千手扉間に責任を取って欲しいうちはイドラの話   作:藤猫

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地獄の鬼ももう少し優しい顔をしている

 

(人間って、あんなに飛ぶんだ・・・・)

 

うちはイドラはぼんやりと空を見上げた。空には煌々と月が浮かんでおり、そんな夜の空を、何かが飛んでいた。

現実逃避のようにそんなことを考えていると、ころんと自分の横に子どもが一人、降り立った。黒い腕と共に。

 

(・・・・ゼツって、死ぬのかな?)

 

イドラはぼんやりとそんなことを考えていた。

 

 

 

ゼツがその時、千手とうちは、おそらくこの世の忍達でもっとも相手にしたくない四人を前にして取ったのは、逃走だ。

もちろん、輪廻眼は惜しい。そうして、イドラというそれによってこのまま千手とうちはが良好な関係を築くのは困る。

けれど、ゼツは知っている。

彼らの代はいいだろう。けれど、その次は?そのまた次は?

人の生は短い。伝えるべき事はねじ曲げられ、歪になっていく。どれだけ、今が良くとも、変わらぬものもない。

 

ならば、ゼツは闇に消えるだけだ。また、いつものように、彼らが消えて新しい者になってから値踏みをすればいい。

自分の腕を掴んだそれに、ゼツは吐き捨てるように言った。

 

「これが欲しいんだろう?」

 

ゼツは子どもを掴んでいた手とは反対の方に移動させ、思いっきり放り投げた。平行に、遠くにすれば叩きつけられることが予想の出来る投げ方で。

それにさすがの千手とうちはの面々は子どもに視線を奪われていた。それに、ゼツは腕の拘束が緩んだことを理解した。

それに、ゼツは森の中に逃げ込もうとした。腕はもう諦めた、あとで切り捨てることを考えた。

けれど、逃げ足だけは自慢していたゼツは己の視界がぐらりと傾いだことに気づいた。

 

「まあ、待て。」

 

両足が吹っ飛んだことを理解してゼツはその場に這いつくばった。足音が、近づいてくる。足音は、三つだ。

それにゼツは逃げなければと匍匐前進で前に進もうとするが、それよりも先に背中にのしりと足で踏まれる。

 

「おいおい、そうだ。扉間の言うとおりだろ?」

 

ぎしりと、体が悲鳴を上げるほどの強さだった。それに軽やかな印象を受ける青年の声が重なる。

 

「本当にそうだよね。姉さんもそうだけど、俺の可愛い甥っ子のこと、けっこういじめてくれたみたいだねえ。」

 

それにゼツは頭をフル回転させた。幸いなことにゼツの体はそこそこ丈夫だ。けれど、それだけなのだ。大筒木カグヤの最後のあがき。

悲しいかな、そこまで身体面での能力は無い。

 

「・・・おい、いたぶるのはやめておけ。」

「あ?何でだよ?」

「誰がこんな馬鹿げたことをしたのか、探らねばならんだろう。」

「・・・それに、ちび助がどうやって逃げ出したのかも、こいつに聞かないといけないし。」

「扉間、てめえはこいつの両足を吹き飛ばしたからいいがな。俺たちはそうじゃねえんだよ。」

「ふん、待て。これを絞るときにお前達にもさせてやろう。」

 

ゼツは自分の背後に差し迫る危機にだらだらと冷や汗が流れる気がした。ゼツは必死に、頭を回転させた。

そうして、一つだけ、今この場にいる人間を揺すぶる話題を思い出す。

 

「千手扉間、お前、おかしいと思わないのか?」

 

それに背後にいた扉間と、そうして、うちはマダラにうちはイズナが反応したのがわかった。それにゼツは必死に言葉を紡いだ。

 

「うちはマダラ、うちはイズナ、お前達、可笑しいと思わないのか!?いったい、いつ、扉間とうちはイドラが逢瀬をする時間なんてあった?いいや、出会う瞬間があった?あの性格だぞ!?お前達にばれないようにするなんて無理な話のはずだ!」

「何が言いたい?」

「騙されてるんだよ、全員!あの、雌ギツネにな!今日だってそうだ!何故、あんな子どもが外に出れた!?あの女が手引きしたと考えるのが妥当だろう!?」

 

黙り込んだ面々に、ゼツは何かひびを入れられたのかと言葉を紡ぐ。

 

「大体、今日は初夜だったんだろう!?何をされたか、わかったもんじゃない!」

 

ゼツのそれに、体にのしかかっていた足などが消えた。それに、彼は占めたものだと逃げる態勢を取った。

けれど、無常かな。

ゼツの頭部を掴む存在があった。

つり上げられた彼の目の前に、ガチ切れているらしい三人の男の姿があった。

 

「ほう、あの、純真無垢で、人の言うことをほいほい信じて、忍であることなんて忍術ができることぐらいしか証明できねえうちの妹が、俺を騙してるとでも言いたいのか!?」

「あはははは、兄さーん。こんな、馬鹿の言うことなんて気にしなくて良いよ。誰よりも、何よりも、姉さんのことを知ってるのは俺たちだ。なら、この馬鹿に今回のことを吐かせるだけで十分だ。」

 

悲しいかな。

普通の忍の一族であれば、イドラに対して疑いの念が向かったことだろう。けれど、目の前にいるのは、きっと、誰よりも情に深い、深すぎる一族だ。

己の愛に滅びの匂いを嗅ぎ取るために、個人主義を貫く一族だ。

何かを庇護し、守らんがために狂った、一人の兄から始まった一族だ。

そんな一族がどうして、たった一つのくだらない言葉に狂わされる?

