総務省の偽誤情報対策における方針転換:制度WG中間取りまとめ案を読み解く③「主要な論点」
今まで取り上げてきた「カテゴリ変更」や「有害情報の違法化」以外の主な論点を以下に見ていく。(中間取りまとめ案の本文はこちら)
違法情報について
権利侵害情報に対する第三者の削除申出
情プラ法における迅速化規律(原則7日以内の対応)の対象は被害者本人による削除申出に限定されており、第三者からの削除申出は含まれない。
ただし、第三者の申出によって削除した事例にも透明化規律は適用され、削除件数等の対応状況が公表される(中間取りまとめ案,p. 24)。この透明化規律は行政機関による過度な要請を防ぐ手立てと目されている(p. 24の脚注35)。これだけで濫用的な要請が防げるかどうかは疑問が残る。過度の要請への歯止めを設けることの必要性は健全性検討会でも指摘されていたが、ほとんど議論が進んでいない。
総務省はプラットフォーム事業者の対応状況をモニタリングしながら迅速化規律を拡大することを検討している(pp. 16-15)。第三者による削除申出に対しても迅速対応が必要だと判断されれば、情プラ法が改正されることになる。
法令違反情報に対する行政機関からの削除要請
①「情報区分の変更」で述べたように、健全性検討会で「違法な偽・誤情報」とされた情報区分は諸課題検討会では違法情報として一般化され、「その他違法情報(法令違反情報)」となった。具体的には、諸課題検討会が発足当初から重点的に取り組んできた闇バイトの募集情報などが含まれる。
制度WGでは、行政機関からの要請で事業者が違法情報を削除した場合、事業者を免責する必要はあるかという点が検討された。
免責を設けた場合のリスクとして、以下の二点が示唆されている。
・要請を受けて機械的に削除した結果、違法性のないものまで削除されるおそれがある。
・行政機関がこれを濫用して検閲を行なう危険性がある。ユーザーの表現の自由を制約しかねない。
免責を設けない場合のリスクは以下の通り。
・事業者が誤って削除した場合、発信者から損害賠償を求められる可能性が出てくる。そうなると事業者は違法性の判断に慎重にならざるをえず、迅速な対応が難しくなるかもしれない。ただし、通常は事業者自ら利用規約で免責規定を設けているのでリスクはなかろうとの指摘もある。
上記を踏まえ、取りまとめ案では比較衡量的なスタンスがとられている。
……行政機関から法令違反情報に関する削除要請があった場合の免責については、対応の迅速化を実現する必要性と、過剰な削除による表現の自由に対する制約をもたらす懸念との間のバランスを慎重に検討しつつ更なる検討を行うことが適当である。
これは迅速化の必要性と表現の自由との綱引きであって、迅速化が強く求められると表現の自由は犠牲になる。取りまとめ案では免責の制度化を引き続き模索していく方向性が示された。
行政機関その他の第三者からの通報への優先対応
事業者の迅速な対応を促すために、行政機関や「適格性のある第三者機関」を優先的に扱うことが検討されている。現時点では専用窓口の設置や優先対応は制度化されていないが、事業者によっては専用窓口で優先対応しているところもある。
諸外国にあるようなトラステッド・フラッガー制度は、直ちに導入するほどでないとされた。その理由として、インターネットホットラインセンター(IHC)やセーファーインターネット協会(SIA)等の通報団体が一定の対応実績を挙げていること(例:IHCによる削除依頼の削除率は5営業日以内で約90%)、トラステッド・フラッガーの機能を担うに足る団体がないことが指摘されている。削除率が低下した場合はトラステッド・フラッガーに類似の制度導入を改めて検討するとしている。
さらに、「事業者自らが特定の通報団体を認定」することも期待されている。事業者へのヒアリングでは毎回のように「違法性の判断が困難である旨の回答」(p. 22)が出され、総務省からは、専門の行政機関はじめ「信頼できる第三者の団体」(p. 69)との連携を勧めるのが常である。通報をおこなう第三者機関としてはIHCやSIAの他に、諸外国の例にならってファクトチェック団体などが新たに加えられる可能性がある。
