次は番外編になります。
「ワシは何もしとらんぞ!?」
今日も今日とて、本当に何もしていない扉間はそう叫んだ。
(・・・・これは、おそらく、いつもの!)
千手扉間はちらりとぐずぐずと泣きながら、おやめくださいと情けなく縋っているイドラを見た。
扉間は確信した。
これはいつものだ、いつもの、あの駄犬が何かをやらかしたのだと確信した。
ならば誤解を解くために動くか?
そんなことを思うが、目の前には己の介錯のために刀を携えた千手アカリがギラつく瞳で自分を見ている現状に察した。このままではやられると。
扉間は咄嗟に逃げるように足を動かしかけた。が、それに気づいたアカリが叫んだ。
「柱間ぁ!!」
「兄者!」
二人に呼ばれた柱間は一瞬動きを止めるが、彼はすぐに決断した。
彼は印を組み、扉間の体は樹木によって拘束された。
「兄者!!」
扉間のそれに柱間はそっと合掌した。
最強と名高い彼も、恐ろしい物は存在した。彼はアカリに怒られるのが本当に怖かった。
「柱間、おい!弟のことを見捨てんのか!?」
「姉がおらんマダラにはわからん!よいか、弟という存在にとって姉がどれほど恐ろしいのか!」
「姉さん!」
うちはイズナだけはなぜか千手アカリの腰にしがみついて泣いている姉に歩き寄った。
「ちょっと、何してんの!もう、姉さんもどうしたの?」
「イズナあ!お願い、アカリ様のこと、とめてくださいいいいいい!」
「だから、何をそんなに怒ってるのか。」
アカリはそれに対して無言でイドラの手を引き剥がすと、イズナに渡した。駄犬はえーんと鳴きながらそれでもよたよたとアカリの後をついて行く。
「扉間、言い訳ぐらいは許します。何故、私がここまで怒っているのか、わかりますね。」
「知らんわ!姉者が怒り狂うようなことなどしとらん!」
扉間はそう言いつつ、姉がここまで怒り狂うようなことをした覚えがない。元々、この頃はずっと里の予定地に缶詰で、怒る原因のイドラとは接触をした覚えもない。
何だ、何だ?
今度は一体、何が起こっているんだ?
扉間のそれに、アカリは深くため息を吐いた。その場にいた、それぞれの氏族に緊張が走った。
元より、千手一族内でも恐れられていたアカリではあるが、うちは一族内でも族長の万華鏡写輪眼を見たがるとんでもねえ女として名が売れていた。
おかげでその場でアカリを止められるような人間はいなかった。
「影分身を、閨で使ったそうだな?」
「は、影分身・・・・」
それに扉間の中で何かが繋がってしまった。いや、全員の中で繋がってしまった。
閨で影分身を使った?
待って、もしかして扉間様。
「と、扉間、お前、初夜に複数はさすがに未来を行きすぎだぞ?」
思わずこぼした柱間のそれに、アカリの殺気が燃え立った。うちはマダラとイズナはアカリのそれにキャパシティを越えたのか茫然としている。それに扉間は目の前の姉の怒りのありかを理解し、叫んだ。
「誤解だ!」
「何が誤解だ!寝室のふすまに穴が開いていたのを訝しんでたが、お前、いっくら前々から関係があったからって初夜に何をしたんだ!」
それに対して扉間は言い訳染みたことを言えたのだ。何かの折に開いたのだろうなどと。ただ、彼自身、初夜に影分身で嫌がるイドラを押さえ込んだという事実は確実に彼の中に転がっていた。
そのために、扉間は、幼い頃から叱られまくった姉の手前、思わず素直にその罪悪感によって目を泳がせてしまった。
一瞬の沈黙が、扉間が、ナニかをしたらしいことの真実味を高めた。
「影分身を!?」
「・・・・なるほど、そういう使い方が。」
「初夜に、そんな、とんでもなさ過ぎるだろう、扉間様!」
扉間に対して一周回って尊敬の視線が注がれる。すげえよ、そんなこと普通はできねえって!
