ちなみに、広間は声まで父親にです。
(お腹いっぱい・・・)
うちはカグラはお腹いっぱいでふくふくしながら縁側に転がっていた。
真夜中に行われた枕投げ大会はカグラの勝ちになった。
写輪眼の瞬発性と、彼女の万華鏡写輪眼の瞳術を使って完勝をした。
(母様の、おにぎり。)
カグラが千手アカリに望んだのは、おにぎりだった。
なんの面白みもない料理だ。朝飯というのだから、そう凝った物は作れない。けれど、カグラはおにぎりと言えば出てくるものに期待した。
「なんだ、せっかくなら今からでも好きなものも作れるが。」
「おにぎり、がいい。」
それにカグラは首を振った。千手アカリはそれに不思議そうな顔をして、まあいいかと頷いた。
(焼き、おにぎり。)
ちょっとだけ、甘いお味噌を混ぜて、焼いた焼きおにぎり。
(甘くて、お味噌の焦げた匂い。甘辛い、おにぎり。暖かくて、お湯をかけるとおじやっぽくなっておいしい。)
うちは特有の外套に顔を沈めて、カグラはお腹を撫でた。
柔らかな春の匂いがした。それに、カグラは庭を見た。
(・・・ゼツの奴、痛覚なんてあったのか。)
カグラは己の影の中で行われている惨劇に眼を細めた。
うちはカグラの固有の瞳術は影を使い、想像を具現化させる。影の中に空間を作り、影を使って武器を、擬似的な生命を作り出せる。
使い方は様々だ。使い勝手は良い。
現在、カグラの影の中には、うちはマダラとうちはイズナ、そうして千手扉間がいる。
(・・・オビトに、広間にも、来るなと言われているし。)
それに付随して、千手広間と、うちはオビトも影の中にいる。扉間は喜々として、ゼツをいじくり回しているようだ。
影の中ならば、ある程度把握が出来る。それ故に、ゼツののたうち回る感触がまざまざと認識できた。
(イドラの叔母様は、母様が千手の一族に顔を見せるからって連れ出してるし。)
実際の所、イドラにゼツの諸諸を見せたくないのだろう。そうして、自分にも。
何となしに、カグラは己の役割を理解している。そういったことを直接するのは自分ではないし、広間の役割だ。
それが、カグラは嫌いだ。
どこか、広間にばかり重責を背負わせているようで嫌だ。
(・・・どうして、私はこうなんだ。)
いつだって、自分は本当に大事なものを見落としているような気がしてやまない。
強い者にはそれ相応の責任が伴う。
それを、自分に言ったのは、誰だったろうか。
息が詰まるような感覚がした。
それなのに、自分には何が出来ているだろうか。
カグラの母であるアカリに、一度、聞いたことがあった。
「かーさまは、とーさまのどこが好き?」
それは幼子らしいものだった。少なくとも、カグラの知る限り、父母の仲は悪くはなかった。
母は家に父がいれば大抵側で何くれと世話を焼いていた。父は父で、それを受け入れていたし、実際母の膝枕でうたた寝をしているのをカグラは目撃している。
幼子の一時的な興味のそれに、母のアカリは見事な一撃を食らわせた。
「顔。」
このとき、カグラはこの世の無常と言える何かを感じた。
いや、もちろん、人を好きになるのに理由なんていらないだろう。けれど、こう、幼心になんか微妙な気分になった。
「あと、可愛いところだな。」
かわいい?
