千手扉間に責任を取って欲しいうちはイドラの話   作:藤猫

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イドラさん、あんまり出ない。


人生では一度は泥棒猫って言ってみたい。言ってみたくない?

 

 

 

「兄様!でっかいカブトムシがいました!」

 

うちはマダラの中に残っている妹の姿はそんなものだった。

 

 

うちはイドラという少女は、もう、端的に、一言で言うのならば馬鹿な子だった。

もう、大人の範囲になっても、マダラにでっかいカブトムシだとか、カマキリの卵だとかを見せてくる子だった。

猫や犬を見ると、ふらふらと付いていったり、面白い形の雲を暇さえあればじっと眺めてしまうような子だった。

 

だからといって、考える力が無いというわけではない。訓練にはついていったし、戦場に出るようになっても生き残った。

よかったと、そう、安心した。

弟であるうちはイズナと、妹のうちはイドラ。

その二人だけは失えない。自分に残された、ただ二人の可愛い弟妹。

 

兄様、おうちのことは任せてください。

兄様、イズナまで戦に出るのですか?

兄様、父様がいなくなっても私が頑張りますから。

兄様、イズナまで万華鏡写輪眼を・・・

兄様、私も写輪眼を開眼しました。これで、一緒に戦えます。

兄様、また、お葬式をあげなくては。

兄様、私は大丈夫ですから。イズナのことを気にかけてやってください。

 

可愛い妹。自分の後ろをついてくる、可愛い妹。母に、父に頼まれた愛らしい女。強い、自慢の女。

朗らかで、いつまでも子どものようなところのある女。

 

(お前達がいるのなら、お前達だけが、幸せなら。ああ、それだけで。俺は、それだけで、幸せで。)

 

戦場で戦って、戦って、戦いたくもない奴と戦って。

それで、ふと、後ろを見た。

 

兄弟の中で、一等に無邪気だったイドラ。兄弟の中で一等にいたずら坊主の甘ったれのイズナ。

 

(いつからだ。)

 

いつから、だろうか。二人が心底笑うのを見なくなったのは。

 

 

 

「兄さん!」

「ん?ああ?」

 

物思いに耽っていれば、そう声をかけてきたのは弟のイズナだった。

 

「どうかしたか?何か問題でもあるのか?」

 

今現在、マダラは弟のイズナを含めた護衛数人と千手の里まで移動していた。イドラが千手の里で過ごし、うちはの里に帰ってくるまで後一週間ほどになる。

 

(まあ、俺に護衛がいるのか、は考えなくていいか。)

 

丁度、川辺で休んでいた一族の者を視界の端に確認しながら苛立っているらしいイズナを見た。

 

「・・・・本当に、姉さんを嫁がせるの?」

「また、その話か?」

 

マダラはイズナのそれに特別怒ることもなかった。マダラとしてもイズナがそこまで言う理由もわからないわけでは無かった。

 

「だって、兄さん、わかってるだろ?嫁ぐって言っても千手なんだよ?」

「だが、これ以外に手がない。あれだけのことがあって、それ以外にイドラの選択肢はない。お前にもわかっているだろう?」

 

マダラは適当な石の上に腰をかけて、川を見た。

 

「・・・・兄さんは、納得してるの?扉間だよ!?姉さんを手込めにして、子だって流れて!そんな奴に姉さんのことを任せるなんて。」

「わかってる。だが、あいつのことに関しては千手でも十分に汚点だろう。互いにこのことは隠したいしな。柱間が責任を取らせるって言ってるしな。」

 

イズナもそれに対しては少し黙る。

イズナとて末っ子だ。兄に可愛がられていても、上と下における力関係については察せられるものはある。扉間の方が発言権があるようで、本当に譲れないことに関しては兄である千手柱間のほうが強いのだろう。

 

「それに、お前も知ってるだろ。扉間の奴、イドラにベタ惚れだぞ。」

「・・・それ、柱間の手紙からだけでしょ。俺は、納得いかないよ。」

 

その言葉にイズナは口元を噛みしめた。

 

 

千手との和平を、納得できる心と、納得できない心がある。

うちはの中でも、特に非戦闘員はイドラの件で少なくとも大きな戦が終ることにほっとしていた。元より、うちはにとって脅威になる氏族は少ない。

その中で際立っていた千手。それと戦わないというのならば、だいぶ負担は減る。

 

イズナは不安だった。

現在、イズナとマダラは現役で戦えている。けれど、彼らにもわかっていた。万華鏡写輪眼が有限であることを。

もしも、自分たちの目が見えなくなったとき。

千手柱間、そして、血継限界を持たずとも自分と渡り合えていた千手扉間と戦になれば。

うちははどうなる?

兄は里を作るという。子どもが死ななくていい場所を。幼いままに死んだ兄弟たちのようにならないように。

だが、その里に入り、うちはは平穏に、誇りを忘れること無く生きられるのか?

血継限界は貴重だ、写輪眼のように強力なものならばなおさらに。

 

うちはは、緩やかに、滅びていくんじゃないのか?

死んだ者たちの無念はどうなる?

