千手扉間に責任を取って欲しいうちはイドラの話   作:藤猫

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感想、評価ありがとうございます。感想いただけましたらうれしいです。

かつて、こんなにもうっきうきの柱間がいただろうか?
たぶん、この話で一番得してるのは題になってる扉間さんじゃなくて柱間。


お前のような奴がいるかと言われると、事実としてここにいるわけで

 

「・・・その、申し訳がないのですが。」

食べ合わせが、悪かったようです。

 

 

その言葉に千手とうちはの人間は同時に非難の声を上げた。

千手の屋敷の一室。そこで円のようになってうちはと千手で話し合いが行われていた。

もちろん、内容はうちはイドラの暗殺未遂についてだ。

 

「そんなことあるはずがないだろう!?」

「食べ合わせでそんなことがあるはずないだろ!?」

「さすがにねえだろ!」

「静まらんか!」

 

それぞれに騒いでいた、宴会に出ていたうちはの人間、そうして千手での地位が高い人間は千手柱間のそれに黙った。

うちはの人間はちらりとうちはマダラを見たが、彼も軽く頷いた。

 

「どういうことだ?」

「は、はい・・・」

 

マダラの問いに、数人の人間がおずおずと頷いた。千手の医療忍術を主として取得している彼らの代表である男が口を開いた。

 

「・・・今回、宴にはうちはの方々が持ってきてくださった茸が出ていたのですが。」

「ああ、姉さんの好物だったからな。季節外れだったけど、最後の生き残りがあったから持ってきたんだが。」

「はい、その茸単体ならば問題はなかったのですが。その茸と、酒を飲むと毒性を発生するようでして。」

「酒なら皆、飲んでいたはずだ。」

 

地獄の底から聞こえてくるようなそれに医療忍者の男は体を震わせた。恐る恐るそちらの方を見ると、そこには地獄の獄卒と見紛うばかりの殺気と苛立ちを漂わせた千手扉間がいた。

ギラつく瞳はそれこそ、戦場に出たこともある人間もまたびびるほどの何かが混ざっていた。

話題の中心であるイドラは毒の中和は出来ても、高熱が出たために寝込んでしまっていた。普段、元気で辺りを走り回っている彼女が顔を真っ赤にして寝込んでいる様は、周りの胸を相当痛ませた。

 

(柱間様についているように言われていたが。)

ワシがついていて、あれの体調が戻るのか?

 

そう一喝した男は当たり前のようにこの話し合いに参加している。男は据わったその瞳にがたがたと震えた。

それぐらい怖かった、めちゃくちゃに怖かった。そんな視線を向けられて、医療忍者の面々が少しでも怯えを誤魔化すために身を寄せ合った。

うちはの人間は、まるで寒さに震えて身を寄せ合うたぬきのようで、哀れみを覚えた。

 

「・・・・扉間、彼らを脅すのは止めろ。」

 

待ったをかけたのは、紅蓮のような赤い髪の女だ。千手アカリは怯える医療忍者の面々から引き継ぐように話を続けた。

 

「その酒が問題だった。普通の清酒なら問題なかったんだ。今回、イドラ姫には特別に蜂蜜酒を出してたんだよ。」

「・・・・そうだ。あれは甘党だからな。」

「ああ、聞いたら酒は辛くて苦手だとな。それで、うちで作ってた蜂蜜酒なら飲めるだろうと、彼女にだけ出していたんだ。」

「毒性に誰も気づかなかったのか?」

「茸自体、そこそこ希少で市場に出るタイプのものではない。そうして、千手の住む地域とは離れたところに分布があることで食べ合わせの分に関しては知られていなかった。」

「・・・うちはでもそう、食べるもんじゃねえ。どっちかっつうと珍味の類いだ。おまけに、旬の時期でも早々見当たらねえもんだ。」

「うちはでは蜂蜜酒の類いは飲まないだろう?」

「ああ、俺たちもそれは知らなかった。」

「ならば、今回については事故、だと?」

 

柱間のそれに扉間が首を振る。

 

「それにしては不審な点が出てくる。」

「ああ、そうなんだ。うちは側から聞き取りをしてもらったが、茸についてはおかしな部分が出てくる。希少で、おまけに季節外れだというのに、少量でも見つかったことがおかしいことにもなる。」

