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ちなみにイドラの容姿はミコトさんをイメージしてくだされば。あれより、幼めの感じです。
その日、いや、この頃、千手扉間は最悪な時間を過ごしていた。
「扉間!ほら、何をしておる!なんだ、その格好は。せっかく嫁御が来るんだ!」
部屋にけたたましく入ってきた兄である千手柱間を扉間は心底殴りたくなった。
今日、千手扉間の嫁(仮)であるうちはイドラが家にやってくることになっていた。
あの後、あまりのことに茫然自失となっていた扉間は柱間によって連れて帰られた。正直、ショックのあまりされるがままであったことなんて初めてだ。
ただ、千手の里に帰った後がまさしく地獄だった。
至る所から注がれる、その、なっま暖かい視線!
古参の人間達からはなんたることかと叱責があった。もちろん、扉間はそれに深く頷いた。普段はクソ爺と思っているが、今だけは古参連中にエールを送った。
が、そんな願いは叶わない。
頭領である柱間と、そうして、あの場にいた比較的若手の人間が、望んでいないのに扉間の味方をするのだ。
「聞いたんです、あの扉間様がうちはのおひいさんを愛してるって!」
(言っとらんわ!)
「あの扉間様が子が欲しいと思われるほどに愛しておられるんです!」
(指一本触れたことも無いわ!)
「・・・あの方、せっかくの子も流れられたそうで。不憫で・・・・」
(子などおらん!)
「今回の件でうちはと確実な和平を結べます。今も確かに衰退していますが、うちはマダラとうちはイズナは健在。戦うたびにこちらも少なくない犠牲を出しているのが現状です。ならば、うちはイドラを嫁として迎え入れるのはけして悪手では無いかと。」
(それには、確かに一理ある。)
前線に出ている主戦力の忍たちの意見はけして古参でも無視できない。何よりも。
「あの扉間に惚れたおなごがいるというんだ!そうして、それがうちはの姫君だという!結婚は絶対だ!」
(いっそ兄者を殺して、ワシも死ぬか。)
頭領である柱間が受け入れている時点で、古参達の言葉などそよ風のようなものだった。
そのため、うちはと千手における婚姻についての話し合いは急速に進んだ。
なんといってもすでに関係まで持っている、実際は持っていないが、ために早々と話をまとめようとしていた。
「結納品何にする!?」
「もう、婚約って段階じゃないしねえ。なら、多めの結納金を包んで、嫁入り道具用のタンスとか買って貰うとか。」
「花嫁衣装は?」
徹底的に自分は蚊帳の外である。いや、自分に話題を振られても困るのだが。
扉間は仕方が無いために普段通りの生活を送っていた。いくら抵抗しようにも、柱間のぶち切れ具合に諦めた。
(・・・・和平が、思う以上に早まった。)
それはいいだろう。それに関しては扉間もまあ、悪いことでは無いと思っている。だが、それとこれとは別だ。
何が悲しくて、うちはの女と密通して、子どもを孕ませた最低男の称号の対価に平和なんぞ求めにゃならんのか。
もう、一族の女達からの視線の冷たい事よ。さすがの扉間もその視線には悲しさを覚える。女の近しい身内がいなくて良かったとしみじみ思った。
いいや、酷いのは、男の方だろう。
あの、扉間が、とからかう気満々で話しかけてくるのだ。
扉間はこれでもモテる。頭領の弟であり、本人も優秀で、顔だって悪くない。
粉をかけてこようとする女は多くいたが、現実主義のその男はそれを徹底的に振りまくった。
それ故に、千手の人間はそんな扉間を籠絡したという女に興味が湧いているのだろう。ただ、悪感情が表立ってないのは、時代であるのだという忍としての割り切りと、あの場で言ったイドラの言葉が広まっているのもある。
騙されているんだろう?
