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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

憲法に先立つもの

2010-04-09 | Weblog
トーゴの憲法によれば、大統領選挙で選ばれた大統領は、選挙の結果が確定してから2週間以内に、宣誓式を行わなければならないこととなっている。3月18日に、ニヤシンベ大統領当選という選挙結果が、憲法院によって確定された。だから、3月末、遅くても4月の2日までには、ニヤシンベ大統領の2期目の宣誓式が行われるはずだ。

私は日本を代表して、宣誓式に出席しなければならない。ところが、アビジャンでいつまで待っても、トーゴ側から宣誓式開催の通知がない。憲法の規定があるのだから、とにかく3月末から4月2日にかけての週には、行われるのだろう。連絡が滞っているとかなどで、通知が来ないだけだろう。だから、ちょうど草の根無償協力の案件で署名式を行う予定もあったので、3月末にトーゴに出張し、現地で宣誓式の出席に備えればいい、と考えた。

さて、ロメで用事を済ませつつ、ロメ駐在の米大使と会った。大統領選挙の様子や、これから米国として、トーゴとの関係をどう進めていくのか、などを聞いた。米大使も、トーゴがまずまずの民主的選挙をしたことには、満足している、と言う。それでも、まだ及第点ではない。
「米国の期待は、ニヤシンベ大統領が引き続き、一層の民主化とともに、良い統治(good governance)に取り組むことです。でも、この点でトーゴにはまだまだ、及んでいないところが多いのです。」

「良い統治」というのは、民主主義や自由・人権尊重などの政治面に加えて、汚職追放に取り組んでいるか、法や手続きによる行政が確立しているか、公務員の過剰な雇用で無駄な人件費を使っていないか、などの行政面が問われる。米大使は、一つの例を挙げる。
「この間の大統領選挙で、国際社会の支援も得て、トーゴ政府は必要な選挙資機材を購入しました。ところが、後で調べると、こうした資機材の調達に当たって、一般公開入札にかけるどころか、担当の大臣が、知人の企業に発注していたことが分かりました。」

それはいけない。政府がお金を使って物を調達する際には、公平性を担保し、価格の妥当性を明らかにするために、一般公開入札にかけるのが常識である。
「ワシントンでは、ある開発途上国がちゃんと真面目な政治・行政を行っているかを判断するのに、MCC(Millenium Challenge Corporation)の基準を元にするのです。それで、いい点が付いたら、積極的に支援を行う。ところが、トーゴはちゃんとした行政を行えず、このMCCが求める諸条件を、たいがい外してしまう。米大使の私としては、トーゴの評価が低くなって、とても残念なのです。」

それは私も、よくトーゴ政府の責任者たちに諭しておかなければならない。でも、トーゴはウングボ首相、バワラ開発相はじめ、国際機関出身の技術官僚が多いから、そういう国際常識は知り尽くしているはずなのに、と米大使に聞く。
「いや、それはそうです。政府側は、政府調達に公正性が求められることは、よく承知をしていますよ。そのための、一般公開入札などの手続・規則も制定しています。ところが、財務省の役所に行ったら分かりますけれど、コンピューターはおろか、コピー機も無い。電話も満足に来ていない。そんな状態で、どうやって一般公開入札などの行政事務が出来るでしょうか。選挙期日も迫り、必要な資機材を、仕方なく大臣の伝手を辿って購入したというのが実情ですよ。」

なるほど、良い統治にも、先立つものが必要だ。私たちも、トーゴとの連絡には苦労している。Eメールなどは、もう現代の行政組織には必須の手段であろう。ところが、トーゴの政府機構には、そんなものは備わっていない。それで、欧米諸国の行政の基準を満たせというのは、どうにも無理がある。とにかく、必要なインフラが整っていない、ということが、何をする上でも障害になる。そういうところを、まず支援していく必要があるだろうか。

さて、私が草の根無償協力の署名式を行った翌日、午後にトーゴ政府の緊急閣議が開かれた。議題は、宣誓式の日取り。結論は、4月2日に行うと決まるどころか、「延期する。ただし、5月3日までには行う」となった。憲法の規定にかかわらず、1ヶ月近くは先延ばしという話になってしまった。なぜ、宣誓式が規定どおりにすぐに出来ないのか。

ある閣僚から、どうして先延ばしにせざるを得なかったのか、内情を教えてもらった。
「今度のトーゴの大統領選挙は、アフリカの民主主義の上で、とても良いことであったと、お祝いが各国から届いているのです。多くのアフリカ各国の首脳たちが、宣誓式への参加の意向を表明しています。今日の段階で、すでに9ヶ国に上ります。」
それは、トーゴとしてとても名誉なことですね。

「ところが、各国の大統領が宿泊できるような、プレジデンシャル・スイートのあるようなホテルが、ロメには無いのです。政府は困ってしまって、ロメ市内に豪邸を持っている人々に、一人ずつお願いして、一時的に邸宅を供与してもらうことにしました。その準備を整えるのに、約1ヶ月かかる。そういう事情なのです。」

とにかく、必要なインフラが整っていないということは、このようにトーゴ政府の手足を縛っている。「良い統治」はともかくも、「憲法」だって、先立つものがなければ、守っていけないのである。

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