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スーパー戦隊シリーズ第23作目『救急戦隊ゴーゴーファイブ』(1999)

スーパー戦隊シリーズ第23作目『救急戦隊ゴーゴーファイブ』は前作「ギンガマン」の大ヒットを受けて今度は違う形の正統派ヒーローとして制作されました。
「救急」という名前からもわかるように本作が導入したのはレスキューポリスシリーズ三部作「ウインスペクター」「ソルブレイン」「エクシードラフト」の概念です。
これらを数字の「99」と掛け合わせ、更に当時まことしやかに信じられていた「ノストラダムスの予言」とリンクさせて出来上がったのが本作と言えます。
なお「ゴーゴーファイブ」という名前は「ゴーグルV」の没案だったものを再利用しており、前作と違って完全なリアル路線を突き詰めているのです。

そんな本作ですが、ぶっちゃけて言いますと私自身の評価は高いし良い作品だとは思うものの、「好き」かどうかと問われるとそんなに好きじゃありません(ファンの方ごめんなさい)。
私の中で「評価の良し悪し」と「好き嫌い」は基本別物でして、「チェンジマン」「ジェットマン」「ギンガマン」は「高評価」と「大好き」が一致しています。
また「ゴレンジャー」「カーレンジャー」も「高評価」と「好き」が一致していますが、実は「ライブマン」は「高評価」だけれど「好きではない」んです。
逆に「ダイレンジャー」のように「低評価」だけれども「大好き」な作品もあるので、基本的に「評価」と「好き嫌い」は別物だと思ってください。

その理由はゴーレッド・マトイ兄さん役の西岡竜一朗氏が自身のYouTubeチャンネルや昨年の東京国際映画祭トークショーでも語っていましたが、ひとえに「ギンガマンロス」でした。
前作「ギンガマン」は当時めちゃくちゃ大人気で、子供だけではなく大人の方も熱心に見ていたそうで(女性視聴者も多かったそうです)、歴代でも屈指の完成度を誇っています。
しかもヒーロー達もすごくよくできた戦いのプロで見事なまでの好人物ですから、そりゃあその後にマトイ兄さんたちのようなのが来たら批判されるってもんですよ。
私は批判の手紙を送りつけるまではしなくても、放送を見ながら画面の前で友達とかと「マトイ兄うざくね?」「うん、こんなのが長男とかヤダ」といった会話をしていました(苦笑)

そんな本作ですが、改めて魅力に気づいたのはYouTube配信でじっくり見直した時に改めてその魅力に気づいたという感じで、今は「嫌いではない」になっています。
偉大なる傑作だった前作のプレッシャーと戦いつづ、1年間地球を守って戦い続けた本作は何がよかったのでしょうか?

(1)突出した長所と短所を持ち合わせた巽一家

まずこれは元祖兄妹戦隊の「ファイブマン」と比較した時に気づいたのですが、本作の巽一家は強烈な長所と同時に強烈な短所を持ち合わせたメンバーとして描かれているということです。
ファイブマン」の星川兄妹は長男の学を中心にあまりにも優等生気質が過ぎるというか、80年代型の完璧超人ヒーローだったので兄妹よりは同僚・同居人に見えてしまいました。
しかし、本作はマトイ兄さんとモンド博士をはじめ、どの兄妹たちも性格がバラバラでしょっちゅう喧嘩もするし、それぞれの分野のプロだけど完璧ではない不完全さが魅力に繋がっています。
リーダーシップと実力は一級品だけどガサツで横暴なマトイ兄さん、冷静で天才だけどやや気怠いナガレ、いつも気苦労が絶えない中間子のショウ、熱いけど出来損ないなお巡りさんのダイモン、そして母親代わりのマツリ。