「何かしら、企んだ馬鹿がいる可能性が、あるか。」

 

一触即発、その場を支配する空気に名前をつけるとしたのなら、それこそがふさわしいはずだった。

けれど、広間の空気はけして、寒々しいとか、ピリついているとか、そんなものではなかった。

うちはの人間も、千手の人間も、苛立ちと怒り、そうして疑いをそれぞれに抱えていた。

けれど、とある人物の声を聞くと、思わず思ってしまうのだ。

 

「あくまで可能性の範囲だが。」

 

千手アカリのそれに、脳裏に浮かんでくるのはあの混乱の場での一言。

 

(顔がいいって言ってた人だ。)

(治療中に黙々とマダラ様の顔の良さを語ってた人だ。)

(ああいうのが好みだったのか。)

(万華鏡写輪眼真っ向から受けたんだよな。)

(わかる、うちはの人、顔いいもんなあ。)

 

いや、まあ、雑音がすごいのだ。

怒りがあるし、動揺があったし、互いへの疑いがあるのだが。それを上回るぐらいのとんちきな騒動が雑音になりすぎてしまっている。

なんとか表面的には真面目な空気もあるし思考については忍としての方向には切り替えてはいるのだが。

それはそうとして、頭の片隅に何かがちらついている。イドラがいれば、頭の片隅で宇宙を背負った猫がダンシングしているとでも言っているような感覚だった。

目の前で万華鏡写輪眼をのぞき込み、幻術を喰らって、そうしてその後に敵対していた敵の頭領に顔がいいと叫んだ女の映像はあまりにも濃すぎた。

 

 

邪魔、いや、邪魔。

雑音ってレベルではない衝撃が頭の中で延々と踊っているのだ。

扉間はその雑音をなんとか追い出そうとしていた。

もう、この際いっそ、怒りだとか苛立ちでその雑音が消えるならば消えて欲しい。

 

(・・・やはり、犯人を見つけることは難しいか。)

 

今回の一番の原因は、互いの異文化を持ち込んだ事による事故の部分が大きい。もちろん、疑いはあるのだが、幸いなことに千手の医療忍術のおかげでなんとかなりはした。

が、それによって互いにまたぎすぎすしているかというとまた違う。

あまりにも、姉である千手アカリのしたことのアクが強すぎて、全ての感情がどっかに行ってしまっているのだ。

現場にいなかった千手の人間もアカリのしたことに目を丸くして、雑音から帰って来れなくなっている。

 

(毒を盛られた本人もあの様子だからな。)

 

毒を盛られた本人のうちはイドラはけろりとしている。熱が出ている以外に特段おかしな所もなく、千手から出された食事も平気で食べている。

 

(卵入りのきつねうどん!)

 

食事をさせるために、好物だという軟らかく煮た、おまけに半熟の卵が入ったそれを当人がおいしそうに食べていた。

顔は真っ赤で熱が出ていたが、食欲は健在で少しずつ、にこにこで食べている様は相変わらず警戒心がない。

扉間は、笑いながらおいしいですというイドラの姿に密かに癒やしを感じた。

が、それはそれとして、この駄犬はこのままでいいのだろうかとも考えている。お前、食事に毒を盛られたのかもしれないんだぞ?

いいのか、そんなに旨そうに食って。

 

「あれは昔からああなのか?」

 

旨そうにうどんを平らげたイドラについてマダラとイズナにそう聞けば、ちょっと遠い目をした。

 

当人がそんな状態のため、うちはの警戒心が煽られずに、この場が保たれているのだ。

どっちかというと、平然とうどんを平らげているイドラの様子になぜかうちはが申し訳なさそうな顔をしている。

 

「それで、今回のことの調査についてだが。」

「兄者、ワシに任せてくれるか。」

 

柱間のそれに扉間は何のためらいもなく立候補した。今回の騒動について、ある程度調査をすべきだろうということのためだった。

据わった瞳と、怒りににじんだそれに地獄の閻魔のように怖かった。臆病な人間なんて内心で半泣きだった。

へたをすれば、この男と調査をするのだろうかと。

 

「・・・・うちの人間も関わらせろ。」

「無論だ。うちはの調査についてはそちらに任せることもある。千手についてはワシが担当しよう。」

「扉間、大名達に里の支援を任せる話はどうするんだ?」

「それについては元より、今回の和平の顔になる兄者とマダラが、いや。」

 

