千手扉間に責任を取って欲しいうちはイドラの話   作:藤猫

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感想、評価、ありがとうございます。感想いただけましたら嬉しいです。

アカリさんにも意味があったり。
正直、六道仙人は一発殴られて欲しい。


何もかもを守れるなんてそれは確かに傲慢で

 

 

死んだ目をした千手扉間が部屋の真ん中に転がっていた。

 

「・・・血管切れたんじゃ無いか?」

「・・・まあ、相当でかい声を上げていたが。」

 

廊下に面した障子に姿を隠しながら、こそこそと千手柱間と千手アカリが中の様子をうかがっている。

 

うちはの一族は今後の話し合いのために数日間宿泊することになったわけだが。

その次の日に、とある噂が千手内に広まった。

いわく、千手扉間は我慢が出来ずに、毎夜イドラを襲っているだとか、すぐに子どもが出来そうだとか、まあ、そう言った話だ。

それを一番に聞きつけたのはアカリだ。

女衆からそれを聞いたアカリは、まさかとは思ったが一応、そんな噂が広まっていることを扉間に告げた。

 

「あ゛?」

 

今まで一番にドスの利いた声だった。それを聞いていたイドラが怯えて、部屋の隅っこでガタガタ震えていた。

アカリと柱間は、あーあと呆れたようにそれを眺めていた。

 

「ど、この・・・・」

「ん?」

 

柱間がぼそりと呟いたそれに思わず耳を傾けた。それに、アカリはそっと耳をふさいだ。

 

「どこの馬鹿者だ、そんなことを言っているのは!!!???」

 

きーんと、耳に響くようなその大声に聞き耳を立てていた柱間が、んお!?と同じように叫び声を上げた。

 

「・・・あくまで噂がだが。出所は私も知らんぞ。若い奴らを中心に広まっているが。」

「すぐにその馬鹿共を連れてこい!」

「扉間、そういう噂は消して回ろうとすると余計に広まるぞ?」

「大体、お前、そういった噂以上のことをやらかしているんじゃ無いのか?」

 

さすがに若い連中にそんな噂をされて扉間を哀れに思った二人はそんな言葉をかけた。

二人から見れば、全て、自業自得なのだ。

ぐうの音も出ねえ。

それに扉間は思わずくちびるを噛みしめた。二人の言っていることは正しい、正しいけれど、納得がいくかどうかは別なのだ。

 

(見つけて水遁で吹っ飛ばしてやろうか?)

 

青筋の浮かんだ額で扉間は頭を抱えたくなった。

 

この際だ、婚姻のことも諦めた。

元より、扉間が婚姻しようとしなかったのは、千手の中で自分と兄の子どもでの跡継ぎについての問題が出ることを避けてのことだ。

いくら何でも、千手一族の長にうちはの血が混じった存在を推す者はいないだろう。己の子どもは自らの手で教育すればいい。

部屋の隅っこで今にもきゅーんとでも泣きそうな、怯えた女を見るに、そこまで苛烈な子は生まれないだろう。

だが、己の周りで沸き起こる、この悪評はなんとかならないのか!?

 

(何が悲しくて色情魔のような扱いを受けねばならん!?)

 

里、つまりは忍連合を作る上で他の氏族に声をかけていたわけだが。

 

「こちら、私の娘になりまして・・・・」

 

そういって見目の良い女を、自分にだけ紹介された扉間の気持ちが誰にわかるだろうか?

完全に好き者扱いされているのだ。

ちなみに扉間の額に浮かんだ血管に柱間は口元に手を当てて、あーあと息を吐いた。ちなみに紹介された娘も、紹介した父親も扉間の般若のような顔にびびり倒していた。

 

(誰だ!ワシの噂をあれこればらまいているのは!?)

 

噂をばらまいているわけでは無いが、誤解をばらまいている張本人は扉間の怒りようにくーんと怯えながら部屋の隅にいる。

扉間はこれからうちはとの話し合いがあるとわかっていたが、どっと疲れが押し寄せてその場に寝転がり、天井を見上げた。

それを見ていた柱間とアカリは、そっと彼から距離を置き、廊下へ避難した。いつ、扉間が暴れても良いようにと、逃げる準備は万全だった。

が、イドラは無表情で横たわる扉間のことが心配なのか、そろそろと近づいてきて、彼の周りをうろつき始める。

顔には、大丈夫?大丈夫?と心配そうなそれが浮かんでいた。

扉間はそれに、もしかして自分の今の味方はこの黒犬だけでは無いのだろうか?なんてことを考える。

安心して欲しい、扉間の今の心労の全ての原因は、目の前の健気に見つめてくる黒犬なのである。

 