そんな巽ブラザーズの設定はプロ中のプロというより、やや現実的な「プロフェッショナルだけれども人間臭い」という感じの造形に落ち付けようとしたのでしょう。
しかも、これはトークショーで役者さん自身が話していましたが、キャラクターの性格や台詞回しなどはほぼそのまま中の人の性格などが反映されているのだそうです。
つまり、一から役作りをしたのではなく、素のキャラクターをややオーバーに盛りつつ自然な形であのキャラになったそうで、劇中の兄弟喧嘩もリアルにそうだったのだとか。
こうした役柄と素の関係性が非常に近かったというのは凄く親しみやすさを持ちやすく、そういうところが前作とはある意味真逆の路線だったのだなと思います。

そして何と言っても、本作最大のトラブルメーカーにして、「天才科学者」と「ダメな父親」の両極端さを表現していた巽モンド博士…彼の存在を抜きにして本作は語れません。
10年間もかけて災魔一族との戦いに備え続けたという点は優秀ながらも、息子たちにそのことをまるで伝えておらず勝手に蒸発し、しかも息子たちの職場に勝手に退職届を出した最低ぶり。
しかも初期はやややる気がない感じが目立っていたので「最低な父親」っぽいのですが、それでも悪印象にならないのはそれこそマイク眞木氏の絶妙な演技力の賜物でありましょう。
まあそんなモンド博士も決して単なる頼りない親父ではなく、8話の乾総監との衝突を経て熱血親父としてどんどん戦いに積極的に関わるようになっていきますから。

こんな風に5人のキャラクターが個性や役職だけではなく性格の観点からばらけて見え、それでありながら兄妹で仲間という関係性や距離感を表現している点が見事です。
いわゆるギンガマンみたいな理想のヒーローとはちょっと違いますが、現実に居そうな理想のヒーローといったらこういう感じというのをしっかり表現しています。
こういう5人と父親だからこそ、最後までハラハラしながらも、なんだかんだ飽きずに最後まで見られるのではないでしょうか。

(2)歴代最高峰のメカニック描写

そして何と言っても本作最大の特徴は救急マシンを中心にしたメカニック描写であり、これはまさしく前作「ギンガマン」とは大きく差別化を図った本作最大の美点です。
まずは全編にわたって救急用のメカとして使われている救急マシンに運搬列車と要塞型ロボットを兼任するグランドライナー、さらには宇宙へも行けるサポートメカのライナーボーイ。
後半の主力メカとして活躍してくれるビクトリーマーズ…こういう風に用途に応じたロボットの使い分けがなされたのは本作がほぼ初めてではないでしょうか。
特に1号ロボのビクトリーロボがきちんと存在感を失うことなく最後まで活躍してくれたのは嬉しく、きちんと使い切ってくれて嬉しい限りです。

また、等身大戦の武器も魅力的で、警棒をモデルにしたバトルスティックに救急ツールも兼ねているライフバード、さらには戦いに特化したVランサーにVモードブレスとゴーブラスター。
これらもまた用途に応じて使い分けられているのですが、これが可能になったのはそれこそ前作「ギンガマン」で提唱された「武器の意味を物語の中で定義付ける」があったからです。
前作では大自然の力「アース」を中心にギンガマンの各武装の役割をきちんと規定し、それぞれの武器がなぜ登場するのかを物語の中できちんと定義していました。
本作もまさにそのような形で「人の命を守る」ことを中心にして各武器が登場する意味や役割を定義付けており、単なるパワーアップに終始していません。

しかも、本作ではそんな「強さのインフレ」へのカウンターとして第3クールで無限に強くなっていく展開まできちんと用意されているのです。
ゴーゴーファイブが一度使った武器や必殺技をカードに記録していき、それを次のサイマ獣へとバトンを受け継いでいくという方式にしています。
まあアイデア自体は「メガレンジャー」のバッファローネジレや「ギンガマン」のゴビースもやっているのですが、本作の無限連鎖カードはその完成形と言えるでしょう。
こういう風に特徴的なメカニックとアクションを定義して使い分けているのは本作の細かいこだわりポイントであり、高評価です。