そこで扉間は口を噤んだ。

兄である柱間は腹芸が出来るタイプではない。マダラは出来ないわけではないが、感情で突っ走る可能性がある。

 

「それなら、そちらの補佐は私が行こう。」

 

その言葉にアカリへ視線が行く。

 

「柱間の婚姻についてはうずまきの女衆に一旦預ける。大体のことは終っているしな。」

「女だけではなめられるのでは?」

「あくまで補佐だ。そうだな、名前がたらんのならイズナ殿にも参加して貰えばいいだろう。彼の名前ならば大名達も納得するだろうしな。」

「・・・そこら辺について、後で話しあうか。」

 

名前を呼ばれて驚いたうちはイズナはちらりとアカリを見た。女は自分を見ており、あまりにもまっすぐに瞳を見てくる。

その仕草は不躾で有りながら、あまりにも新鮮すぎた。

是であると頷けば、いったん、この場は解散となった。

ともかく、調査をしてからとのことになったのだ。

会議が終わり、うちはマダラは内心でほっとしていた。何故って、会議中に時折アカリがマダラを見てくるのだ。

普段ならば探られているのだろうとか、がんくれてんのかと言えたのだが、あの話を言われてからは違う。

うちはマダラは、モテるかと言われると微妙なところだった。

 

容姿は一族全員が似たり寄ったりで、マダラ自身、イズナのことが最優先だ。何よりも、彼は普段の振る舞いが傲慢すぎる嫌いがある。

それ自体は、頭領として必要な振る舞いであると思っていた。

何よりも、彼は戦うことを愛していた。

平和な世が来れば、子どもの死なない世界であれば、そう思うのと同時に、永遠に心躍る戦いの中で、千手柱間と殺しあいをし続けていられればいいという感覚が腹にあったのも事実だった。

それゆえに、弱い女は庇護する対象であって、恋愛のれの字もいだくことはなかった。

政略結婚で、優秀な血を残すこと。

彼は、弱い女に家族という感覚を持てなかったのだ。

彼が千手柱間に執着し続けたのは、それもあった。弱くはなく、己と渡り合う、そうして同じ夢を見た男。

 

だが、そんな中にまったく違う毛並みのそれが現れた。

千手柱間のように強いわけではない。うちはイズナやうちはイドラのように血が繋がっているわけではない。うちはですらない。

 

瞳を見せてください、あなたたちは美しい。

 

曰く、チャクラの量が多いだけ。それだけの、蔑むべき弱い女は誰よりも、うちはマダラの瞳を真っ向から見るのだ。

敵対すべき自分の、そうだ、抜き身の刃を首元に突きつけられてなお、それは揺るぐことなく無防備に晒してくるのだ。

うちはマダラは、それにどうすればいいのかわからなかった。

蔑むことは出来なかった、さりとて尊敬するにはあまりにも弱かった。ただ、自分のことをじっと見てくる、見つめ返してなお、そらすことなく見てくるそれの存在が落ち着かない。

力の象徴、それをたやすく殺すことの出来る、それを真っ向から受け止める女はけして弱いはずはないのだ。

 

話し合いがお開きになり、マダラは立ち上がった。今回のことに関しては、事故なのか、それとも悪意あってのことなのか、その調査結果によってだろう。

部屋の中にいた千手の人間はいなくなり、残りはマダラたちうちは一族と、柱間、そうしてアカリだけになった。

マダラは熱を出して寝込んでるイドラの元に向かおうと考えていた。

 

「マダラもイドラ殿のところに行くか?」

「ああ、他の奴らも心配してたしな。」

 

マダラは近づいてきた柱間にそう言った。扉間はさっさとイドラの元に行ったらしい。己に挨拶がないこと自体には不満はない。

今の扉間には、それ以上に優先すべき事があるのだ。

 

そんな中、柱間に近づいてくるものがいた。

 

「マダラ殿。」

 

アカリだ。それにその場にいたものが全員、そわそわし始めた。いや、もちろん、アカリとマダラに何があるわけではない。

ただ、アカリが一方的にマダラの顔を気に入っているだけだ。

が、それはそれとしてうちはの人間はそわそわしていた。

マダラを恐ろしいと思ううちはの人間は多い。戦闘を好み、不器用な彼はうちはでも恐れられていた。

けれど、そんな彼を動揺させる存在の登場にみな、少し浮き足立っていた。

イズナもまた、あの時わっかると叫んだ手前、普段のツンケンした態度を取れなかった。

 

