うちはマダラは、己の肩をがしりと掴んだ存在に気づいた。そこには、やたらと爽やかな笑みを浮かべた千手扉間がいた。
それに、マダラは気づいた。
こちら側にようこそ、その顔はそう言っていた。
「ま、待て!おい、何か誤解してるだろ!?」
「ほう、この状態でどの口が言ってるんだ?」
それにうちはの人間、それこそ弟であるうちはイズナさえも少しだけ不信そうな眼で自分を見ている。
「お、おい、イズナ・・・・」
「兄さん、なんで言ってくれないんだよ!?」
「はあ!?」
「千手の女に惚れてるなんて。ううん、あのとき、アカリ姫に会ったときも初対面みたいな顔して。俺のことまで騙すなんてひどいよ!!」
「ありえねえ・・・」
「そうぞ、マダラ!」
マダラは何をそんなあり得ないことをと、呆れた。
仮に、だ。仮に、自分が千手アカリと通じていたとして、あそこまで大きな子どもをどうやって隠しておけたのか。
そう言おうとしたとき、遮るように千手柱間がマダラに飛びついてきた。それにマダラは思わず口を閉じた。
「柱間ぁ!てめえ、いきなり何を・・・」
「水くさいぞ、マダラ!そんなにも、姉上と懇意にしていたというのならば、俺に一言くれれば!」
「なことあるか!違うって言ってるだろ!?」
「ならば、あの子はどうなるんだ?」
そう言われて屋根の上を見れば、子どもはにこにこと笑いながらこちらに手を振っていた。顔が無駄に愛らしく、そうして、妹であるうちはイドラに似ているものだから余計に腹立たしい。
そこでふと、皆が自分を見ている中で、扉間が自分を見ていることに気づいた。
良い笑顔だった。
お前、そんな顔できたのかと言いたくなるほどの良い笑顔だった。
地獄に墜ちるのを楽しむ鬼のような笑顔にマダラは周りを見回した。周りの人間は、確信とまではいかなくとも、完全にマダラを疑っていた。
イドラはそれよりもと、子どものことが気になるのか、屋根を見上げている。
うちはの人間は元より、イズナさえも子どもの登場にあり得ないとわかっていても関係を疑ってしまった。
何よりも、アカリについては当人の性格を考慮してもマダラは当たりが柔らかい。女については理解できないし、弱いと庇護対象以外の感情を見せなかったマダラだ。
(まあ、その態度もわかるけれど。)
あんな女、会ったこともなかったのだ。いいや、二人もあんな女がいるとは思いたくもない。けれど、無意味だとか、無価値だとか、そんな風に切り捨てることが出来ないのはイズナとて同じだった。
もちろん、顔がいいというのは度肝を抜かれたが。
それでも、己たちの瞳をのぞき込む、あの無粋さと、無遠慮さと、そうして、信頼だとか信用だなんて名付けることも出来ない、差し出されるような在り方を振り払うことが出来なかった。
自分たちを、なめているわけではない。自分たちを、格下だと思っているわけではない。
それの瞳に静かに浮かんだ覚悟に、イズナとて何も思わないわけではないのだ。
それはそうとして、そこまで自分に断りもなく兄と仲良くなっている事実が面白くないし、腹が立つ。
うちはの人間はざわついていた。
頭領が?
あの、戦うの大好き、女よりも弟を優先する頭領が?
まだ、柱間に道ならぬ恋をしている方が納得できる頭領が?
(マダラ様、そんな情緒あったんだな。)
(マダラ様に、とうとう春が?)
(マダラ様、ああいう冷たい系が好きなんだ。)
そんな風に思われているなんて知りもせずに、マダラは柱間と揉めている。それをざまあみろと扉間はゆっくりと笑った。
扉間は今の所、子どもがうちはの人間であることは考えていても、姉の子である可能性は低いだろうと考えていた。
あそこまで育つのに自分たちに知られずに隠すこともできないし、そうして、自分たちは妊娠期間に気づかないような間抜けであるはずもなかったのだ。
困り果てて、周りから冷たい視線を向けられるマダラのそれに扉間はご機嫌だった。どうだ、身に覚えもない女関係で詰められる気持ちは?