ただ、だからこそ終盤のクリスマス決戦編で死霊サイマ獣を倒せないはずのグランドライナーで倒してしまったのは数少ない矛盾として悔やまれます。
本作全体の批判にまではならないのですが、どうしても一貫性という点で気になってしまうのです…まあ後述する終盤の「アレ」に比べればまだ可愛いものですけどね。

(3)行動指針にややムラがある災魔一族

さて、敵組織の災魔一族ですが、チームワークと結束力が抜群の巽一家に対してまるで結束力がなく、母親の恐怖政治でまとまっていた災魔一族という造形は見事です。
しかもゴーゴーファイブがプラスエネルギーで戦うのに対して、災魔一族がマイナスエネルギーで戦うという設定もよく練られています。
それからマグマゴレムをはじめとして敵幹部の兄妹たち以外も印象的なのですが、個人的にはやはり中盤の三魔闘士が強烈でした。
作品全体を見ても、アレほどの強敵は兄妹幹部を除けばほとんどおらず、初登場時はトラウマになるレベルの強さだったので、今でも印象に残っています。

ただ、その一方で肝心要の兄妹たちや母親に関しては正直何がしたいのか、行動目的が今ひとつ見えにくかったというのがあります。
長男のジルフィーザはその最期も華々しく破綻がなく終わりましたが、末っ子のサラマンデスに関してはドロップの時から何がしたいのかよくわかりません。
破壊衝動で動いているように見えて理性的ですし、かと思えば突然兄妹たちを詰ったり追い出したりするなどコロコロと立場が変わっているのです。
まあ「母親への忠誠心(というか狂信)」という部分だけは一貫しているのですけどね。

その母親である大魔女グランディーヌもまた後半からの登場で、グランドクロスの時に降臨したというのはわかるのですが、デザインといいいまいち迫力不足でした。
もうちょっとゼイハブ並の威厳と強さがあるのかと思いきや、結構ヒステリックですし、兄妹たちを簡単に損切りするのはいいとしても、地球と一体化という行動もわかりませんし。
まあいわゆる前作の地球魔獣の設定とゼイハブをハイブリッドして本作なりに設定を変えてやってみたのでしょうが、それで操られた兄妹たちを倒した瞬間に撃破というのもわからないです。
おまけにピエールに関しては次回作の「タイムレンジャー」とVSで戦わせたいという都合上なぜか死にませんしね…どうしても全体でみると動かし方がかなり雑な印象がぬぐえません。
まあ本作はそもそも武上純希氏がメインライターなので、お世辞にも年間の構成が前後の「ギンガマン」「タイムレンジャー」に比べて綺麗であるとは言えないのですが、その弊害が敵組織の方に出たという感じです。

(4)最終決戦で唐突に出てきた「アレ」について


そして、本作最大の論争(?)のポイントというか、個人的に最大の萎えポイントだったのが最終決戦で唐突に出てきたアレ…そう、マックスビクトリーロボのブラックバージョンです。
一応全く伏線らしきものがないわけじゃないのですが、ラスト2話で唐突に出てきたあっては「ええ!?何それ…」と思えても仕方ないのではないでしょうか。
戦隊ロボのブラックバージョン自体は「ジュウレンジャー」の大獣神から発売されてはいましたが、劇中にまで出したのはこれが最初で最後です。
玩具販促もクソもあったもんじゃないですしねこれ…まあそれを言うと「ギンガマン」終盤で出てきた新獣撃棒もどうなんだ?という話ではあるのですが。

ただ、新獣撃棒はモークが寿命を削って作ったという重い代償を払っていましたし、ギンガの光の特性を分析した上で作ったとして納得はできます。
一方のマックスビクトリーロボのブラックバージョンはそうした発明の過程が描かれていないため、突然に湧いて出た印象が拭えないのです。
まあ確かにビクトリーマーズもグランドライナーも、そしてマックスビクトリーロボの通常バージョンも負けたので他に方法はなかったのかもしれません。
しかし、それならそれでもっと早い段階から伏線を丁寧に仕込んでおくべきであって、本作はどうしてもこの辺りの構成が武上純希メインらしく雑なんですよね。

