千手扉間に責任を取って欲しいうちはイドラの話   作:藤猫

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感想、評価、ありがとうございます。感想いただけましたらうれしいです。

なにか、いろいろとすみません。


イドラの情

 

「扉間様!?」

 

驚いた声を上げたイドラに扉間は頭を抱えた。彼がいるのは、木の葉の里の、さらに外の洞窟の中だ。

何かあったときの避難用にと考えていた洞窟の中だ。

腕の中のイドラがじたばたとするが、それを扉間は精神安定剤のようにそれを抱えた。

やってしまったと彼自身が思う。

 

(完全に、外で女を作ったことがばれて逃げ出したことになっている!)

 

言い訳をすれば良かった!

扉間は非常に後悔していた。いや、姉である千手アカリにびびりまくった己が悪い。

 

(何があっても、言い訳程度は聞いてくれたはずだ!あの女の腹の出具合からして、すでにイドラとの婚姻は決まっていた。そんなときに争いのタネをまくほど、ワシが愚かでないことぐらいは理解しているはず!)

 

何せ、母親代わりの女だ。ある程度の証拠を示せば、こちらの話を聞いてくれたはずだ。

けれど、逃げ出したせいで、完全にその体をなしてしまっている。

 

「扉間様?」

 

きょとりと自分を見上げるそれに扉間はとうとう怒りを爆発させた。

 

「愚か者が!!何故、あの女を家に招き入れている!?」

「え??でも、扉間様の子を孕んでいると、それに波風だし・・・」

「馬鹿者が!あの女の腹の大きさを見ろ!あの頃には貴様との婚姻は決まっておった!不和の元凶をばらまくほど、貴様の夫は愚かか!?」

 

それにイドラは目を丸くした。そうして、言った。

 

「覚えは、ないのですか!?」

「あるかあ!!さすがに関係を持った女で、あれだけ派手な女がおれば覚えもあるわ!」

 

イドラはそれに目を丸くして、そうして、ぐずぐずと泣き出した。扉間はそれにぎょっとするが、当人はその場に、地面にひれ伏して泣き出した。

 

「と。」

「と?」

「扉間ざまのあかちゃんいないの!?」

 

えーんと、泣いているそれが本当にわからなかった。いいや、最初から理解など出来ていないが、そこで泣くのかと扉間は茫然とする。

 

「扉間さまのあかちゃん!」

「ええい、何故それでお前が泣くんだ!」

 

扉間は困り果ててイドラの体を起こした。脇の下に手を入れて、幼子のように抱き上げれば、それは本当にぐずぐずと泣いていた。

幼児並の号泣っぷりに扉間はうわあと呆れた顔をした。

 

「だってえ、扉間さまの赤ちゃんに会えるってえ・・・・」

「ええい!これからいくらでも産ませてやるわ!それよりも、お前は何を考えているんだ!身元もわかっていない女を信用して家に上げるなど。」

「不審なことをしても、あの人のこと拘束したり、屈服させるぐらいは出来る程度の実力差はありましたもん!」

「なんでそんなところで変に脳筋なんだ!?どうして、すぐに皆に相談しなかった!?」

「だってえ、そんな人が来たって言ったら、扉間様、うちはの人に殺されちゃうって・・・」

 

言わんとしていること自体は理解できるのが辛いところだ。扉間はぶらんとぶら下がった、涙と鼻水をぐずぐずさせた女を見る。

扉間はこれからどうすると頭を抱えながら、現実逃避のように呟いた。

 

「お前は、ワシのことが嫌いなのか?」

 

それにうえ?と自分を見つめるイドラに、扉間はため息を吐いた。

それは自分のことが好きなのだと、扉間は確信している。そうでなければ、今までの諸諸のそれに説明が付かないだろう?

 

それが、恋だとか、甘ったるい感情であるのかわからないが、扉間はその女が自分を好きであることに疑いを持っていなかった。

そうでなければ、あんな態度とか、自分に寄ってきてぽけぽけ笑って、好き好きオーラをばらまくことなどないだろう?

