goo blog サービス終了のお知らせ 

コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

森林保護に協力する(2)

2010-04-23 | Weblog

「鳩山イニシアティブ」の一環として、コートジボワールにおける森林保護計画への協力がまとまった。無償資金協力の交換公文の署名式を、4月19日に、私とカク・ジェルベ外相との間で行った。総額15億円。環境省を通じて、国立公園局と森林公社が、計画を実施する実施機関となる。

署名式には、ファディガ環境相も同席した。口上書に署名して、カク・ジェルベ外相との間で交換したあと、私は演説を行う。
「日本は、気候変動に強い懸念を有しています。気候変動は、私たちの生活を脅かすだけでなく、人類の文明自体を、いや生存そのものを脅かしています。」

そして私は、鳩山総理の下で、日本政府が環境保護の問題に力を入れてきているという説明をする。
「昨年(2009年)9月にニューヨークの国連本部で行われた、気候変動に関する首脳会議で、鳩山総理は、2020年までに、日本が排出する温室効果ガスを、1990年の水準に比較して25%の削減を行う、という約束を表明しました。さらに昨年12月、京都議定書の締約国会合がコペンハーゲンで開催された際に、鳩山総理は首脳会合に出席して、各国の間での合意の取りまとめに努力しました。そして、先進国として、開発途上国が気候変動を防止するために行っている努力、とくに気候変動の悪影響を弱めるために行っている努力を、しっかり支援していくべきだ、という主張を行いました。」
その結果の一つが、今日の協力合意として結実したのだ、と述べる。

「私は、バンコの森はもちろんのこと、サンバンの森マビの森モノガガの森ラピド・グラの森を、それぞれ見て回りました。訪問を通じて、森林保護を進めていく上での、いろいろな問題について、理解を深めてきました。」
農業開発が同時に森林破壊を引き起こしてきた。だからこそ、森林保護には地元の人々の協力を得ることが必須であり、「持続性のある森林保護」の実現には、農業と森林保護の折り合いを真剣に探すことが重要である。現地視察を通じて私が学んだことを、演説で披露する。

私は、協力計画にただ日本からの資金を提供するだけではなく、出来る限り、自分の目で現場の必要がどこにあるかを把握し、計画の実行状況を追っていこうと考えている。いろいろ口出しをして、その都度、報道関係者などを相手に、日本の宣伝をするのだ。だから、まずあちらこちらの森林を、森林公社の関係者と一緒に訪ね歩いた。この各地訪問自体が、テレビなどでけっこう報道されて、日本大使は森など現地を見て歩く大使だ、という評判になっている。さらに、日本大使自身が現地の様子や問題の所在を理解している、という姿勢を示すことそのものが重要だ。それは、もし資金を使う側が、計画実施の必要からではなく自分の都合に応じて物品を購入するなど、いい加減なことをしたら直ぐに分かるぞ、という抑止力にもなる。

私は演説を続けて、日本の資金はどう使われるのか、森林保護計画の内容を紹介した。私が具体的計画を発表するというのは、ほんとうは変だ。森林保護を行うのは、コートジボワール政府側であって、私はあれこれ指示する立場にはない。それでも折角資金を出す以上は、こういうことを実現してほしい、という希望が私にはある。それに、供与された資金で実際に何がどう動くことになるのかを、コートジボワールの人々に思い描いてもらいたい。そうでないと、単に金額だけの話になってしまう。すでにファディガ環境相には根回しをしてあるから、この場で報道関係者の前に、私の計画を説明しても困らないだろう。

「第一に、バンコの森の保全に、緊急に取り組みます。この「アビジャン市民の肺」と呼ばれる森が、都市開発、特に生活排水流入で、危険にさらされています。流入する汚水の流入防止と浄化に取り組む必要があります。なおすでに、日本はバンコの森の玄関の建設を始めています。
第二に、コモエ国立公園での、密猟対策に取り組みます。この森の、生物多様性を守らなければなりません。
第三に、森林公社が行っている、全国各地の指定林保全の事業について、その実施能力を高める機材供与を行います。また、地元住民との協力関係を強化する努力を支援します。森林管理・測量のためのGPS装置を供与します。また、熱帯木材の認証制度なども、強化されるべきです。」
GPS装置というのは、日本製の機材として導入したいと考えているものである。認証制度には、私が関心を有している。今回の資金が認証制度の強化に使えるのかどうかは分からないけれども、ここで言及しておけば、森林公社がこの制度にさらに真剣に取り組むことを、後押しすることになるだろう。

最後に私は、森林保護というのは長期的な視野に立って取り組まなければならない事業だ、という話をする。経済協力というのは、えてして注ぎ込んだ資金がすぐに形となって現れることを求める。学校や病院や橋や道路となり、何千人、何万人という人々が裨益者の数字となって現れることを求める。でも、森林保全はそういうわけにはいかない。何十年と経って、はじめて効果が出る。環境問題に対処する事業は、常にそういう、速効性を期待できないという宿命を背負っている。

「結果が現れるのは、今日、明日ではありません。私たちの世代のうちに結果が出る、という保証さえもありません。しかし、私たちの子供の代、孫の代になって、あの時良くやっておいてくれたと思ってもらえるなら、それは私にとって大きな喜びです。ここにご列席の皆様にも、同じくこの喜びを理解して頂けると思います。」
そう述べて、演説を終えた。

次いで、ファディガ環境相が挨拶をする。
「日本の今回の協力は、まことに必要なときに必要なところに提供されるものです。コートジボワールの人々が、何かしなければと懸念を高めていたところに、日本が支援の手をのばしてくれました。国民を代表して、感謝申し上げる次第です。」

そして、ファディガ環境相も、具体的な使い道の話をする。
「本日の合意は、まさに歴史的な出来事です。コートジボワールで保護すべき森林のうち、ほぼ4割が、違法な農業開発の犠牲になっています。そして、大使が言われたとおり、バンコの森とコモエ国立公園の2ヶ所は、その中でも早急に対処をしなければならない重要な森林なのです。とくにバンコの森には、さっそく総延長26キロの柵を設置します。」
おっと、柵で囲む話は聞いていなかった。私が聞いていたのは、汚水排除の計画だったのだけれど。とにかく、バンコの森とコモエ国立公園に優先順位を与えるという私の心づもりは、環境相の発言によって裏付けを得たわけだ。

カク・ジェルベ外相が、最後に演説を行う。日本はコートジボワールが紛争に苦しんでいるときも、変わらず支援を続けてくれた、その額は紛争が勃発した2002年以来でも、総額2060億フラン(400億円)に上るのだ、という。ほんとうだろうか、私も知らない額である。まあ、先日の債務救済(580億フラン)を計算に入れるなどすれば、そういう額になるのだろう。いずれにしても、外相自ら、日本の援助を宣伝してくれているわけだから、いいことだ。

翌日の新聞には、日本の資金供与とともに、日本が、バンコの森、コモエ国立公園、そして各地の指定林の森林保護に取りかかる、という記事になって出た。バンコの森の写真も掲載されている。これまで、コートジボワールでの環境案件といえば、ドイツとスイスが「タイ国立公園」に対し、世界銀行が「コモエ国立公園」に対し、それぞれ協力を行っているという構図であった。そこに日本が、「バンコの森」と各地の指定林の保護を掲げて参入してきたわけである。こうしてコートジボワールで、環境分野においても日本の大きな旗が立った。

<外務省記事資料>

<新聞記事>

 「友愛朝報」紙の記事
「日本は森林再生に75億フランを協力」
写真は、バンコの森の入口


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。