弁解しても無駄な現状は?
扉間は高笑いが漏れ出そうなのを必死にこらえた。
子どもはそんな光景に、何故か、心底嬉しそうに目を細めていた。ゆったりとしたその様は、高貴な猫のようだった。
そんな騒がしさなど気にも止めずに、イドラはどうしたものかと考えた。
幻術などではないのならば、おそらくあの子は自分たちの血縁であることになる。けれど、輪廻眼の存在がわからない。
それが現状では開眼する可能性がないというならば、あの子は。
(未来から?でも、そんなことありえるのかな?)
「ワシの時はあそこまで騒いだというのに、マダラには優しいのだな。」
マダラと柱間のそれを眺めていた扉間は思わず言った。それに柱間は当たり前だろうと息を吐いた。
「当たり前ぞ。イドラ殿はともかく、姉上が気に入らん男に体を許すはずがないだろう。そんなことをするぐらいなら、首の一つでも。」
「かき切って死んでいるだろうな。」
自分たちに近づいてくるそれにうちはも、そうして柱間達も肩をふるわせた。
振り向いたその先には、短刀を持ったアカリがいた。
「「うわあああああああああ!?」」
「なんだ、幽霊を見たような顔をして。それよりも、手伝いの女衆が私の所に飛んできたんだが?」
どうやら事情を知らないらしいアカリは皆を見回して首を傾げた。その時だ、屋根の上の子どもが大きく叫んだ。
「かーしゃま!!」
「え?」
子どもは屋根から下りると、ぴょーんとアカリの足に飛びついた。
「かーしゃま?」
しーんと、辺りに沈黙がおちた。やけに痛い沈黙だった。なんだろうか、皆の背中にじっとりと汗がにじむような感覚だ。
アカリは不思議そうに子どもを見た後、屈み込んだ。
「ふむ、私は未だ、子どもを産んだ覚えも、育てた覚えもないんだが。」
「かーしゃま、だっこ。」
それにアカリはふむとうなずき、子どもを抱き上げた。アカリは子どものことを隅々まで見た。
「・・・極端に痩せているわけでもないし、着物も生地がいいものだな。大事にされてきたようだが。」
「姉者、警戒心もなく抱き上げるな!何か仕掛けられているかもしれんのだぞ?」
「それなら、この家に忍び込んだときにとっくにしているだろう。疑うなら、お前も調べてみなさい。」
それに扉間も子どもに近づき、体を触るなどして確かめる。子どもは特に嫌がることもなく、アカリの服の裾を握って遊んでいる。
「皮膚の状態を見るに、箱入りというわけではないようだが。特に、何か印を刻まれている様子もない。」
「姉上、本当に覚えがないのか?」
「子どもを産んだことを忘れるはずもない。大体、私は未だ経験も無い純潔だ。」
「おま!そんなこと、堂々と言うんじゃねえよ!つーか、お前、母親呼ばわりされてもう少し動揺はねえのか?」
それにアカリは少し考えた後、首を軽く振った。
「まあ、マダラ殿ならば、不満はありませんので。」
それにマダラはうっと息をのんだ。非常に恥ずかしい。というか、この女はなんなのだ、この肝の据わりようは。
「にしても、この子はいったいなんなんだ?」
それにうちはイドラがおずおずと近づいてくる。
「それが、朝に私の布団の中に潜り込んでて。」
「あ゛?」
「えーん!怒んないでください!」
「怒るに決まっておるだろうが!貴様は己が忍であるという自負を持っているのか?」
「ふむ、なあ、君のお名前はなんだ?」
アカリがそう言うと、子どもはどこか戸惑うように視線を下げ、そうして両手で口を覆った。
「いえない。」
「なんでぞ?俺は柱間というが、教えてくれんのか?」
「うん、だめ・・・」
子どもはアカリの胸に顔を埋めて、いやいやと首を振る。
「何はともあれ、この子がうちはの血筋であることは確実だな。ほら、もう聞かないから。」
アカリがそう言うと、子どもはおずおずと顔を上げた。そうして、アカリはその背中をとんとんと叩く。
それはひどく様になっていた。まさしく、母という単語がよく似合っていた。
「慣れているんだな・・・・」
「ははは、そりゃあな。弟もいたし、泣き虫なのがいてな。よく、あやしていたからな。」
マダラとアカリの間に湧いてきた穏やかなそれに、柱間は久しぶりにはわわとしていた。そうして、両手で口を覆った。
え、え、やっぱり、もしかして、そういうことなのでは?
