千手扉間に責任を取って欲しいうちはイドラの話   作:藤猫

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感想、評価ありがとうございます。感想いただけましたらうれしいです


ええ、本日はお日柄も良く、なんて上手くいくはずもなく

 

拝啓、皆様。

なんだかんだがありましたが、うちはイドラと千手扉間の結婚式が執り行われることになりました。

さて、自分の記憶にあるおぼろげな前世の結婚式と、忍の結婚式の違いってどんなもんだろうか?

普通、忍の結婚式は身内だけでやるひっそりとした物だ。

白無垢を着て、近しい人間の前で婚姻を上げる。その他の人間は他の大広間でどんちゃん騒ぎになる。

けれど、扉間とイドラの婚姻は普通とはほど遠い。

千手とうちはの同盟の証である婚姻であるが故に。

 

「ねえ、献立これでいいの!?」

「あの一族、体質的にこの材料は無理よ!」

「招待状で入れるのは三人までだぞ!」

「すみません、衣装はこれでいいんですか!?」

「イドラ姫は母君のを仕立て直しますので、扉間様は新しく作りますよ!」

「婚姻について、段取りは・・・・」

「うちはと千手での作法のすりあわせを!」

「いいですか、この一族との関係性は微妙で・・・」

「この贈り物はどうしますか?」

「お礼状の書き方は!」

「うちはの方々、いいですか、この一族には絶対に近づかないように!」

「千手の方、この一族は今、族長に問題が・・・」

「イドラ様、関係のある一族の方々の名前を覚えてくださいね。」

 

はちゃめちゃに忙しかった。

もう、結婚する前から山のようなことを捌いた。扉間は里造りの前の準備を平行して行っていたために、イドラと千手アカリ、そうして両族の女たちで行った。

 

千手の里で行うことになった婚姻ではあるが、もう、毎日のように決めることだとか、場の準備に食材の調達、招待客の把握。

もう、千手とうちはの人間、婚姻の準備をする人間は毎夜布団に倒れ込む勢いで寝ていた。 

 

扉間とイドラは互いにもう、寝ている顔だとかぐらいしか見ていなかった。もう、式の話と、招待客の話だとか、そんな話しかしていない。

互いに眼をぐるぐるさせながらひたすら、打ち合わせに準備にと奔走していた。

 

「・・・・扉間しゃま、あの、これ、この一族はお断りの連絡が来ているんですが?」

「そこは、確か、あれだ。あの・・・」

「確か、そこの族長は今、体調がすぐれんと連絡が・・・」

「おい、式当日の護衛の位置はこれでいいのかあ?」

「お、贈り物の、返礼はこれでいい?」

 

その日、もう、式が近くなったある日。

千手の、柱間と扉間の屋敷の一室で最終のツメに入っていた。全員の全員が、へろへろに机に突っ伏していた。

幸せな結婚生活前の甘さなんて無い。その場にある空気なんて存在しなかった。

そこにあるのは、例えば繁忙期のくっそ忙しいときの、残業中の疲れ切った社会人の疲れだった。

ちなみに、千手アカリは他の一族に用があり、外出していた。

 

「兄者の婚姻の時も、これぐらいしてやる・・・・!」

「おい、俺を巻き込むな。」

「千手の婚姻なら俺らは客だから好きにしてくれ。」

「でも、その場合、姉さんが苦労するんだよな。」

「・・・・うんむ?」

「あれ、おちびさん、起きられましたか?」

 

完全に疲れ切り、死んだ眼で茶を啜っていたイドラはその声に振り返った。そこには、布団の中で丸まっている忍具のウツシキと、そうして起き上がりちょこんと座ったイドラそっくりのうちはマダラと千手アカリの息子(暫定)である少年が目をこすっていた。

それに無意識のように、その場にいた全員、マダラ以外が少年に手を差し出した。

少年、今は仮名としてちび助と呼ばれているそれはぽてぽてと歩き出し、そうして、マダラの膝の上に乗る。

 

「おい、仕事中だ寄るな。」

「んー・・・」

 

ぐずりながらちび助はマダラの腹に抱きつき、ぐりぐりと顔をこすりつける。

それにマダラの隣に座っていた柱間ががっくりとしながら、それでもなんだかうっとりとした眼でその光景を眺める。

好きな物と好きな物が掛け合わされたものって最高じゃないだろうか?

