今のところ、子どもになる話と犬になる話を考えてます。
ケツが痛い。
千手イドラこと、うちはイドラはその日庭の掃除をしながらそんなことを考えていた。
(・・・・薬、ぬった方が良いんでしょうか?)
イドラはそんなことを考えながらケツをさすった。
隠し子事件については無事に収束した。
ことの発端である波風ウミは、泣きながらイドラに謝罪をした。
「お金が欲しかったんです!」
事の発端は、ウミの夫が亡くなったことがきっかけだったそうだ。元々、彼女は忍の一族とはまったく関係の無い出自なのだという。
「・・・夫は忍であったそうですが、どこの一族かは知りません。私は元々、身内はおらず、怪我をした夫を助けたのが出会いでした。」
そのまま二人は慎ましく暮らしていたそうだが、夫は用があると言って出かけ、そうして亡くなったのだという。
「この里に来たのは、夫の死を知らせてくださった商人の方の口利きでした。」
これからこの里はきっと栄えていくだろうから、仕事の一つぐらいは探すことが出来るだろうと。
「ですが、身重の女を雇うのは難しいと言われて。途方に暮れていたとき、話しかけてきてくださった方がいて。」
その男は女の話に耳を傾けてくれたわけだが、冗談交じりにこんな話をしてくれたそうだ。
この里を作った千手一族の頭領の弟は今は妻を相当に溺愛しているが、過去には遊んでいたらしい。その妻は温和で有名だから、腹の子を偽れば金ぐらいは恵んでくれるやもしれんぞ?
それに話を聞いた、千手柱間に扉間、そうしてうちはマダラとイズナは頭を抱えた。
ウミは言ってしまえば、当分の生活費をだまし取れないかという貧困が理由でそんなことをしでかしたわけだ。
「・・・・怒りを買うことは予想できなかったのか?」
マダラのそれにウミは平伏して、ひたすら謝罪を繰り返した。
「申し訳ありません!何故か、その時は、それだとしか考えられず。帰ってこられた奥様にそのようなことを!」
その時、マダラは頭を抱えた。
イドラという妹は、昔から子どもについてひどく執着が強かった。一族の人間に子が出来れば、自ら率先し家のことを手伝ってやったり、出産の手伝いをしていた。何か気づけば、己の懐から金も出していた。
そんなイドラの前に、哀れな妊婦を出せばどうなるか。
だからといって、まさかこんなことになるなんて思わなかったのもある。
ウミの話から、金の無心をする前にイドラは女の世話を焼き始めたという。
「怖くて、何も言えなくて!」
それにその場にいた人間は少しだけ女に同情した。
設定上とはいえ、間女の立場のウミからすれば、イドラの行動はさぞかし恐ろしかっただろう。
「・・・そのまま家に留まったのは何故だ?ばれればどうなるか、わかっていただろう?」
「楽しみだと、言ってくださったのです。」
夫が亡くなり、誰も頼るものもなく、一時は腹に抱えたこの子を疎ましく思っていた女に、イドラは言ったのだ。
楽しみだと、早く産まれてこないかと、まるで我がことのように労ってくれた。
「その優しさに、縋ってしまいました。」
女はさめざめと泣き、そう言った。
(結局、ウミ様を里に入れた商人が企んだことだったんですよね。)
イドラはそのことを思い出しながら、尻をさすった。ひりひりする。
里が出来るのを嫌がっているのは、同業の忍に、千手やうちはを雇えなくなるのが嫌な大名に加えて、一部の商人達もそうだ。
里というシステムが出来ることでやはり、明らかに戦の回数が減っている。そうして、忍の一族同士で売りつける数などを制限してもうけを出しているような商人は里が出来ることを非常に嫌がっていたようだ。
身寄りがおらず、そうして、暗示にかかりやすい一般人のウミは彼らにとって丁度良い贄だったのだろう。
今回の里の象徴である扉間とイドラの婚姻にケチが付けば、勝手に瓦解してくれるだろうと。
うちは一族の出だというイドラならば勝手に悋気を起こすだろうと予想していたのだろう。
残念ながら、結果はだいぶ斜め上のことになった。
(まあ、ウミ様が千手で保護されてたのは本当に良かった。)
波風ウミは、結局千手一族での保護となった。今回のことの証人であることに加えて、彼女の行動は暗示でのそれであると情状酌量が与えられることとなった。
(赤ちゃんが生まれたら、見に行こう!)
