ここの柱間さま、肌つや誰よりもよさそう。
次はギャグ入れたい。
千手柱間は非常に爽やかな朝を迎えた。
基本的に超がつく健康優良児である彼は基本的に目覚めが悪いときが無い。ただ、目覚めた時、憂鬱な時はあった。
が、この頃はそんなことはない。
起き上がった柱間はるんるん気分で朝の支度をしながら指を折って日にちを数える。
(次にマダラが来るのは・・・)
それに柱間はさらに笑みを深くした。
少し前までは、柱間にとって朝が憂鬱だった。
いつだって、待ち望んだうちはからの和平の便りが来ることは無く、行きたくも無い死合いに向かう日々だった。
けれど、今は違うのだ。うちはと死合いなどしないし、うちはマダラからの便りさえやってくる。もちろん、殆どが里についての話で、扉間宛てのものが多いが。
ただ、その中にも柱間への個人的なものが混じっている。それを読むのが、彼にとって一番の楽しみだった。
柱間はるんるん気分で朝食へ向かった。
「おはよう!」
「ああ、おはよう。」
朝食の場に行けば無愛想な可愛い弟が先に席に座っていた。そうして、その横にはこの頃見慣れた黒い髪の女がいた。
「はい、おはようございます。柱間様。」
淡く微笑んだその顔に柱間の笑みがでれでれと崩れた。
柱間は非常にうちはイドラのことを可愛がった。おいしいおやつが手に入れば、イドラにやり、何かしら困ったことが無いかと気遣った。
今のところ、イドラはさすがに千手一族全体へのお披露目はまた後でということで柱間たちの屋敷だけでの行動になっている。それでも、屋敷へのお手伝い、戦などで働き手を失っている未亡人たちと仲良くしているようだった。
「扉間様、イドラ様に相当入れ込まれてますね。」
そんなことを束ね役をしている女から聞いた。根拠は黙っていたが、それでも口が堅い方である彼女たちがそこまで言うのだ。
柱間はまたるんるん気分になった。可愛い弟と、可愛い義妹の仲がいいのだ。
嬉しい以外の感情なんてないだろう。
「柱間様、もう少し、警戒心を持ってください。」
「なんでぞ?」
「そんな悲しそうな顔をして。一応、あの方はうちはの姫君でしょう?」
「・・・疑っていると?」
「建前を覚えてください。」
少しだけひりつくような柱間の圧に束ね役は顔をしかめていった。それに柱間はめしょめしょとした。
言いたいことはもちろんわかる。けれど、イドラというそれが柱間はひどく可愛かった。
マダラの妹で、そうして、自分の義妹になる女。それを引いてもにこにことよく笑い、何よりも、扉間に近づいても邪険に追い払われないそれが可愛かった。
(・・・柱間様、としか呼ばれんのが寂しいが。)
いつか、柱間義兄様と呼ばれるのが楽しみで仕方が無い。出来るならば、うちはイズナとも仲良くなりたいものだ。
(未だに、千手との和平に反対しているらしいが。)
柱間はそれにまたしょもりとした。その時、束ね役の女が声をかけてきた。
「それで、柱間様。おひいさん、変わったことがあって。」
「おお、なんぞ?」
「おひいさん、基本的に掃除の時とかは髪を結われてるんですが、この頃、見たこと無いかんざしでまとめられてるんです。」
「かんざし?」
柱間もイドラが持ってきたのが、普段着ぐらいしかないことは知っている。それに、柱間はまたはわわと口元を覆った。
扉間からの贈り物だ、と。
そうだ、だからこそ、柱間は仕事中の弟をからかうために話しかけたわけだ。ついでに、うちはの使者に渡すマダラ宛ての手紙も持って。
「と、扉間、お主、すごい顔しとるぞ・・・・」
柱間は思わず戦きながら扉間から一歩引いた。
般若の顔、柱間から見た千手扉間の顔はその一言に尽きた。その表情に察した。
「あのかんざし、お前からでは・・・」
「少し、話をしてくる・・・」
ドスの利いたそれに柱間は慌てて扉間を引き留めた。
「ら、乱暴は行かんぞ!」
「離さんか!いいか、兄者!あれはワシの嫁になる!例え、かんざし一つでも、男の影があればどれほど不利益になるか!」
「大体、お主もかんざしの一つぐらい贈っとらんのか?」
それに扉間も黙り込む。
普通ならば、敵同士の氏族同士での恋愛なんてしたのだ。贈り物の一つでも、していてもおかしくないだろう。
が、残念ながら扉間とイドラの間には、普通なんて単語何一つ転がっていない。
扉間はちらりと柱間を見た。
もう、きらっきらしていた。瞳が輝いていた。
それに、扉間の中で諦めみたいなものが沸き起こってくる。
「・・・下手なものは、贈れんだろうが。」
文字にすれば、きゃああああああああ!みたいな歓声を上げそうな顔を柱間がしていたものだから、扉間はもう理性を放り出してその顔を殴りつけたくなった。