 

「・・・ちび殿は俺んところにまったくこんなあ。」

「そうだねえ。俺の所にもあんまり来ないよね。兄さんにべったりだ。」

「ああ、たく、甘ったれで困る。」

 

柱間とうちはイズナのそれにマダラは困ったように言った。けれど、その手は優しそうに幼子の背を撫でていた。

未来から来たらしい子どもは、一番にうちはマダラに懐いていた。そうして、意外なことにアカリにはあまり近寄ることはなかった。

マダラがいなければイズナに、次には扉間と柱間だ。イドラにも、子どもはあまり近づこうとしなかった。嫌われてはいないが、ただ、マダラの方が子どもはいいようだった。

それにアカリ自身、あまり落ち込んだりすることはない。

 

「眼福だ。」

 

そんな台詞にイドラはまあ、本人が良いならいいのだろうかと無理矢理に納得した。

 

子どもは大人しく、数個のおもちゃを与えていれば、家の中で大人しくしていてくれた。暇な人間が率先して構うため、監視という意味では不自由していない。

 

(この子は本当になんなんだろうか?)

 

いくら考えても答えは出ない。

六道仙人様、あなたは子どもになんて物を与えているんですかと小一時間は詰めたいものだ。イドラも、ゼツを警戒しているので、できるだけ側にいるようにはしている。

ただ、子どものため、時折輪廻眼を開眼しているのだから困ったものだ。

うちはにあった書物に、輪廻眼の記載があったおかげで、眼の説明はされたが六道仙人との関係性については証明されていない。

 

(私が未来で死んでるって話で、輪廻眼の話もかすんじゃいましたし。)

 

今のところ、扉間は毒殺案件でも動いているようだが、発展の兆しもない。というか、ゼツの件よりも結婚式のもろもろが忙しすぎるのだ。

 

(もう、ゼツの案件で騒ぎになる前に未来に帰したほうが安パイですよねえ。)

 

イドラはそんなことを思いつつ、マダラと子どもを眺めた。

 

扉間はマダラと子どもを見つめながら、思うのだ。

 

なんとも情の深い一族だと。

 

うちはというそれと関わっていると、しみじみと思う。なんとも、それは情が深いのだろうかと。

それは、なんだか、忍をするにはあまりにも情が深すぎる気がした。

彼らは、表面上にはひどく誇り高く、高慢だ。

けれど、根っこの部分ではどこか、脆い。

彼らの高慢さは、もちろん、その能力に後押しされた部分がある。けれど、それと同時にその高慢さは仮面であるのだ。

愛しい人間をできるだけ作らぬように、愛が招く滅びを恐れているように、一人で、生きていけるように。

 

誰かを愛し、それを亡くした瞬間、崩れ落ちる瞬間をうちは一族は知っているような気がした。

 

マダラの孤高であろうとして、けれど柱間を切り捨てられぬ在り方に、そうして、イズナの兄だけを見ている感情に。

そうして、その、美しい女の言葉に、思うのだ。

 

きっと、これらは、この血統は、この人々は、誰かを殺し、戦うよりも、誰かを守ることのほうが性に合っているのだ。

自己中心的に生きることを他に望まれているようで、彼らはきっと、愛した誰かを守って生きた方がずっと息がしやすくなるのだと。

 

マダラを見た、イズナを見た、イドラを見た。

傲慢で、誇り高く、他を見下しているそれらに扉間は何かのためにしか生きられないもろさがあるような気がした。

 

