閑話休題みたいな話。
「・・・なんとも不思議だな。」
うちはマダラはぐるりと周りを見回した。ひたすら、黒い空間だった。
己の娘であるうちはカグラの作ったらしい空間だ。上も、下も黒い世界。
けれど、不思議と目が利く。灯りもないというのに見えることが不思議なのだ。
地に足着いた感覚もある。
「でも、出入りには姉様の助けがいるのは難点ですが。」
ひょっこりとそう言ったのは、うちはオビトだった。姉にそっくりのそれは、にこにこと笑いながらマダラに言った。
「・・・眼は、大丈夫なのか?」
マダラはずっと気になっていたことを問うた。万華鏡写輪眼の力は強大だ。それに付随したリスクもある。
マダラもまた、視界にかすみを感じるときがある。わざわざ瞳力を使うほどのことがないため、なんとかその程度で済んでいる。
「はい、今のところ何も。」
それにマダラは目を細めた。カグラはひどく気軽に瞳術を使っている様子だが、視力に低下の傾向はないようだった。
自分と、その娘の違いは何か?
(千手の、血?)
うちはと千手の間に何かがある。妹の言っていた。兄弟弟子というそれだけではない何かが。
思い悩むような仕草をしたマダラにオビトは困ったように笑った。そうして、近くにおいてあった木箱に腰掛けた。
空間の中は、広々としており、いくつかの箱が置かれていた。
「どうかされましたか?」
そう言って近づいてきたのは、千手広間だ。上を脱いでしまっている。
「いや、カグラの瞳術のことでな。イズナと扉間達はまだか?」
「はい、最後の分をお二人で。はい、カグラの瞳術はすばらしくて!」
弾んだ口調で広間はマダラに微笑みかけた。
「この空間自体、作ることに労力はないようなのです。なので、本来なら、影で作りだした空間というよりは、時空間忍術の類いで、どこかの空間への扉を作っているのではないかと思うのです。」
マダラはなんだか遠い目で嬉々としてカグラのことを語る広間のことを見た。
なんか、すごい語る。もう、嬉々として、語り続ける。
(おい、こいつっていつもこうなのか??)
(・・・広間兄様、こう、すごく姉様のこと、慕っているというか。そんな感じなので。)
マダラの問いかけにオビトは目をそらした。
マダラはちらりと目の前のそれを見る。
むかつく扉間にそっくりであるが、話せば話すほどにイドラに似ている。真顔になれば、冷たく、恐ろしい印象を受けるというのに、笑うとふにゃりと気の抜けるような空気を纏う。
ギャップがすごいのだが、笑って自分に楽しそうに喋ってくるのを見ていると、背後になんか尻尾をぶん回す犬を幻視する。
(・・・・父上のことを話すイズナ叔父上も同じ感じですよ。)
マダラのなんとも言えない顔にオビトは口にはしないがそんなことを考える。
マダラはちらりとオビトを見た。
そのオビトというのも妹のイドラに似ている。
なんでも、名付け親もイドラであるらしい。
オビトが産まれた折、名前について話を聞いた折、うちはといえばオビトかなあと言ったために決まった名前だそうだ。
「おい、何の話をしている?」
そこにまた千手扉間とうちはイズナが加わった。
「ああ、終ったのか?」
「ああ、箱詰めがな。」
ゼツって結局どうするの?
そんな話が出たとき、皆で顔を合わせた。というのも、ゼツというのがどんなものなのかわからない。
人間とどれほど体の仕組みが違うのか。
体の仕組み、精神性、術の効き方。
まずはそれから調べるかと、逃げられない影の中で散々にいじくり回したわけだが。
拷問染みたそれを使ってもまったくといっていいほど吐かない。幻術の効きも悪い。
しかたがないとばらすことにした。
その生き物に死というものが付随しているのかもわからない。ばらした体を、一つずつ箱詰めしておくことにした。
これならば、いくらなんでも暗躍は出来ないだろうと。
「いえ、カグラの術の有効性について少々。」
にっこにこだ。
それに扉間はなんとも言えない顔をした。
なんか、こう、うちの息子ってやばくないだろうか?
従妹に当たるらしい少女への感情が、こう、ちょっと危うくないだろうか?