当時のカグラは何言っとるんだと母を凝視した。
カグラの知る父は、誰よりも頼りになる人だった。少々頑固な部分があっても、どんなことでもなんとかしてくれそうな父にはそんな表現はあまりにも遠い気がした。
「とーさまがあ?」
「なんだ、不満か?」
「とーさまはかっこいいです。」
ふくれっ面の己に、アカリは笑った。そうして、頭を撫でてくれた。
「あの人は、可愛いよ。傲慢で、頑固で。価値観が己基準であるくせに、利他的だ。」
そんなところが可愛くて、守ってやりたくなるのだと母は言った。その時の言葉の意味が、自分にはわからなかった。
ただ、母はその後に自分に言った。
お前も、あの人の事を守ってあげてくれと。
その言葉の意味がわからなかった。父はいつだって強くて、気高くて、かっこよくて。
けれど、あの日、父が里を抜けた日。
父は、笑っていた。
「安心しろ、また会わせてやる。いいや、みなのことを救ってみせるから。」
ああ、間違えたのだと思った。
父はとても強いから、父はとても優しいから。
恋しや、恋しや、と嘆く心を父に言い続けて縋り続けて、泣き続けて。
その弱さが、父を追い詰めたのだ。
優しい人だと知っていたのに。己がなした罪だというのに、それでも寂しいと父に縋り付いてしまった。
己の罪だった。己が犯した間違いだった。なのに、なのに、自分はずっと父に甘えてしまって。
(・・・でも、今度は違う。今度は、間違えなかった。)
やり直せるのだと。
過去に帰ると言っても、そこまではっきりと微調整ができないとしても、過ちをただせるのならとそれに縋り付いた。
いいのかい?
ウツシキは自分たちに問うた。
過去を変えるというのは、イコールで未来も変わっちまうって事だ。それが、お前さん達にどんな結末を加えるのか、誰にだってわからないぜ?
下手をすれば、存在が消えてしまうかもしれない。生まれてきたという事実さえもねじ曲がってしまうかもしれない。
それでもいいのかと。
構わなかった。ただ、全ては己の愚かさと弱さによるためだから。
(ああ、でも、広間と、オビトだけはどうにしかしてやりたかった。)
私の、守るべき存在。己よりも弱い存在。ああ、どうして、自分は、こんなにも。
「・・・・カグラ?」
それにカグラは自分をのぞき込む存在に目を見開いた。
「イドラ叔母様。」
「扉間様たちは?」
「・・・えっと、わかりません。」
「そうですかあ。あ、アカリ様は長老様たちとお話ししていますよ。」
カグラは目の前のその人にどうしたものかと考えた。目の前のその人は、自分が殺した人で、自分が大好きな人たちから奪った人で、それと同時に自分だって大好きだった人だ。
そんな自分の空気がわかるのか、困ったような顔をした。
「うーん、過去のこと、気になる?」
「私は・・・」
カグラはイドラの方を見た。そこで、風が強く吹いた。その瞬間だ、イドラの耳にかけていた髪がばらりとなびいた。
その瞬間、カグラは見てしまったのだ。
丁度、耳の裏側にぽつぽつと赤い痕が残っていた。いや、長く伸ばした髪で見えなかった首元にまであるエグい赤い痕。
全部、吹っ飛んだ。
なんか、胸にあった罪悪感だとか、全てが吹っ飛んでしまっていた。
「・・・・まあ、私は残念ながら死んだと言われてもあまり気にしてないんですよ。たぶん、アカリ様も。」
「はあ。」
「先に産まれた者が先に死ぬというのならば、それはある意味で摂理でしょう?」
「ええ。」
「きっと、その時の私たちだって未練は無かったと思いますよ?」
「はい・・・」
だめだ、何かすごく慰めてくれているし、言葉をかけて貰ってるが何にも頭に入ってこない。頭の中で首元を覆った、え、かぶれてませんかってレベルのエグい痕のことしか考えられない。
(いやいやいや、冷静になれ、私!)
まさか、まさか、そんな、いくら何でもあの年の息子がいる部屋でおっぱじめるなんてそんなこたあないでしょう?
(そう、嫌な考えだけど、結婚式の前の日のとか、あと、痕だけ残したとか。)
頭の中をぐるぐるとさせながら、カグラはどこか悲しそうな顔で何かを言っているイドラを見ていた。もちろん、何を言っているのか、まったく頭に入ってこない。
(いやあ、でも、確かに扉間の叔父様、叔母様のこと溺愛してたって。え、いやいや、ないない。)
カグラの脳内には、いつだってクールで、頑なで、そうして仕事ばかりの叔父のことを思い出す。
(そんな、そんな、叔父上が、広間の隣でそんなこと。だいたい、広間だって起きて。)
そこでカグラは思い出す。確か、範囲内の音を外に漏らさないための結界術を作ったのが扉間であったことを。
いやいやいやいやいや!
