モブ多めです。
次でマダラさんの辺りを書きたいな。
「・・・・すまないが。」
己に近づいてくる存在に気づいていたが、話しかけられたことに驚いた。
千手の長である千手柱間と千手扉間の兄弟の屋敷の門番をしている男はそれに振り向いた。門番と言っても現在、滞在しているといううちはイドラという、彼の一族の姫君のための門番なのだが。
そんな門番が振り向くと、そこにいたのは数人のうちはの人間だった。戦場のくせのままに体を強ばらせたがすぐにそれをとく。
何か、問題を起こせば、扉間、ひいては柱間にまで叱られるのだ。それは御免被りたい。
「あー、何か?」
「あ、ああ。仕事の邪魔をして済まない。少し、千手一族に聞きたいことがあってな。」
そう言って、その場にいたうちはの人間は少しだけ会釈をした。
「私は、その、うちはヒカクというものだ。」
それに門番はああと頷いた。
「あんたがヒカク?前にいた奴が差し入れに礼を言ってたぞ。」
「そうか、彼は?」
「あいつはまあ、任務だろうな。俺は臨時。」
「そうか、それならばいい。それで、その、聞きたいことがある。」
それに門番は仰々しいなと思いながら雁首そろえて自分を見るそれらを見た。
群れている様はまるで幼子のようだと思ったが、よくよく思えば目の前のそれらは少し前まで敵であった存在の本拠地にいるのだ。
そういった意味でそんな態度もしかたがないのだろうと思った。
うちはの人間はどこか落ち着かないというような顔をした。
「・・・・その、千手扉間殿とは、どのような方だろうか。」
それに門番は思わず黙り込んでしまった。
目をぱちくりとさせた。
「扉間、様、なあ?」
門番はそれになんというか、驚いてしまったのだ。もちろん、うちはからすればその名を冠した人間は気になることだろう。
門番も、困惑していた。
忍として、あまりにもストレートな聞き方だった。
いや、人となりを聞くのなら、普段から接している人間が一番なのだろうが。
ちらりと、門番はうちはの人間を見た。
千手では大柄な部類に入る門番からすれば、うちはの彼らは小柄で、大きめの外套から見える腕は細い。
怯えているというわけでは無いが、慣れない千手の里で黒づくめの彼らが身を寄せ合っている様は、なんだか。
(・・・あれだ、黒猫の群れみたいな。)
「どうかされたか?」
「うん?いや、ああ。なんでもない!」
いかんいかんと門番は思う。何か、うちはの人間が来るたびに柱間にされる彼らの話を聞いていて、感化されたような気分になる。
柱間はうちはの人間の話をよくした。そのせいか、何か、やたらとうちはの人間への可愛らしい印象が残ってしまっている。
(・・・・今まで殺し合ってたのに。)
門番は和平に賛成だった。別段、うちはがいなくなろうと戦う相手は腐るほどいる。周りのように恨みを持つには、門番には殺された誰かへの感情や記憶が足らなすぎた。
門番は少し考えて口を開いた。
まあ、どんな人間であるのか、少しぐらいはいいだろう。
(・・・もう、こいつらとは殺し合う仲じゃないのなら。)
「扉間様は、まあ、こええ人だよ。仕事に厳しいからな。ただ、出来ない仕事をやらせる人じゃない。」
「貴殿からして、扉間殿の、そのイドラ様との関係は意外だっただろうか?」
「は?そりゃあ・・・・」
門番はまあと頷いた。
そりゃあ、意外だった。見合いならばまだしも、あんな大騒動を繰り出すような人間からはあまりにも遠いものだった。
別段、恐ろしいばかりの人では無い。けれど、扉間という男がどれだけ、感情と現状を乖離させることが出来るのか、彼の下にいればわかる。
そんな扉間が敵対しているうちはの人間と密通を?
いやあ、ありえないですねえ。夢でも見たのでは?