けれど、今はそんなことを考えている暇は無い。
「ともかくだ!ワシはイドラの奴にかんざしの出所を聞いてくる。暴力はせんから二人で話をさせろ。」
「わ、わかったぞ。」
扉間は柱間を振り切って廊下を歩く。そうして、束ね役にイドラの行方を聞き、そうして、少しの間借り受けることを伝えた。
それに束ね役は何があったのかと頷いた。
そうして、いつものように庭を掃いているイドラを見つけた。彼女はいつも通り、うちはに伝わっているという子守歌を歌っていた。
普段ならば、扉間は少しの間をそれを眺めていただろう。
けれど、今はそんなときでは無い、その髪に美しい銀細工のかんざしを見つけたのだ。
「イドラ!」
思った以上に鋭い声にイドラはまた驚いた猫のようにぴょんと跳ねた。そうして、振り返り、おずおずと近づいてきた。
「は、はい。扉間様。」
「すぐにワシの部屋に来い。」
「わかり、ました。」
扉間はそのまま己の部屋に向かった。
扉間はキレていた。ひたすらに、怒髪天をついていた。
は?なにしてんだよ、お前。
扉間の心情はそれの一言に尽きた。
ここまで徹底的に自分の立場を追い込み、逃げ場を無くし、周りを巻き込んでおきながら何をしているのだ?
扉間の脳裏には自分のほっぺたに感じた、柔らかさを思い出す。
待て、あいつ、もしかしてあんなことを他の奴にもしてるのか?
扉間の眉間の血管がぴくりと動いた。
こちとら必死に、あの馬鹿に合わせようとしているのに、何を脇が甘いことをしているのだ?今後の後始末をするのは自分なんだが?
何よりも、この婚姻は当人が言ったように和平に対して非常に重要な意味がある。それを自覚していながら泥を塗るなんてことが扉間の怒りを煽っていた。
頭の中で、一瞬だけ見えたかんざしのことを思い出す。女の黒い髪によく似合う銀のかんざし。
どこのどいつだ、人のモノ(未遂且つ納得していない)に手を出そうとしているのは。
扉間の記憶では、屋敷に入った人間なんて手伝いの女衆ぐらいだ。ならば、彼女らを買収してのことか?
にしても、千手の一族で扉間に挑むような命知らずの大馬鹿者はいないはずだ。
誰だ、誰だとイライラしていると、恐る恐る部屋に入ってくるイドラに気づいた。障子を閉め、部屋の中心に座る扉間の前に座った。
それを確認した扉間は素早く印を結んだ。それは、この頃散々に辛酸をなめた扉間が作った結界術だ。外に音が漏れないためのそれは、絶対に誤解を拡散させるかという気概を感じる。
イドラは不思議そうな顔をするだけだった。
なんの忍術かなんて聞きもしない。扉間はこんな生き物を戦場に出していたマダラに呆れた。自分ならば死ぬ気で家に放り込んでおくのだが。
もちろん、イドラは警戒心がないわけではないが、扉間への信頼はよくよくしている。その理性的な男ならば、自分に危害を加えるようなリスクを背負うはずがない。
扉間は苛立ち混じりに、イドラの髪をまとめていたかんざしを引き抜いた。イドラはきょとんと、心底不思議そうな顔をした。
かんざしは、鈍い銀色で、先に三日月を模して作られた銀細工がついている。女の黒い髪によく似合った。
「これは?」
「ああ、素敵ですよね。ヒカクが選んでくれたんですよ!」
にっこにこのイドラのそれに、扉間の口元が引き攣った。
ヒカク、そうだ、その名前には覚えがある。確か、時折千手にやってくる使者の名前だ。マダラ曰く、信用の出来る男であると。
「ほお、やけに嬉しそうだな。」
「え?はい、うちは基本的に髪は結んでいたので。かんざしも素敵ですよねえ。ヒカクはこういうのは目利きできるので。似合っていますか?」
何気ない言葉だった。何気ないそれであるが、その言葉は端から見れば浮気相手から贈られた装飾品を夫に自慢するというそれのわけで。
扉間の手に力が入り、ぼきりとかんざしが折れた。
「え?」
イドラは驚きの声を上げた。そんなことなど気にすることも無い扉間は折れたかんざしを放り投げて、イドラに覆い被さるように彼女のことを押し倒した。
無防備なイドラはあっさりとうつ伏せに畳に押しつけられた。イドラは何が起こっているのかわからずにおろおろと手をばたつかせる。
「扉間、様?」
「ほうほう、いい度胸をしているな。ワシのことをここまで振り回しおって、自分は暢気に男と密通か。貴様自身、この婚姻の意味をわかっているだろう?」
扉間はイドラの写輪眼を警戒し、彼女の背中に冷たく吐き捨てた。
扉間は徹底的にイライラしていた。問題が次から次に押し寄せる。
ああ、どうする?