(昨日の話からして、マダラに執着する兄者の気配を感じるな。)
それ故に扉間は思わず言った。
「広間よ、お前、カグラにかまけること自体は否定せんが。自分たちの・・・」
「扉間の叔父上!!」
それを遮るようにオビトが扉間に突進した。オビトに弾かれてその場に扉間は倒れ込む。
「ど、どうしました!?」
「扉間の叔父上に甘えたくなりまして!」
「こんな突然!?」
オビトは勢いよく立ち上がり、そうして、怒りを浮かべた扉間を立ち上がらせた。
「な、なんか、甘えたいので!恥ずかしいので兄様はあっちにいっててください!!」
それに困惑した顔をしていたが、広間は素直にそっと距離を取る。
「オビト、貴様!何をする!?」
「ぶつかったことは謝りますから!でも、お願いですから、兄様と姉様の関係についてはお願いですから、突っつかないでください!!」
その言葉にイズナとマダラも顔を寄せた。
「なに、そんなに二人の関係ってやばいの?」
イズナのそれに、オビトは困り果てた顔をした。
「・・・・・やばいというか、なんというか。」
オビトは遠くで悲しそうにぽつんと立っている広間を見た。オビトは息を吐いた。
「・・・・何というか、兄様って、姉様のことを本当に慕っていて。」
「はっきりいって、恋仲とかではないのか?」
「そうではないんですよ。入れ込んでおられるのは入れ込んでおられるんですけど。」
「あのな、恋仲であったとしても、結婚が赦されるはずが無かろうが。こやつらの話なら、すでに千手とうちはで婚姻は済んでいるんだぞ?」
「でも、正直、姉様の結婚相手を見つけるの、すっごい難しいんですよ。」
オビトははあと息を吐いた。
婚姻って、言ってしまえば旨みがあるかが重要ですよね?
姉様と婚姻すれば、それは相手に対して恩恵はありますよ?
里の創設に関わったうちはと千手の血を引いて、おまけに結婚すれば扉間叔父様と父様を縁戚関係に出来るんですから。
でも、うちはからして旨みがある相手と言われると、微妙な感じで。なら、いっそ、うちはの人間と結婚させて家を継がせるにも、あの、姉様があんまりに優秀すぎるんですよね。
うちはの人間自体、もう、姉様のその、舎弟って感じで!
婚姻させても良いんでしょうけど、うーん、微妙なんですよねえ。
もう、姉様の能力が高すぎるんですもん。それに、夫を立ててなんて絶対に出来ないでしょうし。
というか、まあ、父様の義理息子になるような根性のある人いませんし。
「ちなみに、姉様の理想の相手って誰だと思います?」
疲れた空気を吐き出したオビトにマダラが口を出した。
「誰だ?」
「父様並に強くて、イズナ叔父様ぐらいかっこよくて、扉間の叔父様ぐらい賢くて、柱間の叔父様ぐらいに心が広い人ですよ。」
んな奴がこの世にいてたまるか。
その場にいた全員が思った。マダラは己の娘が、自分たちのせいでとんでもない高望みをしてしまっていることにどうしたものかと頭を抱えた。
「それ、本当に言ってるの?」
「冗談だと思いますけど。でも、姉様の能力にある程度対等ぐらいの人を選ぼうとすると、本当にいないですし。大体、妻よりも能力が劣るって現状に甘んじられる人って、姉様の婿にするには色々足りない人ですしい。」
「それで、広間が候補に出ていると?」
「一番、無難な感じではあるんですけど。でも、広間の兄様は、何というか、何を考えているのかわからないんですよ。」
「わからん?」
「姉様のこと、好きかって聞いても。忍として支えてやりたいって、里の話になりますし。姉様の婚約の話が出ても特別反応もしませんし。」
「なら、違うのか?」
「でも、兄様、ただの一度も姉様の結婚話をしたことがないんですよ。」
それにその場にいた四人は顔を合わせる。里の諸諸の話をするのなら、跡継ぎだとか、一族同士での関係作りだとか、話題ぐらいにはしそうだ。
「兄様、イドラの叔母様に似て愛想はいいんですが。でも、聞き上手で自分のことを話しませんし。根っこの部分は叔父様に似てるから、合理的な考えをされるんですけど。」
「ワシは何もいっておらんのか?」
「・・・広間の兄様の姉様への諸諸について触れるなって言ったのは叔父様なのに?」
「はあ?なぜだ?」