なんてことを思っていたが、ところがどっこいそれはどうやら真実であるらしい。
周りの人間は、純愛だあああああああとか、あの人、性欲あったのかとか、いいや何か考えがあるのかとか、そう言った話まで様々している。
「どう考えても結婚なんて考えてない様子だったし。というか、跡継ぎの関係で結婚なんて考えてなかったしなあ。」
「・・・・ならば、妾等については取られるようなことはないだろうか?」
「めかけえ!?ふ、は!はははははあはははあはははは!!ねえって、絶対無いだろ!?そりゃあ、取らなきゃ一族滅ぶとかならまだしも。」
門番の言葉にうちはの人間はにわかに顔をほころばせた。
それに門番はおおっと思う。元より、整った顔立ちの多いうちはの人間が笑みを浮かべれば、なるほど辺りが華やいだ気がした。
「言っただろうが、大丈夫だと。」
「ですが、ヒカク様。イドラ様の元に、扉間殿の元許嫁が乗り込んだと。」
「お前も聞いただろうが。おそらく、そういった意図はないだろう。」
それに門番の脳裏にはあーと赤毛の女の姿が思い浮かんだ。
千手アカリ、この名を知らない人間は千手ではいないだろう。
長である柱間や弟である扉間は外のことで忙しい。そんな彼らに代わって、内、つまりは女達の統括を担っているアカリはある意味で影の実力者なのだ。
(まあ、長の嫁御がおいおい内のことはされるんだろうが。アカリ姫も、長の許嫁殿と仲が良いらしいしなあ。ならば、千手の実質的な内の権力者はアカリ姫のまんまだろうし。)
といっても、別段門番もアカリと扉間と、そうして噂のイドラ姫の間にどろどろとした何かがあるなんて思っていなかった。
千手のアカリ、付いたあだ名が氷笑姫。
凍り付いて、笑みも無い、冷たい姫君。女達を束ねているせいか、千手の人間の、いわゆる噂話やら薄暗い話は彼女の元に伝わる。
そんな彼女を下手に突きたくない人間は多い。
といっても、アカリ自体は傲慢な振る舞いも無く、普通に家事など細々したことを好んでいる女であるのだが。
(まあ、あの二人は、良くも悪くも仕事仲間だしなあ。)
門番の脳裏には、正月なんかに外戚関係への招待状やら、食事の用意やら、その他諸諸で駆け回るアカリと扉間の姿が思い浮かんだ。
酒の注文は!?それよりも、あの一族に手紙送ったか!?兄者の印を押させたいが、見当たらん!
柱間アアアアア!!
(あー、あの地獄のような、大晦日。というか、これからはそれにうちはのおひいさんが加わるのか。)
そんなことを考えながら、うちはたちは興奮冷めやらぬと口々に言い合っている。
「扉間殿はやはり信用が出来る。」
そのとんでもねえ事実を聞くまでは。
「ひーかーくー!!」
屋敷の方から聞こえた声に皆が目を向けると、そこには門番からすれば小柄な体がかけてきていた。
「ヒカク、どうしましたか?」
「あ、いいえ。少し、気になることがございまして。」
(おおおおおおおお!!)
門番は口元に手を当てて好奇心に目を輝かせた。
鴉の濡れ羽のような黒い髪、大きな夜色の瞳、白い肌に目を見張るような愛らしい顔立ち。
絶対、噂のうちはのおひいさんじゃん!
わくわくと見ていると、門番に気づいたイドラはにぱああと笑みを浮かべた。
可愛い、めっちゃ可愛い。
(えー、扉間様、かわいい系が好きなのか。)
「こんにちは、すみません、お仕事の邪魔でしたか?」
君、本当にうちはの人間?