「・・・カグラ、大丈夫ですか?」
「え、あ、はい!」
「顔色が悪いですが、大丈夫ですか?」
そりゃあ、とんでもない事実に気づきましたし。いや、体調というか、情緒がすごい揺さぶられておりまして。
「お、おばうえ。」
「声がすごい震えてますけど、大丈夫ですか!?」
「あ、あの、昨日、部屋が広間と一緒で、だいじょうぶでしたか?」
あくまで、あくまで、遠回しに聞いたそれにイドラは顔を赤くした。
「あ、ええっと、はい!」
その様子にカグラは確信した。
ヤりやがった!叔父上、我慢できなくてヤりやがった!
「そ、そうですか。」
「ど、どうしました、カグラ!眼が万華鏡写輪眼に!」
「叔母様。私はやることが出来ました。なので、ちょっとこの場から姿を消します。」
「え、うん?」
「あと、叔母様、何かあるのでしたら、母様や父上にもしっかりとご相談をください。」
必ず、力を貸してくださりますから。
そりゃあ、夫婦なのだから、そういったこともあるだろう。けれど、そこら辺は、こう、セーブせんとあかんでしょう。
「それでは!」
カグラはそう言って、どぼんと父達のいる影の中に沈んでいく。人の可愛い弟分の隣でなにしてくれとんねんと文句を言うために。
「・・・どうしたんだろ。突然。」
イドラは己の姪っ子の様子に頭を傾げた。
(・・・にしても、まさか、ばれてないよね?)
イドラはどきどきしていた。正直、今日の朝も一つ恥をさらしていた。というのも、朝に息子である広間の布団に潜り込んでしまっていたのだ。
起きた扉間にめっちゃ怒られた。
(夫と息子の区別もつかんのかって怒られたなあ。)
イドラは広間に対しても申し訳なく思っていた。あの年頃の子ならば、きっと母親に抱きつかれるなんて嫌だっただろうなあと考えてのことだった。
(昨日使った、香油も肌に合わなかったみたいで、首元に湿疹できるし。)
イドラは持ってきた軟膏を塗っておいた。おかげでかゆみが気にならない。
誰もいなくなった、縁側でイドラは膝を抱えた。
(・・・・大筒木、どうしたらいいのかなあ。)
悩みはそれに尽きた。
ボルトの話はあまり覚えていないけれど、尾獣と仙術使いのナルトと、輪廻眼持ちのサスケまで苦戦していた記憶がある。
(・・・でも、二人のあれって今の時代にめちゃくちゃギスってた副産物だし。)
というか、サスケの覚醒のためにうちは一族が滅ばんといけない時点で詰みでは?
(せめて、今の時代から準備を。でも、どうやって信じてもらわないと。)
「悩んでるのか、お嬢さん?」
それに思わず声の方を見ると、そこには、ウツシキがやたらと決まった様子でそこにいた。
「ああ、ウツシキさん、どこにおられたんですか?」
「なーに、ちょいっと荷物に紛れ込んで寝てたんだよ。」
「ああ、そうなんですか。」
ウツシキはそう言ってぺたぺたと音を立てて、イドラの膝の上に乗った。イドラはよくわからずに、ウツシキの頭を撫でた。
「大筒木のことで悩んでたんだろう?」
「ええ、そりゃあ・・・」
そこで思い出す。
そう言えば、この亀、大筒木の一族に作られたって言っていたことを。
「そう言えば、あなた、大筒木の!」
「ああ、つって勘違いしないでくれよ。俺は所詮、カメラップの伝道師だってことをよ!」
「・・・今は大筒木とは無関係ということで?」
「ああ、そう思ってくれ。」
イドラはそれに悩んだ。そうは言っても、どうして信用なんてできるのだろうか?
