総務省の偽誤情報対策における方針転換:制度WG中間取りまとめ案を読み解く②「有害情報の違法化」
※前回①「情報区分の変更」の続きです
違法化への方向性
「制度的対応」や「法的規制」よりも踏み込んだニュアンスをもつ “違法化” という語が出てきたことに着目したい。
従来提案されていた「削除以外のコンテンツモデレーション」、すなわちラベル付与や収益化停止などに加えて、「個別法で違法化して削除対応を促す」ことが検討されている(制度WG中間とりまとめ案, p. 34)。違法化された場合のシミュレーションは下図の通り(同, p. 35)。
違法化によって削除対応の円滑化が図られることが、同とりまとめ案には述べられている(p. 35)。
仮に違法情報と位置付けられれば、削除依頼を行う団体や行政機関等の運用ガイドラインに、当該違法情報に関する判断基準等を掲載することにより、プラットフォーム事業者に対する削除依頼の実施が適切に行われると考えられる。また、違法情報ガイドラインに、当該違法情報を反映することにより、必要に応じて、プラットフォーム事業者が削除基準に当該情報を盛り込むことで、プラットフォーム事業者による適切な対応が図られるものと考えられる。
先日、オンラインカジノへ誘導する投稿が警察庁によって「違法情報」とされた。https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250717/k10014865531000.html
通常国会で「改正ギャンブル依存症対策基本法」が成立→警視庁がオンラインカジノサイトに誘導する投稿を違法情報として位置づけ→通報機関であるインターネット・ホットラインセンターの運用ガイドラインを改正→プロバイダへの削除依頼がやりやすくなる、という流れであり、現在ガイドライン改正についての意見募集がされている。
総務省の検討会でいう「有害情報の違法化」もこれと同じ経緯をたどるだろう。
違法化の条件と範囲
有害情報に関してはカテゴリ名の変遷が見られる。健全性検討会では違法性のない有害情報(図1)とされていたが(注1)、後続である制度WGでは当初公序良俗に反する情報(図2)とされた(注2)。これに対して異論が出たため(制度WG第1回議事概要を参照)、有害情報(図3)に変更された(注3)。
このようにCカテゴリは名称の変遷があったものの中身はほとんど変わっておらず、偽・誤情報が中心である。明確な定義づけや範囲設定は依然としてされていない。定義づけが難しいというのは以前から指摘されていることで、今回のとりまとめにも「極めて広範な概念である」と書かれている(p. 33)。とはいえ違法化に際しては、違法性のある情報の範囲を定めなければならない。同とりまとめ案では有害情報がもたらす損害(harm; 法益損害)に着目し、そこから違法情報の範囲を導き出そうとしている(注4)。以下はとりまとめ案からの引用である。
②については(引用者注:違法化を通じた削除対応の促進)、ある有害情報について、法益侵害を発生させ、又は惹起が確実な情報として社会的コンセンサスが得られた結果、違法情報と位置付けられることになれば、違法である範囲は明確化されることとなる。
有害情報を違法化するには「社会的コンセンサス」による後押しが必要であることが示されている。違法化推進派(規制推進派)にとっては、表現の自由が “障壁” として立ちはだかっているからだ。同とりまとめは違法化を「表現の内容規制そのもの」であるとし、「十分な実態把握と国民の理解」が不可欠であると述べている。規制に向けた世論形成はメディアを通じてなされていく(注5)。
有害情報の具体例
前回のnote「情報区分の変更」でも取り上げた中間とりまとめ案の図の一部を、以下に再掲する(p. 7)。
災害や感染症流行時の偽・誤情報にフォーカスする方針は変わっていない。検討と対応を要する情報には、「感染症流行時に健康被害を生じさせ得る医学的に誤った治療法を推奨する情報」「存在しない災害・事故・事件が存在するかのように見せかけた偽画像・偽動画」「災害発生時に外国人が犯罪行為を行っているとする偽・誤情報」などが含まれる(p. 33)。