「すまない、先ほどの件だが改めて場を整える。それまではくつろいでいてくれ。」

 

あっさりとした事務連絡に皆、そんなものなのかとアカリを見ていた。

マダラも、あの顔がいい発言後の会話がそれなため、拍子抜けした。

そこに割り込んできたのは、柱間だった。その顔は、なんだかスケベ親父が浮かべるようなにやにやとしたものだった。

 

「のう、姉上。もう少し、何か無いのか?」

 

マダラは思わず柱間を睨んだが、彼としてはどこふく風だ。

身内の恋路なんてそんなもの。他の人間からすれば娯楽以外の何者でも無い。

 

(いや、何よりも。)

 

柱間はちらりとアカリを見た。一応、彼女は家系図的にも自分の姉にはなっているのだ。この状態で、彼女がマダラと結婚した場合どうなるだろうか。

 

(マダラのことを、兄と呼べるのではないだろうか?)

 

もちろん、今でもマダラは友であるし、すでに身内になることは決まっている。けれど、何故か、柱間はマダラを兄と呼ぶ状況が非常に魅力的に思えていた。

が、アカリは心底不思議そうに首を傾げた。変わらない無表情のまま彼女は柱間を見た。

 

(それに・・・・・)

 

苦しいことが多く有り、そうして、泣くことも笑うこともなかった姉にも春が来るのだというのなら、それほどまでに柱間にも嬉しいことはなかった。

 

「何がだ?」

「なんだ、つれんなあ。姉上が先に・・・・」

「柱間ァ!!」

 

続けようとした柱間の頭をマダラが掴んだ。

 

「てめえは何を言おうとしてんだ、ごら!」

「な、何をだと。俺はただ、身内にやってくる春について敏感に・・・」

「余計なことをせんでもいい!」

「おい、取り込み中悪いんだが。」

 

アカリは二人の間に入り、柱間の腕を掴んだ。

 

「すまないが、これには目を通して貰いたいものがあるので、連れて行く。」

「そ、そうか。すまんな。」

 

マダラはなんとなく気まずい気持ちでそれに頷いた。なんといっても、目の前のそれは鉄仮面は仕方が無いが。平然と接してくるのだ。

気まずい気持ちになる自分の方がおかしいのだろうか。

そんなことを考えながら、マダラを口を開いた。

 

「アカリ姫、イドラに色々と気を配ってくださり、礼を言う。」

「別段、特別なことはしていない。彼女はうちはであるが、これから千手にもなるのだ。己の妹を気遣うのは当然のことだ。」

「そうであるとしても、今回の件は色々と、動いたのは事実だろう。何か、のちほど礼をしよう。」

 

そんなことをマダラが言ったのは、偏にあくまでうちはが今回のことを寛容に受け止めているというアピールのためだ。

イズナとも事前に話し合い、和平が決裂するという話をかき消すためだ。うちはの人間達にも、長としてのマダラの意見をはっきりと示しておくためだった。

やり方については、まあ、自分も乗った手前があるのだ。

 

「礼、ですか?」

「ああ、なんだ、反物なんかでも。」

「それなら、一つ、お願いが。」

 

アカリはなにを思ったのか、マダラのそれを遮って彼を見上げた。その女は変わること無く、マダラの目を真っ直ぐに見つめてくる。

それが、どこか、居心地が悪くて、マダラはそっと視線をそらした。

 

「・・・写輪眼を見せてくれっていうならだめだぞ。」

 

マダラのそれにアカリは少しだけ口元をむっとさせた。そうして、少しだけ考えた後、マダラに手を差し出した。

 

「なら、握手してくれないか?」

「握手?」

「ああ、御利益がありそうだし。」

 

言いたいこととして、わからないわけではない。御利益云々なら、同じぐらいのが隣にいるんだが。

一瞬迷う。接触、直接的な肌のふれあいは警戒すべきなのだろうが。もっとすごいことを目の前の女はやっているわけで。

何よりも、あの、顔がいい発言には十分に救われているわけで。

マダラはアカリに向けて手を差し出した。

彼女はそれを両手で包んだ。

柔らかな手だと思った。もちろん、ある程度の家事をしているのだから荒れているのだが。それでも戦場に出ているものと比べれば、あまりにも柔らかな手だった。

普段ならば、蔑むような、手だった。弱者の手だった。

けれど、マダラの脳裏には己の目を真っ向から見る、女の姿が浮かぶ。それ故にどこか、女を弱いと断ずることが出来なかった。

 

(・・・・いつまで触ってんだ?)

