢な振る舞いを好んでいるが、うちはという名字を聞けば目を見開く。

 

脳裏に浮ぶのは、わふんとにこにこ笑みを浮かべるわんころみたいな女である。

イドラの名を出せば、妹であると言われればさらにどこぞに住む狐のような顔になる。

 

え、本当にご兄弟で?あ、血も繋がっておられて。

 

茫然とするままに、千手と同盟のうちはだと挨拶をすれば、無視もすることなく普通に返してくれる。

何よりも、マダラという男は根っこの部分は繊細で、気を遣う人間だった。そのため、新しくやってくる氏族の家紋や名前などについてはしっかりと把握している。

律儀に、ああ、あのなんてかの有名なうちはに把握されているとなれば悪い気はしない。そうして、柱間にも挨拶をしたいだろうと有名氏族を蹴散らして挨拶をさせてくれるのだ。

 

え、結構優しい。

 

そんなこんなでマダラは複数の少数氏族からは慕われている。何よりも、マダラの好感度の上昇はイドラのおかげでもあった。

イドラは人なつっこい。警戒心も薄い。そのため、挨拶に行った先で仲良くなった女衆には会うたびに、あ、どこそこのと構って欲しい散歩中の犬並みに絡みに行くのだ。

 

千手に嫁いだうちはの姫君なんてどんな傲慢な女かと思えば、愛想に全振りしたイドラが出てくるのだ。

え、自分の事なんて覚えててくれたんですか!?と感動する者も多い。そのイドラの兄なのだから、マダラの名前も売れている。

何よりも、一番に柱間がマダラのことが大好きなのだ。

マダラ様って優しいですねえと言われるだけでテンション爆上がりで、そうぞ!マダラは優しいんぞ!!とにこにこ笑みの柱間が観測されているのだから、宣伝効果として抜群なのだ。

 

そんなこんなで、柱間とマダラの人気の割合は微妙だ。やはり、柱間を支持している人間の勢力が大きいため、このままなら柱間なのだろうなあとイドラは思っている。

ちなみに、マダラは火影の立場に関してあまり執着はしていない。他利的なそれは、望まれれば精一杯やり遂げると決めているだけだ。

 

(・・・・どうしたものか。)

 

正直言えば、扉間は悩んでいた。うちはを中核に入れてもいいのか。

扉間は己の腕の中に収まり、今日の出来事を語るイドラを見た。

 

(・・・・こやつの前例を考えて、本当に、それでいいのか?)

 

イドラが聞いていれば、思わずごもっともですと土下座する勢いだっただろう。

 

扉間は悩んでいた。もちろん、前例はイドラだけならば、それは彼女だけの性質かもしれない。けれど、うちはと関わって思ったのが、ちょっと思い込みがひどくないだろうかということだった。

扉間はうちはの人間のことを思い出した。

 

 

「扉間様、お疲れでしたね。」

「扉間様、こちら、もっていってください。」

「扉間様、うちのおひいさんがすみません。」

「扉間様、これもどうぞ!新婚ですから、こういったものも必要かと!」

 

手には、大量の荷物。それは、例えば魚の干物や、野菜に酒。そうして、反応に困る精の付きそうなものだ。

 

「扉間様、その、妻に提案したら受け入れてくれて。いいえ、やはり言い方とは大事ですね!」

「扉間様、その、握手をしていただけませんか?妻と喧嘩をしてしまって・・・」

「扉間様、音の遮断の結界、いいですね!周りを気にしなくて良くて。」

 

知らん知らん知らん!

何なんだ、慕うな、懐くな、自分に恋愛相談をしてくるな!

そう叫びたいが、イドラの夫だからとさすがにある程度の年齢の者はいいとしても、若い奴ほど扉間に懐きまくっている。

特に、扉間ほど情熱的にイドラのことを愛している人間はいないと慕ってくるのだ。

 

お前ら、思い込みがひどくないか?