何はどうあれ、この婚姻は絶対に成功させねばならない。下手にイドラの不貞があったと言って波風を立てないように事を処理するほか無い。
かんざしの件はともかく、男に対してはそれ相応の制裁をしなくてはいけない。
何よりも、と。扉間は己の下にいる女を見た。逃がさないために、がっつりと組み敷いたそれ。
(しつけの一つも必要か?)
今まで散々、自分にしてきた諸諸が演技で、それに騙されていた自分にはらわたが煮えかえる。そう思っていたとき、イドラがぐずぐずと半泣きに成り、そうして、呟いた。
「なんで、怒ってるんですか?」
「ほう、わからんのか?」
「かんざし、自分で買ったの、そんなにダメだったんですかあ?」
鼻声混じりのその言葉に、扉間は固まった。
皆さん、おしゃれしてますか?
イドラの脳裏には何故か、そんなフレーズが浮かんでいた。
その日、イドラは困っていた。
うちはの人間はあまりお洒落というものをしない。基本的に、黒染めのそれだけで事足りている。まさしく男は黒に染まれと言えるようなファッションセンスだ。
元々、何を押しても忍術第一な部分がある。機能美というものを愛しているのだろう。誇り高いからこそ、能力至上主義な部分があるのだろう。
そんなこんなで、イドラの衣装は黒い。もう、カラス並みに黒い。
イドラとしては無難!という感じで着やすくて気に入っている。
が、ここで問題が起きた。そうだ、今現在、イドラにとって何よりも重要なこと。
千手扉間の好感度稼ぎだ。
まあ、どうやればいいのかまったくわからない。ともかく、仲の良い夫婦になるためにどうにかこうにか、女として意識して貰わねばならないが。
イドラにはその方法がまったく思いつかない。イドラは客観的に見れば見目はいいらしいが。
見目が良いだけで扉間が落とせるようならばこんなに悩んでいないだろう。
そこで、イドラはともかく着飾ってみることにしたのだ。
さすがにいきなり、服装を変えたりなどはできないが、何かワンポイントでおしゃれをしてみるのもいいかもしれないと思い立ったわけだ。
だが、イドラはかんざしだとか、そういった装飾品を持っていなかった。理由は単純で、イドラが年頃の頃はすでに千手との争いが過熱しているときであり、そういったものを求めるような気力を彼女は持たなかった。
元々、うちはではそういったものは夫に買って貰うのが当たり前だった。
そんなこんなで、少しでも扉間に意識して貰うためにかんざしを買うことを決めた彼女が頼ったのがうちはからの使者だった。
さすがに千手の人間に頼めなかったし、うちはの人間ならばまだ気安かったというのもある。
そこで白羽の矢が立ったのが、従兄にあたるうちはヒカクだった。彼にマダラへかんざしのお金を立て替えて貰うように頼んだ。
マダラには、未来の夫の家で少しはめかし込みたいと言っていたと伝えてもらった。
「はあ、それはかまいませんが。ご自分で買うんですか?」
「はい、お願いします。」
使者のヒカクに兄であるマダラとイズナのことを尋ねた後にそう頼んだ。
ヒカクとしてもそれにまあいいかと応じた。彼からすれば、幼い頃から妹同然に可愛がった子だ。おまけに、お金も渡されて、彼としては完全にお使い感覚でしか無かったのだ。自分と彼女はそんな関係ではないという前提が、いろんな予想をぽーんとはねのけさせてしまった。
「ですが、どんなものを?」
「そう、ですねえ。」
イドラの脳内に浮かんだのは、綺麗な白銀の髪、キラキラ光る氷のように冷たい色の髪。それに、彼女はなんとなく、鋭い三日月を思い出した。
「三日月の、かんざしがいいです。」
「わかりました。」
そう言った経緯で、イドラの元にかんざしがやってきたわけなのだが。
扉間は冷や汗を垂らしながらちらりと、壊して放り投げたかんざしを見た。そうだ、イドラにかんざしを渡せる人間はいた。
うちはの使者である人間だ。もちろん、そういった使者に監視の目がないわけではないのだが、確かに、柱間とイドラと、使者だけにしたときがある。
そうして、この頃柱間は気が緩みっぱなしで、うちはの人間同士で仲良くおしゃべりなんてしている状態でも眺めていれば、もう、話を聞いていなかった可能性は大だ。
さて、扉間は考えた。
これが嘘か、真か?