けれど、思えば彼がどうして広間達に協力したのか、今思えば謎なのだ。
扉間達には、手当の礼だと言ってはいたが。
「あなたはいったい、何を望んでおられるのですか?」
それにウツシキは笑った。亀の笑みがなんだか不思議に思えた。ウツシキはじっと、イドラのことを見た。
「・・・・なあ、あんた。地獄の中で居続けるのならよ、狂った方が楽なときもあるのさ。」
何の話だろうとイドラは首を傾げた。
「この世が地獄というのなら、いいや、すべからく、全てが地獄であるんなら狂った方がマシって話だ。それが、全部意味がわかんなくても、他から見りゃあゲラゲラ笑っていられる悪夢を見る方がましだろう。あんたなら、どうする?無力な身で地獄を前に、何をする?」
何を言われているのかわからなかった。けれど、イドラは一度考えた。
地獄というのなら、自分が生きている世界も十分にそうだろう。けれど、と、イドラは思う。
「うーん、泣きます。」
「・・・・泣くのか?」
「だって、何も出来ないって前提でしょう?なら、誰かを助けることも出来ませんし、力も無いなら、力の限り叫びます。この世は地獄で、間違っていると。」
「無意味なことをするな。」
「でも、ここが地獄で、間違っていると叫べば、他の人もそう思うかもしれません。変えたいと願うかもしれません。」
イドラはちらりと、庭を見た。その場所は、どこまでも穏やかで柔らかな風に吹かれていた。
「人って慣れてしまうので。だから、地獄で生き続ければもう、それは日常になってしまうでしょう。この世が地獄だってわかれば、こんな所嫌だって思うかもしれません。嫌だと、逃げ出したいと、願うことから始めなければ。」
何も出来ないというのなら、せめてタネの一つでもまいて死にますよ。
「怒りでも、憎しみでも、少しだけ進んだ先にはよりよきものがあると信じていますよ。だって、私たちは人間ですもの。獣ではない。私には無理でも、私じゃない誰かが地獄を壊してくれるなら、それだけで報われますよ。」
その言葉に、その亀はなぜか嬉しそうに微笑んだ。そうして、どこから、何かの口寄せのための陣のようなものが書かれた紙をイドラに渡した。
「これは?」
「大筒木ハゴロモ、六道仙人を呼び出すためのものだ。そこらへんは、千手兄弟やうちは兄弟と一緒に仙人に相談してみりゃいい。」
「え!?」
「・・・まあ、それを使うにゃ、インドラとアシュラの転生者のチャクラと、そうして、九尾のチャクラが必要だがな。」
「え!?なんで、あなたがそんなもの・・・・」
それにウツシキは楽しそうに笑った。
「言っただろう?俺は、忍具だってな。時間移動は副産物だ。俺の本質は、平行世界における可能性の観測だ。それは、その未来の一つで知ったものさ。」
なあ、とウツシキは言った。
「俺はな、大筒木が嫌いなんだよ。これで、お前達があいつらのことを邪魔すりゃ、俺としては良い気分なのさ。それにな。」
亀はじっと、女を見た。それは、彼が目映いまでに目を細めた、誰かと似ていた。
「地獄を見続けた俺に、一度、美しいものを見せてくれた礼なんだよ。」
そう言った亀は、鉄で出来たからくりであることが嘘のように、優しげに微笑んだ。
「すまんのう、俺は少し手紙を返したり、やることがあってな。ゼツのことは頼んだぞ。」
「いいえ、柱間の叔父上。父上にはしかりと伝えておきます。」
「本当に、扉間の子か疑う・・・」
「え?」
「あ、いいや。良い子に育って良かったと思ってな。里は良いところか?」
「はい、まったく問題が無いわけではありません。多くの者が済む故に、ぶつかることもありますが。それでも、子が健やかに育っております。」
「・・・・そうか。」
「ただ。個人的に困ったことが。」
「なんぞ?俺に相談するといいぞ!」
「いえ、その。父上は里で他の氏族の子の教師役もしているのですが。その中の弟子の方々とは年も近いので仲良くさせていただいているのですが。」
「ほお。」
「ただ、大きくなればある程度場というものが出てくるでしょう?それで、様や殿をつけるのですが。様や殿をつけると、なんというか、動きを止めたり、なんといか、泣き出したり、されたりして。」
「それは、なぜだろうな?」
「わからないんですよね。他の人は、そっとしておいてやれと言うだけで。あと、カグラやオビトを避けたり、顔を凝視して動きを止めたり、顔を真っ赤にするぐらい怒ることもあって。」
「・・・・ふむ、やはり、うちはを厭うものがいるのだな。今後の在り方についてよくよく考えねば。」
「そうですね。がんばりたいと思います!」
(・・・本当に、見た目も声も扉間に似とるが、中身が違うなあ。)