るんるん気分のイドラであるが、諸諸の出来事の後、どうなったのかというとめちゃくちゃに怒られた。
「腹に子を抱えた女を哀れに思うのはわかる。お前はそういう子だからな。だが、それをろくに報告もなく保護し、おまけに鵜呑みにするなんて何を考えている!?」
久方ぶりの兄の説教はイドラに効いた。
末に産まれる波風ミナトの存在に扉間と関わりを感じていたが故の行動だが、そんなことを話せるはずもない。
おまけにアカリにまで怒られたのだから、イドラは青菜に塩というレベルではないへこみ方をしていた。
(・・・・扉間様も怒ってられるのかなあ。)
イドラはしょんもりしながら、傷む尻をさすった。
イドラが、扉間に好きにならないようにする努力について話さなかったのは、偏に彼がまたそれによってうちはを嫌厭するのではないのかと危惧していたためだ。
情によって引きずられて、まともな判断の出来ない一族と思われたら、あの悲劇がまた繰り返されるようで恐ろしかった。
イドラは、あまりにも素直に話しすぎたかと後悔した。
何よりも、とイドラは思う。
(・・・請えば、愛をくださるとわかっていても、それでは嫌だと思うのは我が儘でしょうか?)
扉間は婚姻したのだからと、欲しいと言えば愛をくれるだろう。
けれど、本音を言うのならイドラは義理ではなくて、本命が欲しいのだと。
(いえ、そりゃあ、私並みに惚れて欲しいとか我が儘は言いません。でも、こう、もうちょっと。)
我が儘を言うのなら、イドラは扉間にだって自分を好きになって欲しい。いわゆる、恋をして欲しいのだ。
好きになれば、成るほどに強欲になっていく己をイドラは恥じていた。
(扉間様には十分な慈悲をいただいているのに。こんな、恥ずべきだ。)
自分を見て可愛いとか綺麗とか思って欲しいし、好きとか言葉だって欲しい。が、そこら辺はイドラは諦めていた。
おそらく、扉間はそういったことを期待しない方が良いタイプだと、イドラにだってわかっている。
(・・・・性欲を抱ける程度には範疇には入れてるんですよね?でも、そう言った部分と、惚れた腫れたは違うでしょうし。)
イドラには悲しいかな、恋愛経験は皆無だ。
可愛いとかよく言われたが、そんなものは末っ子はなんだって可愛い現象と同じだろう。
それに比べて扉間は聞いた限りである程度そう言った駆け引きの経験もあるようだ。
何よりも、扉間はかっこいいのだとイドラは思っている。
初雪のような白い髪は綺麗で、切れ長の瞳はとてもかっこいい。それで頭も良くて情熱的ってものすごく魅力的ではないだろうか?
そんな思考を彼の姉貴分であるアカリが知れば鼻で笑ったことだろう。
イドラよ、扉間は単に顔が厳ついだけだし、頭は良いだろうが合理的すぎて女を泣かせるやな奴だぞ?
が、そんなことを知らないイドラはため息を吐いた。
(夫婦としての在り方に甘んじられるだけ、ありがたいと思った方がいいですよねえ。これ以上我が儘にならないように頑張らないと。何より、扉間様、怒ってられるんだろうなあ。)
イドラはそっと、痛む尻をさすった。
イドラはマダラに加えて、彼にも相当に叱られた。が、それ以外に、洞窟でのことを言及してくることはなかった。
ただ、閨での出来事なのだが、なぜかよく尻を叩かれる。そうして、やたらと噛んでくる。おかげでイドラの見えない部分には気持ちが悪いほどに歯形が付いている。
イドラはそれに、怒っているんだろうなあと思っている。
扉間はイドラが耐えきれずに半泣きになっているときに限って、楽しそうに笑うのだ。そうして、笑いを喉の奥で押し殺して囁くのだ。
「どうした、嫌いになったか?」
そんなことを言われれば、イドラにはいなんて選択肢はない。何よりも、それで頷いて嫌われることの方が恐ろしいために、嫌いじゃないですと、好きですというのだ。
そうすると、扉間は楽しそうにくっくと悪役のように笑うのだ。
「そうか、好きか。」
そう言って痛いことを継続するのだ。
(閨では、尻を叩くのは普通なんでしょうか?)