いいや、千手もひどいと言えばひどいのだが。距離の詰め方がエグすぎるのだ。

偏執的な部分が垣間見える彼らは、冷静な判断が必要になる中核に置いていいのか?

 

悩むたびに、扉間はイドラのやらかしを思い浮かべて、ええんか、こいつの血縁だぞと思ってしまう。

いいえ、それが突然変異なだけですとマダラがいれば答えたことだろう。

 

(・・・いいや、姉者に叱られたばかりだったな。)

 

そんなことを考えていると、扉間は姉であるアカリにキツく言われたことを思い出した。

うちはをこのまま、中核に置くのか悩んでいた扉間に、アカリはキツくそれでいいのかと言ってきたことを思い出した。

ちらりと、己の腕の中のそれを見た。産まれてくるという息子の性格を思い出した。

 

(・・・所詮は、育たねば当人がどうあるのかなんぞわからんか。)

 

扉間はそのままイドラを抱え上げ、そうして、立ち上がった。

 

「?あれ、扉間様、どうかされましたか?」

「布団は敷いているのだろう?」

「はーい、今日はお布団を干したので、ふかふかに。」

「明日は午後から仕事に出るのでな。」

 

それにイドラの顔色が変わった。恐る恐る、扉間を見れば、男は嬉しそうに笑っていた。

 

「お前の一族からも、子どもを期待されているようでな。」

 

それにイドラはかちんと固まり、寝室に連れて行かれる。

慌てているイドラの顔に、扉間は笑みを深くした。

 

みいいいいいいいいいいいいいいいいい!

 

イドラの叫び声は、誰にも知られることなく消えていった。

 

 

 

(・・・たぶん、火影については、大名のほうから来る人の指示で最終的に決まるんでしょうねえ。)

 

その日、イドラは里の外れの森からの帰り道を走っていた。

というのも、彼女は余った時間を鍛錬に当てていた。それは体が鈍らないようにと言うのもあったが、何よりも。

 

(若干、太ってしまった!!)

 

もちろん、そんなことはない。イドラは細身の方であるが、元々スレンダーな体型のうちはの人間と比べると肉付きがいい。

 

「扉間は胸が好きだから、そのままで良いと思うが。」

 

なんてアカリも言ってくれる。が、それとこれとは別なのだ。やはり、好きな人にはいつだって綺麗に見て貰いたい程度の乙女心はあった。

逆に肉付きのいい千手一族からすると、アカリは細身だ。

イドラはせっせと走っていた。

 

(今日は、扉間様もお泊まりだから一人ですし。アカリ様とご飯食べましょうか?)

 

扉間は大名側の人間が来るからとまた忙しいことになっている。何でも、大名側の分家の人間が来るそうだ。

イドラもそれらが正確にいつ頃来るのかわからない。暗殺対策にと、情報は徹底的に隠されているのだ。

正式な訪問は火影が立ってからのことで、今回はどちらかというと非公式な部分になるのだ。

そのため、イドラも大名に会う予定はないため、のんびりと過ごしていた。

人の多い地区になって来れば、イドラに挨拶をしてくれる存在も出てくる。彼女はそれに挨拶をしていると、ふと、薄暗い路地が気になった。

 

(・・・なんだろう?)

 

イドラは何故か、その路地に入らねばならない気がして、ふらふらとそこに立ち入る。

普段ならば、入らないだろうそこを進むと、人影が見えた。

 

「おい、離せ、無礼者!」

「生意気を言いやがるちび助だな!?」

「どこのガキだ?」

「ガキだと!?」

「生意気なやつだな、痛い目見るか!?」

(・・・・これは。)

 

物陰に隠れて見つけたのは、十代前半ほどの少年に絡む複数の男だ。少年は仕立てのよさそうなものを纏っている。

 

(・・・うーん、やっぱり質のよくない人もいるなあ。全員をチェックって難しいものなあ。)