 

 

(・・・・吐きそう。)

 

イドラはふらふらと廊下を歩いていた。

表情は死んでいるが、その他のコンディションは最高だった。

結婚式、それは女性が何よりも輝く日、なんて思われるが、イドラはその日、ふらっふらだった。

朝早くにたたき起こされ、うちの姫君こそ至高じゃ!なテンションのうちはの女衆に化粧をされ、そうして、めかし込まれた。

さすがにうちはの里から千手の里まで嫁入り行列は無理なため、千手の里の端から端まで歩いた。くっそ重い花嫁衣装に自分が忍で、かつ体だけは頑丈で良かったとしみじみ思った。

ちなみに、うちはの里を空にはできないため、留守番役は数人残っている。

 

「留守番役達には、幻術であとで見せてやることになってる。」

 

そんな幻術をビデオカメラ代わりにするんですか。

イドラはそんな言葉を必死に飲み込んだ。

イドラの晴れ舞台となり、うちはの人間は全員で見たいと騒いだのだが、里を空にはできない。さりとて、里に同盟を組んだ千手はまだしも、他の氏族を入れるのはためらわれた。

 

「後日、花嫁衣装だけ一族の前で着てやってくれ。」

 

そういうことで決着は付いた。

さて、花嫁行列が終っても、その後婚姻の儀式がある。それはいい、作法通りに動いて言祝ぎされて、それで終わりだ。

問題はその後だ。

それぞれ招いた氏族の長達と食事会になる。イドラはもう、必死に、立ち替わりやってくる長達に挨拶をした。

挨拶をし、にこにこと、表情筋が死ぬんじゃないかというほど笑った。

扉間も顔が死んでいた。

何故って、話の殆どが自分たちの、あれだ、ラブロマンス(存在しない)の話を振ってくるためだ。

ここでぼろを出す訳にゃいかねえと扉間と作った台本通りに質問を受け止め、交わしてゆく。

そうして、祝いの場だからと注がれる酒を飲む。

さすがに、花嫁には無理はさせられないからとマダラやイズナが代わりに受けていたが、最終的には二人とも顔が赤くなっていた。

いや、忍として最低限セーブはしているようだったが、それはそれとして、互いに何か感情表現が壮大になっていた。

というか、最終的にマダラは柱間と号泣しながら叫んでいた。

 

(お、終った!山場が、終った!)

 

イドラは宴もたけなわという中で、先に下がった。そうして、何でも良い匂いのするらしい香油の入った風呂に叩き込まれ、女達に徹底的に洗われた。

 

そのせいか、イドラは顔が死に、疲労感で一杯の中で肌はつやつやで、髪の毛だってもうさらっさらだった。

表情は死んでいたが。

 

(寝たい、もう、寝たい。)

 

後はご夫婦でごゆっくりと寝室へ送り出されたが、イドラはもう寝ることしか考えていなかった。お布団にくるまって、さっさと寝たい。

遠くで聞こえる宴に、仲が良いなあとほっこりしながら、睡眠欲に満たされていた。

そんなときだ。

 

「おばしゃま。」

「え?」

 

風呂に入って火照っていたためか、なんとなく選んだ、庭に面した廊下。そこで、後ろを振り向くと、ふくふくとしたほっぺたをほころばせたちび助がいた。

 

その日、子どもは恐ろしいほどの早さで馴染んだうちはの人間のところで預かられていたはずだ。

 

「どうしました、抜け出してきたんですか?」

 

イドラは子どもを送っていこうかと視線を合わせると、子どもはまた、ゆっくりと瞬きをした。

己を見つめる、輪廻眼。それにイドラは少しだけ驚いたが、じっと子どもを見た。

子どもは輪廻眼は持っていたが、未だ幼いため忍術自体使えないそうだ。

子どもはにっこりと微笑んだ。

 

「あしょぼ!」

「え、うーん、今日はもう遅いから無理ですよ・・・」

 