「広間兄様の本音って、誰も知らないんですよ。叔父様は、その、イドラの叔母様が亡くなってから仕事ばかりで。あまり、広間の兄様と話せていなくて。なので、兄様は姉様の所に入り浸っていましたから。」
そうだ、それ故に、だ。
広間がカグラに執着する理由自体、誰にも正確な理由を知らないのだ。
オビト自身は知っている。
広間はずっとカグラの側にいた。互いの母が死んだ後、父たちはどこか何かから逃れるように仕事ばかりをしていた。
イズナも柱間もフォローはしてくれたけれど、やはり、それぞれ忙しい身だ。残された自分たちは母を事故で亡くした可哀想な子として一族で、そうして里の中で可愛がられた。
カグラも、マダラの一件で落ち込むまでは、明るく、朗らかで、勝ち気な部分も含んで皆に慕われていた。
けれど、どこか広間に対しては冷たい部分もあった。けれど、側にいさせた。その辺りの複雑な部分をオビトには理解できていない部分がある。
が、広間はずっとそんなカグラの側にいた。邪険にされてなお、広間はカグラの側にいた。
そんな二人の関係を、大人たちはカグラが照れているのだと言っていたけれど。
(姉様は、いい子だ。里が好きで、みんなが好きで。でも、父様の前でしか泣けなくて、そうして、兄様にしか怒ることもできなくて。)
一度、広間に聞いたこともある。邪険にされて悲しくないのかと。それに、広間は笑った。
それは私がカグラにとって特別であると言うことだから。
そう言ったとき、オビトは言っては何だが感じてしまった。
柱間の、マダラに関する妙な理想視というか、執着に似た何かを。
「叔父様や父様たちだって、何が入っているかもわからない、密閉されてるから気配もわからない。そんなものを暴きたいと思いますか?」
それに三人は黙り込む。
そりゃあ、見たくないに決まっている。
「広間の兄様が里に害をなすこと自体は考えられませんよ。兄様は、叔父様のことを、そうして、カグラ姉様のことが本当に好きで。お二人が大事にしている里を裏切るぐらいなら、死ぬことを選ぶと思います。」
そこら辺の心配は無いのだ。ないけれど、ただ、そんな訳もわからない、くっそ重たいとしかわかっていない感情の発露なんて見たくねえよなと言う考えがある。
もう、相手がいないのならそれでいい。二人を結婚させても良いだろうという風潮があるぐらいだ。
(姉様のこと、慕っている人はいても、恋い慕ってる人もいないし。)
カグラは幼い頃からガキ大将だった。弱い者いじめなんて惨めなことが大っ嫌いなので慕われていたから、同い年の人間は自然にカグラに頭を下げる人間が多い。
え、カグラさん?ああ、いい人だよな。かっこいいし、強いし。
女だてらに最前線に出て、おまけに木遁使いの写輪眼だし。
え、あの人と結婚?
いやあ、それはちょっと。
(男の人より、女の人にもてるもんなあ姉様。)
言ってしまえば暴れすぎたのだ。もう、散々に。
一族としてはカグラと結婚して欲しいと思うのだろうが、バックにいる広間に遠慮しているのだ。
(兄様、お年寄りにもてるもんなあ。)
それぞれの氏族で力を持っている古参達に広間はとてもモテた。もちろん、里の人間は助け合うべしと言う考えのカグラも困っているお年寄りの手伝いなどをするためにか、覚えは良い。もちろん、姉と同様オビトもお年寄りにも顔が広い。
うちはカグラ?
何を言っている、あの子は広間君といい仲だろうが。
なんてことを言って結婚話が破談になることもある。
オビトは兄が何を考えているのかわからずに、ふうと息を吐いた。
そんなオビトから思わず、視線をそらした三人は広間の方を見た。広間は四人から離れた、声の聞こえないそこで困惑したような顔をしている。
けれど、気づかれたのか、控えめに手を振っていた。
見るだけならば、愛想の良い好青年。
けれど、その中には、誰も知らない昔なじみへの煮詰まっているかもしれない、腐ってしまっているかもしれない、でっかい感情があるかもしれない。
見たくねえし、触れたくないものだ。
「・・・・教育、考えるか。」
「本当にな。」
将来の父親はそんなことを言っているが、悲しいかな。
教育とはままならないものであることを未来で知ることになる。