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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

新内閣との仕事始め

2010-03-10 | Weblog
最初は「片足内閣」だったのが、ようやく「両足内閣」になった。野党側が、難渋の末に、自分たちの閣僚11人を指名して、27の閣僚ポストがすべて埋まった。3月4日、バグボ大統領は、閣僚たちを認証した。こうして、第二次ソロ内閣が動き出した。

2月12日に内閣が突然解散されて以来の混乱が、ようやく収まったということである。すったもんだの末に、ワガドゥグ合意の原則である、与党も野党も誰も彼も入閣する内閣、という基本は維持された。解散させられた前の内閣と、いったいどこが異なるのか。なぜ、こんなに大騒ぎをしなければいけなかったのか。よく分からない。ただ単に、月日が無駄になっただけのような気がする。

ともかくも、政府が正式に動き出したので、政府を相手に進めなければならないような仕事が、これで再開できる。さっそく、いろいろな案件処理に、大臣たちを尋ねていく。最初は、ドゥアティ漁業相である。今月半ば(3月13日)からドーハで開かれる「ワシントン条約締約国会議」において、つまり絶滅の恐れのある種の保存に関する国際的な枠組みを議論する場において、大西洋クロマグロを「絶滅危惧種」である、と認定しようという動きがある。

そもそも、このワシントン条約が対象とする「絶滅危惧種」というのは、ウミガメ、シーラカンス、パンダなどの野生動植物である。日本もこうした「絶滅危惧種」の保護には大賛成である。しかしながら、商業取引で大量消費されるクロマグロを、そのリストに加えるというのは、お門違いではないか。

確かに、クロマグロの資源量は、1970年代の30万トンから、現在の10万トンに減っている。しかし、クロマグロ資源の確保についてすでに国際協力が出来ている。つまり、昨年11月に、マグロ漁をしている国の間で、漁獲量の総枠を、それまでの年間3-5万トンから1万3500トンまで引き下げる約束が成立した。各国が取り締まりを強化して、クロマグロ漁の解禁期間を、わずか年間1ヶ月だけに限ることも決めた。これらの対策があれば、クロマグロの資源量は保全されるという科学的推計が根拠にある。いかに持続的に資源を利用するかから考えていくべきであり、ワシントン条約による保護などは必要ない。そういう日本の考え方を、コートジボワール側に説明して、賛同を求めよというのが、東京からの訓令、つまり指示である。

今回の大西洋クロマグロ漁禁止の動きは、世界のクロマグロ漁獲量の4分の3(世界の総漁獲量5.7万トンのうち日本向けが4.3万トン:2008年統計)を消費する日本にとって、狙い撃ちにされているような話だ。ここはぜひ、コートジボワールを味方につけておかなければならない。私は、ドゥアティ漁業相の執務室に出向いて、話をはじめる。まず、新内閣での留任への祝辞を述べる。漁業相はにこやかに私に答える。
「いやあ、大使閣下。すでに閣下からは、さっそくお祝いの一瓶をいただき、お礼を申し上げる。」

祝辞と一緒に贈っておいたシャンペンの一瓶を、ちゃんと銘記してくれている。さすが、いつものドゥアティ漁業相、こちらの心が伝わっている。
「もう飲んでしまいましたけどね。」
いや、早速お使いいただいて光栄です。もう一本進呈しましょうかなどと、冗談を交わして、場が和んだところで、本題である。本日は、クロマグロの件でうかがいました。

こういうときに、ただ案件の説明をだらだら述べるのでは、言い訳じみてかえって逆効果になる。まして、「絶滅危惧種」の専門的・技術的説明など、私にでさえもよく分らないのだから、相手を退屈にさせるばかりである。ここは、話の持って行き方に、工夫が要る。
「コートジボワールも、クロマグロ漁をしていますよね。マグロを獲る漁民だけでなく、ツナ缶詰に加工するなど、幅広い人々が関係しているわけですよね。」

漁業相は、そうだ、と応える。私はすかさず、畳み込む。
「ワシントン条約で、そうしたマグロ漁が全面禁止になれば、困ってしまうということでは、日本もコートジボワールも同じ立場ですよね。つまり、同じ船に乗っている。問題は、どうやってドーハ会合で、日本とコートジボワールが協力できるか、ということです。」
日本の立場にコートジボワールが賛同するのは、当然中の当然である、という顔をする。

ドゥアティ漁業相は、長椅子にゆっくり腰掛けて、私に応える。
「コートジボワールも、国内にマグロ産業を持つ漁業国として、日本の立場に賛同します。いったんクロマグロへの全面禁漁を認めたら、他のマグロ類にも波及していくだろうから、気をつけなければいけません。クロマグロを「絶滅危惧種」に加えるべきという議論が、科学的根拠に乏しいものだということは、私たちもよく知っていますよ。」
だいたい波長が合ったのを確認し、この案件は日本とコートジボワールの結束を示す良い機会となる、ドーハ会合での協力をお願いする、と述べ、私はドゥアティ漁業相のもとを辞した。

次に出かけたのは、メレッグ青年スポーツ相のもとである。私は、この人は、前の内閣では、都市衛生相であった。「道路はゴミ箱じゃない」運動に私が出席したことをきっかけにして、親しくなっているので、挨拶にでかけたのである。そして、挨拶方々のお願い事があった。
「メレッグ大臣、ちょうどいい時に、青年スポーツ大臣に就任されたので、私はとても喜んでいるのです。日本とコートジボワールのスポーツ協力が、だんだん具体的な形に実りつつあるので、ぜひ大臣にも支援いただきたい。来週、コートジボワールの柔道連盟に、日本から練習場用の畳を寄贈する合意文書への署名式があるのです。それに出ていただければと思います。」

メレッグ大臣は、やあ大使、久しぶりと言いつつ。
「シャンペンをありがとう。」
一瓶は、ここでも効果を発揮している。
「いや、大臣になって早々、自分はサッカーは嫌いだと言ってしまったので、報道で叩かれて大変ですよ。でも、本心からあのスポーツは好きじゃないなあ。」
いや、さすがにコートジボワールで、国民的競技のサッカーを、大臣自身がそういう風に言っちゃいけないだろう。

「でも、柔道とか空手とか、武術は好きですよ。私は若いころ、テコンドーを習っていたくらいです。」
それで、どうでしょうか。署名式にご臨席いただけると、たいへん嬉しいのですが。
「分りました。来週の月曜日ですね。大使閣下のご要望に、応じることとします。」
と、その場でメレッグ大臣の出席が決まった。

どちらもこちらからのお願いの案件だったのだけれど、前向きの答えを得ることができた。つくづく思うに、いつ何時、誰にお願いをしなければならない話が出てくるか分からない。その時に、いきなりお願いに出かけるよりは、それ以前にこれといって理由もないままにでも、面識を作り無駄話を重ねておくことが大事なのだ。そして、シャンペンの一瓶のおかげもある。ちょっと気が利くなと思ってもらえるだけで、話の進み方が違う。ともかくも、こうして新内閣との仕事は、とりあえず快調に滑り出した。

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