メディアを沈黙させるものの正体:TBS「報道特集」への圧力について
メディア関連の連続講演会が某所で毎月開催されていて、ほぼ毎回足を運んでいる。今月はやけに参加者が多いなと思ったら、開始前にスマホの電源を切るようにとアナウンスがあり、スタッフが確認にまわりはじめた。会場の壁には「録音・録画・撮影は禁止、妨害行為禁止」の貼り紙。いつになく物々しい雰囲気なのは、TBS『報道特集』の曺琴袖さんが登壇するからだった。番組の関係者が誹謗中傷の標的になっており、曺さんのもとには殺害予告メールが送り付けられたという。曺さんは最近「報道特集」を離れたというが、この人事異動もそういった事情と無関係ではなさそうな口ぶりだった。
『報道特集』では兵庫県の公益通報に関わる問題を継続的に扱っている。この「キャンペーン報道」を続けるきっかけとなったのが、兵庫県議の竹内英明氏が自死したことだと曺さんは言った。亡くなって半年経った今も竹内氏を中傷するSNS投稿は続いていて、その内容は目を覆うばかりにむごたらしい。
切り抜き動画の拡散による収益化についても、『報道特集』の放送の一部を流しながら解説がなされた。政治的なイデオロギーを持たない一般人がおカネを稼ぐために、「政治系切り抜き動画」作成の仕事を請け負う。発注者はそれをYouTubeで配信して広告収入を得る。人気のあるYouTubeチャンネルは高値で売買されていて、開示請求されたり訴えられたりする前に売り抜けるのだという。経済的なインセンティブのみで物事が動いているかに見えるが、話はそう単純ではなさそうだ。
動画作成や街頭演説の撮影などの発注は、仕事依頼サイトを通じて行われていた。公選法違反の恐れがあるとして現在は規約で禁止されているが、NHKの記事によれば業界大手の「クラウドワークス」のサイトには600件余りが掲載されていたという。いったい誰が資金を出しているのかと、曺さんは疑問を投げかけた。切り抜き動画を配信しているYoutubeチャンネルの運営者に取材を申し込んだが、断られたとのこと。この仕事依頼サイトでは財務省解体デモの参加者も募集されていたらしい。
これらの政治活動に大量の人を動員できる依頼主の正体と資金の出所が気になるが、講演会ではそれ以上の話は出なかった。非常にデリケートな領域に関わることなのだろう。何らかの強大な権力の存在を感じさせるエピソードだった。曺さんや番組スタッフに圧力をかけたり、県議を自死に追い込んだり、選挙の熱狂を作り出したりする原動力は、個々人の意思や集団心理、SNSや動画配信サイトの収益構造だけで説明がつくものではないのだ。
報道機関への攻撃は「心理的圧力」となって報道を萎縮させる。公権力が行使する「政治による暴力」ではなく、一見すると大衆の中から自然発生的に生じたかに見える「政治的な暴力」によって、言論が封殺されていく。名もなき大衆が路上やネット空間でふるう政治的暴力の背後に、政治による暴力が潜んでいる。平時は巧みに潜在化されているが選挙などの際には活性化し、「政治的な暴力」として立ち現れる。実社会をかき回して重要な争点を覆い隠してしまう。
今回の参院選では外国勢力による情報工作が疑われ、物議をかもした。これに対するカウンターが政権与党によって行なわれたことを、現役国会議員が明らかにしている。そこまでいくと話が複雑すぎて正直ついていけないし、真偽のほどを確かめようがない。ただ一つ言えるのは、国内の政治的圧力であれ外国からの干渉であれ、大きな力の影響からは誰も逃れられないということだ。切り抜き動画の請負人のように駒として使われるのはよくある話だし、SNSで呟くことで気づかぬうちに”生けるbot”として利用されているかもしれない。考えれば考えるほど混迷が深まっていく。
そんな状況の中で、『報道特集』の曺さんのような気骨のある人がマスメディアにいることは、大いなる救いである。ただ、曺さん個人が圧力に屈せず報道を続けようとしても、組織としてそれが不可能だとしたら、個人の力では限界があるということだ。講演会で提言されていたように、TBSだけを矢面に立たせず業界全体で立ち向かうべきだろう。「メディアスクラム」は本来そういう意味をもつ言葉なのだと、講演後のトークセッションでパネリストの一人が言っていた。
言論を封じようとする力にはスクラムを組んで対抗するよりほかはなく、そのスクラムを社会全体に広げていくことができれば理想なのだと思う。メディアを沈黙させる力は分断が大好きで、連帯が大の苦手なのだから。
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