長くなるので、いいところで切りました。次で扉間さんが出ます。
ちなみにギュンに関しては、ときめき以外にも、若干よこしまなものも混ざっているためです。
「ねえ、おひいさん。こっちを手伝ってくれませんか?」
「はい。」
その日、うちはイドラはせっせと洗濯物をしていた。イドラはそんなことにほくほくしていた。
この生活で、実際の千手での生活について理解が出来た。家の内部についてのことはこれから嫁いでくる千手柱間の妻であるミトが取り仕切ることになるだろう。
といっても、次男である千手扉間の妻になる自分もある程度、把握しておくべきだろう。
(・・・どんな人なんだろう。)
なんでも、元々千手の内部のことを取り仕切っていたのは柱間や扉間の従姉にあたる女性らしい。柱間達の母親はずいぶん前に他界しており、現在、千手で一番上の立場にいる女がアカリという人物なのだそうだ。
「お会いできないのですか?」
「アカリ様は今、母君の一族のうずまき一族に修行に行かれていて。ただ、そろそろ帰ってこられると思いますよ。」
何故か、家にいる手伝いの女たちはアカリのことを話したがらなかった。まあとイドラはそれについてはひとまず置いておいた。
(扉間様も、柱間様も、話したがらないんですよね。)
イドラはそれにそっと、そのアカリという千手一族で誰よりも攻略しなければいけない存在が自分を嫌わないことをそっと祈った。
そんなことを考えていたとき、話しかけてきたのは、手伝い女の一人だった。
「すみません、少し、こちらを手伝って欲しいのですが。」
「わかりました。」
イドラは警戒心も無くそれについていった。もう、警戒心?何それ?と人になれまくった犬並みの勢いでそれについていった。
何か、危害が加えられそうになれば逃げる程度の実力はあった。その油断が、いけなかった。
そうして、たどり着いたのは、とある屋敷の、そうして、とある一室に連れてこられた。
部屋の中にいた、数人の老人の姿にイドラは内心でしくしく泣いた。それは散歩に行くとるんるん気分だった犬が動物病院に連れてこられたときに似ていた。
が、うわべでは一応きりっとした顔をしていた。そのぐらい、取り繕うぐらいは出来た。
「・・・・うちはの姫君にわざわざご足労いただきましたね。」
老人の一人がイドラにそう言った。それに彼女は静かに微笑んだ。内心ではえーんと泣いた。絶対そんなこと思っていないのは一目でわかる。
「いえ、こちらこそ、ご挨拶が遅れてしまい申し訳ございません。未熟な身ですがゆえに、準備が出来ておりませんでしたので。」
びびりのイドラにせめて表面的にだけはと、お利口な顔!と叩き込んだマダラとイズナの姿を彼女は思い出した。
「ふふふふ、そうか。ならば、急に呼びつけてしまってすまないねえ。ただ、私たちも扉間殿の嫁になると言うんだ。顔を見ておきたいと思うのも当たり前だろう?」
(絶対それだけじゃないー!)
イドラは怯えながらにこやかに世間話のようなそれを続けた。何か、彼らが自分に接触してくる理由があるのだろうと。
(でも、さすがに直接的な危害はないはず。)
イドラは酷く冷静に、己の価値を理解していた。柱間と扉間は自分に対してよくしてくれるが、それとは別に自分は千手とうちはの和平の象徴だ。
それに危害を加えると言うことは、千手の長の命にどうどうと背くような度胸は持てないだろう。
「それで、なんだが。」
一見和やかなそうな会話の後に、一人がおもむろに口を開けた。それに、イドラは背を正した。
「扉間殿との関係はいつ頃かな?」
(うっわ、来た!)
イドラはそれに心臓をばっくばくさせて扉間に言われていた年数を話した。それに、古老たちはふむとうなずき、そうして、ちらちらと互いを見る。その仕草にイドラは不思議な気分になった。
「あの、どうかされましたか?」
おずおずとイドラがそう言うと、古老達は哀れむような顔をした。
「・・・・いいや。どうも、イドラ姫は知られていないようだが。その、な。実は扉間殿には幼い頃から決められている婚約者がいるのだよ。」
それにイドラは固まった、
その場に集まった古老達はうちはとの同盟に絶対的に反対している派閥の人間だった。それは例えば、身内をうちはとの諍いで失っていたり割り切ることが出来ていないものたちだった。
そんな彼らもさすがにイドラに対して直接的に危害を加える気は無かった。それがどれほど危険であるのかは理解できていた。
考えてみて欲しい、彼女に危害を加えればうちはマダラとうちはイズナ、それに加えて千手柱間がやってくるのだ。
が、それでも古老たちはどうしてもうちはとの和平を阻止したかった。
イドラというそれの境遇は知っている。例え、それが本当であるとして、だ。
その哀れみだけで止めようと思うには、彼らはあまりにも失ったものが多すぎた。
赦せないのだ。どうしても、赦したくないのだ。
愛したかった、大事にしたかった、それが手からこぼれ落ちたのは、誰のせいだ?