 

そんなことを考えつつ、イドラはともかく少年を助けねばと男達の前に姿を現した。

 

「あのお、すみません。子どもにそうやって絡むのはよくないと思います!」

 

突然現れたイドラにチンピラ達は目を丸くした。けれど、すぐにその瞳に下卑たものを混ぜた。

イドラは見た目だけならばか弱そうな、可憐な女なのだ。それ故に、男達はニタニタと笑って、イドラに手を伸ばした。

 

「なんだ、可愛い顔してるな。」

「こっちに来いよ。」

「おい、止めろ、私に絡んで・・・・」

 

少年が声を上げたとき、男が吹っ飛んだ。狭い路地裏の中で、器用に地面に叩きつけられて、男は茫然とする。男達や、そうして、少年の様子など気にもとめずにイドラは後悔した。

 

(・・・やっぱり、なめられた!そんなに、私って威厳がないんでしょうか?これでもうちはなのに。)

 

イドラは心の内の柴犬をしょもりとさせながら、気を取り直した。こういったときは、兄のまねをするのが一番なのだと。

 

「・・・・身のほど知らずが。」

 

低い声と、微かな殺気。そうして、冷たく相手を見下し、そうして、美しく傲慢に女はそれへ吐き捨てた。

 

「無礼者が、誰に触れようとしているのだ?」

 

思わず頭を垂れてしまうような、威圧感をイドラは放つ。内心で、兄様みたいにと呪文のように繰り返していた。

それに男達は脱兎のごとく逃げ出していく。

 

「・・・ふう。」

 

イドラは息を吐きながら、男達を見送った。

 

(よかったあああ、逃げ出してくれて。このままだったら、痛い目にあってもらわなくちゃいけないし。)

 

ほっとしながらイドラは腰を抜かした少年に振り返った。そうして、イドラはいつものように微笑んだ。

先ほど纏った、氷のように冷たく、焔のような殺気を消し去って、これ以上無いほどに可憐に、優しげに微笑んだ。

 

「君、おけがはありませんか?」

 

にっこりと、微笑むその様はまるで花が咲くかのようだった。そうだ、氷が溶けて、春の訪れを告げる花のようにイドラは微笑んで見せた。それに子どもは顔を真っ赤にして、叫んだ。

 

「も、問題ない!」

「そうですか?それならよかった。送っていきますよ。」

「あ、ああ。すまない!にしても、強いのだな。くのいちの方だろうか?」

「はーい、そうですよお。」

「そ、そうか。その、くのいちとはこう、思っていたのとは違って、可憐と、言うか。」

 

イドラは子どもに熱心に見つめられて首を傾げた。そうしていると、少年は慌てているのか、持っていた扇子を広げて、ぱたぱたと自分を仰ぐ。

その扇子の柄に、イドラは固まった。

何故って、簡単だ。

それは、今回やってくることになっている大名家の家紋だったのだ。

 

 




「扉間、お前、うちはに中核から閉め出すなんて考えてないか?」
「はあ?何を突然・・・」
「大名の警備案見てたらわかる。このまま、警備関係でうちはを囲うことも考えてるだろう?」

それに扉間は図星を指された気分でアカリを見た。彼女はじっと、扉間を見ていた。
執務室に残っているのは、アカリと扉間だけだ。
扉間は、いつだってその赤い瞳を見ると落ち着かなくなる。恐ろしいとかではなくて、何か、アカリというそれが自分の全てを知っているのではないかと思えてしまうのだ。

「・・・・うちはの人間に偏執的な部分があるのは、姉者とてわかっているだろう。兄者からの和平の話をどれだけはねのけた?そのために、幾人死んだ?それとも、マダラにほだされたか?」
「お前、ほだされた云々は、絶対お前が使っちゃダメだろう。」