そんな言葉が聞こえても、その場にいた人間の、いいやという否定。
あの言葉を聞けば、お前にもわかるだろう。あれは、失ったことのある人間の言葉だ。それに黙り込んでしまう。
そんなことがあっても、変わらず扉間をからかって妙な道具を贈ってくる馬鹿もいるのだからもう勘弁して欲しいのだが。
ただ、やはり、一族の女はその婚姻に張り切っている。
千手と相反するうちはとの婚姻。
そこには敵意などがないわけではない。ただ、そんな女の中にはあの死合いの場にいたものもいる。
そのために、女達の間ではイドラは、扉間に孕まされたあげくに子も流れた哀れな女として広まっている。そのためか、やはり表立っては同情的だ。
扉間には最悪な風評被害であるが。
(・・・ただ。)
もう、こどもの、おそうしきを、しなくてよくなりますか?
その言葉だけは、未だに、扉間の中で渦巻いている。
泣きじゃくる女がいた。その瞬間だけは、扉間は、何か、非難の言葉だとか、その女への殺意だとか、そんなものがなくなってしまった。
よく見た光景だった。
子どもの死に嘆き、苦しみ、どうしてと叫ぶ母の姿に。
扉間は書き付けの広がった机に突っ伏してそっと目を閉じた。
(どこか、兄者に、似ていた。)
泣いていた、女が。ただ、泥に塗れて、それでも、足掻く女がそこにいて。
扉間は何故か、その女の顔が忘れられずにいた。
嫁入りの話に加え、千手とうちはで里の拠点地になる場所を決め、引っ越しの話も出ていた。里を作る上での開拓の手段など、扉間の仕事は山ほどあった。
そんなとき、うちはから一つの提案があった。
それは、里の移動や婚姻の前にうちはイドラを千手で生活させて欲しいというものだった。
イドラ自身が、これから暮らしていくだろう千手の生活を知っておきたいというのだ。
「と、いうことなんだが。どう思う?」
そんなことをそわそわしながら聞いてきた己の兄に扉間はうろんな目を向けた。扉間が拒否する選択肢などないことなどわかりきっているだろう。
「構わん。」
「そうか。なら、寝室は一緒にしておくからなあ!」
「おい、待て!兄者!」
ほどほどにするんだぞお、と間延びした声と共に去って行く兄である千手柱間にかち切れながら扉間は叫んだが、すでに遅い。
扉間は兄のうっきうきな様子に頭が痛くなった。この婚姻を当事者よりも楽しみにしているのは誰よりも柱間だ。まあ、誰よりも楽しみにしていないのは当事者である扉間であるのだが。
(・・・望み通り、うちはとの和平が成り、あれだけ執着していたマダラと親族になる。おまけに、昔から欲しがっていた妹が出来るのだから、兄者はいいだろう。)
扉間はため息を吐いた。全てが自分の思うとおりにいかない。死合いの場では弁護の方法も無く、ただ、されるがままだった。
(ひとまず、婚姻の件はおいておくとしても。あの女の目的については知っておかねばならん。)
何故、あの場だったのか?何故、わざわざ、扉間を選び、そうしてあんなことを言ったのか?