「本当に、兄さんの子じゃないの?」
「違うって言ってるだろうが!!」
「でも、今完全にそんな雰囲気だったぞ?」
「なわけねえだろうが!だったら、扉間のやらかしの可能性のほうがたけえんだぞ!」
「おい、聞き捨てならんぞ!?その子どもは貴様のことを父と呼んでいるだろうが!」
「覚えがねえよ!大体、それならお前がイドラに手を出したことの方が確かだろうが!?」
「ほお!?ならば、貴様の写輪眼でワシに幻術をかけてみろ!無実を証明してやろう!」
「おい、うちの秘技を便利な嘘発見器に使うんじゃない!?」
「そんな軽やかに使うもんじゃねえんだぞ、この瞳は!!」
「こちとら、なりふり構ってられんのだ!!」
そんなマダラと扉間とイズナの喧嘩を尻目に、柱間はアカリにねだった。
「なあ、姉上。俺も抱っこしたいんぞ。」
「だとさ、おちびさん。」
「あい?」
子どもは舌っ足らずなそれのまま柱間に手を伸ばした。それに、扉間達の口げんかを伺いながら、うちはの人間もアカリたちの元に近づいてくる。そうして、にこにこと笑う幼子を伺った。
やはり、愛らしい子どもの方が気になる。
「ひかくのおじしゃま!」
にっこにこ笑顔で名を呼ばれたヒカクは思わずでれでれの笑みで、子どもに近づいた。
「はい、ヒカクですよ!」
それにその場にいたうちはの人間が我先にと名前を呼ばれたがった。それに便乗して柱間も幼児に言った。
「俺は?俺は?」
「はしらまあ!」
その時の、柱間のがっかりした顔にイドラはなんだか哀れになった。そうして、確信する。この子どもは確実にマダラの子であると。そこで、イドラはおずおずと、幼子に聞いた。
「おちびさん、あなたはどこから来られたんですか?いいえ、それよりも、その目は、いったい・・・」
「そうだな、確かに、気になるよなあ!」
イドラのそれに、突然、低くてやたらといい声が聞こえてきた。それに、周りの人間が構えを取る。もちろん、喧嘩していたマダラたちもだ。
そんなことなど気にならないのか、そのやたらと良い声のそれは続けた。
「はっはっは、スターの登場に浮き足立ってるんだな。いいや、当たり前さ。」
その声と共に、たーんと幼子の頭の上にカメが振ってきた。
「か、め?」
「おお、そうだぜ、色男!」
カメは、何故か洒落たハットを被り、マイクまで持っている。それは、幼子の肩に器用に二本のひれで立っていた。
そうして、華麗にポーズを決めた。
「俺こそは、時空間移動宝具のウツシキ様!いいや、時空間移動宝具はあくまで仮の姿!そう、俺こそがカメラップの伝道亀!ウツシキ様だ!以後、見知りおきを!!」
それにその場にいた人間は思った。危険だとか、そんなものではなくて。
(((へ、変なのが来た!!)))