 

柱間も、うちはの人間も思った。マダラが思考に耽っている間、アカリは両手でマダラの手をいじくり回している。

手のひらを撫で、甲をなぞり、指を絡めている。

マダラもなげえなと思いはしても、礼という前提があるのだから自分から振りほどくのもどうだろうかと悩んだ。

けれど、何か、ずっと手のひらに絡みつく指の感覚が落ち着かない。

 

例えば、秋波を送られているのだとするのなら、マダラ自身切り捨てるぐらいはしただろう。けれど、アカリのそれにはそんなものなど、欠片だって無いのだ。なにか、幼い子どもが真新しいおもちゃをいじくり回すような感情しか見えない。

鉄仮面のせいもあるのだろうが。

 

延々と、己の手を触られているのを周りに見られている現状に、マダラは思う。今、自分、めちゃくちゃ恥ずかしい目にあっているのではないのだろうか?

 

そんな中、柱間が思わずというように口を開いた。

 

「マダラ、お前、顔が赤いぞ?」

 

その一言にマダラは思わずアカリの手を振り払った。驚いた顔に、マダラは不機嫌そうに言った。

 

「いつまで触ってんだ!?」

「ああ、すまん。」

 

アカリは驚いたような顔をして、頷いた。そうして、マダラのことを見上げて頷いた。

 

「マダラ殿、あなたはなかなかに可愛いところがあるんだな。」

 

しみじみとしたそれに、周りの人間が目を丸くした。その言葉にマダラでさえも固まった。赤く染まった耳を見て、アカリは不思議そうに瞬きをした。

 

 

 

「あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

森の中に絶叫が響き渡る。その場に人間がいれば、獣にでも誰かが襲われたのかと思っただろう。

けれど、声の主、ゼツはそんなことなんてもう、気にもならなかった。というか、叫び声云々ぐらいは赦して欲しかった。

 

「何でだよ!」

 

いや、本当になんでだよと言いたかった。

丁度、うちはイドラを潰さなくてはとそれの周辺を駆け回っていたとき、偶然、イドラに蜂蜜酒が出ることを知った。

それにゼツは天恵を得た。確か、とうちは一族の住む地域に生える茸の特性を思い出した。おまけに、それをうちはの人間が探しているとくれば。

もう、奇跡だと思った。

やはり、運は自分に向いていると思った。全て、順調のはずだった。

イドラが血を吐き、周りが混乱によって疑心暗鬼に染まるまではよかった。

 

誰がそこに万華鏡写輪眼で幻術をかけられて、うちは一族の当主に顔がいいと叫ぶとんちきが紛れ込むなんて思うのだろうか?

 

また、イノシシに突撃された。いいや、イノシシじゃなくて今回はシカだろうか?

いや、動物の種類なんてどうでもいいのだ

 

なんでこうなる?

なんでこの世代には、あんな突然変異みてえなとんちきが二人も生まれてきているんだ?

ゼツは頭を悩ませた。

ともかく、早急にイドラを殺して、互いの仲を引き裂かなければいけない。

もちろん、輪廻眼を開眼させるためには千手とうちはの関係が近いほうが好都合のことは多い。

だが、うちはの人間には無限月詠を望むために、ある程度絶望して貰わなくてはいけない。このままではうちはの人間が絶望するまで追い詰められるということが少なくなりそうで困るのだ。

ならば、今、今のうちに決めておきたいというのも本音だった。

 

(イドラ、ともかく、うちはイドラをなんとかしなければ。)

 

そんなことを考えながら、ゼツは少しだけ首をひねる。

アシュラとインドラの転生体については気を配っている。そうして、その周りにもそうだ。千手アカリに関してもある程度、情報を集めていた。

 

(千手アカリは、父親と、兄弟をうちはとの戦で失っているはずだが。)

 

なぜ、あんな態度を取れているのだろうか?

 

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