イドラはそんな疑問が頭を擡げるが、正直、周りに聞くわけにはいかない。さすがに、今度こそ学習したイドラはそれを聞いて勘違いが起こることは明白だった。
それ故に、疑問を抱えたままにしているのだが。
ただ、こういったことで痛いことはするものではないはずだ。それ故に、イドラはきっと扉間は怒っていて、自分に仕置きをしているのだろうなあと思っている。
それならば、イドラはそれに甘んじるだけだ。
(・・・それはそれとして、お尻が痛いなあ。)
イドラはすんとしながら、そっと己の尻をさすった。そうして、欠伸をする。
(・・・にしても、眠いなあ。夢見が悪いんだもんなあ。)
イドラは昨夜見た夢を思い出した。
誰かが泣いている夢だ。誰かが名を呼んで、そうして、泣き続けている。その名前を、イドラは未だに聞き取ることが出来ていなかった。
「・・・・扉間、この頃艶々しとるの。」
柱間のそれに扉間はああと顔を上げた。現在、部屋にいるのは柱間と扉間だけだった。
「この頃、兄者がいなくならずに仕事がすぐに終るのでな。」
「・・・わかっている。真面目にするから、姉上とマダラをけしかけるのはやめてくれ。」
柱間はこの世で一番、精神的に勝てない二人組を想像して息を吐いた。
現在、うちはの二人は席を立っていた。
というのも、近々、大名側の人間が視察に来ることになっているのだ。そのため、警備の関係でうちはが中心になることになっている。彼らは、それに置いての選りすぐりの人間を選出するために席を立っていた。
現在、里の形になっていると言っても、他の氏族とのやりとりに関してしっかりとした指揮系統が出来ていないため、うちはと千手で仕事を回しているのが現状だ。
(さっさと、指示系統を作らねば、過労死するわ。)
そうは言いつつも、扉間の肌は確かに潤っていた。
扉間は少しだけ、というのも変だが、正直に言えばるんるんだった。
(なんだ、イドラの奴、相当ワシのことが好きなのだな。)
それのために、扉間は内心ですごぶるご機嫌だった。
散々に、浮気OKだとか、自分のことを振り回して、散々なことをしてきた女は扉間にはちゃめちゃに惚れていたわけだ。なんだ、可愛いところもあるじゃないか。
千手の人間は多情の気がある。世継ぎの件もあって、妻を何人か持つ人間もいる。特に、柱間たちの祖父母の代はなんでも木遁使いを生み出したいと切望していた人間がおり、そこら辺がしっちゃかめっちゃかだったらしい。
そのため、扉間はちらほら、不貞の話も聞いた覚えがあった。
他の氏族から嫁いできた人間も入り乱れて、子どもが聞くにはいささか酷い話もあった。
それに、扉間は心底、結婚などするものではないと感じた。
弟たちのこともあり、子は好きだ。
けれど、妻を迎えることに関して面倒だった。
姉であるアカリのような、良くも悪くもばっさりと割り切った女は珍しい方だ。
己の母は不貞とは無縁だったが、それはそれとして男女の面倒くささには辟易していた。
結婚はいい。面倒くさそうだ。
何よりも、感情一つで破綻する可能性を秘めた契約なんてごめんだと。
それ故に、イドラとの結婚も、はめられたという部分に加えて、こんな不確かな契約をしなければいけないことが腹立たしかった。
けれど、蓋を開ければどうだろうか。
美しい女は、己の容姿を鼻にかけているものが多かった。
だが、イドラを見てみろ。こんなに愛らしく、美しく、そうして血筋も良いのに。何をどう間違えたのか、中身は見事に駄犬の一言に過ぎた。
から回って、懐いて、騒がしく。
そんなものだと思っていたのに、扉間はイドラのそのどろどろとした、愛の形を知ってしまった。
なんだよ、お前、めちゃくちゃに自分のことが好きじゃねえか。
そんな言葉で収めてしまっていい重さなのかはさておいて。
扉間は、その愛に悪い笑みを浮かべてしまうのだ。
美しい女なのだ、話せばどんな無愛想な人間でさえも、笑みを浮かべて懐に入り込むそれは頑張れば国だって傾けていたかもしれない。
いいや、すでに一人散々な目に遭っているのだが。
重いと思う、破滅の匂いがする愛なのだ。けれど、そんな重い愛を抱えてなお、それはどこまでも恋や愛の駆け引きなんて皆無であるらしい初心さなのだ。
例えば、扉間が何をしても、普通だと言えば素直に頷いてしまうところとか。
あれから、無言で貫いている扉間の周りを、怒ってる?怒ってる?と不安そうな顔でうろつくのを楽しんでいる自分がいる。
特に、何をしても、好きですと涙を浮かべるそれの顔を見るのが楽しくてたまらない。散々に振り回されているという自負があればあるほどに、それを翻弄できることが楽しくてたまらない。
が、扉間は悪びれない。というか、そこまで重く愛されているのならば、それを利用するぐらいのことは考える。
(・・・話をせねばな。)
沈黙を貫き、それがくーんと纏わり付くのを楽しんでいる場合ではないと扉間は正気に戻った。
いいや、楽しいが、そろそろ話をしなくてはいけない。
イドラのそれが本音であるのなら、扉間もまた己のなす事の話をしなくてはと。
「・・・兄者、そろそろ書類は出来たのか?」
扉間は思考を切り替えて、今行うべき事を進めた。
そうして、大名側の人間が視察に来たわけだが。
「それでは、イドラ殿行きましょうか!」
「ええっと、はい?」
物陰に隠れて見つめるのは、着飾ったイドラと、そうして、やたらと爽やかな存在だった。
「すげえ、爽やか。」
「扉間とは違うタイプぞ。」
「忍じゃ出せねえ爽やかさだな。」
「ええい、黙れ!」
扉間は外野にそう怒鳴りながら頭を抱えた。何故、自分はイドラと男のデートを許さねばならないのだと。