彼らは盲進する、一度愛してしまえば、それ以外は眼に入らない。ならば、どうして、守るべき愚かで、愛しい家族を疑うなんて選択をするのだろうか?

 

そうだ、ゼツは間違えた。そうして、もう一つ、彼は間違えているのだ。

 

 

初夜。

その単語を聞いて、扉間は眉間に皺をこれでもかと寄せていた。

そうして、理解する。

これから扉間のすべきこと。

まず、呼んだ客人達に何もかもが滞りなかったことを知らしめ、千手とうちはの両方に手引きした者がいないかを調べること。

そうして、イドラと子どもの回収、何があったのかの聞き取りに、それに加えて目の前の黒い物体に吐かせることだ。

大体、イドラ自身も疲労困憊だ。それから何が導き出されるのか。

 

お預けである。

 

ゼツはそれに固まった。その時、扉間はまさしく鬼の形相だった。

 

「ああ、そうだな。貴様、本当に余計なことをしてくれたな。丁度良い、少し、わからせてもいいやもしれんな。安心しろ。兄者もいる。殺さぬギリギリぐらいは、見極める眼を持っているのだ。」

 

それにマダラとイズナは、それほどまでにイドラのことを思っているのかと少し感動した。よく見ろ、ブラコン達よ、確かにそいつはイドラのために怒っているが、根っこの部分は肉欲である。

忍の三禁にひっかかっていないのだろうか?

 

 

 

(で、出た!)

 

倒れ込んでいたイドラは、柱間に抱き起こされながらそれを見ていた。ゼツの両足を切り落とした術の名前は知らないが、確か、水遁を使ったウォーターカッターだったはずだ。扉間は何のためらいもなく、ゼツの両足をそれで切り倒したのだ。

 

(おちびさんは!)

 

イドラがしびれて上手く動かない体でそちらを見れば、すでに千手柱間が使っていたらしい木遁で作られているらしい草木をクッションにしており無事だった。

 

「ひゃ、しゃ、りゃ・・・・」

「毒か!?すぐに治療を・・・・」

(そういえば、なんか、息を吸うのが、辛いような。)

 

しびれるような感覚が強くなっていく。喉の奥が張り詰めて、視界が、ぐらつく。

 

(あ、毒殺パート2!)

 

そんなイドラの暢気な考えとはほど遠く柱間は冷や汗を垂らした。

 

(筋肉までの痺れを起こしているのか!ならば、呼吸器官まで影響しているなら、このままでは。)

 

柱間は扉間にすぐに戻るように視線を向けた。

その先?

阿鼻叫喚、その一言に尽きた。

 

両足を切断されてなお、怒り狂ったうちは兄弟はそれを赦さなかったのだろう。辺りに火遁をばらまいてゼツを絶対に逃がさないという気概の元に炎の檻を作っている。

草原や木々に燃え移った炎の中で、三人はゼツをたこ殴りにしていた。炎に照らされて、凶悪に微笑むマダラにイズナ、そうして扉間の絵面は非常に怖かった。

その様には、柱間はあまりの絵面にひえと怯えた。イドラも怯えた。

もう、無意味にそれをしている三人の顔の圧が強いために、地獄で獄卒が亡者をいじめ抜いているような絵面だった。

 

イドラが死にかけであることも忘れて、二人は寄り添うようにその様をがたがたと震えながら見つめていた。

その時だ、二人に近づく存在がいた。柱間はそれに印を刻もうとするが、立っている人間に目を見開いた。

そこにいたのは、扉間だった。

いいや、細部は違う。白い髪、鋭い瞳、けれど、扉間にしてはあまりにも纏う空気が穏やかだった。

 

「・・・・治療をします。なので、お渡しください。」

 

静かな声は、やはり、扉間にしては柔らかく、優しげな声音だった。

イドラは驚いた顔をした。顔に、赤い傷のない彼はどこか自分のことを、心底後悔しているような目で見ていた。

 

 

「水遁・水衝波!」

 

その言葉と共に、マダラたちの周りの炎が波にのまれた。三人はそれを躱し、水浸しの地面に降り立った。

そこには、波に攫われ、逃れようとしていたゼツに刀を突き立てる、女と、それに侍るように立つ青年がいた。

 

女は、ゼツの腹に刀を突き立てて、嘲笑うように吐き捨てた。

 

「ざまあないな!ゼツ!」

「お、お前は誰だよ!?」

「ああ、そうだ、知るはずもなかろうよ!貴様が、わかるはずもなかろうよ!ただなあ、我らは貴様の、その、下卑た顔を一時とて忘れたことなどない!母上の、そうして、弟の仇、いとこたちの仇、叔母上の仇、ただの一度としてな!」

 

吐き捨てた女と、悔恨に満ちた顔をした青年の面立ちに扉間は目を見開いた。その面差しは、どこまでもうちはイドラによく似ていた。

 

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