こんな風にポッと出の秘密兵器で倒せてしまうなら、モンド博士が10年もの歳月をかけて開発した救急マシンや装備の数々という重みがなくなってしまうではないですか。
そういう関係もあって、私はどうもこのブラックバージョンは好きになれませんね…まあ3年後の「ガオレンジャー」がやらかす奇跡の乱発よりはマシなんですけど。
ちなみにマトイ兄さんたちの気合でパワーアップするシステムは「VSギンガマン」でアースの力を研究して独自にモンド博士が取り入れたものなのだそうです。
確かに納得できなくもないですが、基本的に本編の外にあるであろうVSシリーズの設定なんて持ち込まず、ちゃんと本編にある設定だけで勝負して欲しかったというのがあります。

ラストの生き別れになった母親との再会も悪くはないのですが、やはりこれもラストでほぼ駆け足のごとくぶち込まれてきたので、炎の兄弟ほどの積み重ねがないのです。
前作との差別化をしっかり図って面白くした作り手の努力や功績は評価しますが、結局年間の段取りや一貫性というところでイマイチ痒いところに手が届いていません
本作に数々の美点がありながらも、結局心底から「大好き」と諸手挙げて肯定仕切れないのは最後の最後で画竜点睛を欠いてしまったからなのですよね。

(5)「ゴーゴーファイブ」の好きな回TOP5

それでは最後にゴーゴーファイブの好きな回TOP5を選出いたします。やや批判的に述べましたが、名作回も非常に多い作品です。

  • 第5位…36話「奥義! 竜巻落とし」

  • 第4位…12話「決死の新連結合体」

  • 第3位…8話「救急戦隊活動停止」

  • 第2位…13話「弟たちの反乱」

  • 第1位…20話「不滅の救急(レスキュー)魂」

5位はダイモンメイン回で一番好きな回で、脚本が山口亮太さんというのもあって完全に「Gガンダム」のパロディとして見て面白い回になっていました。
4位はグランドライナー初登場回としてとてもよくできた回であり、グランドライナーの強大な力に苦しむという演出は秀逸です。
3位はゴーゴーファイブとモンド博士、そして乾総監が1つのチームとしてまとまる過程をしっかり描いた名編ではないでしょうか。
2位はマトイ兄さんの魅力が長短合わせて完璧なまでに描かれた名編であり、この回でやっとマトイ兄さんのキャラクターがつかめました。
そして堂々の1位は「ゴーゴーファイブといえばこれだ!」という最高の一本であり、ピンチからの大逆転という最高のカタルシスです。

こうしてみると、上位3つが完全に小林靖子女史の書いたエピソードで、つくづく全盛期の小林女史の凄さを感じますね。

(6)まとめ

 さて、伝説の大傑作「ギンガマン」の後の「ゴーゴーファイブ」について語ってみましたが、やや辛口気味な評価となってしまいました。
まあ流石に「なんでゴーゴーファイブなんだ!」という気持ちはないのですが、諸手挙げて好きとか傑作とか言えない理由がわかった気がします。
やはりどうしてもストーリーやキャタクターなどの完成度において前後の作品に挟まれてしまっているという点があるからかなと。
ただ、かといって面白くないわけではなく、年間のアベレージは高い方なので、あとはこれで年間の構成力が文句なしに綺麗だったらと思いました。
総合評価はA(名作)、高評価でありながら今ひとつ傑作の領域にまでなりきれなかったのが残念かなあという感じです。

  • ストーリー:B(良作)100点満点中70点

  • キャラクター:A(名作)100点満点中85点

  • アクション:A(名作)100点満点中85点

  • カニック:SS(殿堂入り)100点満点中120点

  • 演出:A(名作)100点満点中85点

  • 音楽:A(名作)100点満点中80点

  • 総合評価:A(名作)100点満点中88点

評価基準=SS(殿堂入り)S(傑作)A(名作)B(良作)C(佳作)D(凡作)E(不作)F(駄作)X(判定不能)

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