氏族の間でざわめくようなそれが広まるが、アカリはさらに扉間に怒鳴る。それに柱間は恐る恐る待ったをかけた。
「扉間!」
「あ、姉上待ってくれ!そう怒るが、こういったことは夫婦間の問題だろう?」
「そうだろう!閨の中でのことまで言われる筋合いがあるか!?」
それに他の人間も扉間のそれに確かにと頷いた。
いや、確かに扉間が閨の中で何をしてもそこら辺は夫婦間での諸諸がある。以前から関係があったのだというのなら、マンネリというものもあるのかもしれない。
けれど、それに対してアカリは冷たい目で言い切った。
「・・・複数でのそれを千手では普通だとイドラには言ったそうだが?」
「扉間、諦めろ!!」
「手のひら返しが早すぎるわ!!」
柱間は目の前でバッテンを作って扉間に言った。扉間はなんとか拘束から抜け出してアカリを見た。
「ワシはんなこと言っとらん!というか、何もしとらん!」
「ナ二かはしてるだろうが!」
「やめて、姉上!姉上の口からそういうこと聞きたくないぞ!」
「手は出したが普通のことしかしとらんわ!」
「はあ!?ならば、お前の言う普通って何だ!?普通の一言で、お前のやることの範囲が違ってくるだろうが!?」
「一般的なもろもろしかしとらんわ!」
「止めてくれ!弟ならまだしも、姉のそういったことは本当に聞きたくないぞ!?」
扉間とアカリのやりとりに柱間はえーんと半泣きで叫んだ。弟と下ネタで盛り上がることには抵抗はないが、姉のそういったことは本当に聞きたくなかったのだ。
「お前のせいで千手では複数が普通みたいな印象をうちはが受けたらどうするんだ!?お前、閨での常識の不一致で同盟解消とか歴史に残るわ!?」
その言葉に千手の人間は各々に自分たちの近くにいたうちはの人間を見た。彼らは見事にそれぞれで固まって千手の人間を凝視していた。
それにうわああああああと千手の人間は各々でうちはの人間に言い訳をする。
「待て待て待て待て!んなしきたりみたいなの無いからな!?」
「初夜に、貴様ら、それは・・・・」
「だから、違うって言ってるだろうが!そんなのあったらいの一番にやってるわ!」
「・・・そういう願望が。」
「おい、誰か本音漏れてんぞ!?」
「う、うちははそんなしきたりを受け入れるのは・・・」
「違うって!扉間様がやりたくて嘘ついてるだけだから!」
「おい、ワシもんなこと言っとらんぞ!!」
扉間がガヤに叫ぶ中、アカリは己の顔を覆った。
「・・・・お前達の母が亡くなったとき、後のことを頼むと言われた。そうして、それ相応に育て上げたと自負していた。だが、それは誤りだった。こんな、こんな、スケベ野郎に育つなんて!」
「だから、違うと言っとるだろうが!」
扉間がそう言っていると、彼の方をがしりと掴む存在があった。それに、扉間はひんやりとした殺意を感じた。
「扉間・・・」
後ろを振り向くと、万華鏡写輪眼で自分を睨むイズナとマダラがいた。
「覚悟、出来てるよな?」
これ、死んだわ。
扉間が静かにそんな覚悟を決めた。
(こ、これは、扉間様、死ぬ?)
イドラはアカリの腰に縋り付いたまま、何故、彼女がそんなに怒り狂っているのか理解した。それに、彼女は慌てた。
どうも、イドラに変態プレイを強いたと勘違いをしているらしいマダラとイズナは今にも彼を抹殺しようとしている。
イドラは自分がまたやらかしてしまったことを察した。
(どどどどどどど、どうしよう!?)
このままでは扉間が死んでしまう。彼がいないと、色々つむ。というか、自分が原因で死にそうなのだから助けねばならないのだが。
駄犬はちゃんと学習していた。こう言った場で自分がいくら弁明しても無駄であることを。ならば、どうするのか。
(・・・・私が、汚名を被れば良いんですね!)