扉間は無言で己をのぞき込むそれのほっぺたを掴んだ。むにーと引き延ばせば、えーんと顔をしかめながら、逃げることもなくそれにイドラは甘んじる。

扉間はそれにちょっと心が癒やされるような気がした。

 

「疲れてるなあ。」

「疲れているな。」

 

などと言いつつ、柱間とアカリは扉間を助けようとはしなかった。

アカリは扉間のあれそれに関しては自業自得だと切り捨てていた。というよりも、イドラと結婚できるのだからこれぐらい当然だと考えていた。

アカリは、扉間のことを心配していたのだ。

なんだかんだ、付き合いの長い弟分は仕事人間だった。

好きなことと言えば、釣りは置いておいても、忍術の研究など面白みに欠けた。

何かしら、息抜きになる物があればいいと考えていたが。

唐突に飛び込んできた黒犬は、これからもいい意味で扉間の人生を巻き込み、そうして、面白くしてくれそうだ。

アカリは誰にもわからないが、淡く微笑んだ。

そうして、一方は、柱間。

その男は、どちらかというと面白がっていた。

いや、考えてみて欲しい。

いつだって冷静で、合理的な弟が可愛らしい女に全力でぶん回されているのだ。

正直に言おう、めちゃくちゃに面白い。

弟は可愛い。それはもちろんだ。けれど、やはり、自分に全力で懐いてくるわんころを可愛がりたいと思うのは人情だろう。

 

(今まで周りに恐ろしい姉上しかおらんかったしなあ。やはり、妹はよい・・・・)

「柱間、今、何考えてた?」

 

唐突に己の胸ぐらを掴まれ、柱間は固まった。

 

「いや、そのお、姉上?」

「お前の考えてる事なんて全部お見通しだ。」

 

ドスの利いたそれに柱間は目をそらした。

 

柱間は、普段は情けないように見えることもあるが、別段彼だって愚かなわけでは無い。

千手の長としてそれ相応の立ち振る舞いも、そうして、残酷な決断もしてみせる。

一族の女に、そんな乱雑な態度をされれば怒りの一つぐらいは見せる。

彼の立場は、その強さによって証明された部分はある。

柱間は寛容である。けれど、なめられて黙っておくようなことも立場上はしない。

けれど、柱間はその時、本気で怯えていた。

 

(むかっしから、姉上のことだけは恐ろしかった。)

 

扉間は無表情で淡々と、それこそ理詰めで叱ってくる姉のことが苦手だっただろうが。柱間は、何か、幼い頃から姉に逆らえる気がしなかった。

例えば、彼女にうちはとの同盟を止められれば、諦めていたかもしれない程度に、何故か頭が上がらない。

 

「・・・・マダラたちを呼んでくる!そろそろ、準備も出来ただろうからな!」

「そうだな。イドラ殿と、そうして、扉間。そろそろ起きなさい。里のことで話し合いがあるのだろう?」

「・・・わかっている。」

 

扉間はイドラの頬から手を離して、そのまま起き上がる。それにアカリも立ち上がった。

 

「うちはの人たちを呼んでこよう。ほら、柱間も来なさい。」

「おお、わかった。」

「私も話し合い用の御茶を汲んできます。」

 

三者三様に、そのまま部屋から出た。

柱間とアカリはそのままうちはマダラとうちはイズナが待機している部屋に向かった。

そんな中、アカリが口を開いた。

 

「柱間。」

「なんぞ?」

「聞きたいんだが、お前はもしも、里が出来たとして。私や、そうだな、マダラ殿が裏切ったとき、どうする?」

 

それに柱間は固まった。質問の意図がわからなかったのだ。

 

「・・・裏切る予定があるのか?」

「ない。」

 

柱間は黙り込み、それに何と答えるかと悩む。その様子を見つめていたアカリは口を開いた。

 

「悩む時点で、応えは決まっている。お前は里を選ぶと言うことだ。」

「そうだの。それが、正しい。もしも、マダラが裏切れば、俺は・・・・」

「千手の人間は、多情のものが多い。愛の一族、笑えるな。なあ、知っているか。柱間、博愛とは、愛では無くて、正しいことなのだそうだ。」

 

柱間はそれにアカリを見た。彼女はやはり鉄仮面のまま、けれど、その声音はどこまでも明るい。

 

「突然、どうしたんだ、姉上?」

「ああ。そうだな。柱間、皆はお前を優しいだとか、寛容だと言うが。それは、つまりはお前が強いから。お前は、優しい前に傲慢な奴だと私は思うよ。」

 

柱間はじっと姉を見た。

傲慢、そんなことを言われたのは始めてだった。

 