 

それにイドラは少しだけ困った顔をして、首を傾げた。

 

「なんだ、答えられないのか?」

「・・・・いいえ。答えられないわけではないんですが。でも、これ、扉間様に言ったら、こう、意味が無いというか。扉間様には隠しておきたいというか。」

 

それに扉間は眉間に青筋を立ててイドラを下ろして、ほっぺたをまた引っ張る。

 

「ほおおおおおお!今、現在!ワシに散々に迷惑をかけておいてよく言えたなあ?」

「うえええええええええ!ごめんなざい!」

 

いつも通りほっぺたをもちもちとした後、イドラはほっぺたをさすりながら扉間を見て観念したような顔をした。

 

「いえ、扉間様、私、あのですねえ。」

「なんだ!」

「扉間様と結婚できて、すごく嬉しいと思っています!ええ、もう、やったぜと思える程度に!色々とご迷惑をかけてる現在も、よくしてくれているのですし!」

 

でも、と。

イドラはなんとも言えない顔で扉間を見た。

 

「扉間様を好きになればなるほどに、恐ろしいのです。いつか、あなたは里を優先して、選択をして。その選択肢の中に、あなた自身が入っていたとき、どうすればいいのだろうと。」

 

扉間は思わず固まって、その黒い瞳を見た。

普段の、ぼけっとしたそれからは考えられないような、静かな声だった。ひどく、凪いだ目だった。

 

「それほどのことが・・・・」

「ありますよー、あるときも、あるでしょう。可能性はあるのでしょう?それで、それで、あなたがいなくなって、あなたのいない里で、兄様も、イズナも、一族のものだっていて。もう、子どもの葬式も、上げることだってそうそうないって。私、この里が出来て、本当に嬉しくて!」

なのに、と女はひどく老いた、生き疲れたような顔で扉間を見上げた。

 

「私、あなたがいなくなった里を、愛していられるのか、わからないのです。」

 

イドラは掠れた声でそう言った。

見上げた先の、その男は、ひどく困惑した顔をしていた。それに、イドラは話さない方がよかったのかと、ぼんやりと思った。

 

 

兄が好きだった。

兄弟の中で、一等に、兄のことが好きだった。それが何故かはわからない。ただ、漠然とイズナの手前それを言うことはなかったけれど、兄のことが一等に好きだった。

不器用で、優しくて、他人の願いを優先して黙り込んでばかりの兄が好きだった。

幸せになって欲しかった。

だから、未来が見えたとき、扉間には散々に迷惑をかけてしまったけれど、なんとかなったときはほっとした。

 

扉間にできるだけ、誠実に、真摯であろう。

男の性格は知っていた。

合理的で、そのくせ人が好きな、優しい男だ。嫌いになる理由はない。なによりも、自分がいなくなっても泣かないでくれる。

 

愛したものを亡くした人間が、崩れ落ちる瞬間を知っている。

個人主義で、自分の強さに固執している己の血筋は、そのくせ、自分だけで良いとうそぶきながらどうしようもなく誰かを愛していた。

そうして、その人間を亡くしたとき、崩れ落ちる瞬間を知っている。

 

イドラはいい。だって、彼女の愛している人たちは誰よりも強くて、きっと戦場で彼らを殺せる人間は少数だ。そうして、その殺せる人間ととっくに手を繋いでいる。

だから、いい。

イドラは、自分が死ぬのだって納得できると思っている。

イズナにはマダラがいて、マダラにはイズナがいる。愛しい誰かが死ぬぐらいなら、自分が死んだ方がましで。

 

なのに、なのに、今になって、その順位が塗り替えられようとしている己に愕然とした。

 

扉間が好きだ。

きっと、自分が死んでも彼は変わらず歩いて行くから。振り返ってもくれないかもしれないけれど、此岸に立ちながら死んだように過ごすこともないだろう。

ああ、よかったと、そう思って。

そんな彼だから、思う存分愛せることが嬉しかった。どれだけ愛を注いでも、きっと彼は変わらないから。

だから、嬉しくて。優しい扉間が好きだ。

自分が散々に引っかき回したそれらを前にしても、自分に優しくしてくれる彼が好きだ。

けれど、ふと、気づくのだ。

 

男の在り方を知っている。彼は、命の使い方を最初から決めていて、そうして、彼を失ったとき、自分はどうするのだろうか?

 

扉間が死ぬなんてあり得ない?

いいや、筋書は変わっている。ならば、自分の予想がつかない、圧倒的なイレギュラーもまたあるかもしれない。

もしも、里のために、扉間が死んだとき、自分は、自分は、どんな選択肢をするのだろうか?