イドラはどこか斜めになっている覚悟を決めて、アカリに着物を強く握った。
「あ、あかりさま!」
「・・・イドラ。少し待ちなさい、このスケベ野郎の始末は私がつけますので。」
「わ、わたしが、扉間様にしてって言ったので!」
それに辺りの空気が凍った。今までの殺気だとか、もろもろが消えて仕舞う。それに気づかずに、イドラはアカリのことを見て叫ぶように言った。
「つ、妻として、夫の相手をするのは当然ですし!でも、あの、仲の良さの秘訣で、閨のことも重要って聞きまして!それで、そういったことをしたらいいって、聞いて!それで、私が扉間様に頼んだんです!!」
もう、イドラの顔は真っ赤っかだった。顔から火が出るんじゃないかってレベルで、顔を赤くして、目をぐるんぐるんさせながらやけくそのように言った。
「ええっと、最初は痛かったですけど、最後はき・・・・」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
固まっていた扉間はさすがにそこまで話すのはいかんと大声を出しながら、イドラの口を覆った。
「あほか、おま、本当にあほか!!」
「うええええええん、だってええええええええ!!!」
扉間とイドラは顔を真っ赤にして互いに叫んだ。扉間は何が悲しくて、こんなことを一族だとか同盟相手のだとか、妻の身内に聞かせにゃならんと非常に恥ずかしかった。
そんな中、マダラが首を振った。そうして、近くにいたイズナや柱間に口を開いた。
「・・・イドラ、明るくなったな。」
それにイズナは思わず兄の顔を見た。兄は、どこか、安堵したような顔をしていた。
それは、イズナにとっていつぶりだろうかと考える。
兄は、ずっと疲れたような顔をしていた。そうして、姉もまたそうだった。
何かに追い立てられるように、何かに突きつけられるように、ずっと、ずっと、追いかけてくる何かにイズナを奪われないように、前だけを見ていた。
だからこそ、マダラも、イドラも、どこか余裕がなくて、なにかを顧みる時間が無かった。
「あいつがあんなにも感情を出してるのは、あいつのおかげだ。」
柔い女で、優しい妹だ。
自分のことを気遣って、不安で、亡くしたものが嘆く在り方に寄り添って、そうしてすり切れていった。
何かをしてやろうにも、それはマダラとて同じで。
だから、今の彼女の在り方がマダラは嬉しい。
幼い頃、泣いて、笑って生きるという言葉そのもののようなあの子に戻ったような気がした。
「いいのですか?」
「閨のことは夫婦の問題だ。俺たちが言うことではない。」
マダラはそう言って目を伏せた。
イドラがあの男の元にいることを、少なくとも今は望んでいるのだ。
あの男の元で、あの子は笑っているのだ。
嫁に行ったと覚悟したのに、妹が離れていくことを寂しいとマダラは思う。
「兄貴がずっとべったりじゃダメだろうしな。」
マダラのそれに今までのことなど忘れてなんだかしんみりとした空気になった。
それに扉間は思わずガッツポーズをした。
よっしゃ、このままうやむやになってくれ!
そんなことがばれたのか、聞いていたアカリがふうと息を吐いた。
「・・・・そうですね。確かに、夫婦間の問題に首を突っ込みすぎていました。今回のことは不問としましょう。」
それに扉間は息を吐く。
「が、それと千手に変なしきたりがあると言って回ったのはまた別問題です。」
「え?」
「扉間。」
尻を出せ。
それに扉間はさああと顔を青くした。
その日の夜、扉間は子どものとき以来に皆の前で叩かれた尻の痛さに涙し、そうして、考えれば自分の複数人プレイ容疑が否定されることもなく、確定していることを理解してまた泣いた。
ちなみにイドラは扉間に抱き枕にされながら安らかに眠っていた。
その後、扉間の元には妻と閨で悩む男達がこぞって相談に来るようになり、それに適当に答えたら成功したために、恋愛の神様みたいな信仰心が生まれるのはまた別の話である。
ちなみに複数プレイ容疑の翌日には相談者が現れるようになったため、扉間の目は死んだ。
未来では千手扉間とかかれた紙をお守りに入れて告白すると成功するってお呪いが女の子の間で流行ってる