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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

森林保護に協力する(1)

2010-04-22 | Weblog
布石を打つ、という言葉がある。国立公園局のカヒバ局長としては、まさに打った布石が見事に活きた、というところだろう。バンコの森の保護のために、日本に協力してほしい。カヒバ局長はそう私に頼んできた。私は、森林保護にはとても足りない小さい額(約1千万円)だけれどもいいかと断った上で、バンコの森の玄関だけを整備する協力案件を行うことにした。

私との間でバンコの森の玄関の案件を作りながら、カヒバ局長は、玄関整備だけでも日本が関与してくれて、もうほんとうに嬉しいのです、と繰り返した。繰り返しながら、実はバンコの森の保護のためには、これだけの改善措置を行う必要があって、もう計画書は出来ているのです、といって分厚い書類を私に渡した。金額は3億円から5億円に上る。そんな大きな資金は、右から左には出てこない。悪いけど今は話にならない。コートジボワールが大統領選挙を終えて、危機脱出を果たしてからならば、また改めて考えることもできるかもしれない。私はそう応えた。

カヒバ局長は、いやいや、もちろんそれは分っています。もう玄関だけで、日本からの協力として、十分嬉しいのですよ、と繰り返した。でもバンコの森については、周辺からの森林伐採や、生活排水による地下水の汚染という環境悪化の懸念があって、政府は以前から対策を練っているということ、そしてその実施には、資金手当てだけが障害になっているということを、とりあえず大使に知っていただけるだけで、いいのです。カヒバ局長はそう言って、富山の薬売りのように、書類を置いていった。

昨年の4月頃の話である。その書類は、私の引き出しの中に眠る運命にあった。ところが、思いもよらない展開が待ち受けていた。私は書類を、引き出しから取り出さざるを得なくなった。次のような展開である。

環境保全に関する世界の関心が高まっている中で、昨年(2009年)12月、コペンハーゲンで気候変動枠組条約の首脳会議(COP15)、が開催された。鳩山総理は、開発途上国の気候変動対策を支援する、いわゆる「鳩山イニシアティブ」を打ち出した。具体的には、日本としてこれからの3年間に、1兆7,500億円、そのうち公的資金として1兆3千億円の支援を実施していくと発表された。

このように環境保全に関する力強い政策が、鳩山総理によって打ち出された。ついてはこれを具体化していく適切な計画があるだろうか。東京の本省から、私のところにも、そう聞いてきた。日本が資金協力したらいいような、環境保全にむけての計画を、コートジボワール政府と一緒に作ってほしい、ということである。私は聞いた。森林保護なんていう話でいいのだろうか。手元の書類を横目で見ている。ええもちろんです、森林保護は柱の一つになっているくらいです。本省の回答であった。

ほんとうであれば、そういう指示があれば、こちらの政府の関連部局に出て行って、こつこつと一から案件を作るところである。日本の方針に見合った計画をコートジボワール政府に立てさせ、日本政府に対して支援の要請書を出してもらわなければならない。ところが、今回についてはカヒバ局長が、まるで先回りしたように、綿密に企画書を書き上げ、必要な資機材の一覧表や、工事の施工計画を作っているのである。私は、手元のこの書類を送るだけでいい。その日のうちに、東京に送った。本省では、これこれ、こういう計画がほしかった、という良い反応である。こうして、バンコの森の本格的な保全計画が、とんとん拍子で始まった。

さて、こういう筋のいい話には、何か神様の手が働くようである。その頃にたまたま、新方式の炭焼きを、農村に見に行くということになった。出かけると、つまりは森林を保護しながら炭を焼くという話である。そして、指定林の保護の仕事を担っている森林公社の、ヌゲティア総裁が一緒に来てくれた。総裁から、森林保護の苦労や、コートジボワール政府としての取り組みを聞いた。バンコの森だけでなく、コートジボワール全国で、森林保護が大変重要な課題になっていることを知った。

私はヌゲティア総裁と話しているうちに、これこそ、「鳩山イニシアティブ」の話じゃないか、と気づいた。総裁に、どうでしょう、日本が協力する余地はありそうですか、と聞いた。もちろんです、と総裁は応えた。すぐに必要な資機材の要請書を出しましょう。こうして森林公社も、「鳩山イニシアティブ」に乗ることになった。まるで私は、腰に黍団子を下げた桃太郎である。国立公園局だけでなく、森林公社も、私に従ってきた。

このように、バンコの森の保全計画と、コートジボワール各地の指定林での森林保護体制の強化計画の2本立てで、「鳩山イニシアティブ」の案件を組み上げた。そこで再び、神様の見えざる手が働いた。おおかたの計画が纏まって、ファディガ環境相と最後の詰めをしようと、会談の約束をした前の日、ドイツ大使から電話がかかってきた。

「日本大使、助けてくれませんか。」
ドイツ大使は、切羽詰まっている。どうしたのですか。
「フランス大使と合同で、コモエ国立公園の密猟防止の案件を作っていたのです。森林保護部隊を組織し、そこに旧反乱軍兵士を雇用して、荒らされたコモエ国立公園を、再び動物たちの楽園に戻すという計画です。ところが、最後の最後になって、ベルリンから資金を出せないと言ってきたのです。大統領選挙が未実施だから、本格的な資金協力はできない、と。もう計画が動き始めているのに、資金が行き詰まる。もし日本から資金援助があれば、計画が生き返るのです。」

仏独で立てた計画だから、内容はしっかりしているはずだ。私は安心して、この計画に乗れる。日本政府が出す資金の一部を、こちらに差し向けるだけで、日本として「コモエ国立公園の保全計画」に参画できるのだ。私は、これは労少なくして効多しだな、と内心思いながら、表向きは難しそうな顔をした。まあ、東京は何というか分かりませんけれど、一つやってみましょう。ドイツ大使は、恩に着るといって電話を切った。

翌日、ファディガ環境相との打ち合わせでは、私は躊躇なく言った。日本は、今回の資金で、「コモエ国立公園の保全計画」にも参画する。密猟防止というのは、森林保護のもう一つの側面だ。日本国民として、象やチンパンジーや河馬などをはじめ、森に住む動物たちを保護するというのは、大変関心のあるところだ。折しも、今年10月に、生物多様性条約の国際会議(COP10)を名古屋で開催することになっている。

それはたいへん結構、とファディガ環境相は賛同した。数日後、本省とも相談した上で、私はドイツ大使に連絡した。いいですよ、日本も「コモエ国立公園の保全計画」に参加しましょう。ドイツ大使は、胸をなで下ろしているようだった。大統領選挙さえ終われば、ドイツも環境案件には本格的に取り組める、それまでの間、日本につなぎをして貰えればいいのだ。私は、日本製の資機材を入れて下さいね、と釘を刺した。ああ、もちろん何でもお好きなように、とドイツ大使は応えた。こうして、ドイツ大使も私の黍団子を貰って、「鳩山イニシアティブ」に従うことになった。

(続く)

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