自分が弱かったからか?
そうであるとしても、赦せないのだ。
赦すなと、愛した誰かが耳元で囁いている。
それ故に、彼らは扉間も、そうして、柱間も彼らの言う隠れ里を作るために他の家に話をつけに行っている今を狙った。
彼らはイドラというそれを、しょせんはうちはと思っていた。温和で、愛想も良く、人なつっこい。
けれど、数十年、うちはという一族と殺し合った彼らからすればあり得ないと思っていた。
高慢で、冷たく、実力主義であるあの一族で育ったというのならば、根っこの部分はそんなことはないだろうと。
千手から今回の婚姻を反故にすることはできない。はっきり言おう、外聞が悪すぎる。
正直、今回の扉間のやらかしは寝耳に水だった。
え、あいつが?え、まって、まじで?
それぐらい、扉間のやらかしはあり得なすぎた。
婚姻を嫌がっているのだって、仕事人間、研究馬鹿の彼に家族に割く時間はないだけだと。
いっそのこと、女よりも兄者が好きだからと言われた方がまだ納得が出来るレベルの話なのだ。
千手の一族は血継限界を持たない、純粋なチャクラ量と回復力の高さで名をなしている。それ故に多くの氏族と交流を持っている。
そんな中で、扉間の醜聞が広まればどうなるか。愚か者でもわかるだろう。
古老達は女を見た。なるほど、美しい女だ。
黒い髪に白い肌、揺蕩うような黒の瞳。美しい顔立ちに浮かんだ、花のような愛らしい表情は、どんな人間だって好意的に思ってしまう。
古老達は口を開いた。
「・・・・今回の件はイドラ姫もさぞかし大変だったとは思います。ですが、その婚約者も長い間、扉間殿との婚姻を待っている身で。ですが、扉間殿は未熟な己の身ではまだ結婚は早いと言われていて。そのために婚姻が遅れてしまっておりましてね。」
「ええ、婚約者殿はずっと、扉間殿との婚姻を健気に待ち続けておりまして。」
「婚約者のアカリ殿とは仲はよさそうでしたが。ああ、あそこまで婚姻を拒否されたのはイドラ姫を愛していたからでしたか。」
「ですが、扉間殿も隅におけない。アカリ殿と会われたときもあんなに仲睦まじくしていたというのに。」
「それで、イドラ姫。ええ、もちろん、今回の件について反対などすることはありません。ただ、アカリ様も扉間殿との婚姻のために相応の努力をされていました。今更、他の男に嫁ぐというのも難しいでしょう。」
「ですので、ええ。アカリ様については、どうか、妾としての関係は赦していただけませんでしょうか?」
「全ては扉間殿が悪いとは言え、あの子が不憫で・・・」
古老達はイドラがそれに悋気を起こすと思っていた。誰が聞いてもそれがただの策略であるとはわかるだろう。
ただ、うちはの人間が潔癖で婚姻関係について相当厳しいことを古老達は知っている。
事実、千手アカリのことについて、扉間や柱間がイドラにきちんと話せていないことは事実であるし、アカリというそれが扉間の婚約者であったことは事実だ。
問いかけに対して、もっとも賢いのは沈黙と言われている。けれど、沈黙は疑念を呼ぶのだ。
その疑念が、彼女の兄であるマダラにまで広がれば、今回の婚姻はうちはの方から破談になる。元々、他との交流のないうちはの言い分ならば、あとでどうとでもなる。
古参達はイドラの悋気を期待して、彼女を見た。イドラは胸の前で手を組み、顔を伏せていた。
そうして、彼女は顔を上げた。
イドラは、輝かんばかりに笑みを浮かべて古老達に言った。
「はい!是非とも仲良くなりたいです!!」
はい?
その返答に古老達は固まった。
え、待って。これから新婚気分でるんるんな花嫁の言葉か、それは?
