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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

カカオの研究

2010-04-10 | Weblog

チョコレートの原料は、カカオである。そして、コートジボワールは、カカオの生産で世界一である。単に世界一というだけでなく、年間の生産高138万トンといえば、世界全体の生産高373万トンの、ほぼ4割弱に上ることになる。コートジボワールに次いで、ガーナが66万トンを生産している。両国併せて、世界のカカオの、6割弱を生産。つまり、世界のチョコレートの半分以上は、この西アフリカ、コートジボワールとガーナから来ている。(数字は「日本チョコレート・ココア協会」資料より、2007/08統計)

それだけに、コートジボワールの経済に占める、カカオの比重は大きい。年間総輸出額が98.7億ドルのうち、カカオ輸出が17.7億ドルに及ぶ。つまり外貨の2割弱を、カカオで稼いでいる(世銀統計2008年)。カカオが、コートジボワールの経済を左右している。そしてここでカカオの商売というと、これはもう大型の商売である。世界の製菓会社、つまりチョコレートを生産する会社から、カカオを求めて莫大な資金が動いてきている。

コートジボワールの政治、社会のさまざまな問題も、カカオ生産の特殊性に起因して生じてきている。一次産品の商品作物に特化した農業の脆弱性、移民労働力の導入による社会の軋轢、農園開発による森林破壊、児童労働。そして、ウフエボワニ大統領時代の「カカオ安定化基金」による国庫収入と、世銀・IMFによる構造調整、「基金」の解体と汚職。カカオ豆をめぐる政治・経済・社会の動きを知らなければ、コートジボワールのことは理解できない。ここはひとつ、カカオについて、きちんと研究しておこう。私はそう思い立った。

それで、市場にカカオを探しに行った。果物売りのおばさんが、マンゴーやパパイアと一緒に、長さ10~20センチくらいのラグビーボールの形をした、カカオの実を売っている。一つ下さい、で、どうやって食べるのですか。
「割って、種をなめるのよ。」
おばさんは、手元のラグビーボールをいきなりバコンと二つに割った。

カカオの実の中には、白い塊が、お行儀良く並んでいる。ほら、と言われて、白い塊を一つ指でつまんで口の中に入れる。甘い。白い部分が、果肉である。ぬるぬるしている。中に種がある。これがカカオ豆だ。豆はどうしたらいいのですか。
「あら、捨てるのよ。」
捨ててはいけない。この豆が、チョコレートの原料になるのだ。

でも、おばさんは、甘い部分をすすったら、あとは捨てると言った。そんなはずはない。この豆の中にこそ、チョコレートの味があるはずだ。私は、白い塊を指で剥いて、豆を取り出した。豆は楕円形で、アーモンドを一回り大きくしたくらいの大きさである。さらに、豆を囓ってみた。豆は紫色で柔らかく、すぐにぼろぼろと崩れた。チョコレートの味など、何もしない。チョコレートの味どころか、およそ何の味もない。口の中がごわごわして、青臭いだけである。

カカオの実の中に、チョコレートが入っていると思っていた私は、かなりがっかりした。この豆が、どうしてチョコレートになるのだろう。別の人に聞いた。
「それは、バナナの葉です。」
バナナの葉にくるんで、発酵させるのだ、という。言われたとおりに、バナナの葉を取ってきて、先ほどの白い塊をたくさん集めて包んだ。そのまま、日陰に置いておいた。

数日で、激しく発酵。甘い果肉の部分が、アルコールの甘酸っぱい臭いを出しながら、発酵して溶けている。液がどろどろと、染み出してくる。1週間ばかり置いてから、バナナの葉を開いて、発酵させた豆を並べる。今度は天日で、二、三日ほど乾燥させる。そうしたら、村々で茣蓙を広げて乾かしているのと同じ、固くて茶色いカカオ豆になった。

今度こそチョコレートが出来ているはずだ。私は期待しながら、乾燥したカカオ豆を囓った。豆の中身は発酵によって紫色から茶色に変色していた。しかし、囓っても臭いだけで、チョコレートの味も香りもしない。まだ駄目である。

村々では、ここまで作ったら、あとは仲買人が来て買い取っていく。その後、カカオ豆がどうなるのか、村人たちはよく知らない。そんなことは村人たちにはどうでもいい。発酵させ乾燥させたカカオ豆は、とにかく値段が付いて売れる。こんな味もない、腐って汚い豆を、なぜ争って買い求めるのか、それは不思議ではあるが、詳しく知る必要はない。

でも私は、その先が知りたい。本屋に行ったら、カカオ栽培の手引き書を売っていた。買ってくると、カカオ豆がその後どう加工処理されているのかについて、簡単な記述がある。焙煎(torréfaction)と書いてある。コーヒー豆と同じで、焙煎しなければ、豆から香りが出てこないらしい。それで、カカオ豆をフライパンに並べて、こんがりと焼いてみた。そうしたら、あのチョコレートの苦い芳香が立ち上ってきた。口に入れて食べると、砂糖は入っていないので甘くはないけれど、紛れもなくチョコレートの香りと苦味がする。

カカオの実がどうしてチョコレートの原料になるのか。もうかれこれ、2週間ちかくの日にちをかけて、こうしてやっと辿り着いたのである。

 これがカカオの実
ラグビーボールの形をしている。

 割ると白い果肉が並んでいる。
果肉は甘くて、子供はこれをおやつにする。

 取り出した果肉
白くてぬるぬるしている。

 白い果肉の中に、豆が入っている。
豆は紫色で、ぼそぼそして、チョコレートの味は全くしない。

 白い果肉ごと、バナナの葉に包む。
1週間ほど、このまま発酵させる。

 発酵した豆を、3日ほど天日で乾燥する。
豆を割ると、茶色に変色している。
農村では、ここまで作ったものを出荷する。

 乾燥した豆を、焙煎して薄皮をとったもの。
焙煎したとたんに、チョコレートの香りが出てくる。

 村でカカオ豆を天日干しにしている。


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