子どもはそれにぴょんと、庭に下りた。そうして、手をぶんぶん振って、イドラを手招きする。

イドラがどうしたものかと悩んでいると、子どもはまるで、老いたそれのように静かに微笑んだ。

 

「まっくろな人がね、あしょぼって!こっち!」

 

弾んだ声だった。これ以上無いほどに、楽しそうな声だった。

けれど、イドラはそれに冷や水を浴びせられた気分になった。

 

くろい、ひと。

 

それにイドラは反射のように叫んだ。

 

「ダメです!」

 

けれど、子どもは楽しそうに笑って、屋敷の塀を跳び越えて行ってしまう。

イドラはあっさり、そうして、子どもを追いかけることを優先した。そうだ、たかだか幼児の足ならば、すぐに追いつけると予想して。

 

 

なのに、なのに、幼子はどんどん森深くに走って行く。身体能力に自信のあるイドラさえも追いつけない。

何故?

何故だ?

もしかすると、その子どもはゼツの手先なのか?

いいや、だが、扉間たちの調べから逃げ出せるのか?

それとも、本物は未だ屋敷にいるのか?

けれど、イドラは盲目的に子どもの心配が勝ってしまった。

 

走って、走って、そうして子どもは、とある開けた場所で止まった。

 

「おちびさん、ほら、帰りますよ!」

 

イドラが焦ってそう叫ぶが、それに子どもは振り返る。そうして、ゆっくりと口だけをうごかした。

 

(ご、め、ん?)

 

イドラはその口の動きに顔をしかめたその時、何かが自分に飛んでくる気配がした。

イドラはそれに振り返り、そうして、避ける。けれど、投げられたものは、何か、粉のような物が辺りに振りまかれた。

イドラはとっさにそれから距離を取るが、ぐらりと体が傾いだ。

 

「あれ、おばしゃま?」

「ああ。よかった。」

 

イドラは四肢がしびれ、上手く動かせない中、体を声の方に向けた。そこには、そうだ、ああ、ずっと、ずっと、彼女が恐れ、そうして憎んでいたそれがいた。

黒い体、人を嘲るような口元、そうして軽薄そうな声音。

 

「どう?もう、滅多に生えていない植物なんだけど、即効性は抜群のしびれ薬なんだ。さすがにそれへの耐性は持っていないはずだ。」

「ありゃ?」

 

黒いそれは、そういいながら子どもを抱えた。それに、イドラは回らない舌で言った。

 

「や、めろ・・・・」

「やめろって、何を?」

 

黒いそれはニヤニヤ笑って、イドラに近づいた。そうして、彼女を見下して笑った。

 

「はっはっはっは!!!本当に愉快だ!」

 

そう言ってイドラを見下した後、黒いそれ、ゼツは崩れ落ちるようにイドラの近くに座り込んで叫んだ。

 

「お前、まじで、何だよおおおおおおおおお!!」

 

ゼツの悲壮な声が辺りに響いた。

 





本当に良いのか?
そう、目の前の少年に問いかけた。

少年は、それに淡く笑った。

夢を、見るんだ。

夢?
問い返すと、少年は淡く笑った。

はい、僕は夢の中で、みんなを遠くから見ているんです。
父様も、母様も、叔父様達もみな、笑っていて。兄様も、姉様も、死んでしまった兄様も、叔父様達の息子も、笑っていて。
それを僕は遠くで見ていて。でも、みんな、僕に気づかないんです。
僕は、そこにいなくて。見えなくて、でも、みんな笑っていて。
それに、それを見て、僕はいつも思うんです。

ああ、良かったって。

少年は笑った。己の犠牲で、全てが上手くいくというのなら、それ以上のことはないのだと。
そう、少年は笑うのだ。
ああ、だから、それに亀も笑った。その亀は、本当に嬉しそうに笑った。
亀は、確かに、その善性を愛してしまったのだ。

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