古老達は驚きながらイドラを見た。けれど、彼女は扉間への怒りも、アカリへの嫉妬も無く、ただ、ひたすらまでに嬉しそうに目をキラキラさせていた。
「あー、イドラ姫。その、自分以外に、扉間が妻を迎えるのは構わないと?」
「はい!家族が増えるなんてとっても素敵ですね!それに、私、姉に憧れていましたし。」
まてまてまて、んな問題じゃねえだろう。妻がもう一人増えるんだぞ。
(扉間がこの女に入れ込んでいるのは知っている。だが、イドラもまた相当に扉間に惚れ込んでいるはずだ。あの、仕事人間が合間を縫って構い、おまけに宝飾品まで手ずから選んでいるんだぞ?)
そうだ、古老達はイドラと扉間がそれ相応に情を交し合い、仲睦まじく過ごしていると思っていた。
だが、残念である。
(扉間様に好きな人がいたなんてえええええ!もう、何ですか、教えてくれてもよかったのに!水くさいなあ!)
このイドラという女は、どこをとっても扉間という男を愛してなんていないのである。
イドラは扉間に婚約者がいて、そうして、仲が良かったという話を聞いて正直浮かれていた。
愛や恋なんて砂粒ほど存在はしていなくとも、イドラは扉間に汚名を着せたという罪悪感や、自分のようなものに優しくしてくれているという事実への感謝は存在していた。
そうして、もう一人兄が出来たような嬉しさもある。
それ故に、イドラは扉間に好きな人がいるかもしれないと思えば嬉しい。扉間が嬉しいのならば、イドラだって嬉しいのだ。
夢で見た、朴念仁の恋バナに彼女の中の乙女心がはわわしていた。ときめきがとまらなかった。
えー!もう、そういう話ならもっと早く聞かせてよ!
そこで、イドラの心が沈んだ。
いくら、扉間はそのアカリという人が好きでも自分がいるせいで彼は彼女と結ばれることはないのだ。
(私のせいで。私が、いるせいで。)
心が沈む。自分に優しくしてくれる扉間が、彼が、自分のせいで本当の意味で幸せになれないというのなら。
(私は・・・・)
イドラはぐっと拳を握った。
ご安心ください、扉間様!不肖、イドラ!あなたの恋が叶うよう、しっかりとサポートして見せますので!
そんなセンチメンタルなイドラの内心など知ったこっちゃねえ古老たちは慌てていた。
え、待って、なにその態度。
なんでそんなに器がでかいの?なぜ新婚初っぱなに妾の存在を許容できるのだ、この女は。
そう、古老達は頭の上に盛大にはてなが浮かんでいた。
そう、皆気づいていないだけで当たり前である。
この女は扉間を愛していないからである。ぶっちゃけ、彼女の純粋な好感度うんぬんでいうのならばマダラとイズナがダントツである。
扉間についてはもう、尻尾がスクリューするぐらい懐いているが、残念ながらその女に恋情なんてありゃしない。
「あ、あの、イドラ姫?」
「はい!なんでしょうか!」
「その、な。千手の人間が妾を求めるのはないことではないが。うちはも、そうなのかね?」
「いいえ?浮気をするなら死を覚悟しろが、うちの格言です!」
なら、なんでお前はそんなに笑顔で妾の存在を許容してるんだよ。
古老達は頭を抱えたくなった。そんな古老達のそれにイドラは、ああと頷いた。確かに、そんな格言を持っていて、自分の態度は確かにおかしい。
「ですが、私は扉間様が望むのならばそれでかまわないと考えております。」
「な、なぜ?」
それにイドラは花のように、愛らしく微笑んだ。
「だって、扉間様の幸せが、私の幸せだからです。」
それはどこまでも扉間という男に尽くす妻の鑑に見えた。イドラはそれに顔を伏せて静かに言った。
「それに、妾ができることについてはある程度覚悟はしておりましたので。」
千手の人間が多情の気があることは知っていた。それは手伝いの女衆も言っていたことだ。扉間様は大丈夫だろうと言っていたが、実情は違う。
何と言っても、自分たちの間には欠片ほどの恋もない。扉間自身、漫画で明言が無かっただけで結婚していた可能性もある。
扉間が優しい人であることぐらい、イドラは知っていた。だから、彼もいつか誰かを愛するだろう。ならば、こんなことに巻き込んだ自分が責任は負うべきだ。
けれど、それを見て、古老達は、正直に言おう。
ドン引きしていた。
だって、考えてみて欲しい。こんなご時世だ。妾など出来る可能性はないわけではない。けれど、あんだけ大恋愛をして、結婚をするぞと言う時に、事前に妾の可能性を示唆しておく扉間って。
(((さ、最低だあああああああ!!!)))
古老達は自分たちがしようとしていたことを棚に上げてそう内で叫んだ。また一つ、扉間の尊厳が墜ちようとしていた。