官民連携に関して言えば、今回の取りまとめ案にも「マルチステークフォルダーによる協議会」について言及がある(p. 69)。協議会についてはまだ具体化されていないが、総務省が最近始めた官民連携の偽・誤情報キャンペーン「DIGITAL POSITIVE ACTION」などはその下地として位置づけられているようだ。
有害情報について
※②「有害情報の違法化」もあわせて参照のこと。
収益化停止措置
違法情報は情プラ法による対応が可能であることから、収益化停止措置の必要性は有害情報を対象として検討された。
閲覧数に応じて広告料が得られる仕組みに代表されるように、アテンション・エコノミーと呼ばれる経済モデルが存在する。これが違法・有害情報の拡散に拍車をかけていると見なすのが、総務省の偽・誤情報対策の基本的な考え方であり(p. 36)、収益化停止が歯止めになることが期待されている。ただし、偽・誤情報を流通拡散させる動機には経済的なインセンティブ以外のものもあるため(政治的な意図など)、収益化停止の効果は限定的との見方もある。
収益化停止措置については以下のような懸念も指摘された。
・表現の自由に一定の制約を与えることになる
・ユーザーの経済活動の自由にも制約を課すことになる
以上のようなリスクを鑑みて、現時点では事業者に対して収益化停止措置を一律に求めることは差し控えられているものの、「自主規制型行動規範」の策定を通じて事業者が自主的に対応することが望まれている。さらに、災害時等の特殊な状況下において、事業者に収益化停止措置を求める制度的対応が必要であるともいわれている(p. 53)。こういった特定の場面では自主規制型行動規範をもとに「対応を促すことも考えられる」としているが、それらの対応が不十分である場合は、下図にあるように共同規制型行動規範へと移行することになるらしい。
最近では選挙時の(ネット上の)偽・誤情報が重大な問題と見なされていることを考えても、収益化停止について法規制がなされる可能性は十分にある。ちなみに、「自主規制型行動規範」は2025年内の策定を目指しているという(p. 48)。
違法情報と有害情報に共通の論点
本人確認の厳格化
健全性検討会では偽・誤情報の発信を抑止する効果を期待して、本人確認の厳格化が検討されていた。諸課題検討会では闇バイト対策の観点から、犯罪捜査の円滑化を主な目的としてアカウント開設時の本人確認の義務化が議論された。これは匿名表現の自由を侵害し、萎縮効果を生じかねないことに加えて、個人情報漏洩のリスクや事業者の負担増も考えられる。また、かりにSNSを実名制にしても誹謗中傷は減らないという説もあり、厳格化については慎重論がとられた。
レコメンダシステムの透明性確保
プロファイリングとアルゴリズムを通じてレコメンドされた情報が配信されることにより、フィルターバブルやエコーチャンバーといった囲い込みが起こると言われている。利用者の知る権利が損なわれるだけでなく、偽・誤情報が流通・拡散しやすくなるとされている。事業者に対して、アルゴリズムの透明化と利用者への選択肢の提供が提言された(pp. 54-60)。
プロミネンスの導入
災害時に流通拡散する偽誤情報への対抗手段として、信頼できる情報源からの情報を優先的に表示する措置(プロミネンス;優先表示)が健全性検討会で提言されていた。だが、何をもって「信頼できる」情報源や情報とするのか、プロミネンスにどの程度の効果があるかという点が明確化されておらず、具体的な検討は進んでいない。
AI生成物へのラベル付与
生成AIによる偽・誤情報を抑止する措置として、AI生成物である旨を示すラベル付与が挙げられている。すでに事業者側でラベル付与の取り組みがなされている。
総務省と経産省は共同で「AI事業者ガイドライン」を取りまとめたが、ラベル付与については明示されていない。中間取りまとめ案では、同ガイドラインに明示すべきかが引き続き検討事項とされたが、識別技術が開発途上であること、ラベル付与の効果を検証する必要があること等の課題が指摘されている。
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