Cカテゴリ「有害情報」の具体例の中には、諸課題検討会ならびに制度WGで直接扱わないものもあるので、注意が必要である。
・青少年有害情報は同検討会の検討範囲には含まれておらず(制度WG第1回議事概要, p. 6を参照)、他の検討会で議論されている(注6)。
・災害デマに外国人に関わるものが含まれていることには言及があるが、外国人差別やヘイトに関わる情報(偽・誤情報含む)への対応には触れていない。これらの問題が深刻化したのは参院選の選挙期間に入ってからのことだった。
・SNSや動画投稿サイトが選挙に及ぼす影響は、昨年の兵庫県知事選を機に重要視されるようになったが、同とりまとめ案ではこれについて方向性を示すことは差し控えられている(p. 5の脚注6)。
選挙におけるSNS上の偽・誤情報については与野党ともに規制に前向きであり、2025年の都議選と参院選を視野に入れてSNS規制強化の議論が進められてきた。公選法改正時にも、SNSでの誹謗中傷などの問題が今後の検討事項として付則に盛り込まれた(注7)。
今回の参院選では “外国人問題” が争点化され、外国人に対するヘイトやデマが飛び交い、FIMI (外国による情報操作と干渉)の可能性も取りざたされている。諸課題検討会では今のところ選挙を論点としていないが、これから重要な論点として浮上してくる可能性はある。ただし、ヘイトスピーチは法務省、サイバーセキュリティやFIMIはデジ庁や防衛省の管轄なので、総務省がどこまで関与するかは不明である。
(注1)デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会とりまとめ(pp. 85-87)の「対応を検討すべき「偽・誤情報」の範囲に関する基本的な考え方」より以下引用。
また、「権利侵害性その他の違法性」がない情報であっても、例えば、当該情報そのものが、又は当該情報が流通・拡散することにより、人の生命、身体又は財産に重大かつ明白な悪影響を与えるような情報については、情報伝送 PF 事業者において、少なくとも、これらの情報の流通・拡散に関連して自らのビジネスモデルがもたらす社会的影響を予測し、有効な軽減措置を実施する(Ⅱ参照)といった方策(又はそれ以上の方策)を要する程度の「客観的な有害性」(ⅰ.)又は「社会的影響の重大性」(ⅱ.)を備えている、すなわち②の要件に合致するものと評価し得る。
(注2)デジタル空間における情報流通に係る制度ワーキンググループ(第1回)資料1-3「制度WGにおける検討の進め方について(案)」p. 3
(注3)同WG(第8回)資料8-2「論点整理(案)」p. 3
(注4)英国オンライン安全法(OSA)の虚偽通信罪を念頭に置いて議論されている。
(注5)偽・誤情報対策やSNS規制に関する報道には、時にリークと思われるような動きも見られる。検討会そのものの透明性と迅速性に関わる問題であるため、この件については稿を改めたい。
(注6)ICT活用のためのリテラシー向上に関する検討会の「青少年のICT活用のためのリテラシー向上に関するワーキンググループ」、ICTサービスの利用環境の整備に関する研究会の「利用者情報に関するワーキンググループ」など。
(注7)公職選挙法の一部を改正する法律(令和7年法律第19号)「選挙に関するインターネット等の利用の状況、公職の候補者間の公平の確保の状況その他の最近における選挙をめぐる状況に対応するための施策の在り方については、引き続き検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。」
総務省「新規制定・改正法令・告示 法律」のページより
【補足】総務省では2005年8月から2006年8月にかけて、インターネット上の違法・有害情報への対処に関する研究会が開催されていた。
同研究会では「違法ではない情報」を(1)公序良俗に反する情報と(2)青少年に有害な情報に分類しているが、(1)の中身は現在とはかなり異なっている(死体画像や自殺誘引投稿など)。
※前回の記事はこちら☟
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