扉間はひとまず苛立ちを押し殺し、思考を切り替えた。
そうだ、ひとまず、一番の悩みの種であったうちはについてはなんとかなった。ただ、今後のことについては悩ましい部分はあるが。
(こちらに来るというのなら丁度良い。)
あのときの借り、たっぷりと返してやろうじゃないか。
扉間は久方ぶりにひどくすがすがしい笑みを浮かべた。
「あ、あの、ふつつかなものですが、よろしくお願いします。」
「いやいや、そんな緊張しなくてもよいぞ?」
「そうだ、こいつには遠慮はいらん。」
その日、やってくるといううちはの人間について千手の人間は身構えていた。なんだかんだ、因縁というものに絡まり合った互いだ。
けれど、やってきた人間はなんともまあ、質素なもので。
頭領であるうちはマダラと妹のイドラ、そうして、護衛の数人である彼らはうちは独特の衣装を纏っているぐらいだった。
てっきり、豪奢な着物の一つでも着てくるかと思ったが、そんなことはない。なんとも地味なものだ。
「・・・それよりも、周りの奴らはどうにかできんのか?」
「いやあ、うちはのおひいさん。おまけに扉間が惚れ込んだというから皆、気になるようでな。」
柱間の隣に立った扉間は周りを見回せば、里の中、一番に大きな扉間と柱間の住む屋敷の周りには多くの気配であふれている。
(・・・・騒ぎたくなる気持ちもわかるか。)
イドラというそれは、扉間にやらかしたことに加えて、ひどく見目麗しい。血の濃さ故か、うちはの人間は基本として皆が整った顔立ちをしている。
イドラはその中でも抜きん出ている。
事実、彼女を初めて見た千手の人間はざわついていた。
うちはの頭領の妹。
どんな高慢ちきな女が来るのかと思えば、来たのはひどく可憐な娘だ。
真っ黒な髪は腰まで伸びており、控えめに微笑んだそれはひどく愛嬌がある。なるほど、騒がれるのにも理由があるのだ。
うちはという印象からはかけ離れたそれに、ざわついた。
なるほど、細身の女が好みだったのか、などと失礼なことを考えるものもいた。
扉間もまた、あの涙や鼻水でぐちゃぐちゃの顔に変わって、改めて合わせた顔はなるほどと頷く程度の気持ちはあった。
美しい娘だと、客観的に考えられる感性ぐらいはあった。
「荷物は、それだけか?」
「え、あ、はい。ひとまず、寝具等は貸していただけるとのことで。ともかく、衣装だけを持ってきたのですが。」
「何か、他に持ってくるものはあったか?」
「いいや。ただ、おなごの荷物はもう少し多いと思っていたのだが?」
それにうちはの人間はそれぞれ、不思議そうな顔をした。その動作が、ひどく幼くて柱間は少し胸をきゅんとさせた。
そこで、扉間が話に入ってくる。
「兄者はマダラと話すことがあるだろう。ワシも少し、話をしたい。」
「うん?そうだな。つもる話もあるだろう。」
「扉間、いいか、イドラを泣かしてみろ。一族総出で殴り込みに来るからな。」
「はっはっは、安心しろ、マダラ。その時は俺も加わるからな。」
好き勝手言う兄と、そうして未来の義兄のそれに扉間は息を吐く。
「安心しろ。ワシも、己の嫁を乱暴に扱う趣味は無い。のう?」
扉間は珍しく、すがすがしい笑みを浮かべた。それに、柱間はやはりそんなにも愛して、と胸をときめかせていた。マダラは、まあ、大丈夫かと息を吐いた。
が、その扉間の笑みを見たイドラだけは伏せた目にうっすらと涙を溜めていた。
そうだ、扉間は嬉しくてたまらなかった。
ようやく、自分を散々に追い詰め、そうして、知りたかったことが知れるのだ。
扉間はそのままイドラを連れて家の中を歩いた。その後ろをイドラは、なんというか、てとてとなんて音が付きそうな速さで歩く。
そうして、扉間は、安全面や監視的な理由で自分の寝室に近く、奥まった場所にある部屋に案内した。
「・・・ここがお前の過ごす部屋だ。」
「は、はい!」
少ない荷物を抱えた部屋にイドラを入らせた。そうして、扉間もまた後ろ手にふすまを閉めた。
そうして、扉間は先に部屋の中心に座った。それに、イドラもまた向かい合う形で座った。彼女はひどく気まずそうに、視線をうろうろさせた。
それに、扉間は青筋を浮かべて、イドラに微笑みかけた。
「それで、だ。」
自分に素直についてきた時点で諸諸の覚悟は出来ているだろう。
「それで、ワシを最低野郎に仕立て上げた理由、話して貰おうか?」
「ひゃい・・・」
掠れた声でイドラは答えた。