後書きの部分は、最初にこの話を考えていたときの原案です。
「お前、お前、ほんとになんなんだよ!?」
黒いそれは、もう面倒なのでゼツとするが、地団駄のように足をばたつかせた。
それを見ながら、うちはイドラはシュールな画だなあと思った。そんな中、ゼツは気にせずにもイドラを見下ろして叫んだ。
「お前はさ!お前は知らないだろうがな!こっちは軽く三桁台の時間をえっんえんと、うちは一族についてたんだよ!」
お、おお。
イドラはなんとなくゼツの圧に押されて思わず頷いてしまった。それにゼツはうんうんと頷きながら、イドラの側に座った。その横には、しっかりとちび助を抱えている。
「それは、ご苦労さんです。」
イドラはゼツの背負う、なんとも言えない重い空気に思わず言った。
「そうだよ、ごくろうだよ。考えてみろよ、こんな大事を頼んでる本人は待ってれば良いけど。こっちはこっちでさ、こう、微妙な部分があるだろ!?特に、うちはと千手での微妙な距離感のままでいてほしいじゃん。」
「ああ、まあ、距離感って難しいですよね。」
しみじみとしたそれにイドラは思わず頷いた。それにゼツはそうだそうだと頷いた。
「もちろん、うちはと千手の目当ての二人を常に見張って、おまけのその周りを見て、ばれないように裏工作までしてるんだぞ!?一人で、だぞ!お前らみたいに群れてねえんだよ、こちとら!」
ゼツは今にもおいおいと泣き出しそうな勢いだった。それにイドラはなんだかゼツが可哀想になってしまった。
いや、確かにこの生き物は大筒木カグヤが封印されてから、ずっと一人で頑張ってきたのだ。
なんか、業務量のやたら多い仕事量をこなすブラック企業戦士のごとく。
この頃、延々とヘロヘロになるような仕事をこなしてきたイドラは思わずそれに同情してしまう。
思わず頷いてしまったイドラに、ゼツはわかってくれるかと同じように頷いた。
その場には、デスマーチの後の妙な連帯感があった。
それを、幼子がなんだこの空気はと茫然と見つめている。
「ああ、そんなときだ。お前の兄を見つけたのは。」
「に、い様を?」
「ああ、千手柱間と出会い、喪失し、そうしてとうとう万華鏡写輪眼を開眼した!力に溺れ、それでしか、何も守れないと思い込んで!このまま、あれの大事なものを全て失えば完璧だった!いいや、そうなるはずだったんだ!」
ゼツはとうとう、イドラの胸ぐらを掴み上げて、叫んだ。
「なんなんだよおおおおお!お前は!!」
何を言われましても。
イドラは、寝間着のせいか、緩んで胸が晒されかけたまま地面に転がっている。
(あーできれば、そんなに揺すらないで欲しい。おっぱい見えそう・・・)
人並みの羞恥心のままにイドラはそんなことを考えた。
ゼツのそれには、イドラだって言いたい。
いや、私は本当になんなんでしょうか?
あの日、記憶?記録?を思い出してそんなことはずっと考えていた。
「いや、何なんでしょうね、私・・・」
「お前以外にその答えを持ってる奴がいると思ってるのか!?」
いや、分からんもんは分からないんですが。
答えを持っていそうな存在が頭の中で浮かぶが、こちらから接触することは出来ないだろう。
「大体、お前!扉間と、それこそ手さえ繋いでなかっただろうが!なーにが、敵対氏族を越えた、愛だ!!」
そうだ、ゼツは知っている。現在、忍の間で話題沸騰のラブロマンスなんて存在しないのだ。そうだ、この女、この女のせいでゼツの全てはめちゃくちゃなのだ。
突然飛び込んできたそれにゼツは怒り狂いながら叫んだ。
ちらりとイドラを見た。さすがにやることをやるだけだった女は、髪も下ろしてかんざしもつけていない。
そうだ、ゼツが夜を狙ったのはこれもある。
何をとち狂ったのか、仕事と婚姻するなんて本気でしそうな扉間がまんまとイドラにご執心と成り、飛雷神の術まで使い出したときは天を仰いだ。
イドラは出来れば消しておきたかったというのに、昼間では扉間が飛んでくるリスクがある。けれど今、女の髪には何もない。
ならば、邪魔が入る可能性も低いのだ。
それにイドラはばくばくと、心臓が鳴り出した。そうして、ゼツを見て言った。
「手ぐらい繋いだことありますよ!?チューだってしましたもん!」
「んなもん、お前がイズナと扉間の間に飛び込んだ後の話だろうが!」
「ちがいまーす!一目惚れですもん!純愛ですもん!相思相愛ですもん!」
「嘘吐け!俺だって扉間の動向はしっかり確認してる!あいつ、仕事と魚釣り以外にろくにでかけたことねーよ!女の影なんてそれこそ商売女ぐらいしかいねーよ!」
「あ、そこ、そこ、詳しくお願いします!どういった系統か、くわしく!ゼツ様、お願いしますから!」
「あー、でも、そこまでこだわりのある感じもないかなあ。系統、って言えるほど偏っては・・・・って、何を真面目に応えさせてんだよ!」
「いーじゃないですか!減るもんでもないでしょう!こちとら、扉間様の好みについては把握しておかねば!顔の系統が違うなら、化粧で頑張るしか!」
「その発言だけで、純愛云々が嘘だってわかるんだよ!」