そう問いかけたくなるような、こう、陽な空気を持っていた。
「今日は、いつもの方では無いんですね。」
「ありゃ、わかるんですか?」
「はい、遠目に見たことが。何と言っても、家は目がいいので。」
聞きようによって皮肉に聞こえるが、その大仰な仕草や愛想百パーセントの笑みによって軽やかなものになっている。
(あー、お菓子あげたい。)
「それよりも。ヒカク、兄様や柱間様に許可は取っているのですか?」
「・・・・交流自体は、そう、とがめられておりませんので。」
「むう、アカリ様のことは気にしなくていいんですよ?」
「ですが、元許嫁というのですから。」
イドラはヒカクたちが、禁じられていないとはいえ、わざわざ千手に話しかけた理由を知っていた。
なんと言っても、アカリを取り巻いたとんちきなそれを処理しきれなかったマダラがヒカクに漏らしたのをきっかけにやってきていたうちはの人間は不安になった。
もしや、千手の奴らはイドラを差し置いて他の女にも手を出していたのでは無いか?
そんな疑惑が生まれた。
確かに婚姻前のことで、本当ならばイドラとの婚姻など難しかったはずだ。けれど、そうは言っても、結婚が決まったのだからそこらへんはきちんと片付けておくべきだろう?
けれど、イドラがベタ惚れだという扉間について下手に否定はしたくなかった。
惚れれば一筋なのだ。
事実、元々イドラとの婚約話が出ていたヒカクも、彼に惚れ抜いた女との結婚によってその話も流れた。
イドラは何があっても扉間との婚姻を止めないだろう。
ならば、どうするか。
ヒカク達は、それならばと、千手の人間に一度扉間というそれの評判を聞こうという強硬手段に出たのだ。
もちろん、嘘を吐かれる可能性はあるだろうが、それはそうとして扉間というそれの人間性を調べるには伝手も無い。
「それに、扉間様が妾を取られようと私は構いません!」
「い、イドラ様、滅多なことをいうものではありませんよ。」
うちはの人間もわかっている。一族の者にさえも恐れられるうちはマダラを義兄にして、そんな肝の据わったことを考える人間はいないだろうし、聞いた上では扉間はイドラにベタ惚れしている。
うちはの人間はイドラのそれは、緊急の事態にそういったことがあっても扉間を支えるという健気なものに聞こえた。
が、んな事実なんて知らねえ門番からすれば、イドラのそれは扉間が今後妾を取ると考えているようにしか聞こえなかった。
そんな門番を置き去りに話は続く。
「それにイドラ様、無茶をされてはいませんか?昨日はよく眠れていなかったのでしょう?」
ヒカクはイドラがうちはの人間の来訪にはしゃいで眠れなかったことを思い出して、呆れ半分で言った。
「いいえ、休んだので平気ですよ。それに、夜は扉間様とのこともありますし。」
ヒカクはそれにイドラが夜に千手の歴史などを習っていたのだと頷いた。
「それに、扉間様からの無体も。」
ヒカクは死んだ目をした扉間が何故かイドラのほっぺたをもちもちと触っていたことを考える。
「大丈夫です、私の体を気に入ってくださって嬉しいです。」
イドラは己のほっぺたのさわり心地だけでも気に入って貰えて嬉しい。
「あ、そうそう、見てくださいよ。ヒカク、このかんざしだって扉間様が直々に飛雷神の術を刻んでくださったんですよ?」
それに門番は思わず思った。
飛雷神の術?
え、あの、印をした相手のところに行けるって、あの?
それを自分の嫁さん(仮)の身につけてる物に?
(扉間様、それはさすがにキモいって。)
「扉間殿は情熱的だな。」
自分の思考に重なるようにうちはの人間が発したそれに門番は目を見開く。
まってえ?
どこをどうすればそんな考えになんの?
「イドラ様にはそれぐらいでなくては!何せ、イドラ様はうちはの一等の姫なのだ。それぐらい大事にして貰わねば!」
きっらきらの目だった。
なんか、一周回って純粋に見えた。
えー、大事?えー、めたくそ面倒な束縛が?
うちはって独特過ぎない?