 

「兄さん、俺は。」

「・・・・イドラがな、笑ってるんだよ。」

 

ぽつりと言ったそれに、イズナは不思議そうな顔をした。それにマダラは淡く笑みを浮かべた。それに、イズナは、ああと思う。

もう、いつからだろうか。兄が笑わなくなったのは。いつからだろうか、兄が笑うようになったのは。

 

幼い頃、記憶の中で、己よりも突拍子も無いことをしていた姉が、笑わなくなって、物思いに耽るようになったのは、いつからだろうか。

 

イズナ、ほら、でっかい猫!

イズナ、戦場に行くの?

イズナ、怪我しないでね。

イズナ、ねえ、あなたは帰ってきてくださいね。

イズナ、そんな顔をしないで、姉さんこれでも強いから。

イズナ、どうしてそんな顔をするの。みんな同じでしょ?

 

イズナ、弱い姉で、ごめんね。

 

千手から届く手紙があった。

そこに書かれるのは、本当にたわいもないもので。

日々のこと、千手の食事の味付けに、柱間のくれる菓子の話、やさしくしてもらっているということ、庭で見つけるでっかい猫。

そうして、千手扉間のこと。

 

マダラは文章を書くのが趣味だ。若くして父も亡くなり、写輪眼の開眼後に族長に納まったマダラには気軽に相談できるものがいなかった。そのせいか、マダラは何か悩みや、解決できないことがあると、文字を書くことで考えを整理する癖があった。

それに習って、イドラも筆がまめな部分があった。

 

幾枚も書かれるそれは、どこか、今まで張り詰めた姉では無くて、昔、笑っていた姉のように思えて。

それに心がゆらぐ。このままで良いのではないだろうか。

姉が、ようやく笑ってくれた。兄も幸せそうで、それなら、いいじゃないか。

 

(でも。)

「おーい!」

 

突然の声に川向こうを見ると、そこには、何故か千手柱間と、そうして、千手扉間。

 

「柱間!?」

「マダラー!!」

 

イズナはちらりと兄を見た。兄は、驚きの中に嬉しげな何かが混じっていた。

それに、イズナは、ああと思う。

 

(どうして、兄さんも、姉さんも、千手なんかに。)

どうして、自分じゃ、兄と姉を笑わせることも出来ないのだろうか。

 

 

「おい、早く行くぞ。」

「いや、行くのはいいんだが。なんで、お前らここにいるんだ?」

 

柱間はマダラの隣でにこにこ笑っていた。それを扉間が据わった眼で睨む。扉間たちがいるのは、千手の里の近くの森の中だ。

 

「・・・お前の来訪が待ちきれずに仕事を抜け出した兄者をワシが追いかけてきた。」

「お前、さすがにダメだろ・・・」

「なんでぞ!久しぶりにマダラが遊びに来てくれたというのに!」

「遊びじゃねえよ!今後の里についての話し合いと、イドラの様子を見に来たんだよ!」

「そう言えば、姉さん元気なの?」

 

今まで黙っていたイズナが扉間を見ながら言えば、彼はため息を吐いた。

 

「ああ、女衆にも馴染んで家のことをしている。うちの行事ごとにも興味津々だ。」

「でも、食欲が無いようなのは心配ぞ。」

「え、ご飯食べられてないの!?」

 

イズナが心配そうにそう言うと、扉間が呆れた顔をした。

 

「イドラは、というよりも、うちはの人間は食が細いといくら言えばわかる?」

「でも、幼子よりも食べておらんぞ?」

「なんだよ、お前らそんなに食うわけ?」

「こいつら、どんぶりに米、三杯は食うぞ。」

 

それにイズナはうえとドン引きするように千手兄弟を見た。

 

「お前ら、そんなに食うの?」

「俺としては、うちはの人間はそれだけしか食わんと聞いて心配ぞ?」

「お前らの燃費が悪すぎるだけだろうが。」

 

イズナと柱間の話を聞きながらマダラが扉間に話しかけてきた。

 

「そういや、扉間。お前、イドラにかんざしをいくつか贈ったんだろう?」

「・・・・ああ。」

 

扉間はそれに非常に気まずそうな顔をした。マダラは苦笑する。妻になる女の兄弟にこういったことを言われるのは少々落ち着かないやもしれないと。

 

扉間としてはほとんど破れかぶれというか、イドラの買ったかんざしを壊した罪悪感によるもののため、気まずさが勝っていたのだが。

そんなことを知らないマダラとしては、妹が男にかんざしを贈られるような年になったことが、切なくて、そうして感慨深くある。

ああ、すっかり、大きくなったのだと。

 

「礼を言われることではない。当然のことだ。」

 

内心では心臓ばっくばくで扉間はマダラから視線をそらした。それをマダラは恥ずかしいのだろうと、淡く笑った。それを誤魔化すように扉間は、何故か好きなおかずの話になっているイズナと柱間に声をかけた。

 

「おい、二人とも、そろそろ行くぞ。イドラが待って・・・・」

 