それにイドラは黙り込んだ。いや、まあ、言われたとおり自分たちの間には愛なんてあるはずもなく。
だからこそ、必死にできるだけ、千手扉間を掴んでおかねばならないのだが。
それにイドラは自由になる口を使って吐き捨てる。
「うるさーい!私だって!私だって!大好きなのは、善人の兄上なんて答えそうな人を堕とさなくちゃいけないんですよ!?なりふり構ってられないんです!」
それに心のそこからの苦労が見て取れて、ゼツも何か同情してしまう。
「・・・・なんだよ、その、悪く言い過ぎたよ。あと、扉間の女の趣味なんて仕事の邪魔しないぐらいしか存在しねえぞ。」
「あ、ですよね、やっぱり。」
イドラはつーとちょっと泣いた。誘惑しようにも、けんもほろろになりそうだ。
子どもは、え、これ、この空気でどうすればいいのと瞳をぐるんぐるんさせている。
「いや!俺は何をしてるんだ!そうじゃないだろ!つーか、うちはイドラ、お前は俺のことを知っているな!?」
「え、いやあ、気のせいですよ。」
「嘘だろ、さっき、しれっと人の名前を呼んでただろうが!」
「き、気のせい・・・・」
今にも口笛でも吹きそうな勢いでイドラはゼツから目をそらした。それに、ゼツは叫んだ。
「うっそだろ!まあ、いい。お前の後ろにいるのが誰なのかはわかってる。ハゴロモだろ?そうして、俺をおびき出すために、この子どもを用意したな?」
ゼツはげたげたと笑い声を上げた。それに、イドラは遠い目をした。
いえ、まったくといって良いほど、知るはずもない存在です。というか、イドラの方から聞きたい。その子、本当になんなんでしょうか?
「が、俺の方が一枚上手だったな!まさか、ハゴロモまで現世に介入しているとは思わなかったが!」
「いえ、私も知らないんですよね、その子。」
「は?」
それにゼツは己が片手で確保している子どもを見た。自分が、せっせと秘密のお友達だよと懐柔し、イドラを連れてくるように説き伏せたそれはじっと、なんだこいつという眼でゼツを見ていた。
「いや、ほんと何なんでしょうね、その子。」
思わず言ったそれにゼツは子どもを見る。
え、じゃあ、なにこれ?
いや、知らん、こっわ。
そんな会話が繰り広げられそうな空気だった。それにゼツは気を取り直す。ともかく、輪廻眼は必要なのだ。
「ま、まあいい。これが輪廻眼であることは事実だ。なら、こっちが先だ!」
「や、やめろ!!」
「ははははあははあは!いい気味だ、お前におれがどれだけ苦労して来たのか、思い知るがいい!輪廻眼はいただくぞ!」
ゼツはそう、高らかに言い切って、イドラの絶望するような顔を眺めながら子どもの右目に手をかける。
それに、子どもは醒めた目で、拘束もされていない両手を合わせようとした。
けれど、それよりも前にざっと足音がした。
それにゼツが思わず顔を上げると、腕組みして、イドラの近くにいた自分を囲む、えげつないほど人相の悪い四人の男。
がっ!
子どもを掴んでいた手を、男のうちの一人、千手扉間が掴んだ。
「人の嫁に何をしとるんだ、貴様は?」
それにゼツは静かに死を意識した。
うちはイズナが亡くなり、それでもセカイは続いていく。
そんな中で、うちはマダラは和解を求め続ける千手柱間にこう言った。
「それなら、俺を殺すか、それともお前の弟を殺すんだな。それ以外に、和解の道はない!」
それは本気だったのか、いいや、いっそのことやけだったのか。
ただ、柱間にそれを突きつけた。が、柱間はどちらも選ばなかったのだ。
どちらも選べないのならば、自分が死ぬと、そう柱間は言った。千手扉間は慌ててそれを止める。けれど、柱間は頷こうとしなかった。
そんなときだ、金属を引きずるような音がした。そうして、頭領たちのやりとりを見守っていたものたちの間から少女が飛び出してきた、身の丈ほどもある斧を持って。
はい?
突然のそれに思わず柱間は元より、マダラさえも固まった。それは、後方支援を担当しているはずの妹だったのだ。
妹は、うちはイドラはぐずぐずに泣きながら柱間に近寄った。
「き、貴様!何をする気だ!?」
「は、柱間様の、介錯を!」
可愛い顔して空恐ろしいことを女は言った。それに、柱間は慌てた。
「い、いや、俺は腹を割いて・・・」
「で、でもお、柱間様、お腹を裂いたぐらいで死ぬんですか!?」
それにその場にいた人間も思った。
いや、確かに、死ぬのか、この人は。
「わ、私、もう、戦うのは嫌で。でも、兄様も、皆も止められなくて!それで、柱間様がそうするなら、せ、せめて、介錯だけでも!」
ぶんと振り回した巨大な斧に柱間は冷や汗を垂らした。いや、さすがにクナイで腹を割くのと、でかい斧で首をたたき折られますでは、覚悟の種類が違うというか。
「い、いや、待ってくれ!え、それでか?まじで、それでか!?}
「は、はい!でも、そうですね。首を落としきれないと苦しまれますし。ど、どなたか、剣の腕に自信のある方!」
「「「ま、待て待て待て!」」」
マダラはこのままでは柱間のとんでもない首狩り劇場が繰り広げられるのを察して叫んだ。
「戦は止める!だから、イドラ!その斧を下ろすんだ!!」