それについてはぐうの音も出ずに、扉間はそっと視線をそらした。アカリは軽く息を吐き、そうして肩をすくめた。

「まあ、お前にこんなことを言うのは、単純に、お前にむかついてるからだからな。」
「よく、堂々と言えるな・・・」
「まあ、理論面で言ってもお前に叩き潰されるから、感情面で言った方がまだましだからな。」

扉間はそれに苦虫を噛みつぶしたかのような顔になる。
そういった所が、本当に苦手だ。あけすけのない、真っ正面からぶつかってくるのだ。扉間は、真っ正面からぶつかれてその姉に勝てたことがない。
柱間はまだいい。彼は扉間の理性を信頼している。だからこそ、彼の言い分に対して弾いてくれる。
だが、アカリは違う。彼女はどこまでも。

「お前の、自分は絶対に間違えないという態度が気に食わん。」

扉間が人間であると認識しすぎているのだ。

「・・・・姉者、ワシは。」
「別に、お前が私怨を優先するなんて考えてはない。でもな、私はやっぱり、自分だけは私怨に振り回されず、正しい判断をするって思ってるお前のことが嫌だと思う。うちはも千手も何が違う。所詮は、子どもが死なぬ世界をなんて望みながら、人殺し家業を辞められん気狂いぞ。」

切り捨てられたそれに、扉間はアカリを見た。彼女は変わること無く、無表情のまま、凪いだ瞳で扉間を見ていた。それに扉間は黙り込む。
兄の、それとは違う。けれど、その、見透かすような瞳は、いつだって扉間の口を閉ざさせた。

「・・・・力を持たねば、我らは食い潰されるだけだ。」
「ああ、そうだな。血継限界なんてものも、下手をすれば権力者に食い潰されるだけだからな。でも、お前は人間ってものを信じすぎているだろう。」

なあと、アカリは扉間を見た。
賢しい弟は、合理的な思考を好むくせに、どこかで人が善き者であると信じている。
彼の兄がそうさせてしまったのだ。彼の兄の善性に、扉間はどこかで人が争うことを嫌なのだと信じている。
そんなわけないと、アカリは思っている。
扉間がどれだけ、里を守ることを祈っても、きっと、誰かがそれをねじ曲げるのだと、あかりは思っていた。
その女は、どこまでも、人というそれを信じていなかった。

「千手一族が台頭している今はいい。だがな、柱間の子が、あれほどの影響力を持つかはわからない。なら、うちはを中核から離したとしよう。後釜を狙う馬鹿で内乱でも起きるんじゃないか?」
「そのようなことにならんために、教育を施すんだ。その里のために、足掻く者を!」
「人は自分に都合のいいものを見たがるものだ。思考を植え付けたとして、それをどうねじ曲げるかは当人次第だ。この里は、千手とうちはの同盟によって作られた。そのうちはを中核から離せば、憶測を呼ぶ。うちはを、千手は疎うていると。いいや、いいな、そうすればうちはは、不満をぶつける贄にでもなるか?」
「姉者、言葉が過ぎる!」

扉間のそれに、アカリはゆっくりと目を細めた。なあと、アカリは楽しそうに言葉を吐いた。

「私は、本来ならお前の従姉だ。お前は覚えていないだろうが、私にも、兄と弟がいた。なあ、扉間、私の兄と弟がどうやって死に、そうして、父の末路を知っているだろう?」

それに扉間は黙り込んだ。

「・・・閉鎖されていれば、鬱憤をぶつける存在がいた方が楽だ。だが、それが当たり前になったとき、どうする?楽だろう。けど、贄に憎しみをぶつけ続け、その贄が壊れたとき、人はまた新しい贄を求めるだろうな。」

なあ、扉間よ。

アカリは静かに微笑んだ。

「この里が、蠱毒にならないことを祈っているよ。」

それだけだと、アカリは静かに言った。
その女は、美しいものが好きだ。けれど、それだけだ。それ故に、醜いものが嫌いだ。
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