そこで扉間は己の頭上に気配を感じた。それに上を見上げると、鳥が自分の方向に向かってきているのが見えた。

それにうちはの人間は警戒するように構えるが、扉間はそれを止めた。

 

「待て!うちの鳥だ。」

 

扉間の腕に乗ったそれの足にくくりつけられた、知らせに彼は目を通す。

 

「何かあったのか?」

「ねえ、あの鳥は?」

「うちの連絡用の鳥だ。里で何かあったのか・・・」

 

そんなことを言っていると、知らせを読んでいた扉間の顔色が悪くなっていく。

 

「な、何があった?」

 

扉間の様子に柱間が問いかけると、扉間が顔を上げた。

 

「・・・・あ。」

「「「あ?」」」

「・・・・アカリ、姉者が今、里に帰ってきてイドラと話をしていると。」

 

それに柱間があああああああと、なんとも言えない顔をした。それに事態が飲み込めないのがうちはの人間だ。

 

「おい、アカリって誰だよ?」

 

それに扉間と柱間は顔を見合わせた。何か、嫌なものを感じたイズナが二人に詰め寄る。

 

「おい、言えないことなのか?」

「いいや!違うぞ!姉上は、アカリは、扉間の元許嫁ぞ!」

「ばか!!」

 

扉間が焦った声を出すが、それよりも先にイズナが扉間の胸ぐらを掴んだ。

 

「おい!姉さんがいるのに、許嫁ってどういうことだよ!?」

「イズナ、写輪眼は仕舞え!ええい!許嫁といっても、老人連中が決めただけで、何の関係もない!」

「何の関係もない!?なら、なんでそいつが姉さんをわざわざ訪ねるんだよ!?何かあったからそうなったに決まってるだろ!?」

 

まあ、確かに傍目から見ればそうとしか見えないのだが。

 

「大体、許嫁がいるのに姉さんに手を出したのか!?そのアカリって奴に不誠実すぎるだろ!?」

「この立場だ!許嫁なんぞ、いくらでもいるだろう!?そういう貴様はどうなんだ!?」

「こちとら、とっくに責任果たして、息子もいるわ!」

 

え、まじか。

千手の二人は目の前の最年少を見た。それに柱間がマダラを見る。

 

「マダラも、もう結婚しているのか?」

「・・・俺は、婚姻間近まで行ったのは行ったが、相手が病死してな。そのまま丁度良い年の奴もいなくて宙ぶらりんだ。そんな暇なかったからな。」

「お前、子どもいたのか?」

「ふん、息子がいるよ。といっても、奥さんはもう、亡くなったけどね。」

「柱間、お前もまだ結婚してないのか。」

「まあ、扉間とイドラ殿のことが終れば、俺もおいおいぞ。」

「どっから嫁を取るんだ?」

「親類のうずまきぞー。」

「へえ、紹介しろよ。お前の愚痴なら付き合ってやれるしな。」

「・・・・なんか、俺よりも仲良くなりそうで複雑ぞ。」

 

そんな会話を聞きながら、うちはの忍はその四人を見た。千手とうちは、忍の中でも最高峰の人間だ。

そんな四人中、三人が結婚もしてなければ、子もいない現状。

ちょっとどころではなく、大分やばい。これ、誰かが死んでたらどうする気だったんだろうか?

 

(・・・思ったよりも、ギリギリの状態だったんだな。)

(大丈夫なのか、うちはも千手も。)

(イドラ様、大丈夫かな?)

 

「て、こんなこと話してる暇はないんだよ!それで、なんでそのアカリって女は姉さんに会いに来てんだよ!」

 

聞こえてくる兄たちのまったりとしたそれをイズナは振り切った。そんな間も、うちはの護衛達の冷たい視線が扉間に降り注ぐ。

それに扉間は苦虫を噛みつぶしたかのような顔をした。

 

「・・・いや、おそらく、敵意はないんだろうが。」

「じゃあ、なんだよ?」

「おそらく、まあ、好奇心もあるだろうが。のお、扉間。姉上、怒ると思うか?」

 

それに扉間と柱間は顔を見合わせた。そうして、十中八九、だろうなと頷いた。それにイズナは不審そうな顔をした。

 

「イドラに危険は無いのか?」

「それは絶対に無いぞ。」

「・・・・ともかく、帰るか。できるだけ、ゆっくりと。」

「どんだけ会いたくないんだよ。」

 

 

イズナは焦って、千手の里に飛び込むように到着し、そうして、柱間と扉間の屋敷にやってきた。頭の中では、ひたすら、姉のことを案じていた。

 

「姉さん!」

 

アカリと、イドラがいるという部屋にイズナは扉間と柱間、そうして、マダラと共に入り込んだ。

 

「・・・静かにしてください。」

 

部屋に入り、出迎えたのは赤毛の女だった。そうして、何故か、イドラはその女の膝に頭を乗せて暢気に寝ていた。

扉間の元許嫁と、嫁(仮)の二人の光景にイズナは思わず口を開いた。

 

「ど、泥棒猫!?」

 

それに、その場にいた三人は同時に思った。

 

どっちがどっちだ、と。

 

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