「お前は他人の言葉を聞くようで、それは何かがあれば自分がそれをひっくり返すことが出来ると思っているだろう。生殺与奪の権利を握っている。まあ、事実だからいいんだがな。」

 

柱間、と彼女は己の名を呼んだ。

 

「別にいいんだ。傲慢であるとか、そこらへんは。愛の一族と言いながら、私たちは所詮戦うことを選び続けた人殺しだ。その長であるのならば、そうして、それぐらいに強いのなら、お前はもう傲慢であることこそが正解なのだろうしな。」

「姉上、どうしたんだ?」

 

柱間は困惑した。

アカリは内部の、千手一族のパワーバランスなどは気にしてもそこまで柱間たちのやることに口を挟んでくることは無かった。

もちろん、叱られたのだって子どもの頃の話で。

いや、まあ、柱間の場合は博打の件で大目玉を食らったことはあるにはあるが。

ただ、忍として、そうして、長としての在り方にそこまで口を挟んでくることなんてなかったのだ。

それ故に、アカリの傲慢であるという言葉に困惑していた。

叱られているわけでは無い。ただ、諭されているわけでも無い。

ならば、自分は何を言われているのだろうか?

 

「私が言いたいのはな、そうだ。我が儘を言うのならば、最後まで突き通せと言うことだ。」

「わ、我が儘なんぞ言ったか、俺は?」

 

そんな柱間の言葉なんて無視して、アカリはちらりと廊下の向こう、外を見た。そうして、柱間の方を見ること無く肩をすくめた。

 

「例えば、二つの選択肢があって、どちらかを取らなくてはいけないとして。それならば、二つとも欲しがれ。」

 

アカリは柱間を見た。

 

「いいか、たった一つとそれ以外、天秤にかけなくてはいけないとするのなら、それを全て欲しがって、その強さで駄々をこねろ。道理も、正しさも、どうでもいいから二つとも欲しいと駄々をこねろ。唯一と、その他なんて線引きをするんじゃなくて、全部が欲しいと欲張れ。そうすれば、案外手に入る物だ。」

「・・・・姉上。本当にどうしたんだ?」

 

柱間はもしや、幻術にでもかかっているのだろうか、そんな疑問が出てくるほどにおかしなことを言った。

それに、アカリは憑きものが墜ちたかのように首を傾げる。

 

「そうだな、すまん。いや、だが。私はずっと、お前にそう言いたかった気がするんだ。」

「俺に?」

「うん?そうだな、いや、そうなのか?」

 

アカリは本当に困惑したように、不思議そうに首を傾げていた。

 

 

 

その日、うちはのまとまった人間が千手に来ているのだからと、宴会のような物が開かれた。

というのも、婚姻前にまだ同盟に対して柔軟な考えを持っているだろう人間で顔合わせをすることにしたのだ。

そんな中、イドラも扉間と兄に挟まれてふんすと息を吐いた。

 

(アカリ様に化粧もしていただきましたし!千手の方々に良い印象を持って貰わねば。)

 

その様子は、俺はやるぜと今にも庭を駆け回りそうな犬のようだった。

それを千手の人間はほっこりとしながら眺めていた。

そうして、イドラの隣で般若のような顔をした扉間にそっと視線をそらした。

扉間からすれば、自分の噂を話していただろう、それらに睨みを聞かせていたわけだが、端から見れば完全に嫉妬の炎を抱えた男である。

うちははそんなに姫様のことをと、ちょっと感動をしていた。

そんなことなど気づかないイドラは、少しぐらいは酒を飲んでおこうと口に含む。

 

(苦い・・・)

 

未だに子ども舌の彼女はめしょめしょしながら、焼け付くような感覚を飲み下した。

最初は甘く感じていたのに、段々と苦みを感じ始めた。騙されたという感覚だった。

 

(やっぱり、お菓子と御茶が一番ですね。)

 

などと考えていたとき、何か、急に気持ちの悪さがせり上がってくる。そうして、何故か、視界が唐突に歪んだ。

 

(あれ、酔い?でも、こんなに弱かったっけ?)

 

気持ちの悪さの次に、喉の奥に痛みが広がる。がんがんと、頭が痛い。喉の奥から、せり上がってくる物がある。

心臓が、痛い。

我慢が出来ない。せめてと口を手で覆うが、間に合わない。

 

「え?」

 

それは、誰の物だったのだろうか。

イドラは粗相をしてしまったと手の中を見た。

 

(あ、れ?)

 

何故か、手は、真っ赤になっている。口から、ごぼりと、赤いそれが手に垂れた。

 

目が、眩んだ。

 

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