 

肥大した、己の愛が恐ろしかった。

 

兄も、イズナも、死んだときについて考えて、耐えられなければ死ねば良いと安直に考えていた。二人がいない世界に興味は無かった。

なのに、扉間が死んだときを考えて、その時、自分は彼を奪った何かを憎んでしまいそうで。

それが、恐ろしかった。

 

「・・・・扉間様は、己の死ぬときの選択を間違えないでしょう?ええ、それでいいのです。私だって、もしも、その選択肢が来たとき、命ぐらいならば捧げましょう。それは、いつかに、私たち大人が決断に踏み込めず、死んでいった子どもたちへの罪滅ぼしです。ああ、でも、私、恨めしいと思ってしまって。」

 

あなたに選ばれる里が、恨めしいなどと、思ってしまって。

 

女は、華やかに微笑んだ。まるで、一目見れば恋でもしてしまいそうなほどに、愛らしく笑って見せたのだ。

扉間はじっとイドラを見た。それは、いつだって、何も考えていないと呆れた女の口から漏れ出るには全てが乖離しているように思えた。

いつも通り、人の心を緩ませる笑みのまま、それは笑っている。

扉間のそれに、イドラはそっと、男の顔に無遠慮に触れた。

 

「好きよ、ええ、本当に。好きよ。」

 

甘い声は、あまりにも脳髄を解かしそうなものだった。イドラは扉間の腰に手を回して、まるで甘えるようにその胸にすり寄った。

 

「扉間様に頭を撫でて貰うと、弾むぐらいに嬉しくて。抱きしめられると、ずっとそこにいたいと思えて。く、口づけされると、なんというか、ぐずぐずに溶けてしまいそうなほどで。」

 

えへへへと笑うその様は本当に愛らしいのだ。愛らしい、幼子のような無邪気さと、そうして、扉間の胸にすり寄るその様は喉が鳴るほどに艶かな何かを秘めている。

 

イドラはそっと、扉間から体を離した。

 

「だから、頑張ってこれ以上好きにならないようにしようと思うんです!だって、こんなこと、里の人間としてはあまりにも間違っているんですもん。扉間様は優しいから、請えば愛してくださるでしょう?でも、それで、その愛を得てしまえば、亡くしたときが恐ろしい。」

 

そんなことを、その女は言うのだ。恋していると、惚れているのと、愛していると、全てを持って囁いている女がそう言って笑うのだ。

 

「・・・・本当は、ウミ様のことだって、もしかしたらってちょっとは思ってて。いいえ、子どもがいるって事でいろいろ振り切ってたんですけど。」

「お前、なら、何故・・・・」

「だって、扉間様には好きな人がいるって、自分以外に奥さんがいるって思ったら、好きって気持ちが薄くなるかと。」

ええ、酷いことなのです。本当は、妬ましいなどと、思わぬ訳ではなかったのです。でも、でも、その妬ましさは、扉間様を疑う心は私を正気にしてくれると思って。

 

「おい、イドラ・・・」

「戻るんです。ちゃんと、戻らないと。私は、兄様と、イズナが大丈夫ならそれだけで満足で。幼い子どもの葬式だって、出さなくていいのだと、救われて。」

 

イドラはぼんやりと宙を見た。そうして、囁いた。それに、扉間は顔をしかめた。

 

インドラが、幸せならば、それだけで。

 

聞き慣れないそれに、扉間はイドラに声をかける。

 

「イドラ・・・?」

「ああああああ!いた!」

 

扉間とイドラはそれに声の方を見た。そうして、ばっと、そちらを見ると、そこにはイズナがひょっこりと顔を出していた。

扉間はとっさにまた逃げるかと体を硬くしたが、それよりも先にイズナが声をかける。

 

「あ、大丈夫だよ!あの女については誤解だってわかってるから!」

「どういうことだ?」

 

扉間のそれにイズナがてってってと近寄る。

 

「アカリ姫から聞いたけど、さすがに可笑しくないってことで、女に幻術かけて話を聞いたんだよ。まあ、それで女の虚言ってわかったからさ。」

「ほら、みろ!」

「う、ウミ様は!?」

「・・・それについては大丈夫だよ。女にも暗示がかけられてたみたいでさ。保護してる。」

「暗示?」

 

扉間が問い返せば、イズナは頷いた

 

「そ、その件でどーも、裏にいた奴のことで話し合いが増えたから。さっさと帰るよ。」

 

くいっと洞窟の出入り口を指し示したイズナは被せるように言った。

 

「あと、姉さん、兄さんからの説教があるからね?」

 

それにイドラはえーんと泣いて、しょんぼりとした。自業自得なので仕方が無いのだが。

 

「ともかく、一族の人間も引っ張り出したんだから早くしないと。」

「待て、どう言ってうちはを引っ張り出したんだ!?」

「扉間の奴に仕事させすぎて、久しぶりに会った姉さんといちゃつきたいって脱走したって。」

「大事故起こしとるじゃないか!?」

「まあ、姉さんのことを抱えて走ってるお前が目撃されてるから仕方が無いじゃん?」

 

ともかく帰るよと言ったイズナについて行きながら、ひんと泣いているイドラを扉間は見た。

インドラというそれが誰であるのかと、聞きそびれた事を考えた。

 




湿った感情を書くのは楽しいです。
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