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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

キャタピラの恩知らず(6)

2010-04-20 | Weblog
翌朝、ロベールは町に新しい国会議員(新与党)を訪ねていった。そして、自分はこの地方の野党の幹部たちを説得し、与党に鞍替えする決定をすることに成功した、と伝えた。これまで与党に反対してきたわれわれは、改悛したのだ。貴議員は、これを大統領への手柄にされたらいい。自分はこの地方での反対者をすべて与党に鞍替えさせたと、大統領に報告されたらいい。

国会議員は、ロベールが誰かを知っていた。地方では根強い人気があって、動員力がある。ロベールと協力関係を築くのは、大いに利益があると、政治家としてすぐに気づいた。国会議員はロベールに資金を渡し、旧野党支持の反対者たちが、与党に鞍替えするという式典を、大いに行うように、と言った。ロベールは戻ってから、まだ少しながら残っていた反対政党の支持者たちを、与党のTシャツを配りながら説得し、彼らを与党に鞍替えさせた。ロベールは、式典の話は内密に進めましょう、と国会議員に言った。嫉妬する奴が出てくるかも知れませんからね。

ある日曜日、椰子の葉で凱旋門を築き、娘たちに化粧を施して一列に並ばせて、要人の来訪に備えた。国会議員とロベールが、地方出身の大臣、知事、市長、憲兵、報道関係者、テレビカメラを率いて登場した。ゲデオンは、いったい何が始まるのか、まったく理解できなかった。ロベールと仲間たちが、酒場でまた良からぬ相談をしていたのは知っている。でも、それは野党が何かを企てている話だとばかり思っていた。

式典では、この地方の全ての村の長が参加していた。鞍替えする人は百人近くに上っていた。村の長老の一人が、ジンを地面に垂らしながら、先祖の霊に挨拶した。ロベールが演説に立った。大統領閣下が、まだその地位について日が浅いのに、すでに国の発展に向けて動き始めておられることに感謝する。大統領閣下と、その前衛たる与党への、われわれの揺るぎない信頼と支持を表明する。そして、過去にわれわれが所属していた政党が、いかに悪どい党であったのか、ようやく皆で納得したのだ。

「ご列席の大臣閣下、ご覧下さい。この人々は皆、過去に長く暗闇の中にいたことを、深く後悔しているのです。そして、与党に鞍替えして以来、生きる喜びに満ちています。」
ロベールがそう述べた時に、仲間たちは皆、おおいに笑顔を作った。
「ほら、皆が幸せそうでしょう。大臣、敬愛すべき大統領閣下のご威光に照らされ、大変な幸福を感じているのです。」

国会議員が演壇に立ち、ロベールを祝福し、彼の行動力、献身、愛国心を誉め讃えた。聖書の放蕩息子の例があるように、偉大な父である大統領閣下は、改悛者の息子たちを暖かく迎え、お祝いに牛を一頭屠ることだろう。最後に大臣が演壇に立って、ロベールが党のために多大の貢献をしたことに感謝する、と述べて、ロベールを抱擁した。

式典の最後に、ロベールと大臣は、まるで古くからの友人のように手に手を取って、会場を回った。ゲデオンのところに来て、ロベールは大臣に、まるで自分の手下の一人であるように紹介した。
「この男は、前回の選挙の時、けっこう優れた働きをしたのです。われわれの、優秀な幹部の一人です。」
大臣は、それは結構だ、ロベール大兄と一緒にしっかり働くように、と言って握手した。ゲデオンは、開いた口が塞がらず、一言も言えなかった。

昼食の後、要人たちは、村の娘たちと連れだって、町に帰っていった。ロベールは仲間たちと、酒場に集まって乾杯した。式典の様子は翌日のテレビで放映されるということだったので、彼らは次の日に町に出て行った。村には電気がなく、テレビもなかったからだ。番組に自分たちが映っているのを見て、ロベールと仲間たちは歓声を上げた。生まれて初めて、テレビに出たのである。新聞記事にも、皆の写った写真付きで記事が出た。
「百人の野党支持者が、与党に鞍替え」と表題が付いていた。
「われわれは暗闇にいた。今は光を見いだした。」
そうも出ていた。仲間たちはそれぞれ、新聞を1部ずつ買い、家宝にした。

数日後、国会議員はロベールを呼んだ。会うなり、国会議員は彼を抱擁した。たいへん嬉しそうである。
「信じられるかい、大統領が個人的に私に会いたいと言ってきたのだよ。行ってみると、大統領は私に、君は野党支持者を鞍替えさせるなどと、大変な偉業を成し遂げたと絶賛だ。次の内閣改造では、大臣に登用することも考えている、と言ってくれた。」

ロベールはそこで言った。実は、うちの村で、村の長が亡くなりまして、いや彼も与党の大変な活動家だったのですが、その彼の葬式の準備をしているのです。
「われわれで葬式を出そうと思ってきたのですが、考えてみるとどうでしょう。もし与党が党葬にすると、これはもう一段、貴議員の政治的偉業になりますよ。つまり、与党は党のために貢献した人への感謝を決して忘れない、ということを示すことになるからです。それを見て、他の地方でも、さらに多数の与党支持への鞍替えが出るでしょう。」

「それはいい案だ。」
国会議員は言った。そして、この地方出身の大臣に相談して、葬式の費用が出せるようにしてみよう、と付け加えた。

(続く)

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1 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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おもしろい (mama)
2010-04-20 23:52:15
す~~~~ごくおもしろい
まさに、現代のアフリカ人を表している小説ですね。つづきが楽しみです。
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