当人達の会話には、何の問題もなかった。いいや、しかし、そんな諸諸の事情なんて知らない門番は顔を青くした。
寝不足、夜のこと、イドラへの無体。そうして、飛雷神の術に見える独占欲。
いや、だがしかし。
確か、噂で婚姻までそういったことは禁ずるようにと言い含められていたはずだ。
柱間がそんなことを愚痴っていたような。
確かに、花嫁が腹を膨らませていては少々外聞が悪い。
すでに、扉間の外聞は悪いが。
何故だと、思っていたとき、門番の中に天恵が下りる。
(孕ます、気だ。)
いや、それはあかんでしょう?
この瞬間、門番の中で扉間に完全なるむっつりすけべの称号が冠されたのだった。というか、柱間や扉間に用のあった人間が数人、門の周辺に集まっており、イドラ達の話は筒抜けだった。
その全員が思った。
いやあ、扉間様、それはないわ。
扉間様、花嫁さんにベタ惚れなのはわかるけど、でも、だからってそれはどうかと思います。重いし、怖いです。
「ともかく、兄様が探してたので行きましょう。」
そのまま門番に軽く会釈をして去って行くイドラ達にそっと門番は誓った。
なんかあったら、助けてやるからな!
その後、噂に尾ひれが付いて、最初にしらばっくれてイドラに愛想を尽かされて逃げられないかと不安になった扉間がイドラを孕ませようと頑張っているという噂を耳にした扉間が本気の咆吼をあげるのはまた別の話である。
「・・・・ふう、やっかいなことになったな。」
それはまるで夜のように黒い生き物だった。人型であれど、まるで墨のような肌のそれはゆったりとした声で言った。
「仲良しこよしも結構だね。」
くっくっくと、笑う、それはゼツという。
そうして、それは余裕ぶって森の中に隠れながら、実際の所、めちゃくちゃに焦っていた。
まってまてまって待ってえ???
(いや、イドラってなんだよ。)
ゼツの脳内なんてそれに彩られていた。
今回はもしかすれば当たりだと思ったのだ。ようやく出た、万華鏡写輪眼の持ち主。
そうして、木遁使いの千手。
巡り巡った彼らは、憎悪を燃やすにはふさわしい戦乱の世で生まれた。
彼らの大切にしていた兄弟は減り、世界への憎悪を膨らませていた。
そうだ、それでいい。
そう、ゼツはほくそ笑んでいた。
うちはイドラなんていう、隕石みてえな意味のわからなさが天変地異並のそれが現れるまで。
いや、待ってくれよ。
まじでなんなんだそれ?
責任?
子ども?
いや、ゼツは知っている。それこそ、彼はこの世で最も扉間に対して真摯なまでに味方であった。
いや、んな事実、この世に欠片だって無いだろう?
ゼツの今の気持ちを詳細に言うのならば、完全犯罪が完成したと高笑いしながらアリバイ作りのために車を走らせていて、突然、山の中でイノシシとぶつかって車が大破し、アリバイ工作に失敗した気分だ。
意味がわかんねえがそんな感じだ。
いや、イドラis何?
お前、どっから現れた。何を言っているんだ。
なんで有りもしねえことをそんな鬼気迫る形で言ってんだよ。
その情緒はどこから来たんだ。
もう、イドラというそれの思考回路だとか、行動原理がわからなさすぎてどうしていいかわからない。
というか、一周回って怖い。関わりたくない。
柱間とマダラの顔、見てみろよ。
もう、満足して成仏しかかってるアシュラとインドラが見えるじゃねえか?
いや、見えてたら困るんだよ。
(いや、待て、今からでもなんとか軌道修正を。)
ゼツはイドラが見れば、ランプの精の格好した質問に答えれば特定の人物を連想してくれるそれを思い出すばりの腕組みをした。
(何も無いんだよなああああああ!)
ゼツは、頭を抱えた。
どっかの仙人が高笑いをしている気がした。