おそらく、イドラの言葉は真実だ。
わざわざ、マダラを巻き込んでこんな嘘をつく必要も無ければ、意味も無い。
さて、ならば、ここに残った扉間はなんなのか?
勘違いで暴走して、自分のためにめかしこみたいとイドラの用意した装飾品をぶっ壊した最低な男である。
扉間は滅多に無いほど、血の気が引くような気分だった。
やばい、他人からの誤解だけでは無く、正真正銘の最低男になってしまう。否定できなくなるのはさすがにあかんと慌てる。
扉間は現実主義者であるし、目的のためにならば卑劣なことをする。けれど、彼にだって人並みの良心はある。
自分の勝手な勘違いであるのならば、なおさらに。
「・・・・・すまん。」
納得は行かなかった。勘違いさせる言動をするなとも言いたいが、確認不足の自分も悪かった。扉間は壊したかんざしを拾う。
「これについては、なんとか直せるように手配しよう。」
起き上がり、そうして拘束をといた彼女は当たり前のように泣いていた、いや、そりゃあ怖かったろうなあと扉間もわかった。
イドラはなんで怒られたのかもよくわからず、けれど、これ以上扉間に嫌われるのも困るしと、半ばパニック状態で扉間に手を伸ばす。
「とびらまざま、ごめんなざい!きらわないでえ!」
幼子のように自分に手を伸ばすそれに、こんな時でも自分に縋るのかと、ちょっと小動物への何かのような感情を覚えた。さすがの扉間も罪悪感で、彼女を己の腕の中に迎え入れた。
「ワシが勘違いしておったんだ。詫びはしよう。だから、泣き止め。」
イドラはぐっずぐずに泣いていた。
彼女からすれば、自分の所の金でそこまで高くないかんざしを買ったらガチギレられたのだ。とんでもねえ、話だ。
イドラはぐっずぐずに泣きながら、扉間のそれにきらんと目を輝かせた。
え、わびてくれるの?ものすごい、罪悪感があるじゃん!
(この状態なら、聞けるのでは?というか、今はチャンスなのでは!?)
イドラは泣いていた精神に喝を入れた。この女、そこそこ図太い部分がある。
「扉間様、なら、あの、お願いがあるのですが・・・」
「なんだ?」
体を離したイドラは、泣いていたせいで潤んだ瞳で扉間を見上げた。
「あの、扉間様が私に似合うと思う、かんざしを贈っていただけませんか?」
それに扉間の胸で、また、何かがギュンとした。何か、こみ上げてくるモノがあった。
「・・・わかった、用意しよう。」
「本当ですか!」
はしゃいだそれに、扉間は何かギュンとする感覚を押し殺す。イドラのそれは完全に、あなたの色に染めてくださいと、そんな口説き文句にさえ聞こえてきてしまって。それに、彼の胸で何かがぎゅうんとする。
そんなことなど露も知らないイドラは、これで扉間の好みがわかるとはしゃいでいた。
後日、イドラのために高価なかんざしを幾つか買い求めた扉間に